第4話 『四人合流! マチネ色のカラー!』
それはありえないくらい急な出来事だった。
地球の人間達は遊園地で、遊具で、遊ぶだけ。家で、学校で、社会で、働き、生きる。生きてきた。普通の日常。変わらない現代社会。
最初にベラゾノフ人なる存在──進化し過ぎた長身の鳥の様な外見の宇宙人らが侵略したのは、アメリカだった。
アメリカの偉い人や警察らが先に首輪を付けられ、屈服され、それからは異常な速さでベラゾノフ人が着陸し、全人類が屈服された。
ベラゾノフ人に飼われる人間達。
地球の外観が全てベラゾノフ人の趣味に一層されるレーザービーム。
それからの人間達は首輪で身を管理され、着せ替え人形から形容しがたい尊厳と存在の否定を強要され続け、舌を切る事すら許されなかった。
殺されはしなかった。飼い殺しにすらされなかった。だからこその生き殺し。
地球人の恐怖は抗いがたい虚無に等しくなった頃、マーチング隊の出来事をキッカケに、リミナルハイスクールが設立される事になった。老若男女人種を問わず入学試験をベラゾノフ人から許され、その時まだ怒りを携えた人間達のみがこぞって試験に喰らいついたのだった。
選ばれた結果集められたのは、この世界のほんの数十名だったが。
★★★★★★★
「えぇっ? 思想学のグループワークに私を入れてくれるのっ? 是非入らせてほしいよぉっ! 嬉しいなぁ♡」
彼岸華マチネは頼まれると案外素直に承諾した。舞鶴の口車にまんまと乗せられただけだが。
「メンバーはこの三人なのかなっ?」
「? 四人でござるよ」
「えっ四人? 紙上君とカナンちゃんだけじゃないの?」
「ルナ殿でござる。天道ルナ殿。問題はないでござろう?」
「(げぇっ)う、うん。だいじょーぶ……」
三人しかいない教室。最悪な事に、机に簡単には消せないであろう筆圧で落書きをしているカナン。彼女は手を止めず、すぐにマチネに口を出した。
「オマエあれやろ。マーチング隊の一人やろ? テレビで見たで。」
「ん~……」
「やはりそうでござったか! 拙者も見ていたでござる。結果はなんであれ、ベラゾノフ人の心を動かしたともいえるパレードであったでござる。最も、ベラゾノフ人に心があるとは思えないでござるが」
筆を置いたカナンは「そうか? わては気分悪かったわ」と、悪態をつく。
「ヒヤヒヤしたわぁ。あんな勝手な反逆行為されて、わてら籠の中の鳥に非難がきたらと思うたら夜も眠れんかったんよ?」
マチネは腕をさする。
「しかもその後全員の消息は不明。あんさんはなしてここにおるん? 運がええのは才能やで」
マチネはもう片方の腕をさする。
「それにしても、他の連中より抜きん出て、おめでたい衣装やなぁ。腰に付けたポンポンも、見せつけるみたいで腹立たしいわ」
マチネは爪先を床に数回打ち付ける。
「他のクラスの奴ら、初めてあんさんを見た時皆反応していたで? 自己紹介も一番聞かれてたしなぁ。あ、謙虚な素振りは逆効果やったで? 可哀想やわぁ。皆あんさんがそない自信無さげで、わてらは何に期待してたんやろってな。あ、一番可哀想な晒しもんはあんさんだったな。かっかっか」
マチネは足を後ろに引いた──引いて、机を蹴り飛ばした。後ろの席まで、ひとっとび。
「がぁ!?」
と、驚いたのは舞鶴。机と共に吹っ飛んだカナンは、目を丸くして口をパクパクさせていた。
「は、は!? は!? あんさん今わてに暴力降りなさったんか!?」
「……てんじゃないわよ…………」
「あ、あ?」
「ぶり返されたくない事、いちいち根掘り葉掘りぶっ刺してんじゃないわよぉ!!」
「ま、マチネ殿急にどうしたで──ごふっ」
