第16話 対アーサー
数時間後。
ようやく俺の試合の番となった。
舞台へと上がると一際歓声が轟く。
『さあ皆様、お待たせ致しました!!本日22試合目は、赤、ジェイムズ・リンデンバーグ!対するは最近巷で噂の、青、黒衣の騎士!!』
相手は早速戦闘態勢に入ってる。
鍛え上げられた拳で戦う【闘士】だ。
拳を保護するのと同時に攻撃するためのトゲ付きのメリケンサックがギラりと光る。
いい機会だ。
俺も格闘術で戦ってみるか。
俺は左手を前、右手は腰の辺りで構えた。
『それでは………試合開始!!!!』
司会者の号令と共に相手は一気に間合いに詰め寄る。
相手の巨大な拳がAxelの顔面を捉え………きれず、俺は前に翳した左手でそっと拳の軌道を逸らし、がら空きとなった相手の腹に右肘を滑り込ませた。
「ごはぁっっ!!!!」
相手は俺のカウンターをモロに受け、そのまま膝から崩れ落ちた。
審判がすぐさまカウントを取るべく近づくが、戦闘不能と判断して両手を頭上で振り翳した。
『なんということか!!一閃!!リンデンバーグの拳をヒラリと躱したかと思いきや!!右肘が鍛え上げられた腹筋諸共粉砕した!!まさに一閃!!勝者、青、黒衣の騎士!!!!』
その瞬間、さらに歓声が大きくなった。
……よし……!
いける。
俺は師匠の顔を見ると、師匠も少し口元を緩めて頷いてくれた。
その後も試合は進み、1回戦目の全てが終了したころには完全に日が落ちていた。
2回戦目以降は明日の開催だ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
その後も俺は2回戦、3回戦と順調に勝ち進む。
4回戦目が終了すると、残りはまた明日となるようだ。
さすがに4回戦目ともなると、相手の強さも上がってくる。
しかしながら、俺はどの試合も圧倒した。
師匠が良いからな。
それに、俺は根っからのゲーマーだ。
対人戦は師匠相手に嫌というほどやらされた。
対人戦における注意事項。それは、相手の目を見ること。
人間というのは動作を行う前に必ず目線がいく。
さらには予備動作。
例えば、ジャンプをする前は少し屈む。というように、なにか動作を起こす前に1度予備動作に入るのだ。
そしてここからはゲーマー理論。
『相手の嫌がることをしろ』だ。
これは、嫌がらせをしろって意味じゃない。
言うなれば、相手の弱点を突くってこと。
力任せに攻撃してくる奴は、その分空振りした時のスキがデカイ。
逆に俊敏性を活かして攻撃してくる奴は、その分攻撃力が低い。
それらの弱点をどうすれば突けるか。
俺は前世で、数多くのプレイヤー相手とゲームで対戦した。
その経験が、そのまま今のジョブ世界にも当てはまる。
相手がどう動き、どんな思考をするのか。
その経験値が、俺のジョブをさらに強くしている。
……しかし、運命のイタズラなのか、次の相手はあのアーサーだ。
まさか5回戦目まで勝ち上がって来るとはね。
さすがはスポーツにおいて前世で天才と言われただけはある。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「凄いよハル!!見蕩れちゃったよ!!」
トーヤは寮に帰るなり興奮した様子だ。
「……自分も初めて拝見しましたが……誠天晴れとしか言い様が無いですな……」
「……ま、まぁ……でも明日はさ……」
「……あ、そ、そういえば、明日はあのアーサーと、だね………」
「アーサー氏の戦いぶりも拝見しましたが、彼も流石と言わざるを得ませんな。前世でも天才と持て囃されたのに改めて納得です。」
「……だな。」
「……か、かか、勝てそう……なの?」
「……うーーん……」
解答に困る。
動きを見る限りでは、アーサーは4回戦目の相手よりは強い。
勝てないか?と聞かれると、正直余裕で勝てそうでもある。
ただ、俺は1度ならず2度3度と、前世で負けた。負け続けた。
そうして、プライドをへし折られた。
だから、アイツを前にすると俺は……いつもの様に動けるんだろうか……?
「……まぁ、頑張るしかない。師匠の見てる前で情けない試合は出来ないから。」
「気を付けてくだされ。アーサーは、Axelに対して敵対心を燃やしておるようですからな。負けることは無いにしても、中身が見られることの無きよう。」
「うん。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
明朝。
第5回戦目が始まった。
俺とアーサーは2試合目となり、ベスト4を賭けて戦う、所謂『準々決勝』だ。
前の組の試合を見る限り、さすがここまで勝ち上がってきただけはある猛者たちだ。
赤は【騎士】、青は【弓士】だ。
【弓士】といえば後方支援が基本的な戦術であるため、当初は相性の関係で【騎士】側に軍配が上がるかと思ったものの、【弓士】は相手に間合いに入らせないように多数の矢により牽制している。
そればかりか、頭上に何本もの矢を放ちつつ、時間差により落下してきた矢での攻撃とバリュエーションは豊富のようだ。
【騎士】側もそれらの攻撃を槍で薙ぎ払いながら、何とかして間合いを詰めようと機会を伺っていた。
その舞台の真反対には、すでにアップを済ませたであろうアーサーが漲る闘志を燃やして俺を睨んでいる。
俺、なんでアイツに敵対されてんの?
