第9話 自己紹介
「アリシア・ヴェラ・エルミールです。よろしく。」
彼女は端的に自己紹介を済ませ、空いていた1番前の席にサッと座った。
俺はこの時、どんな表情をしてただろう。
生き残ってて欲しい。
でも、もう一度会いたいとも思ってた。
その想いのうちの片方は絶たれた訳だ。
ただ、その後俺の思考を支配したのは『なぜ?』という疑問だ。
俺は彼女を崩れ落ちる瓦礫から身を呈して庇った。
その後、彼女は瓦礫と俺の隙間から抜け出したはず。
………いや………
そもそも、あの時、誰かが桜庭さんを引き抜いたんだった……
その後は多分……壁に空いた穴から、隣のビルの非常階段に飛び移って………
俺が思考を巡らせていた時、彼女は少しだけ振り向いて俺の事を見つめた……気がする……
ここからでは実際には長い髪で目元を確認できてはいないけど、そんな気がした。
その後は体育館にて入学式が執り行われたものの、俺はどこか上の空だった。
「では、今から1人ずつ、名前とジョブを紹介しろ。」
教室に戻った俺たちは、早速互いに自己紹介を行うこととなった。
「ではまず、右側の席の先頭からだ。」
ラインハート先生の指示の元、1人ずつ自己紹介を行う。
「僕の名はリュゼ・クリフォード。前世では『神宮寺統』だった。ジョブは【剣士】。よろしくお願いします。」
神宮寺か。
日本での学生時分には生徒会長をやってた『ザ・優等生』だ。
成績は桜庭さんに次いでいつも2番だったな。
ジョブが【剣士】って当たりですな。
「ウチはヴィオラ・ウェステン。元『西坂すみれ』で〜す。ジョブは【走者】で〜す。」
西坂さんは確か陸上でかなり有名だった子だ。
やはり、ジョブは前世の影響を強く受けるらしい。
「私はサイラス・バルトス。みんな知っての通り、前世での名は『皇崇仁』。こっちではバルトス卿と呼んでくれたまえ。ジョブは【音楽奏者】だ。皆の再会を祝して、私の情熱的で演奏を聴かせてあげよう。」
「無駄口を叩くな。」
「ん〜。ミスラインハートは手厳しそうだ。」
………先生、ナイスだ。
コイツはまあ知っての通り、ナルシストだ。
前世でもボンボンで色々と自慢して鼻につく奴だったが、今世でもそれは変わらないようだな。
「俺はアーサー・ドラグルス。元『京極』。ジョブは【闘士】だ。」
コイツは前世での俺に初めて挫折を味合わせてくれた奴だ。
ヤンチャな性格だけどスポーツに関しては天才的だ。
その上【闘士】だなんてお似合いだな。
「私はリオ・カトイーリ。前世では「四ノ宮莉音」と呼ばれていました。ジョブは【治癒士】です。宜しくお願いします。」
四ノ宮さん。確か、生徒会の副会長を務めてたっけ。
いつも神宮寺の隣に居る人で、風紀に関してめちゃくちゃ厳しかったな。
「あたしはマデリン・オリエンス!元『東條茜』です!気軽に『マディ』って呼んでね!ジョブは【植物学士】!宜しくね!」
この子はいつも元気だな。
まあ、その快活さのおかげでクラスの雰囲気が明るくなるんだけど。
その後も何人かの生徒が自己紹介を行い、やがて桜庭さんの番になって皆が注目した。
「…私はアリシア・ヴェラ・エルミール。元『桜庭』よ。ジョブは【軍師】。宜しく。」
いつ聞いても彼女は声まで美しい!!
……いや、それより、【軍師】って?
軍の総帥的な?
マジで?
天は二物を与えず、と言うが、天は彼女に対して三物くらい与えてるよな。
さすが女神様です!!
「……フィード……」
いや、三物で足りるか?五くらいあるんじゃね?
「アルフィード!!」
「は、はいぃ!!」
「何をボケっとしている!!次はお前の番だ!!」
「……はっ……す、すいません!!……えっと……」
桜庭さんの美しさを再確認していたが、先生に怒鳴られてようやく現実世界へと戻らされた。
皆は慌てている俺を見て失笑していた。
「…えっと…ハル・アルフィードです。元々は『形代春人』で……えっと、ジョブは……【人形師】です。」
俺がジョブを明かした途端、静まり返った。
だが、それを破ったのは京極こと、アーサー・ドラグルスだった。
「ククッ!【人形師】ってなんだそりゃ!!さすがオタクはジョブまでオタクだとはお似合いだなぁ!!ハハハッ!!」
京極のこの一言により、教室内でもどこかしらからクスクスと笑い声が聞こえた。
「おい、静かにしろ。減点されたいのか。」
「はいはい、サーセン。」
京極は先生に謝っていたものの、バカにした表情は崩さずに俺を横目で見ていた。
笑いたきゃ勝手に笑え。
「ぼ、ぼぼ僕はトーヤ・フォーゼン!えと…ぜ、ぜぜ前世では『加賀美冬馬』でした!えとえっと……じ、ジョブは【鍛冶師】です!」
……ほう……
トーヤが鍛冶師か。
「自分はヒューゴ・アキ・テイラーです。前世では『兵頭秋彦』と名乗っておりました。ジョブは【設計士】です。何卒宜しくお願いします。」
んでもってアキが設計士か。
2人とも、確かにお似合いなジョブだ。
トーヤは元々フィギュアを自主制作するほど手先が器用だ。
何かを作る、が【鍛冶師】として向いていたのだろう。
そしてアキは、ミリタリー系のプラモを作成したり、構造についてまで細かい知識があった。
その知識が【設計士】として向いていたのだろう。
この2人に出会えたのは、俺にとってまたとない僥倖だ。
