十一回目
2日目【スズキ】
「……やはり天才」
ユウギリは驚いた様子だった。
俺も驚いた。だってそうだろう、昨日一日掛けて出来なかった事がいきなりうまくいったんだから。
そりゃあ驚くよ、うん。
「冷たい」
手の平に乗っている小さな氷。体温でどんどん溶けて小さくなっているがまぎれもなく、氷である。
そもそも、何もないところから氷を生み出すなんて手品みたいな事が実際に出来るとは思っていなかった。
ただ、薄目で様子をうかがうとユウギリが瞬きも忘れた様にこちらを見ているものだから辞められなかった。
辛い一日だった、本当に。今は、この冷たさが心地よい。
ひらすら直立不動。延々と「凍れ、凍れ」と虚空に向かって念じ続ける時間。なんと不毛であった事か。
ユウギリに言われるがまま目を閉じ、周囲に光の粒子が見えた時は「異界ありがとう!」って思ったんだけどな。
そこから先はウンともスンとも動かなかった。
もしかして俺は凡人なのか? 伝説の、待望されしこのスズキが? 初日のレッスン1で早くも脱落するのか?
そうやって自分に発破を掛けても氷の一かけらも出来ないし、水の一滴も出やしなかった。
見かねて何度もお手本を見せてくれるユウギリ。それを真似ようと、青い粒子を手に集めようとしても全く動きやしない。
おい、どうなってんだ異界。そっちがそう来るならあれだぞ、帰るぞ。
初日のなんだかんだで、もうこっちの気持ちは勇者だ賢者だってなってるんだ。今さら村人でしたは詐欺だよ本当。
日が沈む少し前、怒りと悲しみの混ざり合った気持ちで帰路に着く。
一番効いたのは「いきなり精霊を感じられるだけで十分です。私は二週間は掛りました」と励ましてくれたユウギリの優しさだった。
間違いなく、大魔導士スズキに期待してた。無理かもとか思いながら、大魔導士様ならもしかして。そんな気持ちが絶対あったと思う。
城に戻ってから俺の行動は早かった。
この気持ちを共有すべく三人が戻ったか家老に聞くと、どうやらサトウが火を起こす事に成功したらしいと言っていた。
俺は走った。サトウの部屋に。
「サトエモン!」
俺はサトウが振り向くのよりも速く、腰より下にタックルした。
そうして暴れるサトウに対し、解放する代わりにと提示した条件。術?のコツを教えてもらったのだ。
ありがとうサトウ。ありがとう異界。
俺は今、非常に気持ち良くなっている。