第35話 ギルドマスターからの依頼
「自由にかけてください。」
ギルドマスターのアレクサンダー・グレン。
彼に案内された俺たちはギルドマスターの私室へと招かれた。
部屋には大きな机にソファ。
壁には剣や鎧が立て掛けられ、本棚にはビッシリと本が敷き詰まっている。
俺たちは恐る恐る横並びでソファに腰掛けた。
「そう警戒する必要はありません。まずは、此度の襲撃に際し、ギルドマスターとして礼を言わせて頂きたい。誠に感謝致します。」
驚いたことに、突然頭を下げてきた。
「……えっと……あ、あれは俺たちじゃなくって、ですね……黒衣の騎士が……」
「なので、こうして貴殿に礼を伝えねばならんと。」
………この人、どうして俺が黒衣の騎士だと知ってるんだ……?
まさか、騎士団の誰かが漏らしたのか?
「……グレン氏、でしたかな。お話ください。どうしてハル氏が黒衣の騎士だということをご存知で?」
「そうですな。順を追って説明しよう。」
グレン氏は反対側にあるソファに腰を落ち着け、真剣な眼差しで語り始めた。
「私は【鑑定士】というジョブを持っておりましてな。失礼ながら、先程黒衣の騎士がいらした際に、鑑定させてもらったのです。」
「……かん……てい……し……?」
「このジョブは、あらゆる人物の名やジョブを知ることの出来るジョブです。黒衣の騎士を鑑定した際に……」
「ハル氏の名前が出た、というわけですな?」
「左様です。」
【鑑定士】。
なるほど。
てっきり騎士団から漏れたのかと……
疑ってごめんなさい!騎士団さん!
「……あの……出来れば、俺が黒衣の騎士だってことは……その………」
「分かっております。」
「……それで、こうして我々をわざわざこの部屋に招いたということは、他に要件があるというわけですな?」
「……えぇ。実は、セルス山をご存知でしょうか?」
「……セルス山……?」
……セルス山……
確か、ヴァレンティアより南西にある山の名前だよな?
討伐クエストがたまにあるけど、ヴァレンティアから結構離れた場所にあるためか、クエストボードでもずっと残り続けてるのを覚えてる。
「……その山が何か?」
「南西支部のギルドからの通達によりますと、先日その山にドラゴンが現れたというのです。」
「……ドラゴン……!!?」
「まだ調査の段階ですが、ドラゴンは非常に危険な魔物。先日も大会に魔人と共に襲撃し、多数の損害を与えてきたのも記憶に新しいかと。」
授業の『魔物学』でもドラゴンの危険性について聞かされた。
俺の場合は実際に戦ってその脅威を身をもって体験している。
そんな奴がセルス山に住み着いているだと?
「勝手な願いだというのは重々に承知しております。ですが、どうか。どうかそのお力をお貸ししては頂けませんでしょうか?」
ギルドマスターは再度深々と頭を下げた。
「……ドド、ドラゴンだなんて……しかもセルス山なんてここから………」
「……空を飛べるドラゴンからすれば、目と鼻の先でしょうな。」
「……そんな……ハル、なな、なんとかできない…!?」
「……まぁ、何とか出来なくはないけど……」
「当然、此度の強盗の撃退報酬についてもお渡しさせて頂きます。勿論、ドラゴンの討伐に出撃して頂けるのなら、さらに追加でお支払い致します。」
「……ま、まあ、報酬うんぬんは置いといて、俺は別に………」
「ハル氏、お待ちくだされ。」
「……ん?……アキ、どうしたんだ?」
「グレン氏、もしも黒衣の騎士に頼めない状況だったとするならば、如何様にしてドラゴンを退治するつもりなのでしょう?」
「……アキ……?」
意地悪な質問だなぁ、ってちょっと思った。
でも、アキは決して意地悪な質問はしない。
アキは俺たちの中で1番慎重だ。
「……そうであれば、騎士団と腕の立つ冒険者らを募る必要があるでしょう。」
「……となると、さらに時間を要するというわけですな。」
「そうですな。」
「グレン氏。おそらくハル氏はドラゴン退治を引き受けるでしょう。ですが、自分としては1つ懸念点があるのです。」
「遠慮なく仰ってください。」
「グレン氏は黒衣の騎士の正体を知りました。その上で最悪なのは、グレン氏が裏で何者かと繋がってはいないか?という事です。」
……ん……?
どゆこと?