先生は黒板にそれぞれの名前とジョブを書き出していて、俺も慌てて紙に書き写した。
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神宮寺統→リュゼ・クリフォード【剣士】
西坂すみれ→ヴィオラ・ウェステン【走者】
皇嵩仁→サイラス・バルトス【音楽奏者】
京極龍成→アーサー・ドラグルス【闘士】
四ノ宮莉音→リオ・カトイーリ【治癒士】
東條茜→マデリン・オリエンス【植物学士】
松田良徳→ルイス・キーファー【錬金術師】
藍染瞳→リリアン・プリューネル【占い師】※
桜庭愛梨沙→アリシア・ヴェラ・エルミール【軍師】
南野楓→フェン・メリディエス【調教師】
北澤蓮→ロータス・ボレアス【騎士】
俺→ハル・アルフィード【人形師】
加賀美冬馬→トーヤ・フォーゼン【鍛冶師】
嵩山咲真→ジャック・ハイザン【調理師】 ※
兵頭秋彦→ヒューゴ・アキ・テイラー【設計士】
※は当時の店員
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「以上、15名だ。基本的にお前たち転生者は3年間同じクラスとなる。先にも言ったが、他の生徒の模範となるべく、良識ある行動を期待する。」
その後は授業ではなく、年間の活動予定表が配られて説明された。
目を通すと、校外学習や合同演習、実践訓練。中間試験に期末試験もある。
特に、合同演習は1週間の泊まり込みになるそうだ。
それらの説明を終えたところで、今日の授業は終了した。
それを見計らったかのように、別のクラスから生徒が押し寄せ、あっという間に桜庭さんの周りに人集りが出来ていた。
「す、すすす凄いよハル!!【人形師】だなんて!!」
放課後になるといの一番でトーヤが目を輝かせた。
「いやぁ…でもほら、みんなバカにしてたし。」
「バカになんてするもんか!!にに、人形を操れるなんて、羨ましい限りだよ!!」
トーヤ目線からすれば、とてもいいジョブなんだろう。
「して、ハル氏。その【人形師】というのはどのようなジョブなのでしょう?」
俺は2人に自分のジョブについて説明した。
その後、2人のジョブについても説明してもらった。
「………なるほど……中々興味深いですな。」
「思ってたのとちょっと違うけど、それでもやっぱり羨ましいなあ…!」
「トーヤはともかくとして、バカにしないんだな。」
「当たり前ですぞ。一見すると確かに大道芸人のようですが、これはハル氏にピッタリのジョブかと存じますぞ。」
「僕もそのジョブが良かったなぁ…【鍛冶師】なんてパッとしないし……両親は喜んでくれたけどさ。」
「そう言ってくれて、ホントお前らと友達で良かったよ。」
「そう言ってくれて嬉しい限りですな。」
「そうだそうだ!」
「それにですぞ……ハル氏、我々が手を組めば………」
俺たちは時間も忘れてクラスの隅っこで密談していた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「あぁ!や、やばい!!もうこんな時間だ!!」
トーヤが時間に気付いた時には既に時刻は昼を過ぎていた。
「む、むむ迎えを待たせてあったんだよ!」
「……ってかトーヤ、寮まで歩いて10分なのに送迎してもらってんのか?」
「ぼ、僕だって要らないって言ったんだけど……父さんが心配性で……」
「それだけお父上はトーヤ氏の事を大事に思ってくれているのでしょうな。」
「帰りが遅いとまた学校に迷惑が掛かっちゃうから…!!ごめんハル、アキ!先に行くね!!」
「おう。」
「また寮でも会えますぞ。」
トーヤはそのまま一目散にクラスを後にした。
「……そんな慌てるなんて余程の事なんだな……」
「さてハル氏、我々もそろそろお暇しますか。」
「……だな。」
「……少し、良いかしら?」
俺たちが立ち上がろうとした時、不意に透き通った女神の声がした。
「……ふぇっ……!?」
「……これはこれは桜庭氏……ではなく、エルミール第3王女殿……」
「……アリシアで構わないわ。それより、少しいいかしら?」
「……えっと……だ、大丈夫どす…」
やっべ。
また噛んだ。
「ここでは話しづらいわ。歩きながらでも?」
「は、はい。」
「それならば、自分は先に帰っておくとしましょう。」
「……え……?」
「ハル氏、ご武運を!」
そう言ってアキはそそくさとクラスを後にした。
仕方がないので俺は桜庭さん……いや、アリシアさんと一緒にクラスを出た。
背後には他クラスの生徒が好奇の目を俺たちに注ぐ。
「悪いわね。急に。」
「い、いえ……大丈夫ですが……それよりも………」
「それよりも、桜庭さん、いや、アリシアさんも、やっぱり前世で死んじゃったんですね………」
「その事についてだけど。」
アリシアさんは歩きながらも眉間に皺を寄せて険しい眼差しで遠くを見つめ、その表情には怒りが滲み出ていた。
「……私は殺されたの。ある男に。」
「…………は…………?」
あまりに突拍子も無い発言に俺は頭から水を浴びせられたような感覚に陥り、思わず立ち止まった。
なぜ?
誰に?
そんな単純な疑問が脳を支配する。
「ち、ちょっと待って!!い、一体誰に!!?」
「御堂よ。御堂樂。あの日、私の正面に座っていた男。そもそものあの火災も、その御堂が引き起こしたのよ。」




