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脱出小説  作者: 舎模字
5/8

灰色

 先日の晴天の日はどこに行ったのやら。


 その翌日からは、また曇天の日が続くこととなった。

 太陽の日差しが大地に届くことはかなわず、天を覆う鉛色の雲は、いつ泣き出してもおかしくない雰囲気だ。


 先日と変わったこと。


 あの日から、ニーナと目が合うことが多くなり、その度にニーナは、僕に微笑み返してくれるようになった。

 あと、外を出歩いたり、男手の要る仕事を手伝うことも増えた。


 丁度それは、割った薪を縄でしばる作業をしていたときだった。僕のいる場所から少し離れた玄関脇で、シャナンが行商人風の男と話している。

 行商人はシャナンに、ひとかかえほどもある小包みを渡していた。

 包み布は倉庫で良く見かけるそれに似ていた。中身は缶詰などの食料品や日用雑貨といったところだろう。

 ただ、そのとき不思議に思ったのは、男と世間話をしているシャナンの顔が、どんどん曇って行くように見えたことだった。

 男と別れ、屋敷に戻るシャナンの姿はうつむき加減で。いつものシャナンとかけ離れたその様子に、疑問を感じたのだった。



 その晩の夕食。

 テーブルに据えられたメインディッシュは、肉煮であった。

 肉煮(やはり缶詰もの)は、これまで数回しか食卓に上ったことがなく、いつもであれば高テンション、高い競争率でもって平らげられるのだが、その晩の食事はいまひとつ盛り上がりに欠けていた。

 というのも、ムードメーカーであるシャナンの様子が、心ここにあらず、といった風だったからだろう。

 シャナンは、ほとんど食事に手をつけない。

 ニーナも、それを気づかってか心配そうな表情だ。


「シャナン、どうかしたの? 食が進まないみたいだけど」


 と僕。


「あ、ああ。ちょっと考え事しちゃってて……。ところでニーナ、ちょっと話があるの。あとから部屋行くね」


 その日の夕食は、そんなやりとりが一言ふたこと有ったきりで終わった。



 その次の日。

 ついに降り出した雨は、しとしとと、終日続くことになる。


 一階のリビング。そこにはニーナの姿も、シャナンの姿も無い。どうしたのだろうか。


 昼食の時間になり、食事部屋に顔を出す。

 だが、そこにも二人の姿はなかった。


 ただ、食事の準備まで忘れていたわけでは無かったようで、テーブルの上には芋を煮っ転がして盛りつけた鉢が置かれ、傍らに置かれた紙にはこう書かれていた。


『チンして食べてください』


 なお、『チンして食べて』の意味が判らないかもしれないので説明しておくと。


『料理冷めちゃってるかもだけど、ガマンして食べてね』


 大体、こんな感じの意味になる。

 この地方独特の、一種のスラングです。



 その日の午後も、二人と顔を会わせることは無く過ぎた。

 夕食時。その日初めて、シャナンと顔を突き合わせる。

 だけどもそこには、ニーナの姿はなかった。


 シャナンと二人で、ぼそぼそとご飯を食べる。

 いつもは陽気なシャナンだったが、今日は妙に無口だ。


 僕は、当然ながら、ニーナのことを尋ねてみる。


「今日、ニーナのこと見かけないんだけど、どうしたの?」

「ニーナ? あの子、体調崩しちゃって、寝込んじゃって。それでお昼とかも適当になっちゃって……。ごめんね! あの子の世話に忙しくてさ。てへへ……」



 そして次の日。相変わらず雨は続いている。

 ニーナの姿は無く、シャナンとも顔を合わせないまま、昼を迎えた。

 そして昼食。シャナンと二人きりの食事である。僕はニーナのことを聞く。


「……ニーナの具合、大丈夫なの?」

「う、うん! 大分よくなったみたいだけど、あとちょっと!」


 そういうシャナンの目は伏し目がちで、僕の目を避けている。


「僕、食事のあと、ニーナの部屋に顔をだしていいかな?」

「おっおー! 女の子の部屋だよ! けしからんな君は。大変けしからん!」


 茶化そうとするシャナンに、僕も切れかけた。椅子から腰を上げ、テーブル向こうのシャナンに詰め寄る。


「シャナン! いったい何を隠してるんだ!」


 張り上げた僕の声に、シャナンは一瞬ビクついた。

 が、それも一瞬のことで、シャナンはこれまで見たことのないほどの真顔になる。

 いや、そのシャナンの表情は、この屋敷を訪れたあの日、シャナンと初めて会ったあの瞬間の表情に、どことなく似ている気がした。

 シャナンと僕は、お互いの目を真っ向から見つめ、にらみ合う。

 が、それも長くは続かず、シャナンは、僕から目線をそらすと、こうつぶやいた。


「ユイは……。もうこの、おままごとを、続けたくないって。そういう気持ちで……、そういう覚悟で、訊いてるのかな?」

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