侵入者にはご用心 17
どうにかこうにか続きを更新できました。
感想を拝見しました。長い間更新できなかったので感想をいただけるとは思いませんでした。執筆の励みになります。ありがとうございました。
「初めましてだったかな?ジャスティーン」
先ほどまで2人が座っていたソファーに腰掛けたジャイロはジャスティーンに挨拶をした。
「ええ、初めましてジャイロ隊長様。貴方の武勇伝(?)はおじい様から聞いております」
「ほ~う、あの爺さんがね......あ、俺の事はジャイロで構わない」
相変わらずジャイロはにやにやとにやけていた。
それは堅物(?)女に興味ない(?)エドワルドがジャスティーンの膝枕を続行中だったからだろう。
「ん?師匠、ハイド男爵家の前当主と知り合いなのか?」
「まあな、俺が若いころ世話になっただけだ。それもジャスティーンが産まれる前の話だ」
「一体何をやらかしてハイド男爵家前当主の世話になどなったのですか?」
「...うーん.........いろいろぉ♡」
そのいろいろぉって何っ!?とエドワルドとライモンは心の中で突っ込みを入れたが、ジャスティーンは気に留めることなく話を進めた。
「あの...私のメッセージは受け取ってもらえたのでしょうか?」
「あの暗号めいた数字なら解いてジャスティーンの部屋を見張っていた者を追跡できた。変なことに巻き込んでしまってすまない」
ジャスティーンの問いにエドワルドが簡潔に答えた。
はやり気づいてくれたんだとジャスティーンは安堵したが面白くないといった顔をしたジャスティーンにエドワルドが笑った。
「俺が気付かないわけないだろう」
「いえ、そうなると例の場所から私は陛下に覗き見されていたのかと思うとプライベートの侵害で訴えたい気分です」
「あははは、国王相手に訴えても勝てないだろう?」
「ジャイロ隊長、そうかもしれませんが...着替えとかを見られていたと思うと...」
自身の太ももに頭をのせリラックスしているエドワルドに冷たい視線を送るジャスティーンにライモンが苦笑いした。
「ジャスティーン様、ご安心ください。こう見えても陛下はそういった行為を覗き見するような小さな人間ではありません。見るときは堂々と拝見するでしょう!」
「いえ、それもどうかと思いますが...」
「ええーーーい、どちらにしてもジャスティーンは俺の側室なのだから、ジャスティーンが何をしていようが、それを俺が見ていても犯罪にならないだろう!?」
「なります!」
速攻でジャスティーンに言われエドワルドは不貞腐れた。
「俺の側室に何してもいいじゃん」とぶつぶつエドワルドは呟いたがそれを3人は無視した。
「さてジャスティーンのメッセージのお陰でお前に何が起きたのか大体の予想ができた。しかしジャスティーンに接触してきた男と約束した件に関して一切何も言うな。それはお前のためだ」
ジャイロの言葉にジャスティーンは自身の部屋に侵入してきた男の正体が判明しているのに驚くと共にそれでエドワルドが何も聞かないのかと納得した。
「接触してきた男の正体が知りたいか?」
「.........遠慮しておきます。ついでに申し上げますと、これ以上私を危険な目に遭わせるのはお止め下さい」
きっぱりと自分の思いを告げるジャスティーンにジャイロが盛大に笑った。
「ぶはははっ!!いや~、顔似てないが爺様の孫だな~」
「おじい様と一緒にしないでください。あの人は特別なんです」
楽しく話をする2人を後目にライモンはエドワルドを見た。
中央で仕事をしているライモンやエドワルドは生前のハイド男爵前当主を知らない。
ただ噂話で聞いたことがある程度で、ジャイロと関わりがある事すら2人は知らなかった。そんなエドワルドは寝そべりながら両腕を組んでむすっとした様子にライモンは苦笑いをした。
「おい、お前たち、思い出話は後にして今後の話をするぞ」
「悪いな...お前の大切な側室殿と楽しい会話をしてしまって!」
「ジャイロ隊長、何を言いだすのですか!?私と陛下は...ひゃっ!?」
いきなりエドワルドの手がジャスティーンの唇に触れて、それに驚いたジャスティーンが変な声を上げた。
「お前は俺の側室だ。俺以外の男と話す事は許さない」
「........(おいおい、いきなり何を言いだすのだこの男は!?)」
膝を提供しているジャスティーンは心の中で悪態ついた。
「ひゅーひゅー、熱いね。じゃ、さっくっと話を終わらせて俺達は退散するか」
