第5話 出会い
俺が学校をサボり始めて1年。
ついにナツも10歳だ。
ナツも当然ジョブ鑑定を行ったが、こちらはなんと【弓士】だそうだ。
この世界では当たりとされる戦闘職。
弟もジョブを授けられるまで『大道芸人の弟』として嘲笑されていた。
ほんと、ゴメンな。俺のせいで。
でも、ジョブが判明するや、周りの態度が急変した。
笑えるよ、まったく。
父は父であからさまにナツを贔屓した。
多分悪気は無いんだろう。
でも、その悪気の無さはむしろタチが悪い。
へいへい、どうせ俺は穀潰しなんだろうさ。
俺はとにかく、さっさと家から出て行きたかった。
一応ジョブについては自分なりに色々とやってみたが、このジョブは制約というか、色々と制限がある。
まず第一に、人形師と言うからには、操れるのは人型で無ければならない、ということ。
石を変形させてゴーレム!なんてことが出来る訳もなく、人型をしていない物、例えばその辺に落ちてる石ころを人形として操れない。
第二に、可動部が無ければ意味が無い、ということ。
石を人型に整形させたとしても、それを人形のように自在に操れる訳でもない。
関節が無いから動けないんだ。
それならば、と、関節部ごとに木を削り、人形として見立てても、まったく動かなかった。
これはおそらく、腕や足、胴体がそれぞれ独立してしまっているからだろう。
試しにと、布と針と糸で人型のぬいぐるみを作成してみた。
これならば全てが一対であり、動くだろう、と。
結果として、動いた。
だが、それだけ。
言ってみれば、それは人形劇のような感じだ。
ただ、ジョブを発動した時に面白い事が分かった。
それは、ジョブを発動した途端、俺の意識は人形に憑依したんだ。
人形から見える景色、手や足を動かす感覚など。
発動中は俺の意識は人形に乗り移っていた。
まあ、誰かを覗き見るには良いジョブかもな。
けど、結局その程度だった。
俺はほぼ毎日登校はするけど授業にも出ず、裏手の森で今日も今日とて時間を潰していた。
ここは近くに小川があり、この1年で見つけたお気に入りの場所だ。
その時、不意に茂みから音が鳴り、驚いて振り返る。
何かの小動物か?
そう思ったが、現実は俺の予想を超えてきた。
「……なんだ……子供か………」
現れたのは如何にも冒険者ですって感じの装備を身につけた白髪の男だった。
「……え………は…………?」
困惑する俺を無視し、男はそのまま小川へと歩み寄り、手で水を掬って顔を洗い、喉を潤す。
「………えっと…………あの………………」
男は俺をチラリと見て、至極当然の質問を投げかけてきた。
「……小僧……学校は?」
「………え、えっと…………別に………」
「別にってなんだ?」
「……いや………別に行かなくても……分かるし。」
「………そうか………」
大人ならもっと子供に言い聞かせるべき事が有るだろうが、男はそれで納得してしまった。
ま、それも無理もないか。
この人からすれば、俺なんて赤の他人なんだから。
男はカバンから布を取り出し、小川で洗って絞り、徐にそれを服の隙間から入れて身体を拭き始めた。
満足した男は、今度は少し離れた場所へと腰を落ち着け、カバンから何かの干物を取り出して齧り付いていた。
「……食うか……?」
気まずくなった俺がその場を離れようと思ったが、突然男が俺に問いかけた。
「………え………いや、別に………いいです……」
「……そうか………」
「……えっと……それじゃあ俺はそろそろ………」
「どこに行く?学校か?」
「………ど、どこだっていいでしょ………」
「そりゃそうだが。」
「………あなたは……冒険者か何かで……?」
「そうだ。」
「………他には……?」
「………他………と言うと?」
「冒険者は普通、何人かでパーティを組んだりするんでしょう?」
「……あぁ……俺はパーティは組まん。」
「……そうですか……」
なるほど。
この男は、自分でなんでも出来るから、足手まといになる仲間なんて要らない、と。
いいねぇ、さぞかしご立派なジョブをお持ちなんでしょう。
「誰も俺とは組みたがらねぇのさ。」
「………へぇ…………」
良いですよね。
1人でも戦えるジョブを持ってるなんて、羨ましいったらありゃしない。
俺なんて負けジョブなのにさ。
「1人でも戦えるなんて、凄いじゃないですか。」
ついつい口に出してしまった。
「勘違いするな。俺は1人でも戦える訳じゃない。1人でやるしか無かったんだ。」
………ん?
