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~17~

PV一万超えていました。

ありがとうございます><


「ではこれから魔法をお見せいたします。お嬢様はしっかり見ていてください」

「お願いするのだ」


 仮眠から起きたリディは軽く夕飯を取った後、リヴァと部屋で向かい合っていた。

 視力は悪くないのに、なぜかリヴァはメガネを掛けている。

 これは先生気分を出すためらしいが、リディは深く考えないようにしていた。


 二人の近くにはリヴァ特製のお茶が用意されていた。

 木の葉を象った、まるで和菓子のようなお茶請けも二個ずつセットでお茶の近くに置いてある。

 小さな細い木を削った、ナイフのようなものがお茶請けの側にあり、それを使ってお茶請けを切って食べられるようになっている。


 リヴァ曰く、甘いものは頭の疲れを早く解消させるらしい。

 昔は甘いものは苦手だったが、少女になってからのリディはよく食べるようになったからか、既にお茶請けの半分は胃の中へ消えていた。



 そして夕食後のまったりとした時間をすごしたあと、リヴァ主催の魔法講義が始まった。



 リヴァは細い白い手を前へと翳し、人差し指で軽く円を描くように動かした。

 するとその指に沿って、白い光が生まれる。

 そして目を少し細めてリディへ問いかけた。


「分かりましたか?」

「それで分かったら天才なのだ。ひょっとしてそれは文字魔術か?」


 普通の魔法は、呪文を詠唱という形で声を出し言葉で組み立てる。

 しかし文字魔術は、言葉の変わりに文字を書いて魔法を発動させる。

 主に付与魔法や創造魔法で使われることが多い。

 例えば、剣に文字を書いて強化したり、扉に文字を書いて封印をしたり、或いは石に文字を書いてストーンゴーレムを作ったりする事が可能となる。


 大抵はモノに書く場合が多いが、リヴァがやったように空に文字を書くこともある。


「いえ、これは文字魔術ではありません。れっきとした魔法です」

「その光が?」


 そういってリディは光に触れようとする。


「いけません」


 しかしリヴァがそれを制して、光を消す。


「お嬢様、むやみに魔法に触れたりすると大変な事になりますよ。下手すればその小さな手がスパっと切れて落ちます」

「なんと!? さっきの光は攻撃魔法なのか?」


 驚いたように手を引っ込めるリディ。

 切れた手は魔法でくっつける事も可能だが、それは高位の回復魔法が必要となる。

 ドライアードを呼べば治す事は可能だが、わざわざ大怪我をする必要はない。


「使い方次第ですが、攻撃魔法にもなります」

「ふむ……しかし一体どうやってあの光を出したのだ? 文字魔術ではないのだろう?」

「その前にお嬢様、魔法とは一体どのような仕組みなのかご存知ですか?」

「呪文詠唱で魔法を構築し、魔力を注いで具現化させると思っているのだが、違うか?」

「それだけでは十五点しか上げられません」

「十五点!?」


 点数はかなり辛めである。

 リヴァは、右手でくいっとメガネを直した。


「では一つお尋ねします。先ほどお嬢様は呪文詠唱で魔法を構築とおっしゃいましたね。そして魔力を注いで具現化すると」

「言ったのだ」

「では、誰がそれを具現化するのでしょうか?」

「え? 自分が注いだ魔力で作るのではないのか?」


 一般的には、呪文詠唱という形の魔法を構築する設計図を作って、それに魔力を注いで実行させる、と考えられている。


「まさか。そのような簡易的な呪文という設計図で、何も無いところから魔法を生むなんて不可能です」

「それでは一体どのようにやっているのだ?」

「それはこの世界のことわりです」

「世界の理?」

「はるか昔、それこそ何億年も昔、神が一週間でこの世界を作り上げました」

「一週間でこの世界を作り上げたのか!? まさしく神という名に相応しい力だ」


 リヴァはそれに首を振る。


「いくら神とはいえ、わずか一週間で大地や山、川や海、そして風や雲、何種類もの種を作るのは不可能です」

「では一体どうやって作ったのだ?」

「理を使って作ったのです。神はまずその理を作り上げたあと、理を使ってこの世界を作り上げました。その理とは、何かを作る元となる設計図、そして設計図通りに実行させるためのエネルギーという名の魔力、この二つを渡すことで実行してくれる、いわば姿無き代理人というものです」


