侵入者にはご用心 4
チュンチュンと外から鳥の囀りが聞こえてきてジャスティーンは目覚めた。
「ふぁーーー、んん、よく寝た」
ベッドから起き上がり厚手のカーテンを開け軽いストレッチをして、テーブルの上にある救急箱が視界に入り..昨日の事は夢ではなかったのかと落胆した。
そう、夜も更けてきた頃出入り口の扉が開いた気配を感じた。
ジャスティーンの部屋の出入り口は白のレースを幾重にも重ねた物で視界を防ぎ、部屋の中を見えない様にしていた為カギをかけ忘れていて第3者がこの部屋に入ってきたのか、それともただの物音だけなのか...ジャスティーンは後者であることを祈りながらレースの隙間から出入り口の扉を覗いた。
答えは残念なことに前者だった。
この時ジャスティーンは何故カギをかけ忘れてしまったのかと自分を呪った。
薄暗いが侵入者のシルエットから男性だということは分かり、身なりも上質な物を身に着けている。
髪は黒髪で短めだった.........「げっ!?」とジャスティーンは声を上げた。
それは微かだが、侵入者の胸元に王家の紋章を象ったブローチが見えたからだ。
顔までは確認できていないが...侵入者は間違いなく国王陛下だ。
侵入者はもう一度扉に耳を当て廊下に物音や気配がないことを確認してから立ち上がった。
「おい、女、名はなんという?」
この声...夜会の挨拶で聞いた声で、その時侵入者改め陛下の左腕の切り傷に気づいた。
「..................えっと、あ、ケガ......を、まさか、刺客ですか?」
ジャスティーンは国王陛下ことエドワルドの質問に答えることなくケガを負ったエドワルドを部屋の奥へと連れて行き、先ほどまで座っていた椅子へと案内した。
エドワルドは椅子へ腰かけ、ケガの手当までは出来なくとも応急処置として止血くらいならできるだろと考えたジャスティーンは奥の部屋から救急箱を取りに行った。
エドワルドは物珍しそうに部屋を見回していた。
それもそのはず、この部屋は他の側室の部屋と違い質素という言葉が似合う部屋だからだ。
救急箱をテーブルに置き、エドワルドのすぐ傍まで近づき一度断りを入れてから止血を始めて、作業が終わるまでエドワルドはジャスティーンを観察していた。
探るような視線。
当然だろう。
傷口は深くなく命にかかわらないようだったが、下手をすれば命を落としていたかもしれない。
そもそも顔もわからないジャスティーンを側室だと、エドワルドは気づいているのだろうか?と考えを巡らすジャスティーンだったが、まあ得体のしれない女を疑うのはごく自然の事と考えた。
「止血だけの処置しかできず、申し訳ございません」
手当というか応急処置が終わり、ジャスティーンはエドワルドを見上げた。
「いや、それだけで十分だ」
「しかし......後宮に刺客がいるなど...」
「このことは誰にも言うな。よいな?」
「誰にも言うな」というエドワルドの言葉に私は安堵した。
ああ...よかったと、エドワルドが自分の部屋に訪問に来たわけじゃないとわかり嬉しかった。
いや、側室としてはダメな反応だけど......
「はい、誰にも言いません!貴方様がいらしたことは他言無用で今夜は誰も部屋には来なかったということでよろしいのですね?」
「ああ、そうだ。できるか」
目を細め私を試すように聞いてくるエドワルドに私は胸を張って答えた。
「もちろんです。ところでここからどのようにして王宮へお帰りになられるのですか?」
力強い私の言葉にエドワルドは一度頷いてくれた。
しかし、この部屋に逃げてきたはいいが、後宮内にはまだ刺客が潜んでいる可能性が高い。
朝まで傷を負っているエドワルドと一緒にいるなど考えただけで、「ノーーーーーーーォ!」とか「嫌ーーーーーー!」とか叫んでしまいそうになる。
一応どうするのか確認の意味を込めてエドワルドに訊ねた。
「実はこの部屋には隠し通路の入り口の一つがある」
エドワルドの爆弾発言にジャスティーンは思考停止し、動かなくなった。
はあ?隠し通路の入り口?
