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考えろよ。  作者: 回収屋
32/32

考える蒼神と考えない咲

 白々と夜が明けはじめ、暁が海の静寂を制する時分、大破した船着場に二人は立っていた。

「…………」

「…………」

 息子を失った父親と、その息子の命を奪った(?)少女。波の音もほとんどしない時が止まったような空間で、両名は無言でしばらく佇んでいた。そして、その様子を遠くの方から見守る傍観者達。

「ちょっと……どうなってんのアノ二人?」

「ん~~~、眠い」

 エンプレスと柏木茜が物陰から覗いている。文字通りの地球規模の大事件を経て、大勢の人間が死んだ。運良く朝日を目にすることのできた生存者達も、人生を大きく狂わされた。その根本要因となった青年と、全ての展開を制圧した少女が、同じ方向を見て物思いに浸っている。

「ところで……アンタはこれからどうする?」

 エンプレスの背後からプリエステスが声をかけてきた。

「とりあえず、防衛本庁に出頭する。判断を仰いだ上で今後の身の振り方を考える」

「そう……じゃあ、スノー・ドロップは解散みたいね」

「外国の軍部が介入した時点でPFRSの撤退は避けられない。できればまだSPやってたいけど、支配人オーナーは亡くなったって聞いたし……ここにいる義理はないわ」

 エンプレスがやり切れない面持ちで静かに呟いた。魅月氏はP4の水槽にもたれかかるようにして果てていたところを発見された。フリージアの姿は無く、彼女が使っていた二本のブレードが魅月氏の両手に握られていたらしい。

「蒼神博士は支配人オーナーを疑い、支配人オーナーはダリア准将を疑い、准将は軍部を疑い、政府は他所の国と密約を交わして、自国を核で攻撃する……悲しい話だな」

 エンペラーがそう言って歩み寄る。

「“信頼はしても信用はするな”ってね」

 寝袋にくるまった茜が眠たい目をこすりながらポツリと呟いた。

「じゃあ、オマエはどうなんだ? 相方を信用していないのか?」

「うん、一度もしたことない」

「それでよくいっしょに行動できるな」

「大人はさあ、他人様を利用しないと生きてけないんだよね」

「……そうかい」

 認めたくない本質を突かれたような気がして、エンペラーは顔を背けた。


 サワサワ……サワサワ……


「咲さん、ボクは内務庁に出向いて、事の真相を洗いざらい供述するつもりです」

「へぇ」


 スリスリ……スリスリ……


「場合によっては、元職員として反逆罪に問われるかもしれません」

「ふぅ~~ん」


 ムニムニ……ムニムニ……


「……さ、咲さんはこれからどうするんですか?」

「はぁああ」


 ナデナデ……ナデナデ……


「あ、あの~~……咲さん?」

「む?」

「その……ど、どうしてさっきからボクのお尻を撫でるんです?」

「ケツを撫でるのに理由がいるのかいッ!?」

 急いでオマワリさんッ!

「あのさァ、アイツってもう少し普通のコミュニケーションとれないの?」

 実験動物でも観察するかのような目をしたエンプレスが、茜に問う。

「結構な進歩だよォ。わたしと初めて会った頃なんて、人間の言葉自体喋れなかったぐらいだし」

「何よそれ……?」

 全てが在り得ない夜を終え、なんとか6度目の大絶滅は回避した。しかし、回避を実現させた張本人は、やはり素性が知れないままだった。

「蒼神博士、すまんが少々外してくれ」

 神妙な顔つきをしたダリア准将が彼の背後から声をかけてきた。

「あ、はい……」

 懲りずに続行しようとする咲のチカン行為もストップ。

(何だろう……?)

 ものすごく気になる。

「博士、我々はこちらへ」

 空気を察してか、エンプレスが蒼神博士の腕を引いた。仕方がないので博士は二人を残して船着場から離れる。

「さて、汐華咲」

「おのれぇぇぇぇぇ!! 余計なマネを~~!!」

「……おい」

「博士の尻を撫でまわして、仕事の疲れを癒そうとしていたのに……シクシク(涙)」

 痴漢が泣いた。

「チンパンジーにワープロと一冊の短編小説を与え、適当にワープロのキーを叩かせ、短編小説と一字一句同じ内容が打ちこまれた……それぐらいの確率だ」

「何が?」

「オマエのような人類が発生する確率だ」

「そりゃスゴイ」

 咲は特に興味を示すことなく鼻で笑った。

「ワタシは永きに渡って人類を管理・観察する立場にあったが、オマエのような生体を一度も確認していなかった……“オマエは一体、何だ”?」

「さあ、何だろねえ~~」

 やはり、リアクションは無い。

「2年前、貴様が何をしたか覚えているか?」

「さあ」

「完全武装させた選りすぐりの傭兵部隊『19名(ナインティーン)』を、貴様は皆殺しにした……素手でな。20人目の左脚と右目を奪ったところで貴様は逃走し、姿を消した。ワタシの脇を駆け抜けてな」

「人違いじゃない?」

 咲はあさっての方向に顔を向け、ヤル気のなさそうな声で呟く。

「……そうか。ふんッ、かもしれんな」

 准将は何かを察してか、それ以上の追究はやめた。ただ、心残りが一つだけ。

(サンとムーンはワタシや防衛本庁を裏切っていた。ならば、ダレの指図で神の設計図バイタルズを奪取しようとした? 事の全容を把握する第三者が存在するのか?)

