第15話 エルミリア選手権
師匠は俺にその『良い考え』を話した。
……と言っても、そこまで良い考えでも無かったけど。
ただ、やっぱり俺は師匠に見せたい。
自分の今の実力を。
師匠に習った全てを。
「マスター、もういいぞ。」
「……説教は終わったのか?」
「説教などしとらん。それよりもマスター。今年の大会、必ず見ていろ。」
「……何かいいもんでも見れる、と?」
「間違いない。」
その後喫茶店を後にし、俺は師匠と軽く街を散歩した。
「学校はどうだ?」
「楽しくやってます。」
「さっきいたのは友達だろう。友達は大切にしろ。」
「……師匠は、さっきのマスターとは長いんですか?」
「……まぁな……アイツは俺と同期でな。残ったのは俺とアイツの2人だけになっちまった。」
同期……ということは、あのマスターも転生者なのだろう。
……しかし、残ったのは師匠とマスターだけ?
………歳のせい………だけじゃないよな……
「昔にな、この地域に魔物の大群が押し寄せた事があってな。」
「………ここに………ですか………?」
「そうだ。魔人共が手引きし、この街を襲うよう仕向けたんだ。」
「………そんなことが………」
「同期も駆り出されてな。俺はジョブを持たない役立たずってことで、徴兵は避けられた。
結果として………大勢が死んだ………」
師匠が歩みを止めた場所には慰霊碑がポツンと置かれていた。
そこには『戦没者慰霊碑』とだけ書かれており、隣の石にはズラリと名前が書き連ねられていた。
師匠はそこで手を合わせ、俺も師匠に倣う。
「……俺にとっちゃあ、ここはみんなが死んだ墓場だ。どれだけ復興し、どれだけ街並みが美しくなろうとも、俺にとっては何も変わらん。」
「俺はあの日、自身の力の無さを恨んだ。どれだけ俺をバカにした連中でも、あんな死に方なんてして欲しく無かった。だが、恨んだところでジョブは手に入らん。増してや、死んだ奴らが戻ってくることも無い。」
「それからだ。俺が何事にも諦めないと誓ったのは。」
「今日ここへ来たのは、俺の覚悟、その始まりを……お前にも知っていて欲しかった。」
「……相変わらず、泣き虫だな。ハルは。」
気付くと俺は目から涙が溢れていた。
師匠は、色んなもんを背負ってんだ。
だからこんなに背中が大きいんだって、何となくそう思えた。
そしたら、自然と涙が零れてた。
「ハル。お前はお前の道を拓け。お前の師としてではなく、1人の男として、お前を応援する。」
「………はい………!!」
俺には師匠の背負っているものは背負えない。
多分、師匠も俺には背負わせるつもりなんて無い。
だからこそ……というのもおかしいが、俺は師匠に見せなければならない。
俺の成長を。
俺の道を。
ならどうするか。
「師匠。大会、楽しみにしていてください!!」
「あぁ。勿論だ。」
そう言って振り返った師匠は、暖かい笑顔を見せてくれた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「……ハル氏……本気ですかな……?」
「あぁ。2人には悪いけど、俺は師匠に約束したんだ。大丈夫。正体を明かす訳じゃない。」
「……ハル氏がそこまで真剣なのなら、もう何も言う訳にはいきますまい。ならば、全力で応援しましょう!」
「う、うん!ハル、頑張って!!」
「……いつも悪いな。俺のわがままに振り回してさ。」
「なに、慣れた事ですぞ。」
「み、水臭いこと言うなよ!僕たちの仲じゃないか!」
「……ありがとな……!」
俺たちは早速Axelの元へ行き、夜遅くまでメンテナンスに明け暮れていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
そして、大会当日。
俺は早速Axelを起動させ、会場へと向かう。
と言っても普通に街中を歩く訳にもいかないので、屋根から屋根へと飛び移って、だ。
待ち合わせの場所には、早速人集りが出来てる。
間違いなく、その中心には師匠がいるだろう。
俺は着地すると、俺の存在に気付いた市民から驚きと歓声が巻き起こった。
「来たか。さあ、ゆくぞ。」
俺は師匠に案内され、会場内へと入ってゆく。
途中警備の人に止められたが、師匠の口利きですぐに通してもらえた。
本来、この大会は参加者が多いため、先んじて予選が行われている。
ただ、予選でまで戦うとなると時間が掛かりすぎるため、魔力測定を行い、その審査が通れば本戦出場となる。
……大丈夫か?
俺いま人形なんだけど。
予選会場でも同じように『黒衣の騎士が現れた』と騒然としていた。
「安心しろ。ジョブ無しの俺でもこれはパスできた。今のお前でもクリアできる。」
周囲の目に晒されながら、ようやく俺の番が来た。
台座に手を翳すと、早速光が………と思ったが、台座が突如爆発した。
「……し、少々お待ちを……!!」
係員が驚いて新しい測定器を出したが、それも同じように爆発した。
「……こ、こんなこと……なんで………?」
係員が狼狽えていたが、すぐに上司の係員がやってきて、俺たちはそのまま通してもらえた。
新品の測定器まで壊してしまって申し訳ないな……
師匠は後で大笑いしてたけど。
トーナメント表を見たが、全員で丁度100人。
試合数で言えば99試合行われることになる。
予選通過者は整列させられ、師匠とは一旦ここで別れた。
「予選通過者の皆さん。まずは、おめでとうございます。今回の予選につきましては、例年よりもさらに数が増しており、錚々たる強者たちが集まられたかと存じます。」
壇上では今回の大会責任者と思しき男が挨拶していた。
その傍らにはこの国の国王に王妃。
あ!我が女神アリシアさんまでいる!!
