第30話 BlazeとFrost
「……いらっしゃ……ってなんだ、お前さんか。その子は連れか?」
「どうもマスター。こいつは俺の弟のナツです。」
「……へぇ……お前さんに弟ねぇ。」
「ど、どうも………」
俺がナツを連れてやってきたのはローガン師匠の幼なじみでもある例の喫茶店だ。
この店に来るのはこれが2回目だ。
喫茶店とはいえ夜は夜で料理を提供している。
「弟もローガンの弟子か?」
「いえいえ。弟は別の用事でここまで来たんで。」
「……ほう………で、何にすんだ?」
「俺は日替わりパスタで。ナツは?」
「……俺もそれで……」
「あいよ。」
ナツはこういう店には初めて来るらしく、居心地悪そうに辺りをキョロキョロと見回している。
「……そういや、兄さんがローガンさんの弟子って……?」
「あぁそうさ。俺の偉大なる師匠だ。」
「……ホントに!?ど、どこで知り合ったの……!?」
「えーっと、確か4年前くらいかな。学校の裏手に森があったろ?あそこで。」
「なんで教えてくれなかったんだよ!?」
「……そ、そんな教えるほどでも無いかなあって。」
「………もしかして………それでファングラビットを………」
「あいよ。日替わりパスタだ。」
テーブルには出来たてのパスタが湯気をあげ、ミートソースのいい香りが鼻腔をくすぐる。
「さ、食おうぜ。」
さっそくパスタを頂戴する。
が、ナツはどうしてもローガン師匠の事が気にかかったようで、パスタを頬張りながらも色々と質問を浴びせられた。
質問の内容は『どんな人だったか』とか、『強かったか』とか。
ちゃんと全部には答えたものの、それでもナツは俺がローガン師匠の弟子だとはにわかには信じられない様子だ。
「知ってると思うけど、師匠はジョブ無しだ。それでもあんなに強くなれたんだから、俺が強くなれたって不思議じゃ無いだろ。」
「………兄さんが…………」
「あ、言っとくけど俺がローガン師匠の弟子っていうのは秘密な。」
「んえっ!?な、なんで!?」
「色々とあってさ。」
「………まさか、ローガンさんの弟子っていうのは口から出任せなんじゃ………」
「ま、そう思うならそう思ってくれてていいさ。」
「……ナツと言ったか?」
俺たちの会話にマスターが割り込んだ。
「……え……は、はい……?」
「お前ぇさんの兄貴は間違いなくローガンの弟子だ。ただ、すでに師匠を超えてるがな。」
「そ、そんな訳無いです!!師匠は今でもめちゃくちゃ……」
「あんな腕でか?」
「……そ……それは………」
「心配するな。奴の両腕が健在だったとしても、お前ぇさんのが強い。奴の戦いは嫌ほど見てる俺が保証してやる。」
「……そ……そんな………に、兄さんがローガンさんより強い………!?」
「……ジョブ無しでやれば師匠のが強いですから……」
「おうハル!黙って聞いてりゃあ言ってくれるじゃねぇか!」
店の奥の扉が開いたかと思うと、そこにはローガン師匠が白い歯を見せていた。
「し、しし、師匠!!?」
「ハハハッ!驚かせたか。」
「片端になったコイツにゃあ他に行く宛も無ぇもんだから、ウチで面倒見てやってんのさ。」
「……ロ、ローガンさん………!?」
「それなりに役には立ってるだろ?」
「どうだかな。テメェの作る料理はどれもこれも食えたもんじゃねえが。」
「言ってくれるねぇ。」
「そ、それよりもローガンさん!!兄さ……兄の言ってた事は本当なんですか!?」
「ハルが俺より強いってことか?まぁ、コイツのジョブを使われりゃあ俺でも手も足も出ないな。」
「……師匠……!」
「……そ、そんな………」
「ナツと言ったか。ここだけの話だが、今年のエルミリア選手権で優勝したのはお前の兄であるハルだ。」
「…………!!?」
ナツは情報量の多さに整理できないようだ。
ま、無理もない。
というか、師匠ここで仕事してたんだな。
師匠のことだから後任を育てるべく騎士団かギルドに所属して若手の育成でも行うのかと思っていたけど。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
その後は百聞は一見にしかずということで、俺はナツと共にマスターや師匠にAxelを目の前で見てもらう事となった。
俺は早速ジョブを展開させ、矢のような速さでナツの目の前へと現れる。
その後にあらゆる動きをして見せた。
「ほう?素材を変えたのか。」
「……この前ん大会より速ぇな。こりゃあローガン、完全に超されちまったな。」
「ハッハッハッ!そりゃあ超えてもらわんとだな!」
「………凄い………これが……兄さんの力………」
「ナツ。ハルがここまで強くなれたのは俺を頼ったからじゃない。増してや、ジョブのおかげでもない。ハルは、諦めなかったからだ。」
