第17話 魔人襲来
試合開始の合図が送られたが、俺も向こうも互いに相手の出方を窺う。
その緊迫した状況は観客をも飲み込み、さっきまでの大歓声とは打って変わる。
おっと、集中しろ。
アイツは今までの戦いでは自分から打って出てたけど、今回はそれだけ俺のことを警戒してくれてる。
集中しろ。
……確か、前世やってたゲームでも、こうやって相手の出方を窺う、所謂『待ち戦法』の敵がいたな。
……よし。試してみるか。
互いに緊迫した状況を打ち破ったのは俺からだった。
俺は大地を蹴って一気に間合いを詰め、剣戟を浴びせかかる。
当然相手はそれをヒラリと躱しながら、カウンターに剣を薙ぎ払う。
俺はすぐさま後ろへと跳躍し、その攻撃を躱す。
即座に相手が俺に追撃すべく、間合いを詰めて攻撃する。
俺はその攻撃を的確に対処してカウンターを仕掛けるも、今度は相手が下がって攻撃を躱した。
そしてまた、互いに睨み合う。
観客らはその一連の攻撃に一瞬呆然としたが、すぐさま大歓声が巻き起こった。
俺は再度、先と同じように仕掛け、相手もまた同じように対処した。
そして、また同じように仕掛けた。
種は蒔いた。
仕掛けるなら今しかない。
俺は今一度足に力を込め、先程よりもさらに速く間合いを詰める。
相手は少し驚いたようだが、すぐさま対処に動く。
……が、俺はそこで動きをピタリと止めた。
相手は俺のまさかの動きに判断が追いつかず、予定していたカウンター攻撃が虚しく空を斬る。
俺は相手のカウンターの切っ先を完全に見切り、すぐさま急加速して懐に忍び寄り、剣戟を浴びせた。
『待ち戦法』を打ち破るため、俺は相手に何度も同じ状況を再現した。
俺が突っ込み、相手が躱してカウンター。
俺はそれを印象付けた。
最後の攻撃時、俺はさらに加速する事で、相手は一瞬だけ驚いた。
だけど、それ自体は『誘い』。
相手はそれまで3度も同じ状況を体験しているため、俺が同じように先に攻撃を仕掛けるだろう、と思い込んだ。
その思い込みが罠。
この戦法、待ち相手の奴に結構ハマる。
そして、今回もそれがピタリとハマった。
「……見事……!!」
相手は俺の攻撃をモロに受け、俺を称賛し、そのまま膝から崩れ落ちた。
『勝負ありィィイイイ!!!!なんと!!なんという白熱した戦い!!!!この白熱した戦いを制したのは!!黒衣の騎士!!!!』
その瞬間、会場内が揺れるような大歓声が巻き起こった。
すぐさま相手に【治癒士】が駆け寄り、回復を施す。
『皆様!!健闘したライアン・デクスター氏にも盛大な拍手を!!そして、優勝した黒衣の騎士には、更なる称賛を送りましょう!!!!』
会場からは盛大な拍手が巻き起こった。
こんなに褒め称えられるのは人生で初めてだ。
俺は回復を終えたデクスター氏に歩み寄り、手を差し出した。
彼もそれに応じ、俺の手をガッチリと掴む。
そのままデクスター氏を立ち上がらせ、互いの健闘を称える握手へと切り替えた。
「貴殿の動き、実に見事だった。今回はローガン殿が出ないと聞いてチャンスがあるかと思ったが、俺もまだまだのようだったな。」
この時ほど、この体に会話機能が欲しいと思った事は無い。
彼の動きも洗練されていた。
「実に見事だ!!優勝おめでとう!!そして、次は負けん!!」
デクスター氏は俺の腕を掲げた。
会場内は大歓声と拍手に包まれ、俺もそれに応えた。
来賓席にいたローガン師匠もまた、俺の優勝に笑顔で拍手を贈ってくれていた。
我が女神様は………って、居ない!?
……俺の戦い、見てくれて無かったのか……!?
