侵入者にはご用心 15
とある城下の裏路地にある飲み屋の個室に3人の男女が集まった。
部屋の中は薄暗くウィスキーと氷にグラスが3つそれぞれ目の前に置いてある。
「ディー次の仕事が決まったって?」
「そうなんだが、その前にカピ見張っていた女の報告をしろ」
一人グラスを傾けていた髪の色が派手な男をディーはカピと呼んだ。
先ほどディーに質問したアナはディーとの付き合いは長いが、名前を呼ばれたカピという男とは初対面だった。
「見張っていた貧相な女は、茶会や夜会以外部屋から一歩も出ていない。訪ねてきたのは馴染の侍女だけだ。後、変わったことはこの前の夜会の時、身支度の手伝いに来た侍女が初めて見る顔だったくらいで他は何もなく本と刺繍をする毎日で、あいつの楽しみはなんなんだろう?と真剣に考えたぐらいだ」
ジャスティーンの日常とそれに対しての感想まで述べたカピに他の2人も同意した。
普段侍女として後宮で働いているアナがハイド男爵家の娘であるジャスティーンについて知っている事といえば、体が弱くそんな彼女が側室に選ばれたのはハイド男爵前当主に恩のある前大臣が恩返しとして後宮入りした事と、一度も王の訪問が無いという程度しか知らない。
ディーが初めて王を襲った時、アナも会ったことのないディーの数人の手下が後宮の各出入り口と王宮の王が自室へ戻るであろう通路を全て見張らせていたにも関わらず、翌朝王は自室から出てきて執務室へ向かったそうだ。
その報告を受けたディーはある仮説をたてそれから後宮で働くアナに隠し扉と通路がないか探すよう指示が来た。
それを聞いたときアナはディーの手下ってどれだけいるの!?と疑問に思った。
上司であるディーは基本一匹狼のような男で、大きな仕事の時のみ仲間を集める。
ちなにみ今までは報告と指令をする際はディー1人が現れるパターンだったので、今回の様に酒場に集まることなどまずない。
話はそれたが、ディーに隠し扉や通路の件で何度か報告をするうちにディーからハイド男爵家の娘の事を訊ねられたアナはジャスティーンのことをすぐに思い出せなかった。
「知らない顔の侍女の件だけど、本当は私が男爵家の娘のころへ行く予定が急遽変わったのさ」
「変わったというのは?」
「私が仕えている側室の夜会用のドレスがイザベラと被るっていうんで癇癪を起こしてね。急いで替えのドレスや宝石の用意とかで行けなくなったのを知った女官長が新人を行かせたみたいだ」
「そもそもいつもの侍女はどうした?」
「ああ、そいつはクビになった」
「理由は?」
「くだらない理由だよ。あの病弱だというハイド男爵の娘の食事を無断で食べていたそうだ」
本当にくだらない理由だが侍女が側室の食事を盗み食いしているなどもってのほかだろう。
「あの女2日に1度しか飯食べてなかったぞ?」
アナの話を聞いたカピがジャスティーンの食事の様子を話した。
「そうらしいね。それ以外はクビになった侍女の腹の中におさまっていたようだ」
「ふん、ハイド男爵家の娘はもうどうでもいい今回の捜査対象から外し新たな仕事の話に入る」
やっと新しい仕事の話か...とアナはディーを見た。
「今度のターゲットは.........イザベラだ。決行日はーーーーーーー」
ディーの言葉にアナとカピは息をのんだ。
***
ーーーーーー月1度のお茶会当日ーーーーーー
捜査対象から外された事のど知らないジャスティーンは悩んでいた。
ここ数日あの派手な頭の男の姿が見えなくなり、その代わりに夜会の時に手伝いにきてくれた侍女のマーラがジャスティーンの世話をするようになった。
以前適当に世話してくれたロベルタは侍女を辞めてしまったらしく、マーラは新人なのだがロベルタと違い侍女としてジャスティーンの世話をしてくれる。
しっかり働いてくれる彼女に本当に申し訳なが、ジャスティーンとしては以前のように鈴を鳴らした時にだけ来てればいいと...こんな主人でごめんなさいと思うぐらいマーラはジャスティーンに尽くしてくれた。
そんなマーラにジャスティーンは感謝しているのだが、侍女に扮して図書館へ行けないストレスが限界に近いのも事実。
そんなストレスと今日も戦いながらマーラにとっていい主人を演じるため奮闘するジャスティーン。
「おはようございます。ジャスティーン様」
「おはよう。今日もいい天気ね」
「左様でございますね。本日はお茶会の日ですが、お召し物はいかがいたしますか?」