 彼女の目つきが強ばる。結局、神の設計図バイタルズに入れ知恵をし、私欲が望むまま自壊を促した張本人――アンスリューム博士は生死不明。唯一の危険思想者は姿を消した。

「茜さん、答えて欲しいんですが」

 真相に近づけない外野の蒼神博士が、寝袋にくるまって仮眠をとっているヤツに聞く。

「はぁい、何ざましょ?」

「『エリジアム』とは何ですか?」

 蒼神博士が小さな声で独り言のように問う。

「知らな~~い、わかんな~~い、本日わたしは体業でぇ~~す」

 …………たいぎょう?

「他国の神話に登場する理想郷の名ですわ。神々に愛された善良有徳な人々が、死後に住むという、西の果ての海中にある地。雨も雪も嵐も無く、一年中西風が吹き、果物が年に3度実る極楽と言われております」

 デスが静かに言及する。今、このタイミングで考えるような事ではなかったが、彼はここ1週間であまりに多くの疑問を抱え、在り得ない事象を目の前にしてきた。科学者としては好奇心と謎をほっとけなかった。

「茜さん達はこれからどうするんですか?」

 咲と茜の言う“ボディガード”の仕事は完了した。彼女等がただの一般市民でないことは明らかであったが、最早、いっしょに行動する理由は無くなった。別れだ。

「んんん~~……」

 茜は腕組みし、首を傾げて何だか考えてる。

「ねぇ――ッ、咲チャ――――ン! これからどうするぅぅぅぅぅ~~!?」

 大声で相棒を呼んだ。同時に、水平線から出来立ての朝日がわずかに顔を出し、咲の全身を日光が差し貫いた。


「知らああああああああああああああああああ──────────ッッッん!!」


 これでもかと胸を張って声を大にする。声はPFRS中に響き渡り、朝日の恩恵を受ける全てを震わせた。

そんな汐華咲を、カナリ遠くの方で静かに見ていた吉田さんが――


「………………………………………………………………………………考えろよ」


 ツッコんだ。

                      (完)



 ―――――――――――― <CAST> ――――――――――――


         【声の出演(作者の脳内補正)】


        ●汐華咲・・・・・・・・<平野綾>


        ●柏木茜・・・・・・・・<釘宮理恵>


        ●蒼神槐・・・・・・・・<浪川大輔>


        ●エンプレス・・・・・・<緒方恵美>


        ●アンスリューム博士・・<松谷彼哉>


        ●ダリア准将・・・・・・<三石琴乃>


        ●コンダクター・・・・・<若本規夫>


        ●魅月紫苑・・・・・・・<銀河万丈>


        ●フリージア・・・・・・<川上とも子>


        ●杜若室長・・・・・・・<松本保典>


        ●サン・・・・・・・・・<渡辺久美子>


        ●ムーン・・・・・・・・<二又一成>


        ●エンペラー・・・・・・<石塚運昇>


        ●プリエステス・・・・・<玉川紗己子>


        ●タワー・・・・・・・・<関智一>


        ●フール・・・・・・・・<矢尾一樹>


        ●ラヴァーズ・・・・・・<優希比呂>


        ●ハイエロファント・・・<宮村優子>


        ●スター・・・・・・・・<西原久美子>


        ●デビル・・・・・・・・<伊倉一恵>


        ●デス・・・・・・・・・<富沢美智恵>


        ●ファゴット・・・・・・<山寺宏一>


        ●ビオラ・・・・・・・・<高野麗>


        ●コントラ・・・・・・・<高山みなみ>


        ●ハープ・・・・・・・・<林原めぐみ>


        ●ホルン・・・・・・・・<飛田展男>


 

        ●防衛本庁長官・・・・・<島田敏>


        ●棕櫚・・・・・・・・・<南央美>


        ●吉田さん・・・・・・・<???>


        【監督】・・・・・・・・回収屋


        【脚本】・・・・・・・・回収屋


        【演出】・・・・・・・・回収屋


 

        【原案】・・・・・・・・回収屋


 

        【提供】・・・・・・・・この作品を読んでくださった皆様


               ・

               ・

               ・

               ・

               ・

               ・

「神の設計図バイタルズは回収できたか?」

 海上にクルーザーが一隻。男が一人乗っていて、衛星電話を手に取って話している。

<残念ながら、失敗です>

 女の声が返ってくる。

「失敗? 信頼できるプロを使ったと聞いていたが」

<はい。『サン』と『ムーン』の経歴に関しては、以前に御紹介した通りです。嘘はありません>

「では、原因は何だ?」

<今のところは不明です。彼等の体内に埋め込んであるマイクロ・ブラックボックスを回収でき次第、事の詳細を御報告致します>

「政府や防衛本庁には勘付かれていないか?」

<その点は問題ありません。二人には必要最低限の情報しか与えていませんでしたし、ダリア准将の手で拘束される前に絶命したようですので。それと、P4のメインサーバーを遠隔制御し、自爆シーケンスを無効にしました。こちらの関与を臭わせる痕跡は完璧に消去してあります>

「いいだろう。次の計画はこちらで用意する。その時まで待機していろ」

<決行のタイミングは?>

「4ヶ月後だ」

<了解致しました。御待ちしております>

 ザザッ――

 男は電話を切ると、ついさっき水平線から昇った朝日を仰ぎ見た。


               【考えろよ。】・第2部へと続く……


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