 要は設計図となるプログラムと、処理させる為の電気を渡せば実行してくれるパソコンみたいなものだ。


「ならば、その理こそが神の代理人と呼べるものではないのか?」

「そうとも言えますが、理は自我があるわけではありません。単に設計図通り作るだけの存在です。そしてその理を正常な形で維持させる為に、私やバハムートという神獣が作られました」


 理も何億年も壊れることなく動く保証はない。それを正しく運用、メンテナンスするための存在が神獣という事になる。


「うーむ、難しいのだ」

「深く理解する必要はありませんよ。単に魔法を作る人がいて、その人に設計図と魔力という名のお金を上げて、作ってもらっているイメージで結構です。しかしその人も休憩しないといつか倒れるかも知れませんよね。そのためその人の仕事を管理するのが、私やバハムートと思っていただければ良いかと思います」

「それならば分かりやすいのだ」


 二人はお茶を飲みつつお茶請けを食べ、一息ついた。


「では次に進みましょう」

「お願いするのだ」

「では詠唱という名の設計図ですが、これは特別決まった形式はございません。理が理解できれば何でもいいのです」

「うむ、文字で伝えようが言葉で伝えようが同じ事なのだ」

「ええ、その通りです。では身振り手振りでも、頭の中で考えただけのものでも、伝わればいいのではないでしょうか?」


 一瞬ぽかんと口を開けたリディ。


「……それで伝わるのか?」

「はい、手段は特別決まっておりません。先ほどお見せした魔法は、頭の中でイメージしてそれを指で伝えた結果、あのような光が生まれました」

「本当にできるのか?」

「はい、単純に光を作るというイメージをしながら、指先に魔力を渡せば可能です」


 説明しながら指を振るリヴァ。そのたびに、指先から何色もの光が生まれ、空に舞い、すぐに消えていく。

 それはまるで光の演奏者のようだった。


「そんな事で使えるのか!?」

「ですからお嬢様のためだけにある魔法、と言いました」

「しかしそれだけなら、私以外にも使える人がいると思うのだ」

「いいえ、これは私たち神獣が許可した人以外は使えないようになっております。何しろ私たちは理を管理している立場ですからね」

「独占なのだ!」

「はい、独占ですよ。何しろこれは少しばかり強力な魔法ですから、しっかり管理しないといけないものです。それと先ほどの理の件も秘密ですからね」

「むー……」


 何やら言いたげな表情のリディである。

 帝国における魔法技術は、基本的に国が管理している。

 新しく作られた魔法は、帝国人であれば必ず国へ連絡する義務があるのだ。

 しかしリヴァの言葉通りに受け止めると、この魔法は現状リディかリヴァ、そしてバハムート以外使えないものとなる。

 更に先ほどの理の仕組みだ。

 現代魔法技術の根本から覆されるだろう。

 これが理解できれば、帝国の魔法技術は大幅に上がるに違いない。

 それを黙っているのは帝国人としてどうなのか、と自問自答した結果がリディの表情である。


「さあお嬢様、早速やってみてください」

「わかったのだ」


 そして頭の中でリヴァが見せてくれたように、青色の光をイメージし、魔力撃を撃てるくらいの魔力を指先へ籠めた。

 すると指先がひどく熱く感じ、慌てて魔力を発散させた。


「それは魔力を籠めすぎです。もう少し繊細に魔力を扱ってみてください」

「こうか?」


 今度はさっきの半分以下まで魔力を減らしてやってみた。

 するとどうだろう、指先から綺麗な光が灯りだした。


「そうです。その調子であとは円や三角を描いてみてください」


 リディはゆっくり円を描くように指先を動かす。

 するとさっきリヴァが見せたと同じように、円の形をした光が空へと描かれた。


「おお、できた」

「はい、簡単でしたよね? あとは練習あるのみです」

「その前にこれは攻撃魔法なのか? どう見ても単なる明かりの魔法にしか見えないのだ」

「それはお嬢様がそのようなイメージで作ったからです。鋭利な鉄すら切断できる光、とイメージすれば攻撃に、またテーブルのように硬くとイメージすれば、光の上に乗ったりできますよ」

