神託の儀
辺り一面の真っ白な空間。
そのなかに、瞳を閉じて座す、黒髪の少女の姿がある。
少女のまとう、異国の風情を感じさせる衣装は、その白い空間に唯一咲いた花、花弁のように、裾袖を広げていた。
それまで、身じろぎひとつしていなかった少女は、長い眠りから目覚めたかのように、ゆっくりとその目を開く。
神託を受けたのだった。
この白の空間は、下界とは隔絶された、神格との交信を可能とする場所である。神格にはさまざまな種があるが、いま少女に預言を託したのは。
領主ルイン。
その身が朽ちてなお、ここ300年に至る長きに渡り、かの地を支配し続ける者である。
少女は鋭く指笛を吹く。するとどこから飛んできたのか、一羽のカラスが現れ、少女の差し出す腕に留まった。
少女は、そのカラスに言づけるように話し出す。
「……の儀式の準備が整いました。明後日の早朝、虚階の祠にて……」
カラスは賢しそうなその漆黒の瞳で、少女の語る言葉を余さず捕らえようとしているかにみえる。
「……を供してください」
少女が言葉を紡ぎ終えると、カラスは真っ白な虚空へと飛び立ち、彼方へと消えた。残された少女は、やがてゆっくりと瞳を閉じ。
今しがたのやりとりは夢現であったかのように、白の空間は静けさを取り戻した。