第37話 白ドラゴンの親子
魔人とドラゴンの同時撃破。
この偉業を達成出来たのは間違いなく師匠の教えとアキの設計とトーヤの鍛冶のおかげだな。
にしても、槍がどっかいっちゃったわ。
後で分かったことだけど、俺が投げた槍は200メートルも離れた岩に刺さっていたようだった。
当然、誰の槍がこんな所に突き刺さっているのか不明だったために回収しようとしたものの、深々と突き刺さった槍を誰も引き抜くことが出来ずに『伝説の槍』として奉られることになったのだとか。
……話を戻そう。
ドラゴンと魔人は綺麗に胴で両断され、すでに絶命していた。
俺は取り敢えずはドラゴンから心臓を抜き取り、その足で白ドラゴンのほうへと足を運んだ。
白ドラゴンは傷だらけだったが、俺の姿を見るとすぐさま警戒態勢に入った。
……が、その目にはあまり敵意は感じられない。
俺は武器を地面に置いて、ゆっくりとドラゴンへと近付く。
ドラゴンも俺に敵意を感じなかったのか、近付く俺に攻撃の素振りは見せなかった。
俺は傷薬を取り出し、ドラゴンの身体に出来た傷へと塗り込んでゆく。
薬が染みたのかドラゴンが呻くも、俺は構わずに他の傷にも薬を塗っていった。
傷の痛みにより息の荒かったドラゴンだったが、次第にその呼吸が整えられていった。
話せないけど、伝わって欲しい。
お前を傷つけるつもりはない。
どういう理由で魔人に殺されそうになったのかは知らないけど、お前は守るのに必死だったんだろ?
けど、もしもお前が人間を傷つけようとするなら、その時は容赦しないぞ?
この想いが通じたのか、ドラゴンはそっと首で自分が守っていた存在を俺に見るように視線を誘導した。
ドラゴンの後ろには小さいドラゴンが1匹、ちょこんと座って俺のことを不思議そうな目で見ていた。
なにこの子!!
超可愛いんですけど!!
俺はその小さいドラゴンにそっと近づくも、親のドラゴンは襲ってくる様子は無かった。
そのまま俺は屈んで、小さいドラゴンの頭を撫でた。
子ドラゴンは目を瞑って受け入れてくれた。
俺はそのまま猫を撫でるように顎の下を撫でると、子ドラゴンは気持ちよさそうな表情をしてコロコロと喉を鳴らす。
……やっば……
クッソ可愛い……!!
…………………はっ!!
やばいやばい。
余りにも可愛くて時間を忘れてなでなでしてしまった……
しかしながらどうしたものか。
確かにグランさんの言っていたように、セルス山にドラゴンが住み着いていた。
でも、なぜかこの白ドラゴンは魔人に殺されそうになっていた。
俺としては、もしこのドラゴンが人に危害を加えないんなら、討伐する理由も無いし、なんなら子育てが落ち着くまではセルス山に置いてあげてほしいとも思う。
ただ、それをグランさん含めてギルドが許すのだろうか。
………ともかく、一旦戻るとするか………
俺はリンクを解除して本体に戻った。
「……おや、ハル氏。もうお戻りで?」
「まま、ま、まさか、ドラゴン倒したの!?」
「……まあ、倒すには倒したんだけど……聞いてほしい。」
俺は2人に事の顛末を話した。
「……また……まま、魔人とドラゴンが……しし、しかもそれをハルが倒したの!!?」
「……さ…さすがはハル氏……ですな………」
余りの衝撃にアキも驚いていた。
「でさ、元々住み着いていたほうのドラゴンなんだけど……俺としては、そっとしてあげて欲しいんだよ。」
「……ほ、本気!?」
「あぁ。なんか知らないけど、魔人に殺されそうになってたし。」
「……いずれにせよ、一度ギルドには報告せねばならないかと。我々の一存では決め兼ねる案件かと存じますぞ。」
「……だよな。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ということで、俺たちはすぐさまギルドへと趣き、グランさんに事の顛末と、白ドラゴンをそっとしてあげて欲しい旨を伝えた。
「……アルフィード君。そのドラゴンが人里に降りて危害を加えないという保証は?」
