第8話 クラスメイト
今日はいよいよ入学式。
日課のランニングのために早朝から寮を出て、普段の喧騒とは違った閑静な住宅街の景色を楽しむ。
複雑に道が入り組んでいるため、迷いそうになるな。
俺は師匠から出されたメニュー、ランニング1時間、素振り300回、ジョブ鍛錬を毎日欠かしたことが無い。
それに加え、腕立て伏せ100回、腹筋100回、スクワット100回と自分でもメニューを課している。
おかげで、前世とは比べ物にならないくらい良い身体をしていると思う。
筋肉は裏切らないね。
早朝のトレーニングを済ませ、部屋で軽く身体を流した後、1階の食堂に足を運ぶ。
「おはようございます!」
「…あ……お、おはようございます…!」
食堂にはすでに調理師のおばちゃんが数名おり、威勢よく挨拶をしてきて少し驚いた。
「早いねぇ!新入生かい?」
「…え、えぇ。今日入学式がありまして…」
「そうかい!そんで、何にする?」
「……えっと……」
メニューは色々あった。
・日替わり朝食 銀貨2枚
・牛肉定食 銀貨5枚
・カツレツ定食 銀貨4枚
・日替わりパスタ 銀貨3枚
・焼き魚定食 銀貨3枚
などなど。
「オススメは日替わり朝食だよ。今日採れたての野菜とベーコンでのサラダ、パン、それと特製のリンゴジャムがあるよ。」
「…じ、じゃあ、それで。」
「はいよ!」
俺は財布から予め崩してあった銀貨を2枚取り出しておばちゃんに渡した。
しばらくすれば日替わり朝食が現れ、おばちゃんの言った通りの内容だったが、パンが1つ多かった。
「…あの……パンが多いような気が……」
「そいつはあたしからのオマケだよ。一番に来た子にはそうやってオマケしてるのさ。」
「…ありがとうございます…!」
苦学生にはありがたい。
早速いただこう。
サラダはシャキシャキとした歯ごたえの中にほのかに甘みがある。
ベーコンの塩味が味を引き締め、逆にサラダがベーコンの脂を中和する。
それに加え、振りかけられていた粉チーズが豊かな香りを醸し出す。
効果はバツグンだ!
お次はパンをちぎってまず1口。
焼きたてのパン独特の香ばしい香りが口に広がり、続いてバターの風味が広がる。
次はジャムを塗ってさらに1口。
……美味い……!!
リンゴの甘酸っぱさと風味がパンと絶妙に絡み合う。
ともすれば、他の生徒が起きては朝食に並び始めた。
「……隣、良いかい?」
俺が朝食を堪能していると、見たことの無い男子生徒が話しかけてきた。
「……えぇ……まぁ……はい……」
「じゃあ失礼するよ。」
なんで隣に?
周りに席いっぱい空いてるのに。
「いきなりごめんね。僕より早く来る子なんて珍しくてね。今日の1番はキミに取られたよ。」
「……え……なんか、す、すいません……」
「いやいや違う違う!謝ってもらいたいわけじゃないさ!ちょっと驚いたのと、少し嬉しくってね。」
「……はぁ……」
この人、恐らく苦学生なんだろう。
朝食メニューが俺と同じく日替わり朝食。
それだけでなく、シャツにシワがある。
「僕は3年のケンリー・オーガスタ。見たところキミは新入生だね?」
「はい。今年入学のハル・アルフィードです。」
「アルフィード君か。よろしくね。何か学生生活で困ったことがあったらいつでも相談に乗るよ。」
「ありがとうございます。」
「ちなみに、キミは部活は何をやろうと思ってるんだい?」
ははぁん。
さては部活の勧誘か。
「いえ…特に何も決めては無いですけど……」
「そっか。まあ、学生生活は長いようで短いからね。何か部活に打ち込むのも悪くないよ。見たとことろ体付きは悪くないから、剣術部とか体術部なんか悪くないかもね。」
「…まぁ……考えておきます…」
「あぁ、悪いね。突然で驚いたよね。勧誘じゃないから安心してくれ。」
勧誘じゃない、と言いつつも勧誘気味ではある。
「……では、僕は失礼します……」
「あぁ。宜しくね、アルフィード君!」
「…よ、宜しく…です…」
このケンリー・オーガスタって先輩、悪い人では無いんだろう。
まあ、部活については特に考えて無いかな。
なにより、生活費を稼ぐためにもギルドで討伐クエストをやらないといけないし。
自室に戻り、服を着替える。
真新しい制服に袖を通す感覚は、中身が40歳を超えた俺でも新鮮な気持ちになる。
こういう制服の場合、少し崩して着るのもオシャレか?
それとも、シャツの第1ボタンをきっちりと締め、ネクタイもしっかりと締めるのがオシャレなのか?
