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考えろよ。  作者: 回収屋
24/32

空からの悪意と地上からのノーサンキュー

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッッ………………!


 空が唸った。大気が震えた。不吉なエンジン音と巨大な影が彼女達の真上を――


 ドンッ────!! ドンッ────!!


 通過と同時に地面がビリビリっと震え、本部ビル周辺の施設が空爆により爆破される。

「くッ、蒼神博士ッ!」

 爆風で怯みながらもエンプレスが駆け寄る。

「だ、大丈夫……ですか?」

 咄嗟の事で何がどうしたのか分からず、彼は反射的に咲というケガ人を庇っていた。

「うっしゃああああッ!!」

 咲部長、理不尽に復活。スーツの上着を脱ぎ捨てて立ち上がり、エンプレスの方に向き直る。

「で、戦争っぽいのが始まったみたいだけど、どーするよ?」

 彼女は少し笑っていた。その笑みは楽しいワケではなく、嬉しいワケでもなく。

「どーもできないわよッ! 爆撃機を9ミリで撃ち落とせとでも言う気ッ!?」

 彼女の意見はもっともで、事態は明らかに悪化の一途をたどっている。同じ頃……投身自殺に巻き込まれ、本部ビルの中でガラスの破片にまみれた者が無線機を手に取る。

「こちら偵察型・ファゴット、どうぞ」

<こちらダリア、どうした?>

「申し訳ありやせん。少々アクシデントがありやして……」

<迎撃されたのか?>

「いえ、それが……ありえない“不確定要素”に邪魔されまして」

<ありえんからこそ不確定要素と呼ぶのだ。プロらしく仕事を完遂しろ>

「そりゃもちろんですが、一応再確認を」

<何だ?>

「PFRS本部に属するのは、研究職員が100名余りとSPが約20名、後はわずかな警備員……ですよね?」

<ああ、そうだ>

「確認した限りでは部外者が二名……ビオラとオーボエが交戦により負傷。チェロとフルートは行方不明。オレは本部ビルの屋上から無理心中に巻き込まれやした」

<……何が起きた?>

「准将、オレの記憶が正常なら、その部外者二名の内の一人は『エリジアムの元住人』ではないかと」

<……貴様ごときが口にしてよい情報ではないな>

「申し訳ありやせん。世界でも屈指のクズ共のリストが、自分の脳には叩き込まれているもんで」

<で、リストのダレに該当する?>

「銃器の扱いに長けた茶髪のポッチャリ娘……おそらく『柏木茜』ではないかと」

<それはありえん、貴様の思い違いだッ>

 ダリア准将の言葉に淀むようなイラつきがこもった。

「准将、『掃滅型』の到着は?」

 ファゴットはそう言って双眼鏡を手にし、砕け散った窓からソっと真下を覗く。茜はなんだかでっかいスーツケースを持ち出していた。

<既に潜水艇で南区に到着し展開済みだ>

「『回収型』は?」

<掃滅型が本部ビルのエレベーターを制圧でき次第、ポッドで射出する>

 茜のスーツケースが開く。しかし、ファゴットの位置からは彼女の陰になっていて中身が見えない。

「准将、我々は?」

<カメラは生きているか?>

「ええ、無事ですが」

<現在、貴様が見ている連中の映像を送れ>

 グオオオオオオオォォォォォォォォォォォ…………!

 爆撃機が旋回し、二回目の空爆に入ろうとしている。

「見えやすか、准将?」

<……茶髪の隣で仁王立ちしているガキをアップで>

 そう言われてカメラを動かす。

(……オイオイ、マジかよ……!)