マーラの用意してくれた桶に水がはっていてジャスティーンはそれで顔を洗いタオルで拭きながら、そんなに選ぶほどドレス持ってないし...無難なドレスなら何でもいいかと考えたジャスティーンにマーラは従うも身だしなみに時間をかけてくれたおかげでここ最近のジャスティーンの評価は上がっていた。
実は側室の中でそれが話題となっていることをジャスティーンは知らなかった。
お茶会の会場となっている一室へ向かい決められた席へ座り部屋の中を見渡すと半数以上の側室がすでに席についていて世間話をしていた。
ジャスティーンの姿を見た側室たちは侍女が変わったお陰でジャスティーンの顔色がよくなったことなどの話を少しして違う話題へと移った。
本日も国王の寵姫の登場は遅かった。
「皆様ごきげんよう~」
「あらイザベラ様、本日こそ欠席かと...」
「私もそれでいいかと思いましたが、皆様のお顔を拝見するのもまた一興かと考えを改め参上いたしました」
イザベラがお茶会へ顔を出したのはもう茶会も終盤で彼女の登場に他の側室たちはピリピリし始めた為、女官長が気を利かせて側室たちのお茶を新しく淹れなおし、隣国で流通しているという高級茶葉のお茶を側室たちに振舞った。
「まあ、いい香りですこと」
「ええ本当にいい香りですわ」
「おほほほほ」と上品に笑いあう側室を横目にいれ、ジャスティーンは別にお茶がどうとかのうんちくはいいから早くお茶会が終わらないかな~ということだけで頭がいっぱいだった。
「ではいただきましょうか?」という合図で側室たちはお茶を飲み始めた。
ジャスティーンは普段からお茶よりお湯または白湯を好んで飲んでいるため、お茶に興味はなく一応非礼の無いようにティーカップに口をつける程度でお茶を飲むことは無かったその時ーーーーーー
「ぐっ!!?」
ガシャン!!
誰かの苦しむ声と共に食器の割れる音がして、その後異変に気付いた側室たちが騒ぎ出し室内はパニックに陥った。
侍女や逃げ惑う側室たちにジャスティーンは何がどうなっているのかわからず、席を立たずに座ったままでいると侍女や側室たちがイザベラの名を呼んでいることからイザベラに異変があったことがわかった。
ジャスティーンとイザベラの席は遠く、その為誰の声かまではわからなかった。
他の側室たちは自分のお茶にも何か混ざっているのではないかと騒いでいたが、イザベラはお茶を飲んですぐ苦しみだしたあたり致死量の毒物か何かが混入していた可能性が高いと考えたジャスティーンは周りの様子を窺った。
毒物に詳しくわけじゃないので断言はできない。
女官長はすぐに医師や後宮の警備を担当している女性騎士を数名連れて戻ると側室たちや侍女たちに落ち着くよう宥め、イザベラはというと医師の指示により担架に乗せられ別室へと運ばれた。
その頃には側室たちや侍女たちは女官長の計らいで落ち着きを取り戻し各自座っていた席に着いたり、控えていた場所へ待機した。
タイミングの悪いことに現在国王であるエドワルドは視察のため王宮内に居らず、早馬をだしその知らしを受けたエドワルドは視察を中止し、すぐ王宮へと戻ることになったその間宰相であるライモンが茶会の会場となった部屋で皆の事情聴取や指示等を出すよう命令が下った。
宰相のライモンが現場となった部屋へ向かっている間、事態は思わぬ方向へと進んでいった。
「ジャスティーン様、床に落ちているこの小瓶はなんでしょうか?」
「え?ああ、これでございますか?」
それはジャスティーンの隣の席に座っていた同じ爵位を持つローラ・アーキンが床に落ちている小さな小瓶を見つけ、小瓶はジャスティーンとローラの座る席の近くの床に落ちていたそれをジャスティーンが拾った。
「ジャスティーン様、その小瓶もしや!?」
それを見ていた側室の1人が騒ぎだし、周りはそれに便乗した。
「そ、その小瓶に毒が...」「まさかジャスティーン様が...」「王の訪問がないのを...」と、あり得ない方向へと向かいジャスティーンがそんなこと無い無いと心の中で突っ込みを入れている間にどういうわけか側室たちの中でジャスティーンが犯人ということになっていた。
側室の皆さんに気づいてほしい...その毒とやらをどうやってジャスティーンがイザベラに飲ませたのかを...いや、あえて気づかないふりをし、この騒動を速やかに終わらせたいという魂胆が見え見えでもあった。
今度こそ死罪か一生牢屋行きか!?と青ざめるジャスティーン。
そんな状況でもジャスティーンはエドワルドに助けを求める気など一切なかった。
次の更新は申し訳ありませんが7月頃になるかと思われます。
よろしくお願いします<(_ _)>
6/23修正しました。
ご指摘ありがとうございました。