第20話 合同演習
最初こそ鑑定台には多数の行列が出来ていたものの、次第にその数が減ってゆき、1ヶ月もすればたまに鑑定している人がいるくらいでほとんど誰も鑑定に並んでいなかった。
1年生のほとんどは鑑定したらしく、その中でもアーサーの熟練度が4もあり、先日の大会ベスト8も相まってさらに持て囃されていた。
当の本人は黒衣の騎士に負けた思い出のほうが強いためか、ベスト8と持て囃されるのはあまり面白くないらしいが。
そういえば、俺とアキ、トーヤの3人も、人のいない時間帯を狙って鑑定してもらった。
アキの【設計士】の熟練度は3。
トーヤの【鍛冶師】も3だった。
まぁ、2人は戦闘職じゃないから地道に上げていくしか方法が無い。
……はずなのだが、アキは自身の熟練度について少しばかり怪訝な表情をしていた。
「……なんだよアキ。3なんて生産職の中でも優秀だって先生も言ってたじゃないか。」
「不満という訳では無いのです。むしろ、なぜこれほど高いのか不思議でしてな。」
「…じ、地道にジョブで設計してたって訳じゃ無いってこと?」
「トーヤ氏の言う通りですな。自分は最近になってAxelの設計図を書いてますが、それまではこんなにもジョブを使用した覚えが無いのです。」
「……ふむ………もしかするとさ、こうは考えられないか?」
俺はアキらに解説する。
生産職といえども、戦闘により経験値が入る手段があったのではないか、と。
今回の場合で言えば、アキはAxelを設計し、俺はそれを使ってドラゴンを倒した。
直接的では無いにしろ、間接的に戦闘に参加したと見なされ、それにより熟練度が増したのではないか、と。
予測ではあるものの、アキも納得した。
俺はというと、熟練度が7となっていて、さすがに驚いた。
これにはさすがのアキもたまげた様子で、トーヤは声にすらなっていない。
ただ、その7ってのが何が出来るようになってるのかが分からない。
自分で手探りで探していく他ないな。
ちなみにだが、あれからAxelは2代目として街の平和を守ってる。
騎士団も俺が危険人物ではないと判断してくれており、今では街の平和を守るヒーローとして持て囃されるほどだ。
こういうの、悪い気はしないな。
どうやら市民の間では『親衛隊』というのが設立され、それは黒衣の騎士の、いわばファンクラブらしい。
と言っても、特に何かある訳ではない。
中には黒衣の騎士の似顔絵を販売している者もいるが、そのお金が俺に流れてくる訳でもない。
ただ、中には熱狂的な追っかけもおり、黒衣の騎士の正体を暴こうと動いていた者もいたんだけど、それを親衛隊が撃退した。
一番驚いたのは、親衛隊の中にラインハート先生の姿もあったことだ。
話が少し戻るが、2代目Axelの性能はさらに進化している。
魔人との戦闘から改善点をいくつか洗い出し、改良に改良を重ねたわけだ。
まずは骨組み。
頑丈さを持たせるために、タングステンで骨格を作る案もあったが、タングステンは硬さと引き換えに重い。
その比重、鉄の2.5倍もある。
そこで目をつけたのがアダマンタイトと呼ばれる金属だ。
この世界に存在する非常に硬い金属であり、その硬度はタングステンをも上回る。
ただし、やはりというか高価だ。
俺は内々に優勝賞金を貰っており、白金貨100枚。それにドラゴンと魔人の討伐報酬として白金貨100枚。つまり2億円なんていう学生には似つかわしくない金を所持している。
といっても、それでもアダマンタイトは高価であり、2キロも買えば200枚の白金貨が吹き飛んでしまう。
そこで考え出されたのが、合金だ。
少量のアダマンタイトに鉄やニッケル、タングステンも混ぜたりしてみる。
色々と試行錯誤した中でようやく満足のいく合金が仕上がった。
この合金は新素材であり、俺たちはアダマンタイトから引用して『アドチウム』と名付けた。
このアドチウムは硬さも当然ながら、鉄よりやや重い程度だ。
さらに、耐熱性も非常に高く、融点が摂氏4000℃だ。
その上、トーヤの熟練度が3になっているおかげで、鍛錬した金属の硬度をさらに強化できるようになっていた。
それにより、骨組みは鉄パイプのように中を空洞にする事も可能となり、かなりの軽量化にも成功したのだ。
駆動系に関してもアキの設計が光った。
ふくらはぎ部分には強力なバネとシリンダーが仕込まれた。
これは緩衝目的ではなく、バネの力でさらに加速力を付けるためだ。
他にも、腰が360°も旋回できる。
このAxelは言うまでもなく電力で動いている訳ではない。
なので、配線などに気を使う必要が無いからだ。
これにより、人間では有り得ない動きも可能にした。
アキに無茶なお願いかとも思ったものの、他にも提案した事がある。
それは、会話だ。
しかし、これは現状では不可能だった。
通信機構をAxel内部に搭載したとて、本体の俺がAxelに憑依している時は当然意識が無い。
なので、憑依している俺の念波的なのを読み取って、それでもって通信しなければ会話が出来ない。
ただ、予め数種類の言葉を録音させておいた機器をAxelに内蔵させ、ボタンを押すことで会話のようにすることは可能だと。
まあ、何も無いよりはまだマシかな?
