閑話 アリシア・ヴェラ・エルミール
私の名はアリシア・ヴェラ・エルミール。
前世で御堂に殺されたかと思いきや、こちらの世界で生を受け、その名を与えられた。
最初は夢かなにかかと思ったりもしたが、これは現実のよう。
前世での私は、親が敷いたレールの上を走るだけの操り人形。
そこに私の自由は無く、窮屈で退屈な人生を送っていた。
社会人となって実家を出てからはある程度の自由が与えられ、私はその束の間の自由を楽しむ……はずだった。
あんな事になるくらいなら、カタパルトさんと一目でいいから会いたかったな。
私はこの世界で転生した。
ここには、前世よりも自由は無かった。
私はエルミリア王国の王女として生を受けた。
継承権で言えば第5位。
私の上には4人の兄弟がおり、1番上からジョセフ、エミリア、ジョシュア、ソフィア。
そして、私、アリシア。
王族としての生活に自由など無かった。
本来物心付く歳の頃には毎日8時間の座学。
剣の稽古。
ダンス。
そして、礼儀作法。
さまざまな教育が私を待ち受けていた。
何処へ行くにも必ず護衛が着いて回る。
当然街への外出など許される訳もなく、私は長い期間、この城内で生活することを強いられた。
そうして10歳になり、ジョブ鑑定が行われた。
そこで、私は【軍師】というジョブが授けられていることが判明した。
この【軍師】というジョブは非常に稀であり、スキルの内容全て秘匿させられるほどだという。
このジョブの授かりは、良いことだけではなかった。
私のジョブで王位継承権を奪われるとでも思った兄弟は、再三にわたって私に嫌がらせを行った。
ただ、ジョセフお兄様だけは優しくしてくれた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
王族として過ごしていると、諸外国との国王やその家族らと会うこともあった。
その中には、あからさまに私をいやらしい目付きで舐め回すように見つめてくる男もいた。
「お前さんが18になったら、ワシの所へ嫁に来い。その時は褒美をたんまりと贈ってやるぞ?」
人は気持ち悪くなると鳥肌が立つって言うけど、本当に鳥肌が立った。
ただ、ありがたいことに、私のジョブは他国に渡す訳にはいかない。
それでもこの男は私にしつこく言い寄ってくるため、懇談会が大嫌いだった。
姉の2人はその男に飼われて国を出ればいいとまで言われた。
本当に窮屈で退屈。
ここにも私の人生は無い。
けれど、そんな矢先にセント・クラーク王立高等学校への推薦状が届いた。
その時になって初めて家族は私が転生者だという事を知った。
高校は全寮制のため、いくら私といえどもようやくこの窮屈な城から抜け出せる。
願ってもない事だった。
ただし、登下校には必ず送迎がつき、私は常に護衛に見張りをつけるという条件付き。
それでもいい。
こんな窮屈な城で一生を終えたくなんか無い。
それに、どうやら高校では私と同じように転生してきた人たちも集められているという。
皆を殺し、私を殺した御堂が居るかもしれない。
もしもあの男がこの世界に転生して来ているのなら、私は容赦しない。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
高校生活は、前世での高校生活とあまり変わらなかった。
勿論、授業内容は違うけれど。
みんな私と距離を置く。
……それもそうよね。
私はこの国の王女。
普通の女の子とは違う。
入学早々、御堂の事も皆に話した。
皆は驚いてたけど、リュゼはあまり驚いていなかった。
彼は前世でも鋭く、頭の回転も早かった。
もしかすると、彼はあの火災について思うところがあったのだろう。
ただ、この世界において今まで御堂が何も仕掛けて来なかったのを理由に、皆安心しきっている。
そんな頃、巷では『黒衣の騎士』という正体不明の義賊の話で持ち切りのよう。
護衛のファルマンに聞いてみると、確かに巷ではそのような者が世間を賑わせているのだとか。
正体も分からないが、危機に陥ってる人を助ける謎の騎士。
そして、そんな黒衣の騎士が私の目と鼻の先に現れたと聞いた。
校外学習の際、魔物討伐班がウェアウルフに襲われた時、颯爽と現れてはウェアウルフらをねじ伏せ、そして去って行った、と。
後からアルバートに聞いてみると、その騎士の実力は凄まじいものだった、と。
ただ、感謝以上に警戒もしている。
そのような実力を持った人間が正体を隠すなど、何かしらの目的あってのことだと。
私もそう思う。
何の見返りも無しに人を助ける。
聞こえはいいけど、それは度を超えたお人好し。
その裏には、必ず何かしらの目的がある。
最初こそ黒衣の騎士は御堂かとも思ったけど、その可能性は極めて低い。
いえ、ゼロ、と言ってもいい。
御堂が転生しているなら、それだけの実力があるなら真っ先に暗殺に使用するはず。
わざわざ人目に実力を晒す必要なんて無い。
……では、黒衣の騎士の目的は?
