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素人大魔導士  作者: カジ
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二回目

 サトウの朝は早い。

 

 六時前には起き、スマートフォンで熱心にアンテナサイトを巡回する。

 

 海外サッカーの速報や、くだらないネタスレ、ニューススレに目を通し七時半まで布団の中で忙しく過ごす。

 

 それから母親の入れた紅茶をストレートで飲んだ後、ラジオをつけるのだ。

 

 ニッポン放送のハッピーモーニングを聞きながら素早く着替え、パーソナリティの「いってらっしゃ~い」に合わせて家を出るのが日課だった。

 

 だが、今日のスマートフォンはネットに繋がってはくれない。

 

 無情なアンテナ0本はどんなに動かしても電波を掴む様子は無い。

 

 「電波は縦に動かした方がキャッチしやすいんだっけ」

 

 テレビで知った豆知識を試すべく左右の動きを上下へ変える。下は床にぴったりと、上は目一杯背伸びをしてみた。

 

 「おはようございます」

 

 女が静かにふすまを開けて頭を下げていた。

 

 「……あら、どこかお体の調子でも悪いのでしょうか」

 

 限界まで体をまっすぐに伸ばした姿を見ると、女が心配そうな顔をして言った。

 

 『メイド』というよりは『侍女』という感じだろうか。

 

 なんとかカフェ、みたいな名前の店で出てきそうな和装の女は、俺より少し若く見える。

 

 地味ながら決して整っていないわけではない顔は、密かに人気の出そうな素朴な魅力を持っている。

 

 きっと良い子だ。お年寄りに席を譲ったり、レシートをしっかり渡してくれるタイプの子だ。

 

 全く根拠はないが、そう思った。

 

 「いや、何でもないです。ははっ」

 

 スマートフォンをポケットにしまい寝ぐせでボサボサの頭を掻く。

 

 「あら大変。綺麗な御髪が台無しです」

 

 女がスッと部屋の中に入ると棚から櫛を取り出した。

 

 「お座り下さいな」

 

 ポンと床を優しく叩く。

 

 「さぁ」

 

 「え? え?」

 

 「さぁさ。ここにお座り下さい」

 

 「本当、綺麗な髪です」

 

 半ば無理やり、そこに座らせるとやさしい手つきで髪をとかしはじめた。

 

 リアルが充実した事のない俺の髪を女性がとかしている。嬉しいやら気恥しいやらで、どんどん顔が熱を持っていった。

 

 顔が熱い、耳が熱い、目が熱い。

 

 なんとかしなければ

 

 頭の中でこれまで覚えた数式やら、部屋の中にあるヘンテコな和風の調度品に対する賛辞の言葉を考えたりして必死にクールダウンを図る。

 

 「こんなに美しい赤は初めて見ます」

 

 女は何気なく、そう言ったのだろう。だが、それを聞いて一気に熱は引いた。

 

 「赤い? 髪の毛」

 

 どうしてそんな事を言うのか。女はそんな様子で少し間を開けてから答えた。

 

 「えぇ、とても美しい赤です。綺麗な四色。四色の赤」

 

 この21世紀に電波も入らない、和服の人間が歩きまわる見知らぬ土地に来てしまった。全く、困った事に不思議な事件にでも巻き込まれてしまったか、なんて思っていた。

 

 だが、そうじゃない。それだけじゃない。

 

 スズキもタカハシもタナカも、俺も、おかしな髪の色をしてた。

 

 学校を出る時まで、全員真っ黒だった髪が、辺り一面見渡す限りが平原のあの場所に居た時には青や黄や緑。

 

 周りだけじゃない、自分達もおかしくなっている。

 

 気づかない様に、触れない様にしていた事が改めて頭に浮かぶと、どうしようもなく不安になってきた。

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