「そうですね。馬に蹴られて何とやらにはなりたくありませんし...」
「お、お2人共...お願いですから私と陛下を2人きりにしないでください!ていうか退室する際はこの変態...ごほん、陛下も連れて行ってください!!」
ジャイロとライモンが本当にさっさと退室してしまいそうな気がしたジャスティーンは焦って本音を言いそうになり、今『変態を連れて行け』って言いかけた?とジャイロとライモンが心の中で爆笑していた。
それに対しエドワルドは顔を顰めたが、その件に関しては何も言わず気になることを優先した。
「そんなことより、2人揃って何の報告をしにきたのだ?」
「ええ、実はイザベラ様に毒を盛ったと思われる犯人を拘束しました」
「何?どうして毒を盛ったとわかったのだ?」
ライモンの報告にエドワルドは上半身を起こし、ジャスティーンの隣に座り直した。
「重要参考人としてジャスティーン様の身柄を私が預かったのですが、それはそれで茶会に参加していた全ての関係者達の身体検査をおこなったところ似たような小瓶を所持していた侍女が見つかりました。現在取り調べ中ですが、女官長やそれ以外の侍女達の証言で毒物を所持していた侍女がイザベラ様にお茶を運んでいたそうです。後程、報告が入り次第陛下へご連絡いたいします」
「その侍女の名はエルダと言ってな、リズ・マイナリカ子爵令嬢の専属の侍女として働いている女だ」
「リズ・マイナリカの指示ということも考えられるか?」
「現段階では...何とも言えませんね」
今回茶会に出席した関係者の名簿をエドワルドに手渡したライモンは難しい顔をした。
「その侍女がディーとかいう殺し屋の共犯者と考えられないか?」
「これは俺の勘だが、その侍女とディーは共犯ではないと思う。過去にディーが関わったとされている事件を参考にしてみると、本当にイザベラを狙ったとして騒ぎの後、身体検査をすることなどわかっているはずだ。それなのに小瓶を所持させておくようなお粗末な共犯者を使うような奴じゃない。まあ何らかの理由でリズ・マイナリカを罠にはめるためにそうしたのなら話は別だが...」
「ジャイロ隊長の推理ですと、あの騒ぎの中ジャスティーン様が拾った小瓶の方がディーと名乗る男の仕掛けた罠だと考えられるということですね」
「証拠はないがな」
ジャイロは喉が渇いたのかソファーから立ち上がりティーポットにお湯を注ぎライモンと自分の分の紅茶を淹れた。
「フランクの話だとジャスティーンを見張っていた男は先日行われた夜会の翌日からジャスティーンの見張りを引き上げ、そいつを付けてみると裏地の酒場に入り浸っていたようだ」
「そこでディーと名乗る暗殺者と密会していたわけか...」
「酒場の個室に集まっていたのは3人でその中の1人は女だったと、フランク1人で見張らせていたから女の方の尾行は諦めディーとジャスティーンを見張っていた男の方を優先した。ただディーの尾行は難しく見つかる可能性を含めジャスティーンを見張っていた男の方を現在も見張っている状況だ」
「あのフランクでもディーと名乗る男の尾行は難しいのか...」
「エドに傷を負わす程の手練れだぞ。俺が動ければいいんだが...今は城の警備体制を整えるのが先だ」
「それはどういう事ですか?」
「ディー程の男がどいう経緯でジャスティーンを見張っていた男と手を組んでいるか知らんが、フランクから見てあの男は、暗殺者として素人も同然だということなんだな~」
ジャイロは両手を頭の上にのせ視線は明後日の方に向け、そのワザとらしい仕草にジャイロが何を言いたいのか察したライモンは自身のこめかみに手を当てた。
「成程...ジャスティーン様に見つかるような、ド素人相手がどうして城の警備兵に見つからなかったのか不思議に思っていましたが...」
「あ!バレちゃった?」
「要するに巡回ルートや時間の情報が第3者に流れていたということか」
「その件に関して現在調査中。後で報告書あげる予定~♪」
口笛を吹きそうな軽い感じで報告するジャイロにエドワルドもライモンも彼を口うるさく言う事は無かった。
そう彼はそれ以上の情報を手にしていると確信しているからだ。
「それで現在フランクは何を?」
ライモンの問いにジャイロが不敵な笑みを浮かべた。
「ジャスティーンを見張っていた男の調査続行中で、そいつが現在とある屋敷の庭師として潜入している。それを可能な限り見張らせている」
「その屋敷とは?」
バンッ!!
