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その季節  作者: あかあかや
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沖縄本島

 最大50mの高さに達した巨大津波で東シナ海沿岸が壊滅し、1億人が死亡した大惨事から1週間が経った。立て続けに起きた大災害のために、日本の被害状況もいまだに判明していない。その日本には再び巨大台風が襲来していた。経済大国の中国も、この南部沿岸全域を壊滅させた巨大津波の影響で、物流が大混乱を期していた。


 ナンは、岩盤がむき出しになり、植物も生えていない荒れ果てた沖縄本島の丘に立っていた。津波の直撃を受けて、海抜100m以下の全ての建物は、ことごとく洗い流されて消え去り、鉄筋の高層ビルも外壁がほとんど全て引き剥がされて、鉄骨だけになっている。それよりも標高の高い場所では、建物も残っていたが、大量の潮を浴びているので、あらゆる植物が茶色く変色して潮焼けし、枯れていた。水も電気も供給されなくなり、救援の手も差し伸べられていないように見える。沖縄は食料のほとんどを県外に依存しているので、食糧や飲料水の不足はかなり深刻になるだろう。生き残った少数の人達が暖をとるための焚き火の煙が、狼煙のように点々と丘の上から立ち昇っている。そろそろ夕暮れが深まってきており、沖縄独特の鮮烈な夕焼け空が空いっぱいに広がり始めていた。沖縄本島から生じる上昇気流の気まぐれなのか、天頂方向に南北に細長い蛇のような雲が2本発生し、真っ赤に染まる夕焼け空の中で互いに絡まっている。


 その儚げに立ち昇る煙の数を数え終わると、ナンが、手に持った大量の手紙を読み始めた。時々、新たな手紙が空から現れて彼の手に渡っていく。手に取った瞬間に手紙の内容がおおよそ分かるようで、苦笑しているナン。

「いつもは忘れ去られているが、さすがにこの段階まで来ると注目されるようになるものだな。しかし、元世界を守ろうという依頼は皆無か」

 手紙の総数が100通を超えたので、結合させて1枚の手紙に変換し、それを縮小させる。

「ほぼ毎週発生している、巨大台風の風の精霊場採集の依頼が多いな。これは津波の水の精霊場採集の問い合わせか」

 ナンが、岩盤がむき出しになった地面を見る。そのまま地下の地殻の状態を調べているようだ。しかし、首を振った。

「確かに、これほどの風と水の精霊場であれば、かなり強力な魔法に加工できるだろうな。残念だが本震は終了して、残るは余震ばかりだが。しかし」

 そうつぶやいて、ナンが海面を見下ろした。今は穏やかな波を立てている。泥色ではあるが。

「これほど強力だと分かっていれば良いのだが。でなければ、300万年前と同じだな。しかも」

 と、目を転じると、避難していた人達が死んでいるのが丘の上に見られた。その数、数百人を超えるだろうか。突然の呼吸困難が原因のようだ。

「今度の疫病の変異体は強力そうだ」

 そこへ依頼が空からまた現れて、坊主の手に落ちる。

「この疫病サンプルが欲しい、か。やれやれ」


 いつの間にか、ナンの周辺に10名の魔法使い達が現れていた。博士の服装と異なり、軍服のようにも見えるが、全身黒づくめでフードをかぶって顔を隠し、大きなマントで体全体も隠している。当然顔の表情も見えず、体型すらもマントのせいで分からない。さらに体の周辺に魔法障壁を展開しているので、体の輪郭すらにじんではっきりと見えない。太陽を背にしている者はうっすらと透けてすらいる。何かの人形の影がそのまま立体化しているような印象である。これには訳があり、個人情報を極力見せないことで敵の魔法の効果を削ぐためである。つまり、ナンを味方とは認識していないということでもあった。ただ、現状では敵でもない。

 その部隊の隊長らしき魔法使いが1歩進み出て、合掌し礼をした。ナンを仏教徒とでも勘違いしているのだろうか。一方のナンも別に気にしていない風である。

「御坊、依頼は後回しにしてくれ。ちょっとした騒動が対岸で起こった」

 部隊長の声は加工が施されていて、器械合成のような響きである。ナンがため息をついた。

「世俗の依頼かね。気が進まないな」

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