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地獄門  作者: 司馬水鏡
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地獄門

 そこは真っ暗な空間だったから、道など存在するはずもない。時間が流れているのかさえ解らない。しかし老婆はそんなことを気にする様子もなくランプで周りを照らしながら進んでゆく。

「ああ、見えた。もうすぐだねぇ」

 老婆が指差す先には、大きな篝火のようなものが見えた。この空間で言えばだいぶ明るい。はっきりとそこには何かあるとわかる。

「そこには何があるんだ?」

「門だよ」

「門?」

「まぁ着けばわかるよ」

 篝火の方向に真っ直ぐ進んでいくと、確かに巨大な門が近づいてくるのが分かる。それにしても何と禍々しい門なんだ。近づくたびに背中を刺すような嫌な悪寒がするのである。これがきっと地獄への門、地獄門なのだ。

 男と老婆が地獄門へ辿りつくと老婆が言った。

「ここからから先はあんたの仕事さね」

「へ? だって地獄を案内してくれるんじゃ……」

「残念だけど、あたしゃここから先は行けないんだよ。ここからはあんたが決めることだ。生きるか、それとも死ぬか」

 男はなんとも騙された気分になった。それに、目の前に立ちはだかる巨大な門には人の不安を増長させる邪気があり、容易には踏み込むことが出来ない。

「本当にこの先は地獄なんだな」

「あたしゃ嘘は言わないよ」

「家族に会えるんだな?」

「ゼロとは言わない。ただ、一生あんたの魂は地獄を彷徨うことになるかもしれないがね……」

「知らない世界を旅してみるのも悪くないかもしれない。それにまだローン払いきってないし、娘の顔もまだ見てたいんでね。ありがとう婆さん。無事に帰ったら、老人を大切にすることにするよ」

「ああ、そうしておくれ。気を付けるんだよ」

 老婆の顔が緩み優しい表情になる。男はそれに勇気付けられ、重苦しい前足を一歩門へ向けた。

 男が門へ立つと、巨大な門は厳めしい音を立てて開く。そして影の塊のようなものに吸い込まれて行った。一人の男が地獄へ落ちたのだった。

 


 ああ、痛い。どうやら尻餅をついてしまったようだ。果たしてちゃんと地獄に着いたのだろうか。男は周りを見渡した。すると遠くの方に天を貫かんばかりの鉄塔が見える。あれが婆さんの言っていた獄門塔であったか。あの頂点に自分の目指すべき場所がある。しかしあまりにも塔は高い。この地獄に空があるのかどうかは不明だが、空よりも高そうなあの鉄塔の天辺を目指すなど途方もないことである。男は嘆いたが、そればかりでは目的は達せられない。とにかく進んだ、塔のほうへ。

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