「お待ちください!!」
テーブルを叩いたのと同時に大声を上げたジャスティーンに皆視線を向けた。
「危ない話はここでしないでください!!ていうか、私を巻き込まないでって言いましたよね!?」
「その件は諦めろジャスティーン」
「な、どうしてですか、ジャイロ隊長!?」
「王家の秘密を知ってしまった以上、身の危険は当たり前だと考えた方がいい」
「知ってしまったって、成り行きで知ってしまったんですよ?私より陛下に罰を与えてください!!」
「そうだな。王族のくせに大事な秘密を不用意にも第3者に伝えたエドが一番悪い。しかしこんなバカでも一応ソレイユ国の王様なんだ。そしてジャスティーン、お前は国王の側室という立場なんだぞ。危険は承知で後宮入りしたんだろう?」
「それは...言われなくても...」
「なら、こういう事態だって予想できたはずだ。甘さを捨ててこのバカを最後の最後まで自身の命を懸けても守り抜く覚悟を持て!」
ジャイロの力強い言葉にジャスティーンは自分の認識の甘さに顔を伏せた。
それを間近で見ていたエドワルドはジャスティーンの肩に腕を回し体を引き寄せ、ジャスティーンは顔を上げることなく肩に置かれたエドワルドの手に自分の手を添えた。
ジャスティーンのその行動に愛おしいと感じたエドワルドは元凶が自分であることに反省した。添えられていたジャスティーンの手が少し動いてエドワルドの手首に触れ、エドワルドは空いている方の手でジャスティーンの髪を撫でながら告げた。
「俺がジャスティーンを危険な目に遭わせないと誓う。だから顔を上げていつものジャスティーンのえがおぉぉぉ!い、痛ーーーーい!!ちょ、待て、いだいーー!!ジャスティーン!痛いって!!!」
「ふふふ...痛いですか?」
「うんうん、痛い、物凄く痛い!!」
「今、刺激しているツボは『神様の入ってくる門=神門』と呼ばれているところです。その名が示すとおり思考や意識といった精神世界との深い関わりをもっていて、イライラや不安感などからくるストレスを癒して精神活動を安定させる効果のようです。具体的に言いますと不眠、ストレス、イライラ、不安による胸苦しさ、便秘、味覚症状、食べ過ぎ、などに効果があるそうです。これらの効果が現れるのは神門が副交感神経の働きを活発にするツボといわれているからです。」
「「「..................。」」」
ジャスティーンはエドワルドの手の小指側のライン上に位置する手首のツボを親指で押しながらツボの説明を始めた。その光景が恐ろしくて不敵な笑みをうかべているジャスティーン以外の3人は現在精神を安定をさせなきゃいけないのはツボを刺激している本人なのでは?という言葉を飲みこんだ。
「そんな事より毒の小瓶を持っていて、毒入りの飲み物をイザベラ様に配膳したという目撃情報まである侍女が現れたとなると、今後の私はどうなるのですか?」
ジャスティーンは思い出したようにエドワルドの手を離し顔を上げた。
「ああ...痛かった」とジャスティーンにツボを押された方の手首を反対の手でさすりながらエドワルドはライモンに視線を向けた。ライモンは心得たとばかりにジャスティーンに仮説を話した。
