表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ジョブ世界の人形師  作者: かるぱりあん
第4章 約束
32/47

第28話 熟練度7

「……えっと……リリー。これ、ようやく出来たよ。」



 授業が終わった放課後にて、俺はリリーことリリアンにぬいぐるみを手渡した。



「わぁ!!ありがとう!!大事にするね!!」



 リリーは合同演習で俺のぬいぐるみの事をとても気に入ったようで、演習が終わってから俺にぬいぐるみを作ってもらうようお願いしてきたのだ。


 ただし、憑依はしてない。


 女神様ことアリシアにこっぴどく注意されたからだ。


 俺は女神様には逆らわない忠実な下僕だ。



「……でも、こんなに早く作ってくれるなんて……無茶させちゃったかな?」


「いや、大丈夫だよ。」


「作る際には私も監視していたから大丈夫よ。そのぬいぐるみには憑依させていないから。」



 まぁ、作ったと言っても女神様監視の元だ。


 信用無いなぁ俺……ぐすん。


 ……おかげで女神様と2人っきりの時間を楽しめたわけではあるが。



「じゃあ2人にお礼しないと!アリシアはまだ時間あるかな?」


「えぇ、大丈夫よ。」


「じゃああたしがオススメするスイーツ店でご馳走するから!」



 というわけで、俺は3人で街へと繰り出す。


 前世だと考えられないな。


 俺が女子2人とこうして外へお出かけするなんてさ。



 そうしてスイーツ店を紹介されたが、リリーの言うように超が付くほどの人気店のようであり、店の前には長蛇の列が出来ている。



「……こ、これを並ぶのか……」


「大丈夫!安心して!」



 そういうとリリーは俺たちを裏口へと案内した。



「お疲れ様でーす!」


「おうリリー、お疲れさん!……と、連れか?」


「うん!友達!」


「へぇ〜。友達連れてくるなんざ珍しいじゃねぇか。」


「色々あってねぇ。2人にお礼したいと思って!」


「そういうことなら休憩室使いな!」


「2人の食事代はあたしの給料から引いといてね〜。」



 ということで俺たちは休憩室に案内された。



「……リリーはここで働いてるの?」


「まぁね。ここで占いをやるために間借りさせてもらってるってのもあるけど。」


「……なるほど。偉いわね。」


「そんな煽てたってこれ以上な〜んも出来ませんよ〜。」


「煽ててるわけじゃないけど。」


「ま、ありがたくお褒めの言葉を頂戴しときますか〜。なぁんて。」


「そうしておいて。」



 女子2人はその後も俺が居ないかの如く楽しそうにお喋りしてる。


 俺はというと借りてきた猫のように小さくなってしまってた。


 そうこうしていると休憩室の扉がノックされ、先の店主が「出来たぞ〜」と声がした。



 リリーが運んできたのはティラミスだ。



 リリーは手際よくティラミスを切り分けてお皿に載せ、俺たちに手渡した。



「はい!このお店で1番人気のティラミス!」



 そう言われて提供されたが、断面が日本でのティラミスとは少し違った。



「……リリー、このティラミス、中になんか挟まってないか?」


「ああ、それサヴォイアルディだよ。」


「……サヴォイ……?」


「サヴォイアルディ。平たく言えば乾パンみたいな?どうやら過去の転生者がイタリア出身だったみたいで、本場でのティラミスはこれが正しいんだって。」



 多分、そのサヴォイアルディって名前は店を出る頃には忘れてそうだな……



「へぇ。」


「ま、いいから食べてみて!」



 リリーに促され1口。


 ………………



 美味い!!!!



 なんじゃこりゃ!!



 サヴォイなんとかっていう乾パンがティラミスには無い程よいサクサク感を与えつつ、ティラミスの濃厚なチーズとココアパウダーの苦味により深みを与えている!!


 ……俺が日本で食べてたティラミスはなんだったんだ………!?



