十二回目
3日目【タカハシ】
「『飛行』が出来る様になったら素敵な贈り物がありますよ。頑張ってください!」
マツカゼが訓練場として使っている屋敷の庭でにっこりと笑う。
それを見ると、この訳のわからない修行?にもやる気が出てくる。
実際、昨日と一昨日を頑張り抜けたのは彼女がそこに居たからに尽きる。一人なら絶対適当に時間をつぶして帰ってただろうし。
「贈り物? 何かな、すごく気になるよ」
イメージするのは、異性に人気があるのにそれに無自覚な美男子。
昔から、平然と女性と会話も出来て充実した毎日を送っていたが、それが普通だと思っている。
そんな設定。正直きっつい。
かなり声が上ずっていたが、マツカゼは「どうしましょうか。秘密の方がやる気が出てきませんか?」と乗り気だった。
「分かってた方が、むしろやる気が出てくると思うな。ね?」
苦しい。慣れないこのやり取りは確実に命を削っている。全身から火を噴きそうだ。
「んー。……杖です」
「え、杖?」
答えたのは素の俺。生まれてからこれまで彼女はおろか、友達と言える異性の居ない俺だった。
「その辺の杖とはまるで違いますよ。オウ国で一番の職人が最高の材料で作った一品」
なんだかすごいのか良く分からないが、マツカゼは胸を張って見せている。
俺がなんと言っていいのか分からずに「お、おぉん」とだけ答えて黙っていると、彼女の顔はどんどん不安の色に染まっていく。
「っそ、そんなにすごそうなものを!?」
マツカゼの顔がパッと明るくなった。
「ふふっ、実はそれよりもさらにすごいもの。マツカゼ家に代々伝わってきた、初代マツカゼその人が振るったとされる杖なのです」
「なんだって!」
良く分からない。良く分からないが、驚くのが正解だった様だ。マツカゼの顔には「もっと食いついて」と書いてある。
「そんな素晴らしい伝説級の杖を俺に? 俺みたいな素人にとても扱えない、過ぎた杖なんじゃ」
そもそも、杖を何に使うんだろう。テンプレの魔法使いみたいに振り回して魔法を扱うんだろうか?