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~2~

取り合えず、5000文字あたりをめどに投稿してみます。


 一頻りレイダスと話した後、オールドベルトはレイダスの背に乗って帝都まで帰ることにした。

 この洞窟に来るまで元の身体で二日程度かかったのだ。少女の身体だときっと二週間はかかるだろう。


 子竜とはいえ、竜の飛ぶ速度はかなり速い。半日もしないうちに帝都すぐ近くの高原についた。

 緊急時であればともかく、さすがに竜に乗ったまま帝都の自分の家に降り立つことはできない。大騒ぎになるだろう。

 レイダスは降り立った後人間形態へと変化し、オールドベルトにくっつくような形で共に歩いていた。

 この辺りは生まれたての頃、オールドベルトを親と思っていたのが原因だろう。

 ちなみにレイダスの人間の姿は十五歳くらいの少年で、珍しい白髪をしている。

 身長百七十センチくらいの、どちらかといえば細いイメージを持ち、肌も白くとても冒険者には見えない。


(それにしても、今後どうすべきか。やはりここはリヴァに相談するのが一番だな)


 オールドベルトは二体の魔物と契約を結んでいる。一体は白竜レイダスで、もう一体が海王リヴァイアサンだ。

 リヴァイアサンといえば、神にも匹敵する力を持つ神獣であり、普通ならば契約など不可能だ。

 だが昔、オールドベルトはリヴァイアサン配下の水竜を助けたことがあり、その恩により契約したのだ。もちろんリヴァイアサン本体との契約ではなく、分身体という仮初めの身体だったが。


 それでも神に匹敵する力を持つ海王なのだ。分身体ですらオールドベルトとレイダス二人がかりでも、軽くあしらう程の力を持っている。

 それにしても、いくら配下を助けてもらった恩があるとはいえ、海王自らが契約を結ぶ事など通常ありえない。が、この時、海王は暇を持て余してた。


 海王は生まれてから数万年の間、自ら動いたことはない。自身が動けば世界のバランスが壊れるほどの力を持つためである。

 サポートという形であれば、八百年ほど前に魔王が誕生した際、勇者を別世界から転生させた事くらいだ。


 海王の唯一の楽しみは、生き物を観察すること。特に神に愛されている人間を好んでいる。

 この世界には数多の種族が存在するが、人間という種族は力というカテゴリではほぼ最下位。しかしながら他の種族にはない戦略戦術を用いて上位の魔物を圧倒し、この世界の覇者となっている。

 海王はどうしてこのようなか弱い種族が、この世界の覇者となっているのかが不思議だった。

 だからこそ、観察し続けている。


 そしてある時、不思議な格好をした女を見つけたのだ。その女は茶色のロングのワンピースを着て、頭に白色の小さい帽子(後で分かったことだが、カチューシャと呼ばれるものだった)を付け、清楚でしかも礼儀正しく静かに、貴族風の人間の男に仕えていた。


 おお、これは良いものを見つけた。と海王は衝撃を受けたらしい。

 海王は幾体もの水竜のエンシェントドラゴンを従えている。彼らは人間の形態を模倣して甲斐甲斐しく働いているのだが、服はそれぞれの趣味に合わせており統一感がなかった。


 しかしながらこの女、容姿はそれなりで特に秀でている訳でもないのに、清楚可憐なイメージに見える。それはおそらく着ている服のせいだろう。


 さすがは神が愛する人間だ。このような服だけで、これだけ印象を変えるものを生み出すとは。と、甚く感銘を受け早速配下のエンシェントドラゴンにこの服を着せさせた。


 そう、その女とは俗に言うメイドだった。


 こうしてメイドを仕えさせたのだが、ある時自分もやってみたい、着てみたいと欲求が高まった。(ちなみに海王に性別はない。女神から作られた存在なので、どちらかと言えば女に近い性格をしている)