「………ありません………」
「………それでも、白ドラゴンを放置しろ、と?」
「だ、だって、ドラゴンはただ子育てしようとしてたんです!!それに、魔人にも殺されそうになってて……」
「…………ふむ…………」
グランさんは眉間に皺を寄せてより一層険しい表情をした。
「……アルフィード君は、もしも『絶対に襲わない魔物』が隣で住んでいたとして、安心して過ごせますかな?」
「………そ……それは………」
………無理だ。
日本で例えるなら、絶対に襲わないヒグマと言われていても、そんな危なっかしい動物が隣にいて安心なんて出来やしない。
「まず無理でしょう。」
「………なら……あのドラゴンは殺すべきだ、と……?」
「……それについてですがね……」
ドラゴンは他の魔物と比べて知能がかなり高い。
魔人は魔物を使役することが出来るが、その魔物が何でもいい訳ではない。
魔物の中でもドラゴンは別格の強さを誇るだけでなく、その高い知性から魔人は古くから使役してきた歴史がある。
ただ、今回のように魔人がドラゴンを殺そうとしたことは本来なら有り得ない。
その白ドラゴンは何らかの理由により魔人に対して反旗を翻したということだ。
それに、子育てのためとはいえセルス山に住み着いて、今日まで人里を襲撃された形跡すら見当たらない。
「……我々としてもどうしたものか……ただ、此度のドラゴンと魔人の討伐は、明らかにアルフィード君がいなければ達成出来なかったでしょう。その方からの切実な依頼とあれば、我らとてそれを無碍に断る事は出来兼ねます。とはいえ、ここまでの事となると、国王陛下に許可を貰わねばならんでしょうな。」
「………どうか……お願い出来ませんか……?」
「一先ずは討伐されたというドラゴンと魔人の死体を確認させて頂いても宜しいですかな?」
「……あ、はい。俺が誘導しますんで。」
「すぐに近くのギルドへと報せを送りましょう。早速で申し訳ないのですが、明日は如何でしょう?」
急いだほうがいいに越した事は無い。
あのまま死体を放置してしまうと腐敗して異臭を放つし。
それに、明日はちょうど休日だ。
「構いません。あと、もう一つだけお願いしても?」
「なんでしょうかな?」
「生肉を10キロほど、現地でいただけますか?」
「……生肉を……?……なるほど……まあ、良いでしょう。しかし、もし万が一そのドラゴンが襲いかかって来た場合は……宜しいですかな?」
「……はい。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
そうして次の日、俺は朝からAxelでギルド職員らと麓で合流した。
ギルド職員は俺がグランさんにお願いしていた通りに生肉を用意してくれており、ドラゴンの心臓を手渡して生肉を背負い込んだ。
中々に険しい山道を通っているが、ギルド職員らは慣れているのか疲れている様子も見せずに黙々と山を登っていた。
そうしてドラゴンと魔人の死体がある場所へとやってきた。
職員らはドラゴンの死体を観察し、それぞれのジョブですぐに解体が始まった。
魔人の死体はその場で荼毘に付した。
その光景をあの白ドラゴンが遠巻きに見守っている。
警戒はしているものの、襲ってくる様子は無さそうだ。
「……あ、あのう……あれが例の白ドラゴン……ですか……?」
職員の1人が俺に確認を取る。
話せない俺はただ静かに頷いた。
「……ほ……本当に……襲って来ない………?」
俺はそのまま白ドラゴンの方へと歩み寄り、背負い込んでいた生肉をドラゴンへと差し出した。
最初は警戒していたドラゴンだったが、生肉をクンクンと嗅いだ後、生肉を1口。
毒は無いと安心したのか、子ドラゴンに食べるよう促し、ひょこっと子ドラゴンが現れてムシャムシャと生肉を食べていた。
子ドラゴンはお腹が空いていたのか、生肉をそのままペロリと平らげてしまい、おかわりが欲しそうな目で俺を見つめていた。
おいおい、まだお腹空いてるのか?