 無理心中に巻き込んだ張本人が、しっかりと二本の脚で立っていた。

<やはり、ドコかで会ったような気が……?>

 准将が唸った。

「准将、ピンポイント爆撃は可能ですか?」

<ふんっ、よかろう>

 爆撃機が正面玄関のロータリー一帯をロックした。

「スマンね、お嬢さん達。不確定要素では困るんでね」

 彼はそう呟きながら、もう一度茜の方に双眼鏡を向けた。そして――見た。

「よっこらしょ☆」

 茜が何か重たそうなモノを肩に担いだ。双眼鏡の倍率を高めて……


「――────ッ、准将ォォォォォ!! 回避してくださァァァァァい!!」

 彼が叫ぶ。と同時に──


「ラブ注☆入♪」

 ドシュウウウウウウウウウウ――――――──────────ッッッ!!


 不吉な噴射音とともに、茜が担いだモノから何かが発射された。

<熱源接近ッ!>

 ファゴットの無線機から聞こえた、パイロットの警告。直後……


 ドッオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――――――────ッッッン!!


「ウソだろ、おい……!」

 無線機が手から滑り落ちて、地上へと吸い込まれていく。爆撃機は胴体の一部から火炎を吹き出し、ロータリー上空を通過する。爆撃機の内部は一瞬にして混沌の渦だ。

「何を食らったッ!?」

 ダリア准将が声を荒げる。

「おそらく対戦車ミサイルの一種ですッ!」

 パイロットが叫ぶ。

「バカなッ! PFRSにそんな配備はされていないッ!」

「しかし、この機体のチタン装甲が突破されていますッ! すぐに着水しますので衝撃に備えてくださいッ!」

「……いや、再度旋回しろ」

「無理です! 右のエンジンが制御不能です!」

「回収型のポッドを緊急射出! 射出後、貴様等は全員脱出しろ!」

「准将……何をされるおつもりですか?」

 爆撃機の高度がみるみる落ちていき、黒煙を纏いながらもなんとか旋回してPFRSに向き直った。

(ああ、ああ~~……アノ人も相当イカレてやがるよ)

 静観していたファゴットが、これから始まるであろう出来事を予感して、フロアの奥へと走り非常口から飛び出していく。

「なんて事すんのよおおおおおおおおッ!!」

 ロータリーではエンプレスが……ザ・憤怒。

「咲チャ~ン、何でこの人怒ってんのかなあ?」

「びっくりして失禁したんじゃない」

 どーでもいいらしい。

「アンタ等はどーしてそんな軽いノリで事を進めるワケ!?」

「軽いノリ? 失敬なッ! あたし等は常に100パーでフザケているッ!」

 ダメだろう。

「あ、あの~……咲さん、茜さん。最早、ただの調査会社の社員という言い訳では通らないんで……何者なのか教えてもらえませんか?」

 蒼神博士が沈痛な面持ちで二人に問う。

「茜ェェェェェ! 大変ッ、バレてるッ!」

「えええッ! 何でェェェェェ!?」

 本人達はやっぱり100パーだ。

「127ミリ砲を担いでブッ放す会社員なんかいないし、250メートルの高さから落ちて元気な会社員もおらんッ! と言うより、後者は人かどーかも疑わしいッ!」

 まくし立てながらエンプレスはビシッと二人を指差した。


 ゴオオオオオオオオオオォォォォォォォォォ…………!


「くそッ」

 コントロールを失った爆撃機が近づいてくる。そして、ハッチが開く。

「ちょっと……まだヤル気なワケ!?」


 ドシュウウウウウウウ――――――────────ッ!!


 ポッドが射出されて近くに落下し、エンプレスに悪寒がはしる。

 ゴゴゴゴゴゴゴッ……!

 巨大な悪意が唸り声をあげて向かってくる。

「蒼神博士、地下のシェルターに急いでください!」

「…………」

 彼の目は迫り来る墜落寸前の爆撃機をとらえていた。まるで、その身を使って全てを受け止めようとするかのような……強い輝きがあった。少なくとも、もう自ら命を無意味に絶つような様子は無い。

「博士ッ、さあ早くッ!」

「は、はい!」

 エンプレスは彼の手を取り、先導する。

「空襲だァァァァァ! 総力戦だァァァァァ!」

「アルマゲドンだァァァァァ! 消費税引き上げだァァァァァ!」

 約二名がパニックを煽る。ひたすら煽る。


 ゴゴゴゴゴオオオオオ────ッッッ!


