十回目
1日目【サトウ】続き
意識したのは右手の上に赤の粒子を集める事。最初は、どんなに念じても一つの粒子も動きは見せない。変わらずにフワフワ空中を漂うだけだった。
その後も長い事試していたが全くだめだった。一向に粒子は動こうとしない。俺は諦めて一番近い、一つに絞って同じように念じる。
「んー、動いた……か?」
狙いを絞ってしばらく唸っていたところ、僅かに粒子が動いた様に見える。
もう一度、強く念じる。すると狙いの粒子はスッ、スッと動いては止まり、また動いては止まる。それを何度か繰り返し俺の手のひらまで到達した。
なんとなくコツが分かったか。いや、コツというより、動かせる適正な量ってところだろうか。
一つできたら、あとはそれを繰り返す。すぐに拳よりも一回り小さい位まで集まった。
だが、先ほどのカガリビと比べ少し小さい位まで粒子を集めても燃える気配がない。それどころか、少しの熱も感じない。きっと何かが足りないのだろう。
「今度は『燃えろ』と念じて」
カガリビの声が聞こえる。ずっと目を閉じていたので気付かなかったが、そばに居るらしい。人に術を教えるのも大変だろうな。
「燃えろ」
粒子の塊りに変化はない。スーッと息を大きく吸って何度も唱える。
「燃えろ、燃えろ、燃えろ」
それでも何も変わらない。
息を吐いて考える。きっとこれも、今の俺には無理な事なんだろう。
「熱くなれ」
それならと、今度は「燃える」よりは簡単そうな事に置き換えてみる。
ほんの少し、粒子の塊りが熱を持った様な気がする。
これだ。俺は一気に同じ言葉を繰り返す。
塊りがどんどん熱を持つ。
熱い! これはもう手を離した方が良いんじゃないか。
ボッっと、コンロの火が消える様な音がする。
「うおっ」
俺は驚いて尻もちをついていた。
小さな火の玉が出て消えた事よりも、体の痛みに意識が向かう。
「お見事です」
カガリビが「よいしょ」と俺を引き起こしてくれた。柔らかい。
「大魔導士さまのお力がこれ程までとは思いませんでした。私の時は一カ月は掛りましたよ」
興奮した様子で掴んだ手をブンブンと振り回す。意外と年齢より幼い事をするんだな。大家の当代なんて聞いていたから淑女って感じかと思っていた。
気付けばもう辺りは真っ暗になっている。
いったい俺は何時間目を閉じてぶつぶつ独り言を唱えていたんだろうか。