他には武器。
アスタロトとドラゴンの戦闘により剣もナイフも完全に破損してしまった。
そこで、骨組みの時と同様に、アドチウムを使用して新たな武器を製作する。
ただ、単にアドチウムだけを使うわけでは無かった。
アキによると、日本刀は硬い金属と柔らかい金属を組み合わせて作られているらしい。
地球で再現されたダマスカス鋼も同じく、あらゆる種類の金属を幾重にも折り重ねて作られる。
要は、硬いだけの武器は脆いのだ。
やったことも無い日本刀造りをやってみたのはいい経験だった。
アドチウムに炭素を混ぜた度合いにより、皮鉄と心鉄を造る。
炭素量が多いとそれだけ高度が増すからだ。
硬いアドチウムは皮鉄に。柔らかいアドチウムは心鉄に。
いろいろと試行錯誤の末、なんとか日本刀が出来上がった。
もちろんナイフも同じだ。
アキは銃も欲しがっていたけど、銃を作れたとしても火薬が無いので断念した。
最後は装甲。
これは、ドラゴンを倒した際に採取した鱗を活用した。
ドラゴンの鱗は耐火性もあり、硬い。
この鱗を装甲へと活用した。
そうして、2代目Axelが誕生した。
フル装備をしたAxelを起動させたが、想像以上に軽く、その俊敏性に俺自身も驚いた。
刀の試し斬りもしてみたが、剣とは比べ物にならない鋭さだ。
これらの工程は、ブランドン氏も忙しい中たまに参加してくれた。
早速魔物の討伐にも出掛けると、ちょうどそこにはウェアウルフの群れがいた。
早速戦闘してみたが、勝負は一瞬だった。
前の時は奇襲が故にあっさり勝てたのもある。
しかし、今回は面と向かっての戦いだ。
にも関わらず、ウェアウルフの攻撃をヒョイと躱し、その合間に刀で斬りつけると、まるで豆腐でも斬っているのかと思うくらい刀が滑った。
同じようにナイフでも試してみたが、ウェアウルフの筋肉などまるで存在しないかの如くするりとナイフが入っていった。
ウェアウルフの亡骸から肉やら素材を切り分けたが、その時になって熟練度の恩恵を思い知った。
今までは針仕事でも出来る程度だったものが、さらに器用さが増し、針に糸を通せるくらい器用さが増した。
それだけじゃない。
おそらく、この器用さと同じタイミングで、人形のパワーやスピードまで増していた。
あと、トーヤからお願いされた事がある。
「た、たた頼むよハル!こんなこと、キミにしか頼めないから……」
なんて事を言うもんだから何事かと思ったよ。
詳しく聞くと、トーヤは少し気恥しそうな顔をしながら、20センチサイズの小さな人形を取り出した。
この世界には完璧に似つかわしくないアニメチックな人形。
派手な髪色に若干露出度の高い服。
所謂、『美少女系のフィギュア』だ。
俺が憑依しても動けるように、こんな小さな人形でも関節部分がしっかりと作り込まれている。
「……ったく、仕方ないな。」
「ありがとう!ハル!!」
俺が人形に憑依すると、トーヤは子供のように喜んだ。
俺はと言うと、トーヤの器用さに改めて驚いたよ。
こんな小さな人形でも思ったように動き回れる。
俺はトーヤの周りや、トーヤの肩に乗ってみたりと縦横無尽に走り回って見せた。
最初こそ喜んでいたトーヤだったけど、次第に表情が曇ってゆく。
ジョブを解除して感想を聞いてみたが、
「……なんか………思ってたのと違う……」
だそうだ。
は?