「なるほど」

「そして指だけでなく、このように」


 リヴァは立ち上がると、右足を前後に動かす。するとどうだろう、足に沿って光が生まれた。


「足でもできるのか」

「全身どこでも可能です。要はイメージさえ強く持てばいいのです」


 足で描いた光の円をそのまま蹴ると、まるでボールが転がるように部屋の壁へ当たり、ガラスが壊れたように光の破片が散らばって消えた。


「これは円形のガラスをイメージしました。他にもこういう事も可能です」


 両手を握り締めて合わせ、そしてまるで弓を引くように両腕を離していくと、その間に矢のような光が生まれた。

 そのまま握った右手を離すと、本物の矢が飛ぶように光の矢が部屋の壁に突き刺さる。


「これは確かに便利な魔法なのだ」

「あとは想像力とイメージ力を上げる練習だけです」

「分かったのだ。ちなみにこの魔法に名前はあるのか?」

「八百年前、この魔法を見た勇者はこう名づけました。粒子魔法と」

「粒子魔法……」

「異世界の言葉です。細かい粒で集まったものが光となっている。それを粒子と呼んでいる、とおっしゃっておりました。またこの魔法の使い手を、光の演奏者リヒトコンツェルトと言っておりました」

「光の演奏者か。確かに演奏しているかのようなイメージなのだ」


 リディは残っていたお茶請けを一気に口へと頬張る。

 甘い味が口の中に広がり、脳へと栄養が伝わる感じがした。


「このお茶請けというのも、異世界の菓子なのか?」

「はい、和菓子と呼んでおりましたね」

「そうか。一度その異世界というものを見てみたいな」



 そう言った途端リディの周りの景色が一瞬揺らぎ、そして見たこともない場所へと移動していた。


 周りを見ると天に届くかのような高い建物が並んでおり、目の前には何百という四角い鉄の塊が馬ほどの速度で走っていた。

 空には轟音を立てながら、竜のように飛ぶ羽の生えた鉄の塊が凄まじい速度で移動している。

 リディが思わず後ずさりをすると、足元の感覚が違うのに気がついた。

 下を見ると土ではない、石畳のような硬い地面が辺り一面に広がっている。

 背後を見ると、学校のような建物が建っていた。

 何十とある窓から部屋の中が見える。

 そこには同じような黒い服を着た若い男女が椅子に座って並んでいて、その先には教師と見える年配の男が何かを教えているのが見えた。


 そして若い男女の中で、一人だけ机に伏せて寝ている少年の姿がなぜか目に飛び込んでくる。

 その少年に向かって教師が何か白い小さい棒のようなものを投げる。

 見事それは少年の頭に当たり、驚いたように立ち上がった。


 短く黒い髪、口はよだれの痕がついて、シーラとさほど年齢の変わらない少年。

 その少年へ教師の叱責が飛んだのか、慌てて礼をしていた。



 その時、なぜかリディはこのとても頼りない少年が勇者だと感じた。



「これはっ!?」


 リディが叫ぶ。

 と同時に、周囲の景色が再び揺らぎ消え、そして宿の部屋の中へと変わっていった。


「…………」


 リディは目を手でこすり、そしてもう一度回りを見る。

 しかしあの見たこともない景色ではなく、どこにでもある宿の部屋のまま変わることはなかった。


「いかがなされましたか?」


 リヴァが不思議そうな顔で見てくる。

 頭を振って目を塞ぐ。


「いや何でもない、少々疲れた」

「そうですね、今日は詰め込みすぎました。もう今夜は遅いのでそろそろお休みしましょう」

「そうだな」


 そう言ってリディはベッドの中へ潜り込んだ。


「私はレイダスさんを呼んで来ますね。お嬢様はごゆっくりお休みください」


 リヴァがそう声をかけて部屋を出ようとした時、リディが呟いた。


「なあ、リヴァ」


 その呟きが聞こえたのか、リヴァが立ち止まる。


「異世界の勇者とは、一体どのような人物だったのだろう」


 それを聞いたリヴァは何かを懐かしむような、少し遠い目をする。


「そうですね、軽い感じのする一見頼りなさそうなお方でしたが、強くなりたいというお気持ちは強かったですね。私にも理解できない言葉をたくさん話していました。きっと次の勇者も同じような方ですよ」

「そうか、一度会ってみたいものだ」


 それを聞いたリヴァは、小さな声で「そのうち会えますよ」と呟いたが、それはリディには聞こえなかった。


今回は魔法の仕組みでした


そして、そろそろ第一部が終了になります

第二部は勇者編の予定です


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