十六回目
5日目【サトウ】続き
くだらない理由で始まった喧嘩だった。
俺も負けてない、俺の方が優れている、お前の方が劣っている、お前の師匠が良くない。
誰から言いだしたのか、もう覚えていない。
ただ、カガリビを悪く言われたところで引けなくなった。きっと俺も誰かの悪口を言っただろう。言われた誰かも引けなくなった。
ならばと術で勝負する事になった。自分が優れている事を、何よりカガリビが優れている事を証明するためだった。
光の粒子を使った手品みたいな術では勝負はつかない。
他に使えるのは四人ともが覚えたばかりの『飛行』だけ。勝負の内容はすぐに決まった。
それから三人はすぐに自室へ帰って行った。俺も万全の為と横になったが、腹が立って中々寝付けない。仕方なく布団の中で何度も『飛行』に必要な手順をイメージして眠るのを待った。
勝負の始まりは悪くなかった。スムーズに、練習よりもずっと上手に空へ上がり、駆けた。
横一線で並ぶ他の三人に意識は割けない。ただ、落ちない様に、止まらない様に「飛べ」と「進め」を全身を覆う粒子に命令し続ける。
止まったのは突然、全員同時だった。
【飛行】を獲得。
電車の窓から顔を出した様な風切り音で周囲の音は、ほとんど拾えない。
そんな中で、何にも遮られないような声が聞こえた。その無機質さは声というより音という方が近いかもしれない。
ただ、何かが発した、『【飛行】を獲得』という音は四人の動きをぴたりと止めた。
「……何か言ったか? いや、言ってないよな」
隣で驚いた顔を隠せないスズキに聞く。
言ったわけがない。あんな音を人間が発せられるわけがない。俺は口にしてすぐに首を振った。
返事は無く、同じようにスズキも首を横に振るだけだった。その動きに力は無い。
全員分かっていた。それが人の声とはまるで違う事。耳から入ってきた声でない事。まるで頭の中に直接響く音である事。
誰からか、ゆっくりと高度を下げると残りの三人も続く。
あぁ、おかしい。
地面に足がつく少し前に感じた違和感。今の俺は全く集中できていない。飛行を制御するのに必要な事が全くできていない。当然の様に降りているが、粒子に高度を落とす様に命令していない。
ただ、降りようと思っただけ。だが、結果として他人の体を動かす様なわずらわしさは消え、持って生まれた自分の体を動かすような感覚のまま地面に降りた。