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~10~

お盆ですねー。書く時間があまり取れません。


「では実地訓練なのだ」


 あれから二人はレイダスに乗って森へと移動した。

 リディがオーガと対峙したあの森だ。


 天気も良く周りは木々が生茂りる中、切り株を見つけた二人は、リヴァから持たされた弁当を広げていた。

 冒険者の食事は、旅の途中であれば肉の燻製、或いは硬いパンだけである。

 日持ちが良く、且つ調理不要で簡単に食べられるのが利点である。

 また袋詰めしておけば、そこまで場所を取らない。

 水については、基本的に現地調達である。

 重い上に嵩張るから、大量に持っていくことはできない。

 このため、川があれば水を汲んで沸騰させたあとに飲む。また雨が降れば、革の布を張って水を貯める事もする。

 それ以外に魔術師、或いは召喚術士が居れば魔法で水を作ることも可能だ。


 リディは水の精霊と火の精霊を召喚し、用意しておいた鍋に水を入れて火にかける。

 そして塩と調味料を混ぜて凝固させた固形物を、鍋の中に入れた。

 これはスープになるのだ。冒険者にとって塩分の補給は必須である。


 またリヴァが用意した弁当の中身は、サンドイッチだった。

 丁寧に作られたサンドイッチが三十個ほど並んでいた。

 それを片っ端から手にとって、勢い良く食べる二人。

 ちなみにレイダスは一人でどこかへ飛んでいったと思ったら、すぐ猪を狩って戻ってきた。今はそれを貪り食っている。


「これは……おいしいですの。柔らかいパンで、具を挟んだだけの簡単なお料理ですのに、なぜこんなにおいしいですの?」

「リヴァは料理の研究に情熱を燃やしてるのだ」

「しかし初めて見ましたの。サンドイッチと言うのですね。中に挟んだ卵っぽいものがぴったり合いますの。それ以外にも柔らかいお肉やお野菜と色々とお味が楽しめますわね」

「何でも数百年前に勇者から教えてもらったレシピらしいのだ」

「あら、あのメイドさんはそんなに長生きしていらっしゃるのね」


 スープを飲みつつ、サンドイッチを頬張るシーラ。さすが皇族だけあって、食べ方は上品だ。

 逆にリディは両手に一個ずつ持って、交互にぱくついている。あまり上品とは言えない。


「水竜なのだ」

「竜種であれば、確かに長生きしていらしても、おかしくないですわね。このサンドイッチ以外にも、色々レシピを知っておられそうですわ」

「私が一番好きなものは、カリーという食べ物なのだ」

「それはどのようなものですの?」

「米というものに、辛いスープをかけただけの料理なのだ。しかしこの辛さがたまらないのだ。また米とも非常にマッチしていて、一緒に食べるととてもおいしいのだ」

「米ですの? 確かハルギオス王国にある大草原で取れる食べ物ですわ」

「シーラ姉さまは米を知っているのか。それはすごいのだ」


 三十個もあったサンドイッチがみるみると減っていく。

 スープも結構塩辛いため、真水を作りカップへと注ぐシーラとリディ。


「それにしても勇者様ですか。異界から召喚された人間らしいですが、このレシピもその異界の料理なのですわね」

「その他にも色々とあるのだ。たまに口に合わない料理も出てくるのが欠点なのだ」

「それはなんですの?」

「ナットーというものなのだ。豆の一種らしいのだが、糸を引いてて、更に匂いがきついのだ」

「それ、腐ってませんの?」

「リヴァが言うには、ナットー菌というもので発酵させた豆らしいのだ。でもやっぱり腐ってるように見えるのだ」


 そういって最後の一口を頬張るリディ。

 三十個のサンドイッチが全て二人の胃の中に納まった。


「さすがに少し食べすぎましたの」

「では食後の運動に軽くその辺りを散策するのだ」


 鍋とカップを洗浄して袋の中へ入れたリディは、ポケットの中からナックルを取り出して、手にはめ込む。

 シーラも背中に背負った大きな杖を手に持ち、軽く慣らすように腕をふる。


「ではシーラ姉さま、出発なのだ」

「ふふふっ、その呼び方良いですの。新鮮な気分ですわ」

「くっ、何か敗北感を感じる……のだ」


「お主ら、じゃれ合う暇はないぞ。敵が来た」


 木の上に登って食後の余韻に浸っていたレイダスが、警告を発した。

 リディは瞬時に意識を戦闘モードに切り替える。


「この気配はオークなのだ。きっとレイダスが残した猪の血の匂いを辿ってきたのだ」

「食後の運動にちょうど良い敵ですわ」


 邪悪な笑みを浮かべながら、嬉々として杖を振りかざすシーラ。

 この辺は親にそっくりだな、と横目で見ながらリディは思った。

 ギルド総長であり元Aランク中位剣士、覇王の異名を持つアグノス。だが彼には戦闘狂の一面もあった。

 リディも過去何度もギルド総長と模擬戦をしている。

 強敵にしか使わない召喚術をも駆使して戦ったが、十二勝十八敗で負け越している。

 さすがAランク中位と言ったところだ。

 しかし自分よりランク的に上であるギルド総長に対し十二勝もしているリディも、これまたすごいといわざるを得ない。

 ランクはあくまでギルドが認定した強さであり、魔物に対するランクだ。対人のランクではない事も影響しているが。


 がさがさと茂みから何体ものオークが姿を現した。

 オークはDランク下位に位置する魔物だ。力は人より強く、また身長も二メートルに達する。しかし反面、知能は低く攻撃も力任せなところが多い。