それはヘコむなぁ。
けど、それにショックを受けてる時間はそう長くは無かった。
突如会場に暗闇が指し、皆が上空を見上げると、そこには巨大な龍が俺たちを睨んでいた。
そして、その後ろには、コウモリのような翼が生えた何者かが、不敵に笑みを浮かべていた。
「……この国の戦士がどれ程のものか気になったが……大した事は無さそうだな。聞け、下等な人間ども。我輩の名はアスタロト卿。貴様らに死をお届けする。」
その者がそう呟くと、俺たちにドラゴンを差し向けた。
ドラゴンはギラりと俺たちを睨んだかと思いきや、突然口から火焔を吐いた。
「防御壁展開!!」
国王の命令により、護衛の騎士団の数名が盾を構える。
すると、会場を包み込むようにシールドが張られ、火焔攻撃から皆を守った。
「……小癪な……●●●●●●●●●!!」
アスタロトが意味不明な言葉を吐いたかと思うと、今度はドラゴンが地上へと急降下して迫ってくる。
その時、突然師匠が俺の隣に現れた。
「いけるな。俺はドラゴンの左翼から。お前は右翼を叩け!!」
師匠は言い終わるとすぐさまドラゴンに向かって走り出す。
負けてらんねぇ!!
俺も同じくドラゴンへ向かって走り出す。
後ろからは俺たちに加勢せんとする他の参加者らも追随する。
師匠はあっという間にドラゴンの左翼に向かい、ドラゴンも近づいてくる師匠に向かって火球を放つ。
師匠はその攻撃を上手く躱し、さらに間合いを詰めてゆく。
俺も師匠に負けじと間合いを詰め、ドラゴンからの攻撃にも対処する。
両サイドから接近してくる俺たちに対処すべく、ドラゴンが突如身体を捻ると、巨大な尻尾を振り回した。
尻尾は会場を破壊しつつ俺たちに迫り来る。
俺は跳躍して尻尾を躱したが、そんな俺の元へドラゴンの爪が襲いかかった。
咄嗟に剣で受け止めたものの、その衝撃で俺は吹き飛ばされてしまった。
……クソ……!
図体の割に素早いヤツめ。
けど悪いな。この身体だもんで、俺本体にはダメージは無い。
師匠はその間にドラゴンの左翼を見事に切り飛ばしていた。
さすがは師匠。
翼を斬られたドラゴンが痛みに呻くも、すぐさま師匠を睨みつけて何発もの火球を浴びせる。
先の尻尾による薙ぎ払いをなんとか躱せた者らは、ドラゴンの足元を攻撃するも、その硬い鱗の前に攻撃を通せない。
俺は瓦礫を押し退け、再度ドラゴンの元へと駆け出した。
奴の攻撃は爪での攻撃と火球。広範囲攻撃に火焔。さらには尻尾のぶん回し。
防御のほうはその硬い鱗。
俺はそれらを頭に入れつつ、右翼へと詰める。
師匠がドラゴンの攻撃を引きつける。
俺はその間に右翼へと周り、力を込めて翼を叩き切った。
『ゴァァアアアアアアアアア!!!!』
ドラゴンは痛みに悶え苦しむ。
「よくやった!!次は奴の首を落とすぞ!!」
師匠の号令により、今度は首へと矛先を変える。
ドラゴンは俺たちに向けて一心不乱に火球を放ち、近づけまいと抵抗する。
何度かドラゴンの首元に刃が当たるも、翼よりも尚も頑丈な鱗を通せない。
しかも、その硬い鱗のせいで剣にヒビが入ってしまった。
クソっ!!
頼む、持ってくれ!!
まだ武器は残されてると言っても、それはナイフ。
そんなんじゃあコイツの太い首を落とせない!!
「我輩のことを忘れてやしまいか?」
アスタロトが突如俺の前に現れ、長くさせたであろう自身の爪で攻撃を仕掛けてきた。
咄嗟に剣で受け止めたものの、コイツの力が異様に強い。
なんだこいつ!!