どういう事?
「……それって、どういう意味で………」
俺が更に聞き出そうとした刹那、男が急に立ち上がって俺のほうを睨みながら柄を握りしめていた。
「……ひ…………ち、ちょっと…………!!」
突然殺意を剥き出しにしている男に圧倒され、俺は立ち上がり方も忘れてしまった。
そんな俺の事など知る由もなく、男は一気に間合いを詰めては抜刀し、横一文字に剣戟を見舞う。
あ、終わった。
この人生、呆気なさすぎでしょ。
いくらなんでも、不憫すぎたわ。
負けジョブを背負わされた挙句、いきなり見ず知らずの男に斬り殺されるなんて………
俺が今回の人生の回顧を行っていた所だったが、俺の背後でドシンと何かが倒れ、俺はハッとして目を開けて振り返った。
そこには大きな牙を持ったクマが倒れており、胸元にできた真新しい傷からはとめどなく血が流れ、すでに絶命していた。
「………ひ………うわぁぁぁああああ!!!!」
「……こんなとこにフォレストベアーが出るとはな。小僧、ケガは?」
「……く………くま……………し……死んで………へ………!?」
「どうやら無事のようだな。」
男は俺の無事を確認すると、すぐさまカバンからナイフを取り出してはクマを解体し始めた。
ってか子供の目の前でそんな事やるんじゃねぇ!
グロい!!ってか教育に悪いと思わねぇのか!!
「……おぇぇぇええええ………」
「悪い悪い。つい癖でな。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
しばらくすると男はクマの解体を終え、今ではクマは首を切断されて木に逆さ吊りにされている。
「……少しは落ち着いたか?」
「……えぇ……まぁ…………」
「コイツはフォレストベアーっていう魔物だ。たまに人里付近まで下りてくる凶暴なクマだ。いきなり斬りかかったみたいで怖がらせたな。」
男は少し申し訳なさそうにしている。
悪い人じゃない。むしろ、良い人だ。
俺が抱いた第二印象はそれだ。
ちなみに言うと、第一印象は『怖そうな人』。
「……た……助けてくれて……ありがとう……ございます………」
「別に構わん。それより、森にはたまにこうして魔物が来ることもある。学校をサボるのは良いとしても、もっと別の場所のほうがいいだろうな。」
サボるのは良いのかよ。
「……でも………俺にはどこにも居場所なんて………」
これは本当にそうだ。
この世界に俺には居場所が無い。
負けジョブを背負わされた俺は、せいぜい大道芸人の道を歩まざるを得ない。
「………お前、歳は………?」
……え……?
急に年齢が気になる?
「……えと………11………です………」
「……ふぅむ…………」
男は何か納得したような目つきで俺を見る。
「……その様子だと、ジョブ鑑定で碌なジョブを受けられなかったってとこか?」
「…な、なんで分かるんですか…?」
「……俺も似たような経験があるからだ。」
「………え…………」
似たような経験?
何を言ってんだこの人。
今まさにヤバそうなクマを一瞬で倒したのに?
冒険者なのにパーティすら組まずに一人でやれてる人が、似たような経験だと?
