三回目
ついている。
俺、スズキは非常についております。
すぐ前には美少女。
周りは全く知らない不思議な世界。
これ、完全に勝ち組。
負ける要素が見当たらない。どこにも、微塵も。
昨日からの扱いを見るに、悪い様にはされなそうだ。
与えられた部屋もかなり高いランクと見受けられる。少なくとも、そこらの学生にはとてもじゃないがもったいない。
高そうな壺だか花瓶だかわからないモノがちらほら。
戦国大名あたりの部屋の様な、飾りがびっしりの襖。
ピカピカに光るタンスは、角に金属を使った飾り付けがされていて、転んで頭を打てば多分死ぬ。
この状況から考えるに、よくある異世界に呼ばれた救世主的なポジションだろうか。
だが、出来る事なら命を掛けた戦いなんかはしたくないので軍師的な立ち位置を狙っていきたい。
そうなると、寡黙な感じを出した方が良いだろうか。
あとは意味深な言葉を言い続けて伏線を張りまくるか。
「スズキ様。早く行かないと食事が冷めてしまいます」
美少女が控えめに主張している。
「……あぁ、ごめん」
いけない。
「すまない」
眼鏡のクイっと上げて恰好をつけてクールっぷりをアピール。
「あれ」
眼鏡が無かった。
裸眼の視力は自慢だが、0.01ない。
朝起きた時は必ず「メガネ、メガネ」状態になる。
だが、今は間違いなく眼鏡をつけていない。耳の周りを指でなぞっても、動きを妨げるものは無い。
顔を洗う様に、両手で顔を覆ってみても直接、顔と手が触れるだけだった。
「御顔を洗われたいので?」
また控えめに美少女が言う。かわいい。
「……これ完全に異世界モノだわ」
「え?」
「なんでもない、なんでもない。さぁ、ご飯に行こう」
おっと。
「……フッ。行こうか」
視力は回復するわ、髪は青くなるわ、なんとも俺向きなトンデモ世界だ。
退屈な日常。大学受験をして、何度か人生を左右するテストを受けて、就職する。
それから少なく見積もっても四十年は働いた後に、良くて二十年を趣味に生きる。
非常に辛い道のりである。
不真面目、適当をモットーに生きていきたい俺には辛すぎる。
この状況はあまりに魅力的。もう本当、この世界の子になる。決めた。