 本部ビルへと全員が避難した十数秒後――


 ドゴオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォ────────ッッッン!!


 悪意の塊がロータリーに大落下し、赤黒い炎を盛大に撒き散らす。PFRS全域に墜落の衝撃が伝わり、感じたくもない戦慄を与えた。そして……

「クソ共があああああああああああああッッッ!!」


 ガアァァァァァァ────ン!!


 憤怒の声と同時に、衝撃で変形した爆撃機のハッチが内側からフッ飛ぶ。中から歩み出る人影が一つ……炎でその身を焦がし、全身からおびただしい量の血を流す、悪意の元凶が現れた。

(ナメた連中だ……)

 彼女――ダリア准将は吐血も鼻血も拭わず、赤黒く染まった爆撃機の残骸をバックに、瓦礫へと腰を下ろした。そして、軍服の胸ポケットからスティックシュガーを取り出し、封を切る。

 サラサラ……

 舌の上に白い小山をつくり、それをゴクリと飲み下した。

(…………)

 彼女の意識がまどろむ。消化された砂糖が瞬く間に熱エネルギーとなって、彼女のフル稼働する脳髄に供給される。やがて、脳内に現実とは別の空間が構築され、想像とも幻覚とも異なる物体が姿を具現化させる。


<デハ、報告ヲ聞コウ>

 そう言って現れたのは二本脚で起立した神の設計図バイタルズ

「ワタシは15万年生きて、自然の摂理とは違う法則を幾つか発見した」

<何ノ事カネ?>

「地球は『死』を理解しようと自殺を望むが、『理解』とは自らの経験に基づいて熟考し体得するものであり、自殺と同時進行できるものではない。よって、人類を生体兵器として創造し、増殖させたこの計画は支障をきたしている」

<支障?>

「人類を管理し絶滅を抑制してきたワタシは、数えきれない『死』に立ち会ってきた。『死』自体に大した影響力は無い。死骸はやがてバクテリアに分解され、情報の一部として処理されるだけ……まるで、流れ作業だ。しかし、『死』は記憶という媒体を必要とする」

<オマエガ言ワントシテイル事ガ解ラナイ>

「地球が死ねば、地球に寄生して生きる全ての生命が滅びる。そうなれば、ダレが地球の『死』を記憶する? その事実をダレが『理解』すればいい?」

 准将は憐れむような声で神の設計図バイタルズに問いかける。

<私ハオマエガ生マレル遥カ昔カラ、大絶滅ヲ5度モ経験シテキタ。古生代末ノ大量絶滅然リ、1億5千年前ノ環境異変然リ、6500万年前ノ大量絶滅然リダ。ドレダケ絶望的被害ヲモタラソウトモ、必ズ訪レル回復期ニ生物ノ種ハ形ヲ変エテ復活スル。ソレコソガ私ヲ縛ル現実ダッタ>

「……何が言いたい?」

 今度は准将が訝しがる。

<人類ノ価値観カラスレバ、私ハ超絶的ナ免疫能力ヲ有シタ不死身ノ存在ト言エル。故ニ『死』ヲモタラスニハ、特別ナ手立テガ必要ト教エラレタ>

(――――ッ!?)

 准将が思わず立ち上がる。と同時に、神の設計図バイタルズの姿が掻き消えた。


「こちらダリアだ。『ハープ』、状況を報告しろ」

 彼女は通信器を取り出して呼びかける。

<こちら『掃滅型』・ハープ。皆殺しの前に、うち等が全滅するとこでしたわ。この潜水艇、あっちこっちから水漏れしとる……絶対に整備不良やで>

「生きていれば十分だ。予定通り障害物を排除しろ」

<時間はいかほど?>

「日没までにはケリをつけろ。それ以上は他国の衛星を騙しきれん」

<了解やッ>

 准将は通信を切り、踵を返して本部ビルをキッと睨みつけた。

(下衆共がッ!)

 全面戦争が開始された。


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