「……あ、あなたに何が分かるって言うんですか!!」
「……………」
「……俺は……俺のジョブは【人形師】なんです……!!それまで周りのみんなは俺に期待して、持ち上げたくせに……!!」
「………………」
「俺はこれから、大道芸人になるしかない。生産職でも戦闘職でもない!たかだか10歳で、負けジョブを背負わされて、これからの人生笑われ者になる俺のことなんて、あなたに何が分かるって言うんですか!!」
「…………………」
「そのくせ弟は【弓士】。親も生徒も、俺が学校をサボってるのを正そうともしない!!もう誰も俺のことは早々に見捨てたんだ!!」
「……………………」
「……笑えますよ……俺、元々地球ってとこで生まれ育って、そこでも才能の無さに辟易してたってのに、転生してもこれだ……」
「………………………」
「どんなに夢を見たって、この世界じゃ通用しない。俺の人生、これからずっと笑いものだ………」
思いの丈を全部出してしまった。
気付くと俺の目から涙が零れてた。
決して俺は勇者とか、そういうのに成りたかった訳じゃない。
でも、自分の運命を早々に決めつけられるこの世界はクソ喰らえだと思ってる。
そう思うと、俺はどうして地球でもっと頑張らなかったんだろう。
今流してる涙は、その悔しさからなのだろう。
「………あなたには分からない………パーティも組まずに1人でも戦えるジョブを授かったあなたになんて……………」
男はただ黙って聞いていた。
ただ、違和感があった。
男は俺の発言に、真剣に耳を傾けてくれていた。
転生なんて言葉、たかが10歳のガキの妄言だろうと笑われるかと思いきや、だ。
一頻り思いの丈を吐き出した俺は、少しばかり頭が冷えてきた。
「……小僧………名は……?」
「……ハル……アルフィード……です。」
「……ハル……か。ハル。お前は勘違いしている。」
「………勘違い………?」
「俺は1人でも戦えるジョブを持っている訳ではない。」
「……で、でも………」
「パーティを組まないのは、誰も俺なんかとは組みたがらないからだ。」
「…………それは…………どうして…………?」
「俺はジョブを授から無かった。俺もハルと同様、10歳でジョブ鑑定を行ったが、どういう訳か、俺はジョブを授から無かった。」
「………ジ……ジョブが………無い…………!?」
「俺も昔はハルと同じようにこの世界を恨んださ。みんなに笑われて、親には失望された。」
「……で、でも、さっきの剣術は……」
「俺の剣術など、本物の【剣士】の足元にも及ばん。ある事をきっかけにだが、俺は俺を諦め無いと誓った。俺が俺を諦めたら、それで仕舞いだ。」
「……………」
「だから俺は、人一倍努力するしか無かった。俺から言わせてもらえば、何も授からなかった俺よりも、ジョブを授かれたハルのほうが羨ましい。」
「……でも……【人形師】だなんて………」
「その可能性を広げられるのはハル、お前しかいない。お前はお前を諦めるつもりか?」
考えもしなかった。
この世界で、ジョブを持たない人がいるなんて。
でも、この男の言うことは、多分本当の事なんだろう。
それなら、この人が一体どれ程の苦悩があっただろう。
俺なんかより、はるかに険しい人生を歩んだのだろう。
彼は、そんな逆境をものともせず、今もこうして俺を助けられるほど強い。
「……俺を………」
俺は両膝を地につけ、頭を下げた。
「俺を、弟子にして下さい!!」
学校はくだらないと思ってる。
それは、あそこで学ぶべきことなんて俺にとってゼロだから。
でも、この人からなら学びたい。
いや、この人じゃなきゃダメなんだ!
「……俺は先も言ったが、ジョブ無しだ。俺からお前に教えられることなど……」
「たくさんあります!!……俺は今まで、何かあるとすぐ諦めてた……でも、あなたは諦めなかった!!俺は、あなたから学ぶべきことが山ほどあります!!」
「……しかしだなぁ……」
「お願いします!!荷物持ちでも身の回りの世話でもなんでもやりますから!!」
「……ふむ………そこまで言うなら、俺からの課題をクリアすれば教えてやる。」
「……!!……はい!!」
「学校に行け。」
「………は………?……学校………ですか………?」
「そうだ。諦めない根性を鍛えるんなら学校もだ。」
「……学校も……」
「人に後ろ指指されようが笑われようが、そんな事で諦めるようなやつは弟子に要らん。」
「……分かりました……!」
「それと、あまり目立つな。『能ある鷹は爪を隠す』。」
「………それは………!!」
「いいな?」
「……はい……!!」
「……そう言えばまだ名乗って無かったな。俺の名はローガン。」
「ローガン師匠!」
「まだ弟子にするとは言っとらん。」
「……認めてもらうよう頑張ります!!」




