落ち葉の庭にて
僕は洋館の前に立っていた。
森の中でひっそりと建つ人工物は、紅葉であかく染められた周囲の風景に彩られ、一服の絵のような趣きをかもしだしている。
その玄関へと続く石畳は、大半が赤く染まった落ち葉に覆われている。屋敷やその周りを囲む垣根も、森よりせり出した木々とその葉々に埋もれそうな勢いであり、白く塗られた壁や枯茶色(?)の屋根を飲み込もうとしているようだ。
で、僕がなんでここにいるかというと、これが全く記憶にない。
後ろを振り返ってみると、ここへと至ったと思われる山道が続いているのだけど、ここまで歩いてきたという記憶はない。ゆるく湿ってぬかるむ足元には、自分の足跡すら残っていない。静かに舞い落ちてくる落ち葉が隠したというのが真相だろうけども、僕がここに忽然と現れたゆえ、とでも錯覚してしまいそうな気分になる。
途方に暮れている僕は洋館に向き直る。目の端に、宙をたゆたう落ち葉以外の、なにかの動きを感じた。
洋館の二階に設けられた、縦長の窓、そこから人影が覗いている。その顔はこちらを一瞥したかと思えば、すっと退いて、薄暗い部屋のなかに姿を消した。
茶系の長い髪。女の子のようだ。年は僕とそう違わないように見えた。
遠目にはその表情までは伺えなかったものの、その目は何かを訴えかかけているように感じられた。
何も思い出せないのは相変わらずだったが、僕がここにいる、ということは、なにかの目的があってのことなのだろう。
相変わらず引き返す理由は見つけられない。何も思い出せないので。
僕はその洋館に歩を進めた。