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ジョブ世界の人形師  作者: かるぱりあん
第4章 約束
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第38話 約束

 『セルス山には温厚なドラゴンが住み着いている。何人たりとも、このドラゴンの逆鱗に触れるなかれ。』



 ヴァレンティアの街で号外が飛ぶ。


 それにより、瞬く間に市民に知れ渡った。



 グランさんは調査員らの報告を受け、例の白ドラゴンの親子を俺の願い通りに静かに見守るように国王に嘆願書を持って行ってくれたそうだ。


 ただ、それをセルス山近隣住民が許すかどうか、だった。



 最初のうちは皆ドラゴンを恐れていたものの、転機が訪れる。


 それは、ドラゴンが村に来た魔物を退治してくれたのだ。


 そうした声が徐々に大きくなり、セルス山の住民らは白いドラゴンを守り神として迎え入れてはどうかという話にもなっている。


 それにより、国王もこのドラゴンの親子をセルス山に住まわせても良いという許可を出してくれた。



 良かったなぁ、お前ら。


 にしても、近隣住民にそうやって取り入るとは中々に利口だなぁ。




 それから、討伐の報酬について。



 本来、ドラゴンの討伐が完了すればA級なら白金貨200枚。S級なら500枚という契約だった。


 今回は色々とあって目的のドラゴンでは無いにしろ、別のドラゴンを倒したわけだ。


 鑑定によるとそのドラゴンはA級のようで、俺の手元には200枚の白金貨と、別で400枚の白金貨が手渡された。


 というのも、その400枚の白金貨は魔人の討伐報酬なのだとか。



 ………いやいや………


 合計で白金貨600枚?


 日本円で6億?


 ………いくらなんでも貰いすぎだ。



 丁重にお断り申し上げようとしたのだが、グランさんは『これでも少なすぎる』と言っていた。


 魔人がもしもヴァレンティアに襲撃してくるとなると、その損害は計り知れない。


 それを未然に防いだ功績なら、白金貨1000枚は渡したい、との事だ。


 ……いやぁ……さすがにそれは……


 別に金が要らないって訳じゃない。


 ただ、これだけの大金を持ち歩いたことも無ければ、使い方もよく分からない。


 使い道があるとすれば、ナツの学費とか、父さんの治療費とか……あとは人形の改良くらいだ。



 俺は白金貨600枚を受け取り、ギルドを後にする時には膝がガクガクだった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「……こんな大金……怖ぇよ……」


「確かに、学生が所有するには些か大金すぎますな。」


Axel(アクセル)とかアップグレードするにしても使い切れないし……」


「そそ、それなら、新型の開発とか!?」


「……まあ……それくらいしか無い……かな……」


「ご両親にも送る予定なのでしょう?」


「……送ろうとしたけど……断られたよ。『その金はお前が努力して掴んだものだから、大事にしろ』ってさ。」



 俺は、大金を手に入れた後すぐにBlaze(ブレイズ)にリンクして父さんに伝えた。


 もしもナツが特待生になれなかった時は、この金で面倒を見て欲しいってことと、父さん自身の治療費とで、だ。


 でも、返ってきたのは先の通りであり、父さんは受け取りを拒否した。


 少しくらい親孝行させてくれよな。


 ただ、父さんは言ってくれたっけ。


「お前のお陰で腰の調子も良くなった。今度は種まきが控えてるが、その時に気が向いたら手伝ってくれるだけでいい。」


 って。


 まあでも、正直、頼ってくれて嬉しかった。



「ちょっといいかしら?」


「ふぇっ!?」



 ……いつもの如く背後から驚かせてくるこの透き通った声の主は……



「……な…何か……?」


「少しだけ時間をもらえる?」



 やはり我が女神様ことアリシアだ。


 しかしながら、今日は少しばかり言葉に怒気を孕んでいらっしゃる……?



「では、我々はこれにて失礼致しましょうか。」


「そそ、そうだね。ハル、また寮で。」


「…お、おう。」



 気を使ってくれたのか、アキとトーヤはそそくさと寮へと帰っていった。


 俺とアリシアはそのまま学校から出た後、送迎用の馬車へと案内された。


 やはり王女が乗る馬車とあってか、いつ見ても豪華な馬車だ。



「お嬢様、如何致しましょうか?」


「悪いけど、しばらく適当に走らせてくれるかしら?」


「かしこまりました。」



 そう言うと馬車は宛もなく動き始めた。



「……………」


「……………」



 アリシアは俺をじっと見つめたままで、この沈黙の時間が非常に気まずい。



「………えぇっと……な、何か用があったんじゃ……?」


「先日のセルス山の件。お父様から聞いたわ。あなた、単独でドラゴンと魔人を倒したって。」



 実はこの事については国民には伏せられている。


 この短期間に2度もドラゴンと魔人が襲撃してきたとなっては、国民に無用な混乱を招く(おそれ)があるとの理由でだ。



「……えっと……まぁ……うん。」


「どうしてそんな無茶を!!」


「んえっ!!?」



 アリシアは突然声を張り上げて俺に迫った。


 ……まあ……俺だってさ?


 まさかまた魔人が来るとは思ってなかった訳でさ?


 仕方ないじゃん?