「……諦めなかった……から?」
「その通りだ。例え【人形師】と馬鹿にされ、笑われたとしても。ハルは諦めずに努力した。お前の兄貴は大したもんだ。」
「…………………」
「ナツがどんな悩みがあるかは知らんが、お前なら乗り越えられる。なにせ、お前はハルの弟なんだから。」
「…………でも俺………どうしたらいいか………」
「心配するなナツ。俺にいい案がある。」
ジョブを解除した俺は早速ナツにいい案を話した。
・
・・
・・・
「……ほ、本当にそんな事が出来るの……!?」
「まあ物は試し用さ。」
「……でも……それでもしダメだったら……」
「だからといって、お前が夢を諦めていいってことにはなんねぇだろ。」
「………………」
「それにさ、俺とお前が揃ってみ?近距離は俺、遠距離はナツ。最強だろ。」
「……でも俺は……特待生にはなれないし……」
「ウダウダうるせぇぞナツ!それに、やると言ったら何がなんでもやるんだ!んなことじゃあ一生ローガン師匠に弟子入り出来ねぇぞ!」
「………!!」
「ククッ……さすがは弟子だな。躾が行き届いてやがる。」
「だろ?俺の自慢の弟子だ。」
「ナツ。お前はどうしたい?」
「………俺………エルミリア王立高校に入学したい……!!……兄さんに負けたくない!!」
「ほっほ〜う?俺に勝つとは小生意気な事を言うようになったもんだねぇ。」
「……勝つ。兄さんに。」
「……その意気だ!」
その後はナツは何かに吹っ切れたのか、表情が明るくなった。
……しかしながら、だ。
またアキとトーヤにお願いしないとだな。
いや、そもそも、今回の件が無くともお願いしようかとは思っていたところだ。
ナツはそのまま近くの宿泊所で1泊することになり、翌日からは俺の案内の元トーヤの実家へと訪れ、『例の案』を早速実行することとなった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ナツが来て1週間。
ナツもこの都会に慣れてきたらしく、せっかくの機会を無駄にしないようにあらゆる場所を積極的に訪れた。
俺の案内でギルドへも顔を出し、2人で薬草採取にも行ったりもした。
どうせなら魔物と戦いたいとせがまれたが、こればっかりは会敵するかどうかは運だから仕方ない。
あと、俺がリリーから紹介されたお店にも連れていき、そこで例のティラミスを食わせてやった。
そん時のナツの表情、今まで食ったことの無い美味さに言葉を失ってたっけ。
奥にいるリリーは相変わらず店の中で占いをしており、俺たちに気づいて暫く話し込んだな。
早速俺があげた人形も椅子に置かれていたが、かわいい服やらリボンを付けられてたっけ。
ナツは借りてきた猫みたいにリリーの前では大人しかったけど。
そういう所は俺に似てるよな……
あ、それと、アキとトーヤは早速俺の案に乗ってくれ、現在はとあるものを製作してくれている。
ナツはトーヤの実家のデカさに声にもなってなかったな。
俺に追いつきたいとのことでナツは俺の日課のメニューを同じように行うことを決意したようで、あれからずっと日課のトレーニングを一緒に行っている。
最初は当然ぶっ倒れてたけど、それでも歯を食いしばって食らいついてきた。
俺が言うのもあれだけど、結構根性あるな。
そうしてあっという間に1週間が過ぎ、俺たちは再度トーヤの家へと訪れていた。
「いらっしゃいませハル殿。それとナツ殿。旦那様もお待ちです。」
「ど、どうも。」
家政婦さんに案内されると、そこにはアキがすでに居り、トーヤとブランドン氏も俺たちの到着を待ち構えていた。
「お待たせしました。」
「構わぬ。それにしても、此度の製作品も中々に興味が尽きぬものであったぞ。」
製作品には布が掛けられていたが、それはブランドン氏よりも大きかった。
「それでは、そろそろお披露目といきましょうかな。」
「うむ。」
「う、うん!気に入ってくれるといいけど……」
そうして布を剥ぎ取ると、中にはAxelよりもずんぐりとした体型の人形が鎮座していた。
「ハル氏の案を取り入れたAxelとはまた違った人形。その名も『Blaze 01』。このモデルはパワーを重視し、如何なる力仕事でも行える新しいモデルですな。当然、農作業に特化させるアタッチメントも拵えておりますぞ。」
「『Blaze 01』……かっこいいじゃん!!」
アキによるとBlazeは各部に油圧シリンダーが内蔵され、これによりとてつもないパワーを誇る。
ただし、その引き換えに重量が重くスピードが出ない。
農作業用アタッチメントとして穀物の収穫や脱穀を担うコンバインを装着できる。
「……コンバインって……アキ、そういう知識もあったっけ……?」
