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侵入者にはご用心 12

 日付が変わりこの部屋の主であるジャスティーンは読書を止める気配はなくページを捲ろうとした、それは一瞬の内に起きた。

 窓を開けていないのに風が吹きこの部屋の唯一の明かりであるろうそくの火が消え部屋が闇に包まれたが、カーテンを閉めていなかったので今宵は満月で月明かりが窓から差し込んでいた。

 火が消えてしまったことを不審に思いつつジャスティーンは読んでいた本を閉じ、もう寝てしまおうと足に力を入れた瞬間首筋に冷やりと冷たいモノがあてられた。

 ジャスティーンが声を上げる前に背後から声がした。


「お嬢さん命が惜しければ騒がない事だ。いいか?」


 男の声はどこまでも冷たくそして背後からの鋭い視線を感じたジャスティーンは一瞬の出来事なのに冷や汗をかき、男の問いに無言でいると部屋に侵入した男...ディーはジャスティーンが騒がないと考え質問を続けた。


「俺の質問に素直に答えれば殺すことはしない。まあ、その後お嬢さんが他の誰かにこのことを話せば命はない。いいな?」

「...は...い」


 怖い...ジャスティーンの体は震え上がりやっとの思いで声を出すことが出来た。


「ソレイユ国王エドワルドの事はわかるな」

「......存じております」

「3ヶ月前この部屋を訪れなかったか?」


 この質問でエドワルドを襲った刺客はこの者の可能性が高いとジャスティーンは考え、そして答えた。


「こ、国王陛下がこの部屋に訪れたことはございません」

「嘘偽りはないな?」

「...はい」


 正式に訪問はしていないと怯えながらもジャスティーンは静かにディーの問いに答えた。


「では、質問を変えよう。この部屋に男が訪れたことはあるか?」

「...はい...ございます」

「それが誰だかわかるか?」

「いえ存じません」

「その男はどうやって逃げた。どこかの隠し通路を使ったりしていなかったか?」


 男の目的はエドワルドがどのようにして後宮から逃げ果せたのかを知りたいといったところか...

 さて、毎度無断で部屋に侵入してくる(何も取られたりはしていないが)あの方はかなり私を危険な目に遭わせていることに気づいてほしいと考えながら、これから自身がこの男に伝える言葉を自問自答してジャスティーンは死を覚悟した。


「いえまだ逃げていませんし、どのような方法で部屋に入られたのかも存じ上げません」

「何?」


 ディーは部屋の中の様子を窺った。


「俺達以外の気配を感じないが?」

「ええ、ここは後宮...侍女は女性ですので除外として、それ以外でこの部屋を訪れたことのあるお方は貴方様だけです」


 この時ジャスティーンは息をのんだ。

 ディーがジャスティーンの発言をどうとるのか...下手をしたら殺される確率が高い。

 エドワルドは男だがこの後宮は彼のために存在する物としてジャスティーンの勝手な判断のもと除外し、残る該当者は現在部屋にいて男であるディーのみということにした。


「ふふ...はははっ。確かに俺は男だ。正直にいえと言ったのは俺の方だ...今回は見逃してやる」


 ディーが笑うとは思わなかったジャスティーンは体に力が入った。


「いい度胸しているな、お前」


 今の状況で褒められても嬉しくもなんともないジャスティーン。


「まあいい...この部屋を調べさせてもらう」


 ディー自身、発言した通りジャスティーンを解放し部屋を隅々まで調べ始めた。

 この男が恐ろしい...どうして私を縛らないのだろう?とジャスティーンはディーを観察しながら考えた。

 ディーが調べている間にジャスティーンが逃げ出し警備の者を呼びに行く可能性だってある。

 それをしないのは...この状況でジャスティーンがどう行動するのか見極めるのと、ジャスティーンのような小娘などいつでも殺せるという自信があるからだろう。

 ここはディーの指示に従った方がいいと考え、ジャスティーンは大人しく椅子に座ったまま動かずにいた。

 しかしジャスティーンもピンチだが、それ以外にもあんなベタな隠し通路の入口をディーが見逃すはずもないと考えていた。

 自分がこの部屋にいる限り隠し通路の扉がばれないようにしないといけないと考えたジャスティーンはある秘策を講じていた。

 それは隠し通路を防いでいる衣装ケースだ。

 まあ衣装ケースを置いた経緯はエドワルドが部屋に入れないようにするために考え出されたものなのだが、まさかあのお荷物だと思っていた物がこんな時に役立つとはジャスティーンは思いもしなかった。

 そのお荷物というのは...それは10年ほど前から女性だけぞ知り秘密裏に流通されている代物がある。

 後宮に向けて出立する際、母と友によって無理やり大量に持たされたとある物が現在衣装ケースの中に収まっている。

 折角母と友から頂いた物を捨てるにわけいもいかず...それ以前にそも物を人の目にも触れられたくない言わばジャスティーンにとって彼女がそちらの趣味をもっているという勘違いをされると立ち直れない物が衣装ケースに仕舞いこまれていた。