 俺がやらなきゃ、あの白ドラゴンの親子が殺されちゃってたわけだし。



「……まぁ……成り行きというかなんというか……」


「………黒衣の騎士でなら万が一殺られても大丈夫だというのは分かる。でも、もし失敗すれば近隣の街がどうなってたと思うの!?」


「……そ……それはなんというか……」


「アナタの正体がバレる危険性だってあったのよ!?黒衣の騎士が人形だと相手に知られたら、今度はその操縦士を狙う。もしそうなったとしたら……」



 ………確かに、アリシアの言う事も分かる。


 でも……



「……アリシアの言う事も分かるけど……でも、あのまま俺が白ドラゴンの親子を見殺しにしたら、多分俺は後悔すると思ったんだ……」


「……約束して。」


「……約束……?」


「もしまたギルドから無茶な依頼があった場合、私にも相談して。何も役に立てないかもしれないけど……それでも、アナタ1人が背負う必要なんて無い。」


「……ま……まあ……そんな大層な事じゃ………」


「大層な事よ。ハルは自分の力を過信して周りが見えなくなる傾向がある。ゲームの時はそれでも良いのかもしれないけど、これは現実。下手をしたら命を失う事にも繋がるの。」



 ……ぐうの音も出ない。


 確かにアリシアの言うように、俺は少し天狗になってる。


 新型Axel(アクセル)でならドラゴンの単騎撃破も可能だろう、と。



 ………でも………怖いんだよな。



 誰かの手を借りるってことは、その人にもし何かあったら……



「それでもしも私が巻き添えを食らったとしても、私はハルを責めない。これは、私自身がハルの力になりたいと思った事だから。」



 …………………



 ……あぁ………やっぱり………



 ………やっぱり、アリシアがピースさんだ。



 ピースさんはいつも俺に今1番欲しい言葉をくれる。



「……ピースさんは本当に俺のことよく分かってますね……」



 思わず心の声が出てしまった。



「当たり前よ。」



 ……当たり前、か。


 ……なんか恥ずかしいな。



「……分かった。約束するよ。何かあったら、必ずアリシアにも相談する。」


「お願いね……」



 そう言ったアリシアの表情が少し柔らかくなっていた。



「……それにしても……さすがね。」


「………えぇっと……何が………?」


「ドラゴンと魔人を単騎で撃破したなんて。いくら人形の性能が上がったとはいえ、そんな芸当が出来るのはハルじゃないと出来ないわ。」


「……前に来たアスタロトよりも弱かったってのもあるかな。」


「ハッキリ言って、アナタの実力は王国騎士団の誰よりも強い。……いいえ、おそらく、この大陸の誰よりもね。」


「……ほ……褒められたって何も出やしないけど……」


「さすがはカタパルトさんってところね。」


「……そういや……アリシアはどうして前世でゲームを?……なんとなくだけど、あんまりそういう風に見えないっていうか……」


「……色々あってね……簡潔に言えば、ゲームで違う人生を体験したかった……ってところかな。」


「……違う人生……?」


「ゲームにはアバターっていうのがあるでしょ?ゲームの中で生きる自分の分身。現実では思うように生きられなかった私が、ゲームの中でなら違う人生を楽しめるのかなって、ただそれだけよ。」


「………それって……現実に満足してなかったってこと……?」



 アリシアはそのまま黙って視線を落とした。



 俺は思いもしなかった。


 なにもかもが完璧なアリシアが、そんな風に自分の人生を感じていたなんて。


 高校の頃に根も葉も無い噂で彼女は孤立した。


 1人、また1人と友達が去っていく。


 そんなの、俺なら耐えられない。



「………ごめん………」


「………何が………?」


「……あの噂……本当はアリシアがそんな事をする人じゃないって分かってたのに……俺、見て見ぬフリをしてた………今更謝ったところで取り返しが付かないのは分かってるけど、それでも……」


「………勘違いしないで。」


「………え?」


「あんな程度の低い噂なんてなんとも思っていないわ。」



 ……え……?


 そうなの?


 ………それなら………?



「…………私はね……前世では親の操り人形だった。小さい頃から親の思い通りに動くだけの人形……」


「………操り……人形………?」


「私に自由は無かった。小さい頃から習いたくもないピアノやバイオリン。学業では当然1番以外認められない。それどころか、着る服も、遊びも、何もかも制限されたわ。歯向かうことなんて許されない。」



 ………マジかよ………



 俺も前世の両親は小さい頃は『ゲームは1時間まで』とか『さっさと片付けをしろ』なんて怒られた。


 でも、アリシアの躾はそんなレベルじゃないんだろう。


 親の敷いたレールに1ミリもズレることを許されない人生……



 周りは言うだろう。


 『立派な子供を持って羨ましい』って。


 でもそれは、子供の人権を奪ってるだけだ。


 そりゃあ子供のやりたい放題にさせるのは良くは無い。


 でも、限度ってものがある。



 子供は決して親のアバターじゃない。



「………なら、約束して欲しい。」


「……約束?」


「うん。俺も何かあったら必ずアリシアに相談するから、アリシアも何かあったら俺に相談して欲しい。何が出来るかは分からないけど……でも、力になりたい。」


「…………………」



 アリシアは前世では自分の人生を生きられなかった。


 でも今世はどうだ?


 第3王女とはいえ、それでも王族となれば自由も制限される。


 この世界にはゲームのような仮想世界も無い。



「………約束して欲しい。」


「…………………」



「お嬢様、ご到着致しました。」



 アリシアからの返事の前に、護衛が馬車を止めた。


 窓からは男子寮が見える。



「アリシア……約束は……」


「……分かったわ。私も約束する。」



 そう言った彼女の表情は……優しいような……それでいて儚いような………そんな表情を見せていた。

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