 しかし、メイド服を着るだけならともかく、一体誰に仕えられるのか。

 仮にも神獣である。神の代理だ。

 海王は立場というものを理解している。


 見るだけで我慢するか、と思っていた矢先、オールドベルトの事件が起こったのだ。

 これは渡りに船とばかりに、無理やり契約を迫ったのだ。


 かくしてこの世界の歴史上初めて、海王のメイドが誕生した。

 しかも分身体を造る際、その有り余る、世界が崩壊するほどの力を全力で用いた。長年の欲望だったのだ。手を抜く必要はない。


 こうして造られた身体は、メイド服が最高に似合うような容姿はもちろんのこと、掃除洗濯料理や裁縫、どじっ娘といったメイドに必須なスキルの保持、また戦闘力も海王自身は控えめにと造ったが、実際はエンシェントドラゴンの数倍程度の強さを持っている、二十歳前くらいの女性になった。

 正直魔王を倒した勇者より遥かに強い。




「しかし主よ。違和感ありまくりだな」


 帝都への街道を歩いている途中、レイダスが思い出したかのように呟いた。

 二メートルを越す大柄な男が、いきなり百四十センチ程度の小柄な少女の姿になったのだ。今までなら見上げなければ顔が見えなかったが、今度は見下げる必要がある。

 レイダスは見かけだけであれば、美少年だ。オールドベルトと並んで歩いていたときは、一種怪しい関係かと疑われることもしばしばあった。

 しかし今度はハイエルフの美少女と並んで歩いている。

 これはこれで、非常に似合っているように見えるだろう。


「私も違和感があるのだ」

「なんというか、戸惑うよな」

「全くだ。それよりも、この少女の身元をはっきりとさせ、せめて親御さんに説明しに行かねばならぬだろう」

「エルフは西部同盟にある広大な森に住んでいると聞く。探すだけでも一苦労するのではないか?」

「そこはリヴァに頼む。これくらいならばやってくれよう」

「確かにリヴァ殿であれば、朝飯前か」


 仮の身体とはいえ、神の代理。契約しているとはいえ、滅多な事では力を使ってくれない。しかし今回の出来事は、滅多にあることではない、に該当するだろう。


「本当のところを言えば、私の身体を作ってもらって、そしてこの少女の命を戻してもらうのが一番なのだがな」

「命を戻すのは、神の領域かと思うが。さすがにそれはリヴァ殿もやってはくれまい」

「そこはわかっておる。ああ、もっと早く私があの悪魔を倒しておれば」

「それこそ神でもない主が悔いることではないぞ」


 肩を落とすオールドべルト。

 ここはもう帝都のすぐ近く。街道であればひっきりなしに商人や旅人、あるいは冒険者たちが通り過ぎていく。

 そんな中、がっくりと肩を落として歩く美少女と、それを慰める美少年のコンビは非常に目立つ。


「そこのお嬢ちゃん、大丈夫かい?」


 通りがかりの商人らしい格好をした男が心配そうに声をかけてきた。


「あ、ああ。大丈夫だ。すまんな」


 今までこんなことで声をかけられたことは無かった。二メートルを越す大男に、声をかけてくるような人など滅多にいなかったのだ。

 オールドベルト自身も、自分の見た目はかなり怖いと自覚があったから、一人称を「私」にして、出来るだけ一般人には丁寧な話し方にするよう心がけていたくらいだ。


「全く、こうして姿が変わったことによって、見えてくるものが違ってくるな」


 冒険者時代には、かなり騙された経験を持っている。

 もちろん正面から喧嘩を売ってくる連中は殆どいなかったが、まがい物などを売ってくる商人はかなりいた。

 頭のほうがついていかない、と認識されていたのだろう。

 だから彼は、商人にはあまり良い感情を持っていない。

 しかしこうして心配してくれる商人もいるのだ。


「起きてしまった事を考えるより、今後を考えるか」

「ふむ、全くその通りだ」

「それよりレイダスよ」

「何だ、主よ?」

「私のこの話し方も違和感あるか?」

「我はあまり主以外の人間と話したことはないからの。それは分からぬ」

「そうか、さすがに子供のように会話するのは私には無理だが、出来るだけ年相応に話したほうが目立たないだろう」

「主よ、よく考えたな。確かにその通りだ。先ほどからやけに視線が飛んでくるしな」


 周りを見ると、商人やら旅人、またゴロツキ風の男たちがオールドベルトとレイダスに向けて、不躾な視線を送っている。

 会話に違和感があるのではなく、二人の容姿が目立っている原因なのだが、それに気がつかない。


「視線がうざいな。竜の姿に戻るか?」

「それはダメだ。目立ちすぎる」

「そもそもなぜ目立ってはいけないのだ?」

「今回、私は悪魔退治を請け負ったのだ。討伐には成功したものの、私はこのような少女になってしまった。私は第三隊副隊長の地位にあるのだ。もし今回の事がばれてしまったら、国にどのような影響があるか計り知れぬ」

