十三回目
3日目【タカハシ】続き
「ねぇ、マツカゼ……さん」
「……なんでしょう?」
何度も「さん」はいらないと言われても、俺が一向に慣れないので少しの思案の後に訂正は諦めた様だった。
「どう使うの? 杖」
「あ、あぁ。そうですよね。ご存知ないですよね。うん」
マツカゼさんは顔を真っ赤にして「やだ、もう」とか「恥ずかしい」と言って頭を抱えている。
俺も人間だ。大魔導士だともてはやされ、最大級の待遇を受けてもそれは変わらない。
良く知りもしないのに適当に話を合わせた申し訳なさは当然ある。非常に心が痛い。
だが、この何とも言えない愛おしい生き物を見れた喜びの方が圧倒的に大きい。
「……良い」
心の声が漏れた。
「えー、術にはいくつか体系があります。それは精霊の力を行使できない人間が、儀式を行う事でそれを可能とするために生まれたと言われています。体系の違いは儀式の違い。とりあえずそう覚えて頂ければ良いかと」
急にマツカゼさんができる女然とした口調に変わる。さっきまで恥ずかしさでキャーキャー言っていたとは思えない。
「へぇ、例外は無い?」
「知りません」
あまりに気持ちの良い回答に俺は何も言えなかった。
「あ、何も私が不勉強だから知らないわけじゃないですよ。術に関する事は知識は秘匿されてますので」
これはマズイ、そう思ったのであろうマツカゼさんが力強く付けくわえた。
「でも、俺達に色々教えてくれてるじゃない」
「大魔導士様ですから。国を救う英雄。人よりも精霊に近い存在。信じられない訳がありません。それに皆さんに力を、術を身につけて頂く事が民や国のためなんです」
「端的に言えば、裏切らないから教えるって事かな?」
「大分違う気もしますけど、それは当然あります。敵や、そうなるかもしれない存在を強くする必要なんてないですから」
「確かに。だから、他国の技術なんかは知らなくて当然って事だね」
「そうです! だから、知らない事は何も、微塵も、全く恥ずべきことではないのです。なぜなら仕方のない事ですので」
「……おぉん」
「それどころか、同じ国の魔導士にも教えませんから。だから、私がある程度知っているのはマツカゼを除けば他の三家くらいですよ」
そこまで秘密主義なのか。
うーん、大分効率が悪そうだ。同じ結果を得るためでも、そこに至る方法がいっぱいあるって事だろ。しかも、それを教えてくれる人がいなければゼロから自分で探して行くしかない。
最善の一つなり二つを技術として確立して、先人達に追いつきやすい環境を用意してやる方が良いんじゃないか。
と、思ったけどそうならないのはあれだな、彼女がきっとこの世界は裏切りで酷い目にあって来たんだろう。
苦労して生みだしたり、代々受け継いできた技術が自分達に向けられて火を噴くだなんて堪ったものじゃない。それならば、大人数で進歩させるよりも効率の面で劣るが、今のスタイルを選んだ。そんな感じだろうか。
「話しがずれました」
オッホンとマツカゼさんの咳払いが響く。
「我がマツカゼの術は陣を用いるのです。杖にて陣を描いて精霊と意思の疎通をし力を発揮します」
「あぁ、魔法陣」
熱くなったマツカゼさんは俺の言葉に全く反応を示さず話を続ける。
「そして、陣は何で描くかによって精霊との接点は大きく変わるのです!」