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ジョブ世界の人形師  作者: かるぱりあん
第3章 合同演習
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第21話 父の心境

 先生の号令により、皆が続々と森の中へと出発する。


 中にはいち早く良い場所を抑えるべく走り出す班も存在した。



 俺たちの班も森の中へと出発した。



「皆不安そうだねぇ。ここは1つ、私の演奏で皆を勇気づけようじゃあないか!」



 サイラスはこんな状況でも能天気だな。



「サイラス、辞めて。」


「Oh、プリンセスアリシア、それはどうしてだい?」


「先のルール説明を聞いていなかったの?ここでは生徒同士の略奪も黙認している、ということよ。」


「……り、略奪……!?」



 『生徒同士の略奪』と聞いてリリアンさんが分かりやすく怯えた。



「……で、でも……皆で協力したほうが……」


「それは希望的観測に過ぎないわ。ただでさえ私たち1クラスは他のクラスから疎ましく思われてるのに。」



 これは事実だ。


 俺たち1クラスは他の生徒らと違って転生者ということで優遇されている。


 普通ならとんでもない授業料を納めなければならないはずが、『転生者』というだけでそれが免除されている。


 当然他クラスからすれば面白くもない話だ。



「……ふぅむ……プリンセスアリシアの仰ることも一理あるが、だからこそ私の音楽で癒しを与えるべきじゃないかな?」


「奪われてからでは遅いのよ。それに、御堂のこともまさか忘れたわけじゃ無いでしょうね?」



 そういうアリシアさんの目は鋭さを帯びていた。



「……分かったよ、プリンセスアリシア。私は大人しくしておこうじゃあないか。」



 あの喧しいサイラスですら黙らせた。



「……ってことは、俺がみんなを守らなきゃな。」



 ロータスは張り切っているのか、それとも自分に言い聞かせているのか……



「ともかく、どこかで腰を落ちつけさせられる場所を探しましょう。」



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 歩き始めて2時間。


 時間的にはもうすぐ昼だ。


 慣れない森の中での移動ということもあってか、皆疲れが足に来ている。


 俺は日課で毎日10キロは軽く走ってたからか、さほど疲れは感じない。


 ただ、一応疲れたフリはする。



「………ふぅ………ここいらで一旦休みましょう。」



 アリシアさんの一言で皆は地べたに腰を下ろす。


 俺もわざとらしく息を切らせ、腰を落ち着けた。



「……どこか……水場だけでも押さえておきたいわ。地図だと、もう少し西へ行った辺りに川があるはずよ。」



 皆は黙って地図を開いて確認する。


 ここまで魔物らしい魔物に出会うこともなく、森の中は鳥の囀りやら虫の声がそこかしこから聞こえるだけだった。



「……この前みたいにウェアウルフに遭遇しなければいいけどな……」



 ロータスは前回襲撃された時の恐怖が思い起こされているようだ。


 地図での確認が終わると、皆は水筒で喉の乾きを潤す。



「……あなた、あまり疲れていないようね。」


「ふぇっ!!?」



 女神様、相変わらず声が透き通っていてお美しい。


 けど、背後から急に声掛けられるのは心臓に悪うございます。



「……そ、そんなことないです!!…ハァ……ハァ……」


「そうかしら。息が上がってるみたいだけど、汗すらかいてないわね。」



 いやぁ、さすがに汗だけは演技できないっす。


 ……と、そんなことより、まさか演技だとバレた……?



「……じ、自分……あんま汗とかかかない体質だもんで………」



 我ながら苦しい言い訳だな。



「まあいいわ。それより、ハルの【人形師(マリオネイター)】ってどんな能力なの?」



 め、女神様が俺の能力にご興味があると!!?



