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脱出小説  作者: 舎模字
6/8

領主ルイン

 シャナンが僕に語った真実はこうだ。


 この地は、血肉を無くした化け物『ルイン』に支配されている。


 『ルイン』は、かつて、この地を治める領主だった。

 だが、呪いを受けることによって、肉体を無くしながらも、永遠を生きること、と、この地を治めること、の、二つの業を背負うことになった。


 また、その呪いには、忌まわしい儀式が付則されていた。


 領民は、(にえ)の神託を受けた際に、その領民の中から(にえ)を選び、領主に供しなければならない


 この洋館は、『(にえ)の神託』の『(にえ)』として選ばれた者たちを仮住まいさせるためにあるのだ、という。

 この洋館に預けられた者たちは、その後、改めて発行される神託(オラクル)によって儀式の日取りを告げられ、領主への供物となる、とのことだ。

 おそらくは、僕も、その『(にえ)』として選ばれた者なのだろう、というのが、シャナンの見解だった。


 そして先日ついに、ニーナの捧げられる日取りが決まった。

 一昨日の夕食のあと、シャナンはニーナを連れて、この屋敷から更に山を登った所にある、『虚階(きょかい)(ほこら)』に行き、そこにニーナを置いて来た、という。

 捧げられた者は、領主ルインと同じく、その肉体を失い、その魂は、領主ルインに取り込まれる。

 つまり、ニーナはもう、この世にはいない。

 死んだのだ、と。



 僕はその話を聞き、愕然としていた。

 ニーナは、既に死んでいる。

 僕もじき、殺される。

 シャナンを責めることはできない。そのシャナンもやはり、(にえ)として殺される。


 なら、なんで逃げないのか。


 シャナンはその考えにも否定的だった。


「もちろん、儀式を前に逃げ出す人はいるけど……、そうした人はみんな、今度は領民みんなに追い回されて、最後は領民たちの手で殺されてきたの」


 だからといって、僕は、この儀式が執行されるまでのあいだ、黙って殺されるのを待つ、など、考える気はなかった。

 ニーナは、ニーナのことは辛いが、今はそんなことを言っている場合ではない。

 シャナンとともにここから逃げる。シャナンが逃げるのを良しとしなくとも、引っ張ってでもここを出よう。


 僕はそう結論を出す。だが、時を待たずして、それは起こった。



 屋敷の玄関で、扉に何かがぶつかったような、激しい音が響いた。

 続いて、金属の蝶番が情けない悲鳴をあげる音、壁になにかが叩きつけられる音、が響く。

 玄関の扉が蹴破られたのだろう。

 そして、ごう、と風が吹き込む音がした。

 その、玄関で聞こえていたはずの風の音は、次の瞬間には、ここ、食事部屋全体に轟く嵐に変わっていた。


 部屋を、強烈なつむじ風が襲う。

 その嵐の中央に、何か、漆黒の、見通せないなにかがいた。


 僕はそれが何であるかを確信した。

 領主ルイン。

 その忌まわしい語韻は、今この目の前にあるものを形容するのに何よりふさわしい。


 だが、これが今、ここを訪れる道理はない。

 何が起こっているのか。


「領民は、(にえ)の神託を受けた際に、その領民の中から(にえ)を選び、領主に供しなければならない」


 誰かが、さきほどシャナンから聞いた、その文句を唱えた。

 シャナンではない。

 その声は、かん高くひどく癪に障るような、しゃがれ声である。

 声の出所を探ると、そこに、一羽のカラスがいた。


 カラスは、その、どこを見つめているのかわからぬ黒い瞳でもって、周囲を見渡し、こう言った。


「その娘は約束を違えた。昨日の早朝、捧げられるはずだった者は、(ほこら)に居なかった」


 僕は、まだ状況が飲み込めていなかったが、カラスの言うことが確かであれば、ニーナはまだ、生きているのかもしれない、と思った。

 ニーナはおそらく、(ほこら)から逃げ出したのだろう。

 誰にも見咎められていなければ、生きている可能性は大いにある。


 が、カラスが次に語った言葉で、僕はまた、わけがわからなくなった。


「今日、そこの”領主”は、先日捧げられるはずだった者、”シャナン”を引き取りにきた」

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