寄ってきた舞鶴を一発でくたばらせ、ゆっくりとカナンに近づく。
「あんたさっきから気持ち良さそうに罵倒してんじゃないわよ……? あんな反逆劇を起こした私が謙虚ですって? 可哀想ですって? 思い知らされたいのかしらオホホホホホホホホ!」
「ひぃっ! わ、わかった、分かったやで!」
「これからたっぷり私との上下間系を思い知らせてやるわよヒヒヒヒヒヒヒヒッ!」
鬼の形相で近づくマチネ。ついに、カナンは廊下へと逃げ出した。
「逃がさないわよケタケタケタケタケータ!!」
「アカンあんさん怖すぎる! さっきのは表の皮だったちゅーわけかいな!」
廊下を全力疾走するも、圧倒的にマチネの足が早く、衣装的にも動きやすい。
がしっ。と、マチネの頭を掴む。
「ひ」
そのまま元の教室前まで投げ飛ばされる。
「ぎゃあああああああー!!」
駆けつけたルナが運良くカナンを受け止め、向こうからやってくる鬼を見ては汗を垂らし、カナンと抱き合って恐怖に浸っていた。
「彼岸華さん! おおお、落ち着いて!」
「別にこれが普通よ」
「「嘘だぁー!!」」
「大体ね、狂王実カナンさん。こんな世の中なのに協調性無さすぎるのよ。私をそれでコントロールしたかったの?」
「そんなつもりやない。ただ、わては思った事をそのまま伝えたつもりなんや」
「だったら相当間違ってるわよ。鎧を纏う事がそんなに気に食わない? 一貫して強くなきゃ私には価値がないの? ふざけないで頂戴。あんたがあんたの生き方があるんなら、あたしにだってあたしの価値観ってもんがあるのよ!」
少し間を置いて、カナンは涙を溢す。それはやがて大粒大量の水となってしまった。
「うわーーーーん!!!!」
「ああ、もうよしよし……! 彼岸華さん、間髪入れる隙なく怒り過ぎだよ……何があったかは知らないけど」
「……はあ。もういいわ。その赤童が泣き止んだら明日のグループワークについて話し合うわよ。狂王実カナンさん、言い過ぎて悪かったわね。それだけ」
「……」
ぐすぐす目を腫らしたカナンは、ルナにぴったりくっつきつつも、マチネを見つめた。
「何見てんのよ」
「いや別に? 処世術の嘘泣きやさかい。さっさと舞鶴はん蘇生させて話し合いましょか」
「話が早くて助かるわ」
「ところで、結局のところ思想学って何? 皆は試験で出たの?」
ルナの問いかけに腕を組ながら、マチネは話す。
「……簡単に言うなればあれは思想吐露ね。色んな問題に自分の考えを重ね、とことん追及する、哲学みたいなもん。試験では筆記問題だったけど、入学パンフレットに書いてあった通り、ここでは色々な方法で思想学に取り組むみたい」
「そういや舞鶴はん、明日までにお互いの考えの傾向を把握しておきたいって言ってたなぁ。今の関係値でやったら色々ズタボロになりそうやが」
「どうして? お互いの考えを知っておくのは大事でしょ? 信頼関係だってそこから生まれるでしょ?」
ルナのおでこをはじくカナンは、ため息をついて舞鶴の蘇生の為教室へと戻った。
「ルナ」
「! 何かな!? 彼岸華さん!」
「マチネでいいわ。……あんたに言っておこうと思って。さっき私が怒ってた時に、私が悪者だって、言葉にせず責めないでくれてありがとう」
「?」
「私は一人で戦うって言っちゃったけど、訂正。この世界では私は一個の人間として戦う。けど、この学校では、皆と戦う事にした」
「!」
「だから、これから私の事も、知っておいてほしいなっ」
その笑顔が謙虚モードの時よりも自然で、声も自己紹介の時より高くなかった。それがルナにはとても嬉しかったのだった。




