十四回目
4日目【タナカ】
腑に落ちぬ。解せぬ。納得いかぬ。
それって『大魔導士』としてどうなのだろうか。
3日目の夜。4人がそれぞれの修行(と言って良いものか)を終えて戻ると自然とサトウの部屋に集まった。
サトウに術の基礎の基礎であるらしい粒子の扱い方のコツを教わってから、その日新たに知った知識を共有する様にしていた。
情報不足で危険な目に会ったり、命を落とす事の無いようにと皆が思っていて、少しでもそれを防ぐための場だった。
誰かが発言する時、他は静かにそれを聞き入る。何か補足があれば付け加え、異なった解釈のできる情報があれば必ず伝える。
特に誰かが言ったわけではないが、それがルールの様な空気になっている。知り得る情報が出尽くすまでは、誰も無駄話をしようとしない。
命が掛っているという事を全員が理解している。スズキは大魔導士会議などと大層な名前を勝手に付けていたが、話している内容は恐らく魔導士が聞けば本当に程度の低いものだろう。
昨日の大魔導士会議で聞いた話し。人間と精霊は異なる次元に存在している。魔導士は別次元の精霊を認識する事が出来る。
その力を行使するには儀式が必要になる。そうしなければ、精霊に人間の意志を伝える事が出来ない。
ごく少ない例外として、簡単な移動や小さな力の顕現であれば念じるだけで可能。それが初日の修行でやった粒子の移動だそうだ。
そこまでは分かった。当然納得もできる。実際に、何もないはずの俺の手に石ころが生まれたからな。
俺が納得いかないのは儀式についてだった。
高度な術を使うためにはより細かく精霊を意思の疎通を行う事が必要。そして、人間は儀式を通して意思を伝える技術を磨いて来たという。
マツカゼの家系は『陣』
カガリビの家系は『唱』
ユウギリの家系は『印』
三人はそう言っていた。
あれ、俺はそれ聞いていないな。明日聞いてみよう。そんな風に思っていた。
俺は4日目の訓練を始めようと、ヨモギウの屋敷に着くなり昨晩から抱えていた疑問をぶつけてみる。
出来るならばカッコ良いものであって欲しい。なんて楽観的に考えていた自分が今は憎い。
「無いですよ?」
絶句であった。俺の中の魔法使い像が崩れるのと一緒に、高度な術を使えない、つまり死にやすい大魔導士なのだろうかとも不安になった。
あまりのショックで、大魔導士会議で三人が嬉しそうに語る儀式の話しがフラッシュバックする。
「ヨモギウの術には儀式は不要なので。地の精霊は他の属性の精霊と比べ、複雑な事はあまり得意じゃありませんし」
またまたご冗談を。俺は苦笑して、首を前に出すように頷いて見せる。
「ほとんど他の属性を扱わないヨモギウは、儀式と言われる程のものは無いですね。まぁ、それに近いモノはありますけど、三家の様に代表的なモノはありません」
「なら、俺はどうやって戦うんだ? 君たちは、殿は俺にも戦って欲しいんだろ?」
駄々をこねたい俺に、ヨモギウが近づき手を取った。
「これです」
俺の手をギュッと締め、拳を作らせる。柔らかいが、力強かった。
「ヨモギウは戦う魔導士。術を用いて、力で敵を倒します」
そうして、俺の手を離すと十歩位後ろに歩く。
「大丈夫。決して、儀式が無いから戦えないという事はございません」
トン、とヨモギウの右足が地面にぶつけられる。地面に小さなクレーターが出来る。
「腑に落ちた!」
目玉が落ちそうだった。