……と、浮かれない浮かれない。
反対側の席には見ただけでイカつい男たちの中に、師匠も混じって席についていた。
「まずは、本大会におきまして、現エルミリア王国国王陛下であらせられるウィリアム・ヴァン・エルミール8世国王よりお言葉を頂戴致しましょう。」
そう言うと国王が腰を上げて語り始めた。
「諸君。本大会は今年で165回目となる伝統的な大会でる。此度の大会には、国外からも数多くの参加者が訪れていると聞いて嬉しい限りである。思えば本大会は165年前に……………」
長ぇ……
この国王、話し方も国王らしくゆったりと話す上に長い。
ってか165年前のことなんて別にそんなに興味無いんですけどね。
………それにしても、衛兵がやたらと俺を睨んでんなぁ………
師匠の口利きのおかげか、いきなり逮捕される、なんてことは無いにしても、些か気にはなる。
あぁ、それにしても、我が女神様は今日もお美しい。
隣にいる姉妹や王妃もお美しいけど、我が女神様は別格だ。
今も凛とした表情のまま、瞑想されていらっしゃる。
………つうか、あれ、寝てね?
ってか国王!!話長いよ!!
まだ喋り足りないのか!!
「………であるからして…………」
一体何度目の「であるからして」だよ……
これ、師匠に言われた通り魔力総量を底上げしてなきゃ開会式でぶっ倒れてたかもな……
「………以上、簡単ではあるが、挨拶を済ませる。皆の健闘、存分に心待ちにさせていただこう。」
……はぁ……
やっと終わったか………
皆は国王の挨拶に盛大な拍手を贈ってる。
俺も一応拍手に混ざりながら思った。
簡単に済んでないけどな!
「続いては、前年、さらに一昨年度の覇者、ローガン・グレンダー殿よりご挨拶頂きましょう。」
マジかよ。
師匠、2連覇してたんか。
「……ゴホン………みなさん、まずは予選通過、おめでとうございます………と、あまりこういう場は得意で無くてな。手短に済ませる。武運を祈る。」
さすがは師匠!!
感動した!!
俺は国王の挨拶よりも激しく拍手を贈った。
「……え〜〜……ゴホン。それでは、これよりトーナメントのくじ引きを行います。左側の方から順に壇上へとお上がり下さい。」
司会に促され、皆順番に登壇する。
箱に手を突っ込み、紙を取り出すと、そこには数字が書かれているようだ。
俺の順になり、俺も同じように箱へ手を突っ込んで紙を取り出す。
折りたたまれた紙を開くと、そこには『44』と書かれていた。
いいじゃん。44て。不吉そうでさ。
そうしてトーナメントが終了し、皆は再度列へと並ぶ。
今分かったんだが、参加者の中にアーサーがいたよ。
あいつ、俺を見て睨んでたな。
いや、睨んでたのはアーサーだけじゃ無いんだけども。
「それでは、大会は10時より開始となります。出場選手は全員控え室にてご準備をお願い致します。」
控え室は、まあ見事にむさ苦しいこと。
いや、女性もいるにはいるんだけどもね。
「……おい、お前!!」
……ん?俺の事?
「テメェだよ!!黒衣の騎士!!」
振り返るとそこにはアーサーがいた。
「お前、俺を覚えてるか?」
……さぁ……ドコノドナタデショウ?
「あん時より俺は強くなった。今度は俺がお前をぶっ倒してやるから覚悟してやがれ!」
そっか。がんばれ!
「……おい、無視してんじゃねえ!!何とか言いやがれ!!」
いやぁ無視とかじゃなくて、何も話せないんです。
会話機能でもあればいいんだけど。
「……おい……!!」
めんどくせぇな。
別に控え室で籠る必要も無いし、ここじゃあ他の参加者らの視線が痛い。
それに22試合目ってまだまだ先だ。
ってか、今日行えるか?
俺は突っ掛るアーサーの手を払い除け、控え室から出て行くことにした。
「……テメ……待ちやがれ!!」
外には選手専用の広場も設けられており、試合前の選手らの中にはそこでアップをしている者がいた。
生憎、俺にはアップは必要無い。
人目に付きにくい場所を探すも、どこもかしこも人が多く、行く先々で好奇の目に晒された。
それならいっそのこと、と思い、選手用の観覧席に訪れると、そこには既に何名かの選手がいたが、どこよりも人は少なかった。
俺が入室したことで多少睨みつけられたが、まあ気にしない気にしない。
俺は椅子に腰掛け、現在行われている試合を観戦する。
片方は剣。もう片方は長い棒での戦いだ。
どうやらまだ1回戦目のようだが、お互い緊張しているのか動きが固い。
……お?
今のは良い一撃が入った。
………しかしながら、レベルが低い。
俺から見ればお互いに隙だらけだ。
「……ジルドのやつ、中々いい動きをするでは無いか。」
「確かに。ですが、コールもまだ負けてないです。」
………え、マジで?
その後も観戦室にいたこの2人組は試合を見ては色々解説してる。
その後もこの2人組は2試合目、3試合目と解説してくれた。
この解説員兼参加者の片方をA、もう片方をBとしよう。
基本的にAが赤側。Bが青側の解説をしている。
俺はというと、正直眠くなってきた。
……………………
…………はっ………!!
いかんいかん。
ここで眠ったらジョブが解除され、知らない間に俺が不戦敗してしまう。
しかし、このままジョブを発動しっ放しってわけにもいかない。
取り敢えず俺はAxelに腕を組ませ、試合を眺めているような姿勢のまま、一旦ジョブを解除させた。




