第2話 助けてくれたのは王子様?
昼休みが終わり、自分のデスクに戻った私は今度は何が無くなっているか慎重に確認したが、無くなったものはなく、午前中と変わらない状態だった。
拍子抜けしたが、昼休みには何人か自分のデスクで昼食を取る人がいるので、そんな人に見られる時間には行動しないのかもしれない。
問題は明日の朝か、色々と覚悟して出勤しなければ…
そんな暗い雰囲気を察してくれたのか、今日は早く上がっていいと言ってくれた先輩の言葉に甘えて定時で上がらせてもらった。
定時丁度に上がり、誰とも会いたくないため急いで更衣室に向かうと、そこにはまだ誰ももいなかった。
ほっと一息つき、自分のロッカーの前に来て、ぎょっとした。
そこには今日びしょにびしょになったはずのサンダル、無くなった筆記用具、切られたブランケットが元通りの状態で、いや前よりも綺麗になった状態で、紙袋に入って置かれていたから。
「…なに、これ?」
手に取ってみて、これらが新品だということに気付いた。
それと紙袋に貼られていた紙に『ごめんなさい』とだけ書かれていた。
嫌がらせをした人が反省して、ここに置いた?
ありえない。
この何時間かの間で180度気持ちが変わるほど、単純じゃないはずだ。
私を不憫に思った誰かが?
それも違う気がする。
紙に書かれた『ごめんなさい』というメッセージの意味が分からなくなる。
一体、これは何なのか。
そもそも全く同じものをこの短時間で集めるなんて出来るのだろうか。
気持ちが悪くなったが、このままここに置いておくこともできないので、とりあえずロッカーに入れておくことにした。
誰がくれたのかも分からないのに、勝手には使えない。
暫くはロッカーに眠って貰うことになりそうだ。
翌日、出社した私を待っていたのは人事異動発表前と変わらない穏やかな日々だった。
嫌がらせもなく、嫌味も言われなくなった。
わけが分からない。まるで昨日のことが夢だったようだ。
まだ社内では話しずらいので、今日も公園で昼食を取ることにした。
「でも、良かったじゃない。何もなくなったんだから」
果歩にそう言われても、いまいち納得がいかない。
「ねえ柳、あの事調べてくれた?」
昨日ロッカーの前に置かれていた私の持ち物だった物と全く同じの新品の物。
奇妙に思った私は社内での情報に長けている柳に連絡し、調査をお願いしたのだった。
「ああ、あれね。やっぱり嫌がらせをしてきた人達が集めたものみたいよ、謝罪の意味を込めて」
「え…っ!?そのなの…っ!?」
「あと美奈に伝言。『ごめんなさい、もうしないので許してください』だって」
「えっ…」
なに、それ。あっけなさ過ぎる。
「なんか、勝手な話ね。朝は散々酷いことしておいて、夕方にはごめんなさいって」
「果歩の言うとおり、何かおかしいのよね。あんな嫌がらせしてくる人達がすぐに心を入れ替えるとは思えないのよね。…誰かが糸を引いてる?」
「誰かって誰?何のために?」
そんなことをしても誰も得をしない。
むしろ反感を買うだけだと思う。
「美奈を助けるために、美奈のことを好きな王子様が」
「はぁー!?」
いきなりトンチンカンなことを言い出した柳に思わず叫んでしまった。
「冗談よ」
「何で急に冗談なんて言うの!!」
「いいじゃない、王子様。助けてくれるなんて素敵ね」
「果歩まで!」
マイペースに話す2人を見ていると、真剣に悩んでいる自分がくだらなく思えてきた。
額に手を当てて、深いため息をつく。
「まあ、もうしないって言ってるんだから、とりあえずそれを信じてみれば?貰った物も使っちゃえばいいのよ」
「…そうね」
柳でさえここまでしか分からなかったのだ。
自分がこれから何か調べても新しい発見があるとは思えない。
結局嵐のような1日が何だったのは分からないが、穏やかな日々が戻ってきたことには変わりない。
それでいいか、と納得することにした。
だけど数日後、冗談で話していたこの王子様を思いもよらない形で知ることになる。