「ふむ……?」

「この姿では、今までのように任務を請け負うことは無理だ。弱すぎる。ということは、私の後釜を決めなければならぬ。それまで副隊長は空きだ。これがどの程度人心に影響があるか見えないのだ。出来るだけ今回の事はばれないよう、しばし時間を置きたい」

「しかし、主ももう四十手前だ。前々からそろそろ引退を考えていたのだろう?」


 魔術師ならばともかく、剣や拳などを使う前衛は、常に魔物を目の前にして戦う。年をとればその分身体がついてこなくなる。それはオールドベルトとはいえ、無関係ではいられない。事実二十代だった頃より、動きが鈍くなってきているのを実感している。

 ただその分過去の経験を生かした戦い方は出来るが、それでも限界はある。

 その境目が人間では四十歳が一番多い。

 四十を超えだすと、途端に死亡率があがるのだ。


「しかし、エリーゼもタウロスもまだまだ未熟だ。私の後釜を任すには不十分と感じる。せめて後二年あれば……」


 エリーゼ=ハインツ、タウロス、両名ともオールドベルトの直属の部下だ。どちらも二十代後半で、前々から目をかけて育てていた若者だ。


「年寄りがいつまでも上にいると、若い者が育たぬ。それくらい分かっているだろう、主よ?」

「ああ、分かっている。が、心配だ」

「その辺りは後で両名に相談することだな」

「とりあえず、私の事はその二人と、隊長にだけ話すことにするか」

「そうだな。そろそろ門に到着するぞ」

「そういえば、私の身分証明はどうしよう」


 帝都は非常に巨大な壁に守られている。そして東西南北四つの門があり、門を通過するには身分証明が必要になる。

 第三隊副隊長のオールドベルトならば、顔パスで入れる。レイダスもオールドベルトの契約獣としての身分証明がある。


「主の縁者として登録すればよかろう。我が証明すればそれほど時間もかかるまい」

「よろしく頼む」


 そうこうしているうちに門へたどり着いた。それなりの人数が並んでいる。そのまま並ぶと一時間くらいはかかりそうだ。

 それを横目で見つつ裏口から入ろうとすると、衛兵に止められた。


「お嬢さん、こちらは関係者専用の入り口だよ。一般の人はあの列から並んで入ってね」

「あ、そうか。気がつかなかった」


 オールドベルトトも国軍に属しているので、普段ならば裏口から入ることができる。ついいつもの癖で裏口から入ろうとしたのだ。

 しかし衛兵は次にレイダスの姿を見ると、あわてて敬礼をした。


「レイダスさんじゃないですか。どうしたんですか? 今日はシュタイナツ副隊長殿と一緒じゃないんですね」


 レイダスの顔はオールドベルトの契約獣として、国軍内では意外と知られている。役職は無いものの、オールドベルトと共に今まで様々な任務を請け負ってきたからだ。


「少し訳ありでな。この娘は我が主の縁者なのだ。すまぬが、通してくれないか?」

「副隊長殿の縁者ですか? というかエルフですよね?」

「養子だそうだ」

「養子!? あの副隊長殿がこんな少女を養子に!?」


 副隊長の地位、そして数年後には爵位を授与される、しかも独身、という言わばお買い得物件であるオールドベルトには様々な婚約話が舞い込んでくる。

 が、それらを一切受けず、淡々と任務をこなして行くうちに「副隊長は人間が好きではない」「いや女が好きじゃないらしい」「まさか? では男が……?」「あの契約獣の姿だって副隊長の趣味じゃないか?」「なるほど」という噂が飛んでいた。


「なるほど、少年少女好きだっ……ってなんでもないです!」

「やましいことを考えてなかったか?」

「い、いえいえ、そんなことはありません! ど、どうぞお通りください!」


 肝心のオールドベルトは苦虫を噛み潰したような顔をしていたが、口を挟む訳にもいかず、レイダスと共に裏口から帝都へと入っていった。

 きっとこの衛兵から、すぐさま噂が駆け抜けるだろう。



王都 => 帝都 へ修正


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