十五回目
5日目【サトウ】
朝食を終えると、真っすぐに外へ向かう。
すぐ後ろには三人が静かに着いてくる。横に並ばずに、少し間隔を空けた縦の列。
過度に大きな城を出るまでに数分間はあるが、道中は無言。誰も口を開かない。
大学で出会って半年、ここに来てからの数日。今ほど重い雰囲気になった事はない。
「本当にやるんですか?」
目指していた中庭に着くと、カガリビが不安そうに言う。
自分達が食事を終えて部屋を出る時に、まだ彼女は中に居た。なのに先に中庭について待っている事に不自然さを覚えたが特に何も言わなかった。
何かの術でも使ったんだろう。良く周りを見れば他の三人の魔導士達も、やれやれと言った顔で弟子の大魔導士達を見ていた。
「当然。誰が最強か決める。決めなきゃいけないんだ」
昨晩、駄弁っている時に喧嘩になった。それを解決するのはこうするしかない。自分が、カガリビがすごいって事を証明しないといけない。
「皆さんが優れている、ではだめなんですか?」
「だめだよ」
そう言って俺は、一気に『飛行』する。覚えたばかりで落ちないか不安な術だったが、そんな様子は見せない。
この位は当然と、練習中よりもスピードを出して高度を上げる。正直怖くてしょうがない。
だが、すぐに三人も負けていないスピードで横に並んだので、キッと口を閉じて顔を作る。
「サッサと始めようぜ」
「すぐに終わらせてやるよ」
「ふん」
みんなやる気満々でだった。俺も昨日の事で頭に来ているので「言ってろ」と肩をすくめて見せた。
「……はい、じゃあこの玉が弾けたら開始です」
ため息混じりのカガリビが一瞬で横に並んだ。そして、小さく手のひらを上に向けると四人の前に赤い光球が出現する。
「ここから真っすぐ二里半行ったところでお待ちしてます。それで良いですね」
四人が黙って頷く。それを見て「行きますよー」とカガリビが開いた手を握ると光球が弾ける。
飛べ、飛べ、飛べ、飛べ。
頭の中で何度も念じる。体は一気に前に進んでいき、すぐに目を開けているのも厳しいくらい風の抵抗を感じる。
それでも、速度は緩めない。体を覆う光の粒子もどんどん発する光を強くしていく。
前には誰もいない、横一線。全員がそれぞれ、異なる色の光を発している。
「グウウゥッ!」
息が苦しい。顔が痛い。寒い。
それでも、もっと速くと念じ続ける。誰かが抜け出すことは無く、遅れる事も無い。
だが、この体を張ったレースは予想外の事象で終わる。全員同時に、戦意が綺麗に消えてしまった。
【飛行】を獲得。
頭の中におかしな声が響く。