「……なるほど。テイラー君の仰るように、例えば私が裏で何者かと繋がっており、アルフィード君に黒衣の騎士を操ってもらう。その間はアルフィード君は無防備。黒衣の騎士を消したい輩からすれば格好の餌食、というわけですな。」
……そうか。
このギルドマスターは俺が【人形師】を行使している間は無防備になることを知っている。
『ドラゴン退治』と称して黒衣の騎士を誘い出し、本命は俺本体を殺すこと。
アキはそれを懸念しているというわけか。
「疑われるのも無理もないでしょう。ですが、これは私がこの中央支店のギルドマスターの名をかけて、そのような蛮行は決して行わないと誓いましょう。」
「……誓う……と言われてもですな……」
「ならアキ、こうしよう。」
「……何か妙案が?」
「ドラゴン討伐には、俺1人で行く。行くタイミングは俺に任せてくれればいいし。」
「ハ、ハル!?相手はドラゴンだよ!?」
「そのほうが俺の無防備時に襲撃される危険性を大幅に減らせるだろ?それに、誰かと一緒に行動するとなると、常にAxelにリンクしておかないと怪しまれるし。さらに、俺なら例え負けたとしても、損害はAxelだけだ。」
「………た……確かにそうだけど………」
「どうだアキ?」
「……ふむ……致し方ありますまい。ハル氏には負担を掛けてしまうでしょうが、それが最善手かもしれませぬな。」
「……私からお願いしておいてですが……ドラゴンはA級の討伐クエスト。下手をすればS級です。本当にお一人で宜しいので?」
「構いません。その代わり、いつ行くのか等はお伝え出来ませんが。」
「……わかりました。では、お願い致します。」
ギルドマスターは立ち上がって金庫を開け、その後に机に白金貨を積み上げた。
枚数は…1、2、3………20枚。
その白金貨タワーが10本ある。
えーっと、つまり……20枚×10本で……
白金貨200枚!!!?
「ち、ちょっと!!?これ、貰いすぎでは!!?」
「強盗団から取り返してくれた功績として白金貨100枚。さらに、ドラゴン討伐クエストの依頼料として白金貨100枚。当然、無事に討伐が完了すれば、さらに報酬をお与え致しましょう。」
「……ち……ちなみに……討伐報酬は……?」
「ドラゴン討伐を完了すれば、追加で白金貨300枚。S級だった場合はさらに追加で200枚で500枚、といった所でしょうな。」
「……ま……まじかよ………」
Axelを通じて金貨の山はさっき見た。
でも、実際に肉眼でキラキラと輝く白金貨を前にすると思わず生唾を飲んだ。
「ドラゴン討伐後は心臓の回収をお願いします。」
「……あ……心臓については分かりましたけど、その後の死体はどうすれば……?」
「討伐が完了次第、こちらの職員が死体の回収を行いますのでご心配あらず。」
「分かりました。」
「……ハル・アルフィード君。どうか、宜しくお願いします。」
グランさんはそう言って改めて頭を下げた。
俺たちは白金貨を受け取って部屋を後にした。
……にしても、白金貨200枚とは……
学生には似合わない大金だ。
しかもドラゴン討伐が完了すれば、さらに300枚。もしもS級ドラゴンだと認定されれば500枚だ。
……いやいや……
さすがに大金すぎる。
……けど、もしもこれだけの金があれば、ナツが特待生になれなかった時の保険として運用できるか。
……ただ、その金を父さんやナツが受け取るかどうかだけど。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
寮へと戻った俺たちは、俺の部屋で作戦会議を執り行う。
「……全く……ハル氏のお人好しも大概ですな。」
「……そう言うなよ……それに、ドラゴンがもしどこかの街を襲ったりして死人が出たら寝覚めが悪いし。」
「……でで、でも……ハル1人で大丈夫なの……?」
「……前の時は師匠もいたからなぁ……」
俺は、先日アスタロトがドラゴンを引き連れて襲撃された事を踏まえ、魔物学でドラゴンについて調べていた。
当時の武器では硬い鱗を斬る事が叶わず、比較的柔らかい部分を攻撃したが、魔物学でも討伐にはその柔らかい部位を重点的に攻撃する事が必須とされていた。
ただ、厄介なのはブレスを吐くことだ。
この前のドラゴンは火属性のブレスを吐いてきた。
高温の火焔ブレスを吐かれては、生身では近寄る事すら出来ない。
Axelが人形であるが故の特権だな。
ただ、吐くのは火焔だけじゃない。
ドラゴンによっては氷や雷といった属性のブレスを吐く。