 慣れている冒険者たちであれば、いい獲物カモになる。

 それが五体。うち一体はどうやらオークロードのようだ。他のオークに比べ目に知性が宿っている。

 オーガと同じDランク上位に位置する魔物で、知能も高く、中には魔法を使ってくる固体もいる。


「オークロードが紛れてるのだ! 魔法に注意するのだ!」


 警告を発するリディ。だがシーラは「オークロードなど一掃してみせますわ」と言いながら呪文を唱え始める。


 さて普通の魔術師であれば、一つの攻撃呪文を唱えるのに十秒はかかる。

 それは四つの手順を用いて魔法を発動させる為、時間がかかるのだ。

 その四つとは……。


 一.精神集中イメージ。どのような魔法を使うのか頭に描く。

 二.呪文詠唱。単に声を出すだけでなく、声に魔力を乗せる。これにより純粋な何も染まっていない魔力から、魔法に適した魔力へと変換される。例えは火の魔法であれば、火の魔力へと変換される。

 三.変換した魔力を用いて魔法を構築。これは空中に描く場合もあるし、頭の中だけで完結させる場合もある。いわば魔法の設計図を書く形になる。

 四.そして最後に構築した魔法を実行させる。いわゆる具現化である。


 この四つの手順を踏んでいる間、魔術師は無防備となる。

 互いに遠くにいて離れているならともかく、接近戦での十秒はとてつもなく長い。

 下手をすれば三回は死ねる長さだ。


「ぷぎぃぃぃ!」


 オークロードが吼える。するとオーク四体がシーラを囲むように移動してきた。

 シーラの魔法を潰すよう指示したのだろう。


 これはまずい。

 瞬時に判断したリディはオークの相手をする為、身体強化をかけシーラの前に立つ。

 しかしせいぜい足止めできるのは二体。

 残り二体はノーマークとなる。

 仕方ない、レイダスに頼むか。

 そう思い、木の上から見物している白竜へ指示しようとした時、シーラから魔法発動を感じた。


 速いっ!


 まだ詠唱を始めて四~五秒しか立ってない。

 炎獄疾風の異名を持つ、宮廷魔術師筆頭のローンブレス。かつての仲間である。彼の魔法詠唱は神がかっているような、信じられない速度で魔法を行使する。

 彼には若干及ばないものの、それでも並みの速度ではない。


「炎よ踊れ踊れ舞って狂乱を神に捧げよ」


 いやな予感がし、咄嗟にリディはしゃがみ込みながらシーラの真横へ転がる。

 その瞬間シーラの魔法が完成した。


炎獄乱舞バーストフレイム


 手に持った杖の先端からまぶしい光が溢れ出し、そしてオークのいた場所に黄色い炎が舞い踊った。

 凄まじい熱風が吹き荒れる。

 炎が踊りながら跳ね、そしてそれに当たったもの全てを溶かしていく。

 燃える、という生易しいものではない。溶解といったほうが正しい。


 そして数秒後、シーラの唱えた魔法が終わった。

 おそるおそる顔を上げるリディ。

 するととんでもない景色が目に飛び込んできた。

 シーラから前方五十メートルほどの空間には何もなくなっていた。地面が露出し、高温のためか未だどろどろに溶けている箇所もある。

 先ほどまで木々が生い茂っていた場所が、一面地獄絵図になったようだ。

 もちろんオークなど肉の欠片すら跡形も無く消えていた。


「これが私の実力ですわ!」


 あっけに取られたリディの前で、シーラはドヤ顔のまま続けた。


「バハムート様から授かった力は炎ですわ。バハムート様の炎のブレスよりは幾分力は落ちますが、それでも三千度はありますの。この炎の前では、あらゆる物体は溶けてなくなりますわ。私の最強の呪文ですの!」

「やりすぎなのだ、このたわけっ!」


 勝ち誇ったシーラの頭をリディがはたく。

 スパーンと心地よい音が鳴り響いた。

 ちなみにレイダスは野生のカンが訴えたのか、瞬時にシーラの唱えた呪文を把握し竜形態へ戻り遥か上空へと避難していた。



 それから十分後。

 自然破壊を行ったシーラを紐でぐるぐる巻きにし、いつの間にか逃げていたレイダスを呼び寄せ足で捕まえさせて、リディは帝都へと帰還していた。

 何やら下からふごふごと声が聞こえてくるが、背に乗っているリディは聞こえないフリをしてた。


「してどうする? このテロ姫」

「テロ姫とは言い得て妙なのだ。しかしさすが神獣と契約している者なのだ。やりすぎはともかく、破壊力は凄まじいの一言なのだ」

「リディも望めばリヴァ殿から力を得られるのではないか?」

「……正直ここまでの力はいらないのだ」


 制御も何も出来ない、破壊するだけの魔法は使い勝手では最低の分類であろう。

 テロ紛いの事に使うならばともかく、攻撃魔法としてこのような大規模破壊魔法を使えば、敵味方辺りの地形まとめて消滅である。


 しかもこの魔法以外では、初心者レベルの回復魔法と多少の攻撃魔法しか使えないときた。

 使いどころが難しい。


「あの魔法を抜きにして考えれば、せいぜいEランク中位の初心者レベルなのだ。年齢的にもまだ十四歳だし、これから育てていくと思えばいい時期だと思うのだ」

「つまり、危険人物は手元に置いておく、という訳であるな」

「意訳するな」


 ギルド総長の「ただし、実戦が足りねぇ。鍛えてやってくれ」という言葉を思い出す。

 実戦が足りない、どころの騒ぎではないレベルだ、あの親ばかめ。

 そう思うリディであった。



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