それって......王族だけがしるような重要な秘密。
それを知ってしまった私の今後の人生って...あれ?
ジャスティーンはここでエドワルドの手により殺される...とか?
国王陛下直々ではなくとも何か因縁つけられて一生牢屋行きとかにもなりかねない!!と悟りまくるジャスティン。
「.....................な、な、な......ああ......私の人生もここまでか...」
ジャスティーンはガクンと床に両手両膝を付き呟いた。
このバカ陛下...そんな大事な秘密暴露すんじゃねーよ!!と怒り心頭だったジャスティーンは床にしいてある毛足の長い絨毯を握りしめた。
「まあそう落ち込むな。他言無用と約束するならお前を悪いようにはしない」
これが落ち込んでいられないでか!!と言い返しそうなところだったが、最後までエドワルドの言葉を聞いて冷静なジャスティーンに戻った。
「えっ、殺さないんですか?」
「ごほん、すまない。俺も悪ふざけが過ぎたようだ。しかし、隠し通路の件は他言無用で、もしお前が他人にバラしたとわかり次第、俺はお前を処刑する」
エドワルドの謝罪の言葉にジャスティーンは息をのみ上半身を起こしてエドワルドを見つめた。
彼がウソを言っているようには見えない。
自分さえ口外しないのであれば処刑または一生牢屋行きは免れそうだ。
「どうぞご自由に。私から他へ漏れることはありません」
「ほう...凄い自信だな」
「ええ、隠し通路の入り口はどこにあるのかわかりませんが、明かりを消し私は天蓋付きのベッドに身を潜め......いえ、もう寝ますゆえ、その間にお帰りくださいませ」
「寝るのは構わないが、音でわかるのではないか?」
「それは諦めてくださると助かります。ベッドに横になれば朝まで目覚めない自信はあります!」
ジャスティーンは実をいうと2徹しているので今ベッドに横になれば眠れる自信があった。
しかし、その前に確認しておかないといけないことがある!!
他言無用という約束の代わりにこれだけははっきりさせておかないと...
「その代わりと言ってはなんですが......」
ジャスティーンの言葉にエドワルドの表情が厳しくなった。
彼女が何か願い事をするのだろと、それが何かによってこの国王陛下の態度がかわりのだろう。
そんなことどうでもいいけどね。
別に正妃になりたい訳でも寵愛が欲しいわけでもない。
何で側室になったのと突っ込まれても、大臣から頂いた話を男爵家ごときが断りなどできない。
それでここにいるだけの事。
「何だ、言ってみろ」
エドワルドの冷たい声が部屋に響きその声にジャスティーンは微笑んだ。
「はい、あの...貴方様は、この部屋に2度といらっしゃらないんですよね?」
「.....................なに?」
あ、多分エドワルドが想像していたのと違うことをジャスティーンが言ったから聞き返してきたのだろうと予想した。
「ですから、今日の事は何もなかったことで、これからも何もないまま過ごせる=貴方様の渡は一切ないということでいいんですよね?」
「ちょ、ちょっと待て、お前俺の側室だろう!?」
「ええ、まあ表向きは」
「なんだ、裏に何かあるのか?」
「何もないですが、今まで通り何ごともなく過ごしたいので、私の事は捨てておいて頂けると助かります」
エドワルドは目を見開き、何か考えているようだった。
「成程、表向きでこの部屋には2度と近づかないと誓おう。では、約束通りベッドへ行ってくれ」
「わかりました。では火を消します」
エドワルドが納得していただけたというこのが嬉しかったジャスティーンはエドワルドの指示通り燭台の火を消し、天蓋ベッドのレースを束ねている紐をときその中へ入り、ベッドに横になったジャスティーンは瞼を閉じた。
ああ、速攻寝てしまったのね...と昨日エドワルドが座っていた椅子に腰かけ、窓の外を見ながら何事も起きませんようにと願いを込めてから今日のお昼ご飯を侍女に頼むため鈴を鳴らした。