「……美味い……!!」


「………ホント………美味しい………!」


「でしょー!?あたしも初めて食べた時は衝撃受けたもん!」


「……ティラミスはスポンジケーキだって思い込んでたけど、これからはこのサヴォイアルディ一択ね。」


「まあ自分で作るとなると結構失敗しちゃうんだけどね。」


「こりゃあ頑張った甲斐があったなぁ。」


「そう言ってもらえて良かった!でも、今度からはあたしの奢りじゃないからねぇ。」


「分かってるよ。」


「そういえば、そのぬいぐるみに名前は付けるの?」


「うーん……あ!ハルが持ってるのがピースだから、あたしのはラブでいいかな!」


「……ラブアンドピース、ね……」



 まぁ、そういうつもりで付けたわけじゃなくて即席でピースさんから取っただけなんだけど。



「でもハル、ピースちゃんを酷使しないでね!」


「わ、分かってるよ……なるべく、ね。」


「なるべくじゃダメ!」


「ぜ、善処します……」


「……善処って、それって結局何もしないってことじゃん!」


「い、いや!守る!守るから!」


「………フフッ………」



 俺とリリーとのやり取りを見ていたアリシアが美しい声で微笑んだ。



「……ねえアリシアさん。」


「……どうしたの?改まって。」


「……あたし、アリシアさんにどうしてもお礼が言いたくて………」


「……お礼……?」



 リリーによると、彼女はずっと後悔や負い目を感じていたのだそう。


 前世で皆が火災に巻き込まれた際、皆が死んでしまったのは自分にも責任があったとずっと思っていたからだ。


 転生してみんなに会ったが、その思いはどんどんと強くなっていった。


 ジャック(店長)はそんな彼女に『キミのせいじゃない。責任と言うならそれは俺にある。』と言ってくれたものの、それでも彼女は『あの時もっとこうしていれば』と何度も思った。


 バイト仲間も2人、この世界に転生したものの運悪く死亡してしまった。


 彼女はずっと他の転生者が怖かった。


 心のどこかで、自分たちを責めているんじゃないかと。


 そんな時、アリシアがあの火災について語ってくれた。


 全ては御堂という男に仕組まれた事だと。



「……あたし……それまでずっと自分を責めてきた……でも、アリシアさんのお陰で救われたような気がするんです。

 ………だから………だから………!」


「……もういいわよ、リリー。アナタは自分を責めなくていい。悪いのは全て御堂。」


「……ありがとう……ホントにホントに……ありがとう………!」


「……大丈夫。もし他の誰かがアナタを責めるのなら、私が味方するわ。」


「……アリシアさん……」


「『さん』なんて付けなくて大丈夫よ。私たち、友達なんだから。」



 アリシアはリリーをそっと抱き寄せ、リリーもまた身を預けて目には涙を浮かべていた。


 俺だってあの火事でリリーやジャックを責めようなんて微塵も思っちゃいない。


 でも、リリーはずっと自責の念に囚われてた。


 彼女には関係の無いことだが、同僚2人がこの世界で命を落としてしまったことも。


 あの火災が御堂によって仕組まれた事だとアリシアが明かしてくれたことによって、リリーがどれほど救われただろう。



「おぉいリリー!お前さんに占って欲しいって客が来てる!そろそろ出れそうか?」



 店長が扉越しにリリーを呼ぶ。



「……仕事、か……」


「もう大丈夫?」


「うん!ありがと、アリシア。ハルも。」


「俺のほうこそ、こんな美味しいティラミスをご馳走してもらえてありがとう。」


「そうね。ご馳走様。リリー、仕事、頑張ってね。」


「うん!あとハル、ピースちゃんをいじめないようにね!」


「…わ、分かってるって。」



 彼女は憑き物が落ちたような笑顔を見せ、占いを待つ客の元へと元気よく駆け出して行った。


 ……やっべ。


 超可愛いじゃん。


 今まで女神様一筋だったけど、リリーの笑顔、超可愛いじゃん。


 いや、それ以上に。リリーはめっちゃいい子。


 アリシアが女神様ならリリーは天使だ。


 うん。きっとそうに違いない!