ってか、母親のお前も腹が空いてるだろうに。
でも生憎、今手持ちの肉はもう無いんだよな。
「……すげー………ってか子供のドラゴンなんて…俺初めて見た……」
「……か……かわいい……!!」
声がして振り返ると俺のすぐ後ろにはギルド職員がその光景を見守っていたようだ。
その時、母ドラゴンが何かを感じ取ったのか、いきなり首を擡げ、その行動にギルド職員は驚いて腰を抜かした。
しかし、どうやらギルド職員が気に障ったのでは無いようだ。
母ドラゴンは腰を抜かしたギルド職員らに見向きもせず、森の中の一点を睨んでいる。
……なるほど。
何か魔物がいるってわけね。
俺は母ドラゴンが睨んでいる森へと向き直り、刀の柄を握る。
直後にドラゴンの解体を行っていたギルド職員らが悲鳴を上げる。
どうやらドラゴンの屍肉の臭いで魔物が現れたようだ。
「た、助けてくれぇぇええ!!!!」
「フォレストベアーだ!!」
逃げてくる職員らの後ろからフォレストベアーが現れた。
「……フォレストベアー!?……こ、黒衣の騎士さん、お願いでき………!?」
ちょうど良かった。
肉が欲しかったんだよ肉が。
俺は逃げる職員らを襲おうとしていたフォレストベアーに一瞬で駆け寄って首を撥ねた。
ゴロンとフォレストベアーの生首が転げ落ち、その後にドシンと図体が崩れ落ちた。
フォレストベアーの死体を担ぎ、先のドラゴンの元へと戻ってその死体を横たえた。
母ドラゴンは俺のその行動を不思議そうな目で見つめていた。
いいから食えって。
お前も腹減ってんだろ?
俺のその思いが通じたのか、母ドラゴンは俺に頭を下げた。
許可を求めているのか、母ドラゴンは頭を下げたままにしていたため、俺は『いいぞ』と言わんばかりに母ドラゴンの頭をそっと撫でた。
すると母ドラゴンはフォレストベアーに齧りつき、それに倣って子ドラゴンもムシャムシャと食べ始めた。
「……ほ……本当に……ドラゴンを手懐けてる……」
「……てかさ……さっきのフォレストベアーへの攻撃………お前、見えたか……?」
「……見えるわけ無ぇよ……気づいたら首が飛んでたし………」
「可愛い!一生懸命食べてる!」
ホント、可愛いよな!
こんな子ドラゴンを殺すなんて出来るわけがない。
そもそも、殺すという選択肢なんて有り得なさすぎる。
一頻りフォレストベアーを食べた母ドラゴンは満足したのか、首を擡げて俺を見つめる。
仕方ないのかもしれないけど、口の周りが血塗れだな。
そうして何を思ったのか、頭で俺を掬いあげて自身の背に乗せた。
うおっ!?
なんだ!?
そう思ったのもつかの間。
母ドラゴンは翼を広げて突然空へと舞い上がった。
……そっか。
お礼のつもりなのか。
気付くと子ドラゴンも俺の後ろに乗っており、母ドラゴンは俺たちを乗せて優雅に空を飛んでみせた。
空から見る景色は、地上から見るそれとはまた違った。
眼下に広がる山の麓。
そこから伸びる街道沿いにあるいくつかの小屋。
遠くには村が見える。
ドラゴンは翼をはためかせて優雅に空を飛び、風が心地良い。
後ろにいた子ドラゴンを抱っこして膝の上に乗せると、とても嬉しそうにはしゃいでいる。
母ドラゴンはそのまま大空を飛び回り、俺たちに優雅な時間を与えてくれた。