「ほう?我輩の攻撃を受け止めるとは。だが……」
男がさらに力を込めると、俺の剣はパキンと折れてしまい、そのまま奴の爪が俺の肩に突き刺さった。
奴がトドメと言わんばかりにもう片方の手の爪で俺の喉元に狙いを定めていたが、師匠がそれを許さなかった。
師匠はアスタロトの死角から剣戟を浴びせたものの、それをすぐに察知して貫いた爪を引き抜いて飛び避けた。
……すいません、師匠。助かりました……
「……ふむ………貴様、何かおかしいな。」
アスタロトは先程まで貫いていた爪をマジマジと見つめながらそう言った。
多分、返り血が付着していなかったことを不審に思ったんだろう。
「……魔人め……貴様らはそこまで戦争がしたいのか……!!」
「……戦争……?くだらぬ。我輩と貴様らとでは戦にすらならぬわ。」
「ならばなぜ?」
「……ふむ……言うなれば、ただの気晴らしだ。」
「……気晴らしだと……?」
「ガキ共が気晴らしに蟻を踏み潰すのと同じ。我輩も、単なる気晴らしに人間どもを踏み潰しに来たまで。」
「……やはり貴様らとでは会話にすらならんか。」
「……何が言いたいのだ?」
「貴様らのような魔物では、我らと同じように脳が発達しておらん、という事だ。」
「………我輩を侮辱するとは愚かな……!!」
逆上したアスタロトは猛スピードで師匠に襲いかかり、後方からは先のドラゴンが爪で師匠へと襲いかかる。
両者に挟み撃ちされ、師匠もやがて押され始めた。
だがその時、師匠と俺の身体が淡い緑の光に包まれ、アスタロトとドラゴンは赤い光に包まれた。
「……これは………!」
師匠は自分の身体に起きた異変を察知するや、その異変に対してニヤリとほくそ笑む。
すると、さっきまで劣勢に立たされていたハズの師匠の動きが加速され、逆に圧倒してゆく。
誰かが俺たちに上昇効果を付与してくれたようだ。
「……チィッ……下等な人間どもめ……ジョブとやらの力か。」
師匠に異変が起きたのと同様に、アスタロトとドラゴンにも異変が起きていた。
見るからに動きが鈍くなり、やがて息が切れ始めた。
「……鬱陶しいジョブめ……!!」
アスタロトが魔力を練り上げ、異変を振り払う。
おそらく、魔人には下降効果が掛けられたが、アスタロトはそれを力技で振り払ったのだろう。
アスタロトはそれを魔力の力で無理やり払い除けると、切れていた息が元に戻り始める。
ドラゴンもまた同じようにデバフを振り払うと、師匠に向けて連続して火球を撃ち放つ。
師匠は掛けられたバフによりパワーとスピードが上がってはいるが、それでも両者の巧みな連携の前にはいずれ殺られる。
俺は折れた剣をアスタロト目掛けて投擲した。
アスタロトはすぐさまそれを爪で弾いたが、既に俺は別の場所へと跳躍していた。
太もものスイッチを押すと中からナイフが飛び出す。
俺はそれを握りこんで、ドラゴンの元へと跳躍していた。
これでドラゴンの首を切り落とすのは無理だ。
しかし、鱗とは逆側……つまり、喉には比較的柔らかい鱗に包まれている。
それに、俺はもう1つの可能性に賭けた。
人体の急所があるように、魔物にも急所がある。
全ての生物には、脳に血液を送るために頸動脈が存在する。
背中側には身体を支える背骨があるため、ほとんどの生物は喉付近に頸動脈がある。
要は、それを断ち切る。
俺はナイフを構えて突進し、師匠に気を取られていたドラゴンの懐に入り込み、そのまま右腕ごとドラゴンの首元へと突っ込んだ。
……手応え有り……!!
ドラゴンは苦しみ悶える。
しかし、このままではダメだ。
失血死を狙うのなら、腕を引き抜かなければならない。
俺は力任せにドラゴンの首元から腕を引き抜いたものの、ドラゴンの筋肉により腕がボロボロとなっていた。
しかし、効果は覿面。
ドラゴンの首から勢いよく鮮血が溢れ出し、辺りに血の雨が降り注ぐ。
ドラゴンは一頻り悶え苦しんだ後、その巨大な身体をついに横たえて絶命した。
「……我輩のドラゴンをよくも……!!」
アスタロトは更に速度を上げ、俺たちに襲いかかる。
時折聞き取れない言葉を叫んでいたが、おそらくは魔人語なのだろう。
俺の右腕は辛うじて動きはするものの、それだけ。
急いでナイフをもう一本取り出して左手に持たせ、アスタロトの猛攻を防ぐ。
師匠もそんな俺をサポートしつつ、アスタロトへと反撃する。
形勢は逆転。
アスタロトの猛攻は凄まじいものがあったが、俺と師匠の前で思うように動けない。
いや、動かせてもらえない、というほうが正しい。
俺は師匠から剣術を学んだ。
師匠も俺を相手に剣術を教えた。
だからなのか、分かる。
師匠の動きが。
師匠が右に動けば、俺は左へ。
下に動けば上へ。
見る見るうちにアスタロトは満身創痍となるが、師匠や俺も身体中に切り傷をいくつも付けられていた。
「……よ……よくも………下等な人間どもが……!!貴様らだけは……貴様らだけは生きて返さん……!!」
アスタロトが突如上空へと飛翔すると、俺たちに目掛けて口を開き、とてつもない火力の火焔を撃ち込んできた。