「じゃあ、私たちもそろそろお暇しましょう。」


「……あ、は、はい!」



 帰り際にリリーを見たが、占ってもらおうと多数の客が列を成しており、占いの結果に一喜一憂していた。


 リリーは俺たちに気付いて手を振り、俺たちもそれに返して店を後にした。



 ………が、裏口から出た俺たちを待ち構えていたのはガタイのいい護衛が目の前にいた。



「んおっ!!?」


「お嬢様、そろそろ宜しいでしょうか?」


「……えぇ。じゃあねハル。」


「……あ、あぁ……じゃあ、また……」



 全く、心臓に悪い。


 扉を開けた途端にイカつい男が険しい表情で目の前に突っ立ってんだもん。


 アリシアはそのまま護衛に促されて馬車に乗り込み、護衛の男は俺に軽く一礼をして乗り込む。


 アリシアは去り際に俺に軽く手を挙げ、俺も手を挙げてそれに応えた。



 合同演習が終わってから本当に毎日が楽しい。


 俺の何気ない日常の中にアリシアがいる。


 彼女は色んな表情を見せてくれた。


 いつもの毅然とした凛々しい顔。


 驚いた顔。


 少し怒りを滲ませた顔。


 そして、優しくて柔らかい笑顔。


 そのどれもが、こんなにも間近で見られる。



 リックス。


 お前が裏社会に通じてるかどうかは分からん。


 でも、もしお前らが女神様を傷つけるのなら容赦はしない。


 俺のこの幸せな日常を壊そうとするなら、俺がお前らの日常を完膚なきまでに破壊してやる。


 改めて、そう思えた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 リックスの情報がどうであれ、人手が欲しい。


 アリシアの護衛を信じていないわけじゃないけど、ディザスター卿とやらが相当に実力者ならば不安のほうが勝る。


 俺なら勝てるとかそう言いたいわけじゃない。



「……あ〜〜、操作できる人形が1体だけってのもなぁ……Axel(アクセル)だけじゃあどうしようも………」



 自室に戻った俺はいつものようにAxel(アクセル)に憑依する。


 Axel(アクセル)は確かにグレードアップした。


 軽さと頑丈さを兼ね備え、今ならA級の魔物でも余裕倒せるだろう。


 しかし、Axel(アクセル)でも限界はある。


 敵が複数でやって来た時、それら全てに対処出来る訳もない。


 ……せめてもう1体………憑依出来れば………



 俺がそんなことを思った時だった。



 カバンの中に入れてあるピースに俺の意識が憑依した。



 んえぇっ!!!?



 人形から人形へと憑依した!!?



 ……いや、違う………違う!!



 俺の頭には、光景が2つ。


 それはAxel(アクセル)側の視点とピース側の視点だ。


 試しに動いてみると、Axel(アクセル)もピースも動く。



 俺はこの時になってようやく熟練度7のスキルについて思い知った。



 【人形師】のスキル熟練度7。


 それは、人形を2体動かせる、だ。



 試しにそれぞれ違う動きをさせてみる。


 驚いたことに、それぞれが違う動きまで行える。



 おかしい。


 おかしすぎる。


 2体の人形を操れる、と言葉で言うのは簡単だ。


 でも、例えば、車の運転をしながらラジコンを操作できるか?


 パソコンで複雑な作業しながら本が読めるか?


 右を向きながら左を向けるか?


 そんなもの、出来るわけが無い。



 でも、今の俺はAxel(アクセル)もピースもそれぞれ違う動きを行える。



 並列思考。



 おそらくは、熟練度7で人形を2体操作できる際にその並列思考まで強化された、ということか。



 ……出来る。


 これなら出来る!



 Axel(アクセル)で街を巡回しながら、別の人形でアリシアの護衛も。


 ……いや、さすがに王城の中にいるなら安全か。



 だけど、これなら2つの地点を人形で見張らせる事が出来る。


 さらに言えば、2体の人形で敵と戦わせることだって。



 俺はすぐさまアキとトーヤを呼び出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