想定される内で一番危険なのは『腐食』だ。
ドラゴンの吐くブレスには金属を腐食させるブレスも確認されている。
当然、Axelでこんなのを喰らえば一溜りも無い。
「……いちばん怖いのは、ドラゴンが腐食のブレス持ちだった場合だな……」
「こ、この前のは火焔だったもんね。」
「なあアキ。腐食に強い金属とかあるのか?」
「……腐食に強い金属ですか……ふむ………」
アキは記憶を辿っているのか暫く黙考した。
「……腐食ブレスとは、どんな腐食作用を齎すのかが重要ですな。金属を錆させるのか。溶かすのか。全面腐食なのか局部腐食なのか。ただ、どの場合にも言えるのは、安定した金属を使用するか、表面皮膜のある金属を使用することですな。」
「……分かるように説明をお願いする。」
「……そうですなぁ……」
まずはステンレス。
これは俺たちでもよく聞くし、実際に家庭用シンクにも利用されていた。
錆に強く、さまざまな用途で用いられる。
ただし、強酸や強アルカリに曝されると表面皮膜が破壊され、腐食を起こしてしまう。
続いては純金だ。
金属として非常に安定しており、腐食にめっぽう強い。
ツタンカーメンのマスクが今も輝いているのはその腐食耐性があるからだ。
ただし、純金は非常に柔らかい。
金箔が髪の毛よりも細い薄さまで引き伸ばせるのは、それだけの柔らかさを持つ金だからだ。
他にも白金やらチタン、クロムなどもある。
「この世界のアダマンチウムも優れた耐食性を持っておるでしょうな。ただ、Axelに使われているような合金の場合、どこまで耐食性を持つのかですが。」
「……まぁ、今んとこ錆びたりしてる様子はないかな?」
「1番なのは、どんな属性にせよブレスを受けないことですな。」
「……そう言われても、近付くだけで周囲にブレスを撒き散らしてくるんだぜ?」
「なれば、近付かなければよいのです。」
「……いやいや……銃は火薬が作れないって前に……」
「火薬を使用せずとも、高威力の遠距離攻撃を放つ武器があるでしょう。」
「……弓矢……か?……でも俺は弓矢なんて……」
「分かっております。その前に、お二方に少しクイズを出題しましょう。」
「……は……?……クイズ……?」
「……ど、どんなクイズなの?」
「古代の地球で、人間は他の危険な動物がいる中で、どうやって勝ち残ってきたのか?言い換えれば、人間が他の動物よりも優れていた点を3つ挙げてくだされ。」
「……優れていた点……?……賢い、とか?」
「まぁ正解としましょう。人間は優れた知能で複雑なコミュニケーションを取れますな。それに、その知能で道具を作り、使います。」
「……あと2つ……?……トーヤ、なんか思いつくか?」
「……うーーん……」
その後も俺とトーヤは考えたものの、残り2つは思いつかなかった。
「では正解発表としましょう。まずは、スタミナが優れているのです。」
「……スタミナ……?」
「瞬間的な速度で言えば、人間は他の動物よりも走るのが遅いですが、継続的に走れるのは人間の強みです。マラソンを走り切れるのは人間だけなのです。」
「……でも……それがなんで強いんだ?」
「人間は集団で狩りを行うでしょう。傷を与えた獲物をその持久力でジワジワと追い詰めてゆくのですな。」
「……なるほど………」
「あ、あと1つは?」
「それは、投擲能力です。」
「……投擲……投げる能力ってことか?」
「左様。人間は肩が発達しておりましてな。鍛えれば野球選手のように160キロもの豪速球を投げる事もできるのです。さすがに素人ではそう簡単にはいきませんが。
それだけではありません。人間は動いている対象でも動きを予測して投げる事もできるのです。所謂、偏差撃ちですな。」
「……頭が良いからこそ出来る芸当ってわけか。」
「そ、そうだったんだ。あんまり意識した事無かったや……」
「本題に戻りますが、Axelで遠距離攻撃を行うのなら、この投擲能力を活かすべきだと思うのです。」
「……なるほど………槍投げみたいに、武器を投げるってことか……!」
「そ、それならそんなに訓練せずともある程度なら強い遠距離攻撃が出来るってわけか!」
「本格的にダメージや飛距離を出すのなら訓練も必要でしょうが、Axelのパワーであれば、相当に強い攻撃が可能でしょうな。」
「なな、なら早速作ろう!えーっと、槍だっけ!?投げるんなら斧とか!?」
「槍でしょうな。投げての攻撃なら『斬る』よりも『貫く』ほうがよろしいかと。」
「じ、じゃあアキ、設計図よろしく!」