「その件に関しては当分こちらの部屋で過ごしていただくことになりそうです。しかしジャスティーン様ご安心ください。貴女様を疑っているわけではありません。あの事件で他の側室様が混乱していまして、まだ関係者各位から詳しい話を聞くことができらおらず、それが落ち着き次第事情聴取を行う予定になっております。それと同時進行で侍女の方も取り調べますから何か新たな情報が出てくるようならジャスティーン様は無罪放免と判断され自室へ帰れると思います」
ライモンの説明にジャイロもうなずきながら口を開いた。
「ライモンの言う通りになると俺も思う。それにジャスティーンの隣に座っていたローラ・アーキン男爵令嬢が床に落ちている小瓶を先に気づいたのは自分だったと証言してくれるそうだ。今は騒動の後で側室や後宮内で働いている者達が混乱しているため、それが落ち着いたらだな」
「そうですか...わかりました」
ライモンとジャイロの話を聞いたジャスティーンは安堵し微笑した。
それを見てエドワルドは面白くないとばかりにそっぽ向く。
そんな行動を国王であるエドワルドがしても相変わらず3人は無視をして話を進めた。
「ところでジャスティーン、リズ・マイナリカは知っていると思うがどんな女だ?イザベルを恨んでいるような噂等あったのか?」
「リズ様とは挨拶程度で、イザベラ様を恨んでいるような噂は特に...というか、側室の3分の2はイザベラ様を良く思っていないと思います。ただ...」
不意に言葉を切ったジャスティーンは考え首を傾げた。
「ただ、どうした?」
「以前ロベルタという侍女が、今疑われているエルダという侍女に関して変なことを言っていた気がします」
「何!?それはどんな事だ?」
「夜会の終盤頃エルダという侍女は何度か持ち場を離れているの姿をロベルタと同僚の侍女に目撃されていて、どうやら逢引きしているらしいのです。その相手の正体まではわからないそうですが、大臣の誰かではないかという噂が極一部の侍女の間であるそうですよ」
「それは本当か?」
「逢引き現場を目撃したのはロベルタではないので真偽はわかりません。ただ極一部の侍女達の間で噂されていると聞いただけです」
証拠はない。ただの噂話を信じそうになっているエドワルドに慌てたジャスティーン。
しかし顎の無精髭を撫でながらジャイロは笑った。
「ほほーう。エド、面白いことになってきたな」
「ジャイロ隊長、もう少し言葉を選んで発言してください」
「別にいいじゃねーか。古狸を一掃できるチャンスだろう?」
「まあ、否定はしませんけどね」
不敵な笑みを浮かべるジャイロとライモンを怖いと感じたジャスティーンは隣にいるエドワルドを見ると、エドワルドは両腕を組んで何か考えている様子に再び嫌な予感しかしなかった。
残りの2人は別の意味でエドワルドをそっとしておきたい気分でいっぱいだった。
何故ならライモンとジャイロがジャスティーンが隔離されたの部屋へと訪れたもう二つ目の理由を思い出したからである。一つ目は毒の小瓶を持っていた侍女の話。そして二つ目の理由を早く告げたいジャイロだったが、それを告げるとエドワルドが不機嫌になるのは目に見えていた。そのためライモンと共にそれを告げるタイミングを見計らっていた。
しかし、一方では早く告げてしまいたいと思う逸る気持ちを抑えるのに必死というそれぞれの考えをエドワルドは知ることなく真剣に今後の動きを考えていたのであった。
次話も予告はできませんが早めに更新できると思います。
よろしくお願いします。