 その物の重さを利用してエドワルドが簡単に部屋に入らないように...いや、違った、第3者に扉がわからないようにしている。

 ディーが衣装棚の扉を開き一瞬止まったその光景をジャスティーンは色んな意味で体が熱くなってきた。

 貴族の娘として必要最低限の衣装はあるのだが、間違いなく他の令嬢と比べると衣装の数は格段に少ない上に夥しい衣装ケースの数をみて不審に思わないわけがない。

 ディーは間違いなく衣装ケースの奥に何かあると睨んだようで、ふっと鼻で笑った気配がした。

 見るからに怪し過ぎる。

 何か隠してますよと言わんばかりの状況をディーが見逃すわけがなかった。

 ディーが衣装ケースに手を置き持ち上げたると...予想以上の重さディーはジャスティーンを見た。


「この衣装ケースの中身は何だ?」

「えっと...その...」


 歯切れの悪いジャスティーンの態度を見てディーは衣装ケースを開き中に入っていた物が衣装でないことが暗闇でも分かり、それがなんなのかを確かめに衣装ケースを持ち窓際まで移動した。


「これは...本だな。しかし本棚に余裕があるにもかかわらずこんなに多くの本が何故衣装ケースの中に?」


 ブツブツと呟くディーはパラパラと中を確認するも普通の本だ...しかしそれがどうして衣装ケースの中に?と不審に思っているディーは表紙を見て動きを止める。


「『伯爵と執事の秘め事』...『騎士は若き王を愛でる』...『謎めいた男娼』『騎士団長と秘密の特訓』何だこれは!?」


 ですよね~と思うジャスティーン。

 タイトルだけである程度内容が分かりそうなものだが、ディーはあえて聞いてきたのだろう。


「恋愛小説です」

「それはわかる。これはお前の趣味であの衣装ケース全てこの類の本なのか?」


 「母と友の趣味です」とは言えずとりあえず肯定の意味を込めて一度頷いた。


「ここ数年そういう趣味の女がいるとは聞いていたが、男同士の恋愛小説など何が面白いのだ?」


 ディーのその意見にジャスティーンも同意したかったが、そこまで否定しなくてもいいのでは?と思う自分もいて、今はそんなことどうでもいいかと思い直し、ここはぐっと堪えてなんて言い訳しようかな~と目を泳がせた。


「私...幼少時より父や兄それに家に仕えている者達以外で異性と話す機会もなく、そのまま側室として後宮へ入り、唯一の男性である陛下の訪問が一度もない私が男性の勉強という意味も含めて読み始めました...読んでみると男性同士の純愛に私もこのような恋がしたいと常々妄想しております」


 頬を染め潤んだ瞳でディーを見つめるジャスティーンにディーはこんな窮屈な箱庭に集められ、王から愛されるのを待つだけの女達...確かにこういった話でも空想して寂しさを紛らわす者がいてもおかしくない。

 それが目の前にいる側室だったというだけのことか...と、ディーはジャスティーンの苦しい言い訳を信じた。


「こんな場所にいればそう嗜好に走る女がいてもおかしくないか...暗闇だがざっと見たところ一番怪しいのは...」


 怪しいのは?とジャスティーンが息をのんだ。

 ディーは衣装棚の横にある化粧台の前で立ち止り鏡や壁をコンコンと手で叩いて音を聴き比べているようだ。

 推理小説とかで読んだことある。

 隠し部屋や隠し通路に繋がる扉を探したりするときに音の違いを聞いて探し出したりするアレかもしれない。

 ディーは唸りジャスティーンは違うことを考えていた。

 そう特殊な鏡の存在を...明るい環境では鏡にしか見えないが、その特殊な鏡をはさんで暗い側から見ると、鏡の向こう側を鏡ごしに見ることが出来る。

 それは高価な物で早々手に入らない。

 しかしここは後宮だ。

 そういう仕掛けが施されていても驚かないしむしろ納得する。


「違和感はあるが...確信はない」


 ディーは何度もコンコンと叩き確認するが、今まで見つけてきた隠し扉や通路と違い、わからないように作られている可能性も捨てきれなかった。

 何故ならここは城の中で次代の王になる子供が産まれるのだから、現国王のように慎重に正妃を選ぶ者としては側室の内部情報は欲しいものだ。

 それにしてもジャスティーン・ハイド...王の訪問もなく6年間ずっとこの部屋に居続けた女。

 アナの情報によると誰とでも話を合わせられ、嫌味を言われてもずっと笑ってやり過ごすという。

 基本ディーは女を信じていない。

 ジャスティーンがディーの事を外部の人間に情報を流したところでジャスティーン自身大した人脈もいない。

 この小さな部屋にいるだけの令嬢に何ができるというのだ?

 専属の侍女もいないこの女に...しばらく新人教育としてカピを見張り役として監視させてみるか。

 考えがまとまるとディーはナイフを手に持ちジャスティーンに近づいた。

 それを見たジャスティーンは目を見開き殺される!?と咄嗟に本を盾に身構えた。


「そう怯えられると期待に応えたい気分になる。しかし俺はこんな仕事をしているが自分の言ったことは曲げない。お嬢さんが俺との約束を守るなら殺すことはない。出来るか?」


 コクコクと頷きディーはナイフをジャスティーンに向け「目を瞑って10秒数えろ」それだけいうとジャスティーンはディーの指示に従い目を瞑り10秒数えた後瞼を開いて部屋の中を見渡した。

 侵入してきた男の気配はがない?と判断したジャスティーンは気が抜けたのか椅子から床に転げ落ち毛足の長い絨毯に寝転がり盛大にため息を吐いた。


「何とか生き延びた...」


 それだけ呟きジャスティーンはベッドへもぐり体を丸めそれでも体の震えが止まることはなく明け方までエドワルドにどう伝えようか考えていた。






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