「……えっと……に、人形を操れるってだけですけど……」


「それを使って、偵察も可能?」


「……えぇ、まぁ……」


「……………」



 ははぁん。なるほど。


 女神様は俺に偵察要因として人形で周囲を索敵して来いってことかな。


 まあ、【人形師(マリオネイター)】のジョブを隠したままなんて出来る訳もなく、そのためにカバンには常にぬいぐるみを入れて持ち運んでる。



「……なら、俺が一旦その川を偵察して来ましょうか……?」


「……そうね。お願いしても?」


「OKですよ!」



 ということで、俺はカバンからぬいぐるみを取り出す。


 コイツは初期の頃に使ってたぬいぐるみだ。


 Axel(アクセル)よりも付き合いが長いからか、ボロボロになっては修繕して使い続け、今では愛着すら湧いている。



 早速ジョブを発動!!……とはいかない。



「……あ、あの……俺、ジョブを発動したら本体は意識無くなっちゃうんで、魔物とかには注意していてください。」


「了解よ。ロータス、宜しくね。」


「……わ、わかった!」



 改めてジョブを発動する。


 皆は【人形師(マリオネイター)】のジョブが発動する様は初めて見るらしく、興味津々で見つめていた。



 俺の意識がぬいぐるみへと憑依する。


 その際、リリアンさんが「わぁ!」と言って見つめていた。



 俺は方角を確認して早速森の中を突っ走って行った。



 Axel(アクセル)を使うようになってから全くこのぬいぐるみは使ってこなかったからか、Axel(アクセル)よりも動きづらい。


 しかしながら、熟練度のおかげで前よりかなり動きがスムーズではある。


 森の中は鬱蒼としており、落ち葉や枯れ枝が大地を支配している。


 ただ、Axel(アクセル)よりも格段に軽いこのぬいぐるみだと、足音も小動物のそれに近い。


 俺は久々に操るぬいぐるみで動きを確認しながらグングン進む。


 やがて川のせせらぎが聞こえ始め、森が開けて川が見えた。


 流れも緩やかで腰を落ち着けるならここだな。


 まだ誰もこの場には踏み入っていないらしく、周囲には人影は確認できない。


 俺はジョブを解除して本体に意識が戻る。



「……川、ありましたね。この先真っ直ぐ進んだところにちょうどいい場所が。まだ誰も踏み入っては無さそうですよ。」


「……驚いた。もうそんなに近いのか。」




 そのまま一行は川を目指して歩き始める。


 ぬいぐるみで見た光景そのままの道を辿る。



 道は俺が先導することとなった。



「……ち、ちょっと……待ってよ……」



 歩き始めて1時間。リリアンさんが声を発した。



「……どうしたんです?休憩しますか?」


「どうしたもこうしたも無いわ。まだ着かないの?」


「……えっと……あと半分くらいですね。」


「「「半分!!!?」」」



 そりゃあまあ、歩いてるし。


 走ればもうちょい早く着いてるけど。



「だってハル君、さっきはすぐにジョブを解除したじゃない!?だから川もすぐそこなんだって!」



 やっべ。


 そういうことか。


 何か言い訳しないと……



「……あぁ……そ、それはほら!ぬ、ぬいぐるみは俺の体重!それより軽いから!そ、それで結構走ったんですよ!!」


「……ハル……本当に川があったのかい?」


「本当だって!……そ、そうだな……この先ちょっと行ったところに太い木が倒れてるから!」



 皆は疑心暗鬼の中、更に歩き続ける。


 さもすれば、俺が言ったように倒木があり、皆は俺の言ったことを半分は信じてくれた……のかな。


 さらに1時間も歩き、ようやく目的の川へと辿り着いたころには皆ヘトヘトになっていた。


 俺は川辺に置き去りにしていたぬいぐるみをヒョイとかつぎ上げ、カバンの中へとしまい込んだ。



「……はぁ……ようやく着いたぁぁああ!!」



 ロータスは川に顔ごと突っ込んで喉の乾きを潤していた。


 皆も川の水で喉を潤し、俺もそれに倣う。



「……あの……ハル君……さっきはごめん!!疑っちゃって……」



 リリアンさんは俺に謝った。



「……お、俺もだ!!すまん、ハル!!」



 リリアンさんに続いてロータスも謝った。



「い、いや、良いって別に!それくらい!」



 さっきまでの険悪なムードとは一転して、皆笑顔を見せてくれた。


 ……ただ、女神様は笑顔なんて見せてくれなかった……



 俺たちはすぐさまテントを設営し、枝をかき集めて火を起こす。


 遅ればせながらの昼食だ。


 といっても、今日は肉無しの山菜カレーだ。



 カレーというのは魔法の調味料だ。


 なによりもその香りを嗅ぐだけで食欲をそそる。


 飯盒(はんごう)炊飯で米を炊いたが、底の方は焦げたし、米は少し硬かった。


 それでもカレールウを掛けるだけで何もかもが許される。


 いや、多分それは疲れていたのと、俺たちで作ったから、という魔法の下ごしらえもあるだろう。


 何よりも、俺からすれば女神様の手料理というご褒美でもあるわけだ。



「……うんめぇぇえええ!!!!」


「……ほんと……美味しい!!」


「ふむ。一流のシェフより味は劣るが、悪くはないな。」



 やかましいぞサイラス。