まさか俺に美少女系の動きをやれってか!?
あんなポーズやらこんなポーズを!!?
詳しく聞くと、動き回るのは別に良いとしても、表情が一切変わらなかったのがかえって不気味だったのだとか。
知らねぇよ!!
ってか変えれねぇよ!!
結果的に、『フィギュアは眺めるためにある』ということでトーヤなりに結論を出した模様だ。
…まったく…こいつは……
しかしながら、小さい人形を使うというのも悪くない。
人型であれば小さくても動かせるわけだから、最低限の動きさえ出来れば偵察やら尾行なんかにも使えそうだ。
………って、なんか犯罪臭がするけども。
そんなこんなだが、未だに熟練度7になってのスキルや恩恵は分からない。
一応俺なりに感じた熟練度はこんな感じだ。
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【人形師】
熟練度1 人形を操れる。
熟練度2 精度が増す。
熟練度3 三人称視点の追加。
熟練度4 さらに精度が増し、パワーとスピードが増す。
熟練度5 俯瞰視点の追加。
熟練度6 さらに精度が増し、さらにパワーとスピードが増す。
熟練度7 不明。
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他のジョブも後半になるとより強力なスキルや効果を取得する。
ということは、おそらく【人形師】も同じように強力なスキルを取得しているはずだ。
如何せん、【人形師】については不明な点が多すぎる。
何にせよ、なんとか週明けから始まる合同演習には間に合ったな。
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「本日より、1学年全員で合同演習を行う。お前たちには、この森の中で1週間過ごしてもらう。班については予め私のほうで選定した。各班ごとに分かれ、今まで得た知識と訓練を思い出し、この1週間を乗り切れ。」
週明けになると俺たちは早速合同演習のために郊外にある森の中へと連れられた。
この合同演習は1学年全員で行うサバイバルだ。
先生から受け取った班分け表を見ると、班は5人1組。生産職だけで固まってしまうことの無いように戦闘職と上手く混ぜられている。
俺の班は、俺【人形師】、ロータス【騎士】、リリアン【占い師】、サイラス【音楽奏者】、そしてなんとなんと我が女神様ことアリシアさん【軍師】の5人だ。
神様ありがとう!!
念の為にAxelは近くに潜ませてはいるけど、出来れば使いたくはない。
前回のウェアウルフ襲撃の時もAxelを出張らせた以上、そう何度も窮地を救ったなんて怪しすぎるからな。
まぁ、こっちにはロータスもいる。あんまり当てにしていいか分からないけど。
それに、リリアンさんもいる。
彼女の持つ【占い師】は強力なジョブで、占いによりある程度の未来予知が可能だ。
アリシアさんのジョブに関しては不明だけど、彼女は剣術は相当なものだ。
サイラスはまあ、戦闘に関しては除外だな。
それに、いざとなればAxelではなく俺自身が戦えばいい。
アキとトーヤは同じ班となったようで、こちらには戦闘職としてリュゼもいるようだ。
ここには俺たち1クラス以外のクラスメイトらもおり、これから始まる1週間のサバイバルに胸を膨らませる者や、不安そうな表情を浮かべている奴らもいる。
俺も師匠から色々と教わって無ければ不安だったろうな。
森の中の危険な魔物はすでに教員らが処分してくれている。
ただし、完璧に駆除した訳でもなく、中には危険な魔物が潜んでいることもあるのだとか。
途中でリタイアする場合は専用のホイッスルを吹く。
その際は持っている荷物などはその場に置き、教員らの主導の元、即座に森の中から撤収しなければならない。
以上が説明だ。
皆それぞれ何かと質問していたけど、俺としてはルールに無い項目の中に、生徒同士の略奪について記載が無い事の方が気になった。
ルールにない。
ということは、略奪OKだということだ。
誰もその質問をしないのは、目の前のサバイバルに気を取られているか、分かってて黙り込んでいるかのどちらかだろう。
「それでは各班、準備が出来次第すぐに森へと出立せよ!」
ラインハート先生の号令の元、合同演習が開始された。




