八回目
自分達とそう変わらない歳であろう彼女達が、他国からこの国を守ってきたとは、にわかには信じられない。
いや、信じられなかった。
彼女が来るなり、大岩を粉砕したのを見てそんな考えは吹き飛んだ。岩同様に跡形もなく。
「大魔導士さまともなれば、どれ程の力をお持ちか。私程度の頭ではとても量る事はできません。だから……」
彼女の髪が淡く光った。まぶしくは感じない程度の赤い光。それが長い髪の根元から先までを包む。
大岩を壊した時と一緒だ。そう思って俺は全力で彼女から離れる。
「人のめったに来ない山を知っています。そこで練習しましょう」
彼女が俺の手を掴む。ドキッとしてすぐ、ギョッとした。
彼女は空を飛んでいて、俺を引っ張り上げていた。
「浮いてる。……浮いている!」
初めて水に入った子犬の様な動きで暴れる。それでも体は浮かびもしないし沈みもしなかった。
「慣れるまでは私が制御しますから。力を抜いて下さい」
二度か、三度。彼女がその言葉を繰り返してやっと声が耳に届いた。
「おぉ。おぉう。……落ちない」
「はい、簡単な術です。それだけに術者の差が顕著に出ます」
「……簡単」
「えぇ、すぐに大魔導士さまもお使いになれるでしょう」
信じられない。「術」がじゃない。「術」があるのはもう分かった。実際に体感する事でこれは手品なんかの類じゃない。全身で感じるこの不思議な力は、少なくとも俺が知っている感覚とは全く異なるものだった。体の内側を持ちあげられている様なコレはあまり心地よいものではない。
その不思議な力を俺が使えるようになる事が信じられない。ただの大学生である俺が、空を飛べるか。普通に考えたら飛べるはずが無い。信じられない。だが、全部を否定できないのも確かだった。現に飛んでいるし、髪の色は変わっているし、視力も回復しているらしい。
「俺も飛べるようになるの」
「えぇ」
彼女が笑った。かわいい。
「本当に?」
少しだけ、彼女が笑ってくれるのを期待して聞いた。
「誰よりも速く、高く飛べるようになれます。絶対です」
かわいい。