 世界一美味い料理じゃないか。


 どこぞの訳の分からんシェフなんぞよりも、この女神様が拵えてくれたこの料理こそが……



「それにしてもハル。キミのジョブ、なかなか有能だな。」



 カレーを食べながらロータスが話しかけてきた。



「……そ、そう?人形操れるってだけだけど。」


「あぁ。使い方によっちゃあ戦闘だって出来るんじゃないか?」


「……はは……そ、そんなの出来るわけないない。」


「……そうかなぁ……」


「戦闘はロータスに任せるよ。俺は戦いとか怖くて怖くて。」


「ああ、任せてくれ!この前の大会には惜しくも予選落ちして参加出来なかったけど、あれからかなり訓練したんだ!……まぁ、熟練度はまだ1だけど、さ……」


「ロータスならすぐ上がるって。戦闘職なら魔物を倒せばすぐ上がるだろ。」


「……あぁ……あ、そういやあれからどう?例の件は。」



 『例の件』といえば、黒衣の騎士についての情報だろう。



「……うーーん……それがさ、トーヤのお父さんも俺らと同じくらいの情報しか無いみたいでさ。」


「……そっか………ローガンさんも腕無くして引退したって聞いたし………はぁ………」


「……なあロータス。お前んとこの家族とか親戚で教えてくれそうな人とかいないのか?」


「……それがさ……俺の家はそんな良い家系じゃなくってさ……」



 ロータスは自身の身の上話をした。



 ロータスの実家は俺と同じく田舎であり、実家は代々続く畜産農家だ。


 決して裕福な家庭ではないが、それでも6人兄弟の家庭は実に賑やかだった。


 ちなみにロータスはその家の長男。


 小さい時分から家の仕事を手伝わされ、10歳になった時には【調教師(テイマー)】とか【畜産(リブストック)農士(ファーマー)】、あるいは【農士(ファーマー)】といったジョブを期待された。


 しかし、実際に蓋を開けてみたらジョブは【騎士(ナイトランサー)】。


 この世界では勝ちジョブと言われ、両親らは祝福してくれたものの、その内心は複雑だっただろう。


 両親はそんなロータスのためにと少し高いが首都ヴァレンティアにある学校へと通わせてくれた。


 そこでようやく自分以外の転生者らと出会えたんだとか。


 しかしながら、家族や親戚には戦闘職持ちがおらず、ロータス自身も空いた時間に素振りをするくらいしか時間が取れなかったのだそう。


 16の年になる頃には弟らも成長して家業を手伝ってくれるようになり、さらにはこの高校に推薦入学できるようになってようやく自分の時間が持てたのだそう。



「…ふぅん……そっちも田舎の出、ってわけか。」



 ロータスの境遇に少しだけ同情した。



「俺は今の両親は嫌いじゃない。むしろ好きだ。6人も兄弟がいながらも一人一人ちゃんと向き合ってくれ、期待外れのジョブを授かった俺でも前と同じように接してくれた。」



 どこかの父親とはえらい違いだな。



「俺は強くなりたい。この世界は日本より…いや地球よりも残酷だ。授かったジョブは変えられない。生産職は一生生産職だ。俺は、戦えない人たちを守りたい。

 ……それに……俺が騎士団に入って、少しでいいから家族らの生活を楽にさせてあげたい。畜産農家が悪いってわけじゃないけどさ。」



 …………………



 この話を聞いていて、俺は父の心境を考えた。


 俺の家も代々続く農家だ。


 当然、父は俺たち兄弟の誰か、もしくはその両方に家業を継いで欲しかったのかもしれない。


 でも、俺も弟もそういったジョブは授からなかった。


 それはつまり、代々続いていた家業が途絶えるという事。


 その心境は、俺には分からない。


 でも想像は出来る。



 色々と落ち着いたら、俺ももっと家族と向き合わないといけないな。



 それにしても、こいつは兄弟想いだな。


 ずっと力を付けたいって言ってたのは、家族の生活を楽にさせたいってことか。



「……会えればいいな。黒衣の騎士にさ。」


「あぁ。」


「……って言っても、強さなんて一朝一夕で身に付くもんじゃないだろ。普段から鍛えたりしてるのか?」


「……まぁ……一応は腹筋とか腕立て伏せはしてるかな。」


「走り込んだほうがいいぞ。騎士団に入れば、こんな森の中で何時間も歩き続ける、なんてのは容易に想像出来るからな。」


「……だろうな。正直、ハルが全然疲れた様子がないってのは驚いたよ。」


「俺【人形師(マリオネイター)】だろ?魔物とかに襲われた時に逃げられるように走り込みは欠かしてないんだ。」


「ハハッ!なら俺も走り込んでスタミナ付けないとだな!」



 我ながら良い言い訳をしたと思う。



「ん〜〜!男子の友情、実に美しい!ここは1つ、私の演奏でも聞かせてあげよう!」


「サイラス、静かにしないと他のクラスメイトから!」


「ノンノン、心配してくれなくて大丈夫さ、プリンセスアリシア。音は抑えるよ。」



 サイラスはかなり音量を抑えてバイオリンを弾いた。


 性格に少々クセがあるものの、サイラスの奏でる音楽は心地が良かった。



 次第に周囲は暗くなり始め、焚き火の燃えるパチパチとした音と共に、心地いい演奏が俺たちを包んでいた。

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