……まあ、入学初日だしオシャレとか着こなしとか気にせずにしっかりと締めていこう。
寮から学校まではさほど遠くは無い。
徒歩10分ってとこ。
「春人氏!お早いですな!」
そう声を掛けてきたのは兵頭秋彦。
こっちではヒューゴ・アキ・テイラーだ。
「おはよう秋彦……ってか、どっちで呼べば?」
「そうですな、ミドルネームの『アキ』と呼んでいただいてくれればと。」
「分かった。」
「自分も『春人』よりも『ハル』と呼ばせて頂きましょうかね。」
「だな。ちなみにだけど、転生者であることは隠したほうがいいのか?」
「別に隠す必要もありませんな。学校でも習ったでしょう?」
「……俺の学校では習ってないな……」
「……左様ですか……校区によっては教える学校とそうでない学校がある……と……ふむふむ。」
「てことは、あきひ……アキたちはそれで転生のこととか詳しかったんだな。」
「左様ですな。自分たちは日本で言う小・中学校にて他の転生者共々学業を修めておりましたから。」
「……なんだよそれ……俺だけ田舎生まれってことかよ。」
「……いや……転生者の中にはあの日の居酒屋での店員らもおりましてな、あの日は店員含めて18名おったそうですぞ。」
「……それで……?」
「前に伝えた通り、転生者のうち2名は死亡しておるようですな。すると、最大で16人がこの学校に来ることになりますな。」
「誰か足りないのか?」
「えぇまあ。ハル氏を含めると、14名の転生者が同学年ということです。」
「……てことは、やっぱり桜庭さんは生き残れたって事じゃないか!?」
「仮にそうだとしても、あと1名足りないのです。」
「……誰なんだ?」
「ハル氏は覚えておいででしょうか?御堂氏を。」
その名前を聞いてもすぐにピンとは来なかったが、記憶を辿ると確かにそんな名前のやつがいたなと思い出す。
「……そういや……確かにいたな。あの時確か……桜庭さんの向かいの席に座ってた………ってことは、アイツも生き残ったってことか?」
「桜庭氏の事もですが、そう判断するには少しばかり早計かと存じますぞ。何せ、ハル氏が転生していたことも最近知りましたからな。」
「………ということは…………」
「お察しの通りです。もしかすると、我々と同学年に桜庭氏も御堂氏もおるやもしれません。」
「……桜庭さんには……会いたいような会いたくないような………複雑だなぁ……」
「杞憂であれば良いのですがな。」
会いたくない、と言えば嘘だ。
でも、会いたいかと言えば、正直生き残ってて欲しいとも思う。
そんな話をしてる内に学校へとたどり着いた。
校舎の入口にはボードが張り出されており、クラス分けの表にはズラリと生徒の名前が載っていた。
「俺は……1組か……お!アキとトーヤも一緒じゃん!」
「……ふむ……おそらく、転生者だけは1組に振り分けられているようですぞ。」
1組は14名。
他のクラスは30名となっている。
と言っても全員こちらの世界の名前であるため、誰が誰かなんて検討も付かないが。
14名、ということは、やはり桜庭さんは転生せずに日本で無事だった、ということか。
安心したような、すこし落胆したような気持ちだな。
俺たちがクラスに入ると、既に何名かの生徒が席に着いていた。
席は自由なのだが、何故か前の席は空きがちだ。
この世界でも前の席は敬遠されるようだ。
先に来ていた生徒らは俺の顔を見るなり「あっ」という表情や「誰?」って表情だ。
悪かったな。目立たない奴で。
「お、トーヤ!」
「あ、ハル!それにアキも!」
俺たちは先に来ていたトーヤの席の隣に座ってなんて事の無い話をする。
こうしていると前世と同じだな。
俺は2人と話しながらもクラスに入ってくる生徒らの顔を確認していた。
「あ!キミは!」
そう声を掛けてきたのは……誰だっけ………?
「……えぇっと……どなたで……?」
「僕は松田だよ!どうやらキミも転生してきたわけか……」
「……松田……って、松田先生!?」
「先生はよしてくれ。今やキミたちと同級生なんだからさ。」
「それもそうでしたね。」
松田先生、かなり若い。
いや、日本でもまだ40代くらいだったから若い方だったけど、転生で16歳か……
1番転生の恩恵を受けたのはこの人だな。
「みな、席に着け!」
松田先生との会話の途中だったが、威勢よく女性が入ってきて号令を掛けた。
「私がキミたちの担任のケイト・ラインハートだ。」
担任の先生はどうやら女性か。
年齢は30代くらいかな。
話し方や表情から厳しそうな印象だな。
「キミたちは転生者という事で本校より推薦を受けたのは承知している。しかし、私はキミたちを特別扱いはしない。むしろ、一般入学生よりも厳しく指導する。他の生徒の模範となるべく、重々に心得ておくように。」
マジですか。
この言葉で、少し浮かれてザワついてた生徒らも私語を慎んだ。
「それと、今ここにいる14名の他に、もう1人このクラスで受け持つことになった生徒を紹介する。」
……え……
いや、御堂かもしれない。
だってあの時、桜庭さんは……
扉を開けて入ってきた者に皆釘付けになった。
いや、それは俺が1番釘付けだっただろう。
この世界ではあまり見る事の無いさらさらのロングヘアー。
スラリと長い足。
ピンとした姿勢。
凛とした表情。
そう。
何もかもが完璧なこの女性は……
「彼女はアリシア・ヴェラ・エルミール。エルミリアの第3王女で、キミたちと同じく転生者だ。」