「これも【設計士】のおかげですな。ただ、このコンバインは電動ではありませんのでな。タイヤを回転させることでコンバインも動作し、それにより収穫と脱穀を行う、初期型のコンバインと同じですな。」
「……む、難しいことは分からんけど、とにかくこれを持って押せばいいってことか?」
「左様です。」
「……すげぇな……たださ……こんなにデカイと畑を踏み荒らしちゃいそうだな……」
「フフフ。ハル氏よ、慌てなさるな。」
アキは得意げに笑った後、Blazeの胸元にあるボタンを押した。
するとBlazeの中からさらに小さい人形が現れた。
「……んなっ!?人形の中に人形!!?」
「これぞBlazeの真骨頂!ハル氏の熟練度の話を聞いた時に閃きましてな。人形を運ぶ人形というだけでなく、今のハル氏ならば2体とも操れるでしょう。さすれば効率は2倍……いや、3倍にも膨れ上がること間違いないでしょうな!」
「すげぇ!!すげぇぞアキ!!」
「お褒めに預かり光栄ですが、これを可能にしたのはトーヤ氏の繊細な技術あってのものですな。」
「そうだな、トーヤ!!すげぇ!!」
「そ、そそそんな褒められたって……」
「この中のはなんて名前なんだ?」
「そちらは『Frost 01』。Blazeとは対照的に速度を重視したモデルですな。ただし、軽量化に軽量化を重ねた結果、防御力に乏しいのが欠点ですが。」
「BlazeとFrostか……さすがだな……!!」
FrostはBlazeの赤とは対照的に青色をベースとし、構造もかなりシンプルに作られている。
それでありながらも関節部は『アダチウム』が用いられており、万が一の戦闘にはBlazeに収納されている武器を使用する。
「……よくもまあ1週間で仕上げたな……材料は足りたのか?」
「ジョブのお陰ですぐさま設計図が書き上げられましてな。材料についても問題ありませんぞ。」
「ぼ、僕も【鍛冶師】のジョブがこんなに凄いなんて知らなかったよ……」
「……兄さん……まさかだけど、この人形で家の手伝いを……?」
「その通り!1度憑依した人形ならどれだけ遠くとも再度憑依することが出来るからな。」
「………凄い………そ、そんなの……反則じゃないか………」
「まあ俺本体の強さが人形にも反映されるから、俺が弱いと使い物にならないけどな。」
「……ふむ……しかしながらアルフィード君。キミの能力があれば戦闘だけでなく監視や潜入も容易いということか。」
ブランドン氏によると、複数の小さい人形を各地に点在させ、憑依により監視し、敵を確認するとジョブを解除すればすぐ本国に危険を知らせる、なんて使い方もあるとの事だ。
ともすれば、この【人形師】というジョブは【軍師】級の国家機密レベルのジョブだと言う。
【人形師】が有るのと無いのとでは、戦局が一気に変わってしまう。
言い換えれば、俺は人形の数だけ兵隊を持っているということだ。
「確かに、ハル氏のジョブを悪用すれば国家を転覆させることも容易いでしょうな。」
「……俺、そんなヤベー奴なの……?」
「だ、大丈夫だよハル!何があっても僕たち友達だろ!」
「それ、過ちを犯す前提じゃねぇか!」
「い、いい、いや…そんなつもりじゃ……」
「……ジョーダンだよトーヤ。ともかく、俺はこのジョブで世界をひっくり返すとか、国家を転覆させるとか、そんな野心は1ミリもないから安心してくれよ。」
「アルフィード君。これは忠告だ。」
ブランドン氏は神妙な面持ちで話しかけてきた。
「キミのその力、必ず伏せておきなさい。ここにいる皆も、他言は無用だ。キミの力を知れば、間違いなく他国から狙われる。特にキミは自身の力もある。キミがジョブを悪用するつもりが無くとも、例えば家族を人質に無理強いされるなんて事もある。」
考えもしなかった。
世間は【人形師】を負けジョブ扱いしているだけで、ここにいるアキやトーヤ、それに俺はこのジョブをハズレだとは思っていない。
むしろ俺はここ最近、この【人形師】の更なる有用性に気づいたばかりだ。
けど、ブランドン氏の言う通り、このジョブは悪用すればとても危険だ。
それは覗きとか、そんな低レベルの話じゃない。
『人形の数だけ兵隊を持つ』
しかも、自分の意のままに操れる兵隊だ。
2体までしか同時運用出来なくとも、その脅威は計り知れない。
「……まぁ、兼ねてよりジョブの有用性を隠しておきたいと申していたキミならば、私が忠告するまでも無いとは思うがね。」
「……いえ……俺もそこまでは頭が回ってませんでした。ご忠告、ありがとうございます。」
「宜しい。」
ブランドン氏はニッコリと微笑み、そのまま俺たちは夕食までご馳走になってしまった。




