九回目
1日目【サトウ】
彼女に抱えられたままカガリビ家の訓練場に連れて行かれた。
八千年続く魔導士の大家の一つカガリビ家。それが彼女が当主を務める家であり、このオウ国を他国より劣る戦力ながら守り続けた切り札の一つである。
その屋敷は大学に匹敵する大きさで、殿が居た城同様過剰に大きくしすぎな印象も受ける。
ただ、それだけあって訓練場もかなりの広さがあり、森や川に山といった様々な環境の揃えられたスペシャルなものであった。
「さぁ、着きました」
実際にはどれくらいの時間が掛ったのかは分からないが、俺にはそれがまるで無限の様に感じられていた。
道中かなり恥ずかしかったのだ。聞けば初めて飛ぶ俺の為に、かなりゆっくり進んでくれたそうだったが、そのせいで下に居る人からは指を指されるわ、笑われるわで後半はずっと手で顔を覆っていた。
それが恐怖からくるものだと感じて、さらに速度を緩めてくれた優しさが痛かった。その様子を見てまた笑う人々。
守る気失せる。
「では、今の術を覚えて頂きましょう。移動は早いに越した事はないですから。戦うにしても逃げるにしてもです」
「戦うの?」
「すぐにとは言いません。サトウ様が戦えるだけの力をつけるまで、このカガリビが命を掛けてお守りします」
情けないやら、恥ずかしいやらで俺はただ苦笑いを浮かべていた。それから、戦わないという選択肢が無い事も分からされた。
「さぁ、練習を始めましょう。まずは目を閉じて、周囲に無数に存在している精霊を感じてください」
言われるままに目を閉じる。とりあえず、やってだめならそれでしょうがない。戦えない情けない異界人さんとして生きるのも悪くないだろう。何より戦いたくない。
「……うわぁ。なんかいっぱい居る」
感じてしまった。目を閉じて少し集中するだけで、周囲を無数に飛び交う光の粒。赤、青、黄、緑。それらが一定の速度で流れたり、急に方向転換をしたりまるで生きている様な動きを見せている。
「……さすがです。精霊を感じるのが最初の大きな壁のはずですけど」
「あっ」
四色の粒の中の、赤だけが一か所に集まっていく。
目を開けると、光が収束していた辺りにカガリビが右手を差し出していた。
「私が精霊に呼び掛けています。ただ、集まるようしただけなので何の力も出ませんが」
カガリビの手の上で小さな火の玉が一瞬生まれて、消えた。
「このように精霊に働きかける事で火をおこす事もできます。さぁ」
なにか初級をぶっ飛ばしている気がしたが、促されるままやってみる。