考えたけれど、彼の目的なんて私には想像もつかなかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
今日はエルミリア王国選手権。
今回で165回目にもなる由緒正しき大会。
私は王族として、幼い頃からこの大会の来賓として参加していた。
今回はローガン氏が出場しないと聞いて少し残念だった。
彼はこの世界でも稀有なジョブ無し。
そんな彼でも、努力1つでのし上がったその実力に、私は魅了された。
ただ、今年はさすがにもう年齢には勝てないとの理由で、出場を辞退したらしい。
それにしても、相変わらずお父様の話は長い。
毎年似たような話を開会式の挨拶としている。
参加者らの顔を見ると、そこにはアーサーもいて少しだけ驚いた。
いや、それ以上に、巷で噂のあの黒衣の騎士までもが参加するのだとか。
………それにしても……お父様の話は本当に………
………………………
会場から歓声が沸き、私はハッと目を覚ました。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
大会も3日目になると相当の実力者が残っている。
アーサーはあの黒衣の騎士との対戦。
私は密かに黒衣の騎士を応援した。
結果は期待通り、黒衣の騎士が圧勝。
それにしても、騎士団員らが警戒するのも頷ける。
彼の動きは無駄がない。
まるで、ローガン氏を彷彿とさせるほど。
そして決勝戦。
決勝は黒衣の騎士と、対するは前年度の準優勝者ライアン・デクスター氏。
彼は去年、ローガン氏とかなり良い勝負を見せてくれたが、長年の経験と感性からローガン氏が競り勝った。
果たして、黒衣の騎士は一体どんな戦術を見せてくれるのか。
…………………
……………………!!!!
……あ………あれは…………!!!!
『待ち戦法している奴には、攻撃を誘い出すんですよ。要は、カウンターのカウンターです。』
私がオンラインゲームでカタパルトさんに教えてもらった事が呼び起こされた。
初めて彼に助けて貰った時も………相手のカウンターを空振りさせてからカウンター。
黒衣の騎士は、再三にわたって自分から打って出た。
でもそれは布石。
彼は、このカウンターからのカウンターを狙っていた。
それだけじゃない。
彼の最後の速度。
あの速度は今まで見せたこともない速度。
………隠していた実力を発揮して、相手に考える暇を与えない………
………まさか………彼は……………
…………カタパルト……さん……………?
気付くと私は席を立ち、黒衣の騎士に向かって走り出していた。
確かめたい。
もしも貴方がカタパルトさんなら、私と同じクラスだということ。
前世に私が願った最期の想い。
カタパルトさんに一目でいいからお会いしたかった。
黒衣の騎士
あなたは
カタパルトさんなの?
私が駆け出したのも束の間。
空には巨大な龍が現れ、突如襲い始めた。
ローガン氏が先導し、黒衣の騎士も続いてドラゴンへと駆け出してゆく。
待って!!
私の行く手は、沢山の衛兵で塞がれる。
「アリシア様!!これ以上は危険です!!お下がりください!!」
「…でも、このままでは!!」
「アリシア様!!」
「……!!危ない!!」
ドラゴンが尻尾を振り回し、それは私たちの元へも襲いかかった。
衛兵が私を庇ってくれたお陰で怪我は無かったものの、多数の負傷者が出ている。
それでも、ローガン氏と黒衣の騎士は諦めずにドラゴンへと立ち向かう。
やがて、その背後にいた魔人までもが参戦し、状況は悪化の一途を辿る。
「アリシア様!!お下がりを!!衛兵!!衛兵!!!!」
「……ダメ……!!……離して……!!」
衛兵は力づくで私を取り押さえ、避難させる。
それならば、と、私は自身の【軍師】スキルで、2人にバフと、魔人に対してデバフを掛けた。
「さあアリシア様!!!!」
私の願いも虚しく、私は衛兵らに強制的に避難所へと運ばれた。
……どうか無事でいて……!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
魔人とドラゴンの襲撃は、ローガン氏と黒衣の騎士の奮戦により、討伐を終えた。
しかしながら損害は激しく、会場は半壊。
負傷者も多数。
さらには、ローガン氏は酷い火傷のため、右腕を切り落とすほどの重症を負ってしまった。
黒衣の騎士の行方ついては、何も分からなかった。
だけど、私には黒衣の騎士はカタパルトさんじゃないかと推測している。
カウンターを誘発させてからカウンター。
そんな戦法、誰しもがやるかもしれない。
でも、あそこまで洗練された動きは、一朝一夕では身につかない。
それに、黒衣の騎士が出現したのは最近。
高校が始まってから。
じゃあ、誰がカタパルトさん?
黒衣の騎士の体格は、ローガン氏とそう変わらないほどの身の丈。
となると、サイラスかロータスのどちらかがそれに近い。
でも、サイラスは【音楽奏者】。ロータスは【騎士】。
それに、ロータスはウェアウルフに襲われた中の一人であり、彼が黒衣の騎士では無い事は明らか。
ならば誰?
………いや………これは私の願望に過ぎない。
もしかすると、黒衣の騎士はカタパルトさんではない可能性だってある。
……それでも、逢いたい。