なんかした?
……いやいや……アイツの気持ちなんてどうだっていい。
相手が誰であろうと、試合に集中せねば。
『勝負ありィィイイイ!!!!準々決勝を制したのは、赤、カーター・ドレイク選手!!!!』
……お?
前の組が終わったか。
勝ったのは【騎士】のほうか。
『さあ続いての試合!!まだ16歳という若さながら勝ち上がってきた天才闘士、アーサー・ドラグルス!!対するは、噂通りの実力者でありながら一切の正体が不明、黒衣の騎士!!』
やっべ。
なんか心臓がバクバクしてる。
落ち着け。
今までの試合では、俺は自分から打って出る事はしなかった。
基本的にカウンター。
相手はあのアーサーだ。
アーサーの性格上、アイツは必ず先手を取る。
集中しろ。
今回で俺は、過去にアイツからへし折られたプライドを元に戻す。
怖がるな。
怖がればそれだけ相手に飲まれる。
……集中しろ……
……………集中………………
『それでは、試合開始!!!!』
開始の合図と同時に、やはりアーサーは一瞬で間合いを詰めに掛かる。
おそらく、アーサーはあれほど俺を敵対視していた以上、俺の試合全てを見てただろう。
だからこそ俺は、カウンターは仕掛けない!!
俺も大地を蹴ってアーサーへと向かう。
アーサーは俺のまさかの行動に多少驚いていた。
だがアーサーはすぐに適応する。
さすがは天才。
構わず俺はそのままアーサーの顔面にパンチを打ち込む。
しかし、アーサーはそのパンチをすんでで躱し、そのまま俺の腹に右フックを叩き込む。
……が、織り込み済み。
俺はアーサーの右フックを左手で受け止め、さらに身体を捻って回転する。
アーサーの右フックの威力を逃がすためだ。
俺はそのまま大地を再度踏みしめ、アーサーの顔面目掛けて蹴りを浴びせた。
直撃!!!!……とはならず、アーサーはギリギリでそれを腕でガードしていた。
「……こんの野郎………!!」
ガードした腕は衝撃で骨が折れており、力なくだらんとしている。
降参か?
……いや、アーサーにそのつもりは無さそうだな。
アーサーは残った腕を振りかぶり、俺の顔面にパンチを浴びせる。
俺は上体を反らしてそれを躱したが、アーサーは空振りした勢いそのままに今度は回し蹴りを喰らわせにかかった。
俺はアーサーの蹴りを手で受け止めて掴み、片足立ちとなったアーサーの腹に膝蹴りを喰らわせた。
「……カハッ………!!」
膝蹴りをモロに喰らってしまったアーサーはそのまま膝から崩れ落ち、憤怒の目で俺を睨むも、そのまま戦闘不能に陥った。
『勝負ありィィイイイ!!!!圧巻!!まさに圧巻!!!!勝者は、青、黒衣の騎士!!!!』
アーサーにすぐさま【治癒士】が治療を施していた。
………ふぅ………
どうやら俺は、自分でも信じられないくらい強くなってる。
最初こそアーサーと戦うことに多少ビビってた。
でも、やってみれば呆気なかった。
それは、師匠が鍛えてくれたからに他ならない。
あと、悪いなアーサー。
過去の因縁のせいか、多少強めに膝蹴りが入った気がするよ。
その後の準決勝もすんなりと勝ち上がった。
決勝は昼から。
それまで各選手は休息と、必要ならば治療を施してもらう時間のようだ。
まあ、治療は必要ないんだけどね。
決勝を前にインタビューが行われたが、生憎声が出せないもんで、逃げるようにその場を離れた。
筆談くらいならできるけど、筆跡から正体を暴かれるのも癪だし。
『皆様、お待たせ致しました!!いよいよ、第165回、エルミリア選手権の決勝を行います!!』
場内が歓声で沸いた。
『では、両選手を紹介させていただきます!!まずは赤!相手に合わせてあらゆる戦法を使い分けては、その相手を尽くねじ伏せてきた謎の騎士!その正体は男か女か?いや、そんなことはもうどうでもいい!!彼こそは、黒衣の騎士!!!!』
舞台上に上がると同時に場内が割れんばかりの歓声が聞こえる。
もしこれがAxelじゃなく俺本人だったら、緊張して足がガックガクだったな。
『対するは青!!去年惜しくも準優勝ながらも、その実力は誰もが認める!!圧倒的かつ芸術的な剣技にて、我々だけでなく敵をも魅了する!!今回で優勝の栄光を勝ち取ることが出来るのか!!無冠の帝王、ライアン・デクスター!!!!』
彼の戦いぶりを見たけど、まさに別格だ。
常に冷静に相手の攻撃に対処しつつ、しっかりと嫌なとこを突いてくる。
ジョブは【剣士】ながら、剣術だけでなく体術も申し分無い。
………さて、どう攻めるか………
『それでは、試合開始!!!!』




