第10話 あの日の出来事
「……み、御堂が……!?」
「アナタが私を瓦礫から庇ってくれた後、御堂が私を引っ張り出したの。その後、彼は突然私を刺して殺したのよ。」
「……な……なんで…………」
「分からない。ただ、どんな理由があれども、私は御堂を許すつもりは無い。」
「………………」
言葉にならなかった。
俺が最期に桜庭さんを守れたはずだったのに、それは御堂により無惨にも破壊された。
「それだけじゃないわ。」
「………え…………」
「あの日の火災。火元は4階。あのビルの4階は当日は空き部屋だったはずよ。」
………確かにそうだ………
ビルに入る前に見た看板には、4階部分だけ空白だった……
「それに、送り主の分からない同窓会の招待状。非常階段を下りようとした時の爆発。隣のビルの非常階段に乗り移るために都合よくできた壁の大穴。」
パズルのピースが当てはまる。
それはつまり…
「………てことは……あの火災も全て、御堂が仕組んだ事だって事………!?」
「そう考えるのが自然よ。何もかも偶然にしては出来すぎているわ。何より、御堂がナイフを持参していたのは、人を殺そうとする意図があったということよ。」
「…………………」
なんてことだ。
俺はあの火災を単なる事故だとばかり思っていた。
でも、それは御堂の仕組んだことだった。
アイツは俺たちを焼き殺すだけじゃなく、桜庭さんまで刺し殺した。
「………その話を……どうして俺に………?」
「勿論、あなただけに話すつもりは無いわ。……ただ、あなたには最初に伝えたかったの。」
「………お、俺に……最初に……」
「あなたは最期に私を守ってくれた。そのお礼よ。」
「……で、でも……結果的に桜庭さんは………それに、桜庭さんが先に俺を担いでくれたし……」
「それに……」
「お嬢様、そろそろ宜しいでしょうか?」
その時、突然ガタイのいい男が俺たちの前に現れた。おそらく護衛だろう。
話に夢中で忘れてたけど、今や桜庭さんはこの国の第3王女なんだった。
「……えぇ……」
「それでは、参りましょう。」
色々と言いたい事は山ほどある。
でも、予想だにしない情報ばかりで頭の整理が追いつかない。
女神様とこうしてまた再会できたというのに。
俺の心は晴れるどころか、むしろ曇ってゆく。
そんな感じがする。
「最後に、御堂もこの世界のどこかにいるわ。あなたも気をつけてね。」
女神様は最後にとんだ爆弾発言をかましてくれた。
御堂が転生してるだと?
俺たちを焼き殺し、桜庭さんを刺し殺した張本人。
そいつが転生して今もこの世界でのうのうと生きてるだと?
心の中に黒いものが湧き上がる。
怒り。
憎しみ。
そして殺意。
御堂がなぜ俺たちを殺したのかなんて、そんな事なんてどうだっていい。
でも、桜庭さんの言うように、俺たちは備えなければならない。
いつ御堂がまた現れて、俺たちを殺しに来るかもしれない。
俺は、計画を早めなければならないと思い、足早に寮へと帰宅した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「……かような事が……」
「……し、信じられない………なんであいつが……」
俺は寮へと帰宅し、談話室にてアキとトーヤに先程聞いた話を2人に打ち明けた。
2人も俺と同じく言葉にならない様子だ。
「……ともかく、計画を早めたい。このままじゃあまた御堂に殺されてしまうかもしれないし。」
「……う、うん……そうだ…ね……」
「……ハル氏、ちょっと待ってくだされ。」
アキは顎に手を翳しながら神妙な面持ちでそう言った。
「なんだよ?」
「色々と考えておったのですがな、御堂氏の動機がなんなのか、と。」
「……動機……?そんなの知るわけが…」
「我々は御堂氏に……いや、御堂に恨まれるような覚えは無いのです。」
「そりゃそうだろ!それを言えば桜庭さんのほうが殺されるほど恨まれてるはずが!」
「ハル氏、落ち着いてくだされ。自分が言いたいのは、御堂の狙いです。」
「……狙い……?」
「左様です。御堂がなぜ我々を殺したのか。そこが分かれば、対処もしやすいのではないか、という事です。」
「……そんなの、分かるわけが……」
「分かるわけがなくとも、ある程度予測する事は可能でしょう。」
「………ま、まさか、御堂は僕らじゃなく、べ、べべ別の人を殺そうと……?」
「『木を隠すには森の中』と言います。もしかすると、我々は御堂にとって森にされた、と。そう考えるほうが妥当です。」
「……通り魔的な……いや、それは無いか。」
アキの言うように、御堂は誰か殺したい対象がいた。
ただ、単なる放火では確実性に欠ける。
さらに言えば、自分に疑いがかかる。
御堂は殺したい本命を殺しながら、自分に疑いの掛かりづらい方法で、今回の事件を起こしたのではないか。
そう考えるほうが自然だ。
そして、怨恨の線で捜査の手が及ぶのを回避するために、俺たちまで巻き添えにした。
クソっ。
何でやつだ。
俺たちはただ、怨恨の迷彩にされただけってことかよ。
「……なら、本命は誰だと……?」
「………ふむ………直感では京極氏でしょうな。彼はいつも横柄な態度で、他人をいつも見下す傾向にありますからな。」
「……なら、御堂が転生してるなら、京極を狙う……と?」
「で、ででで、でも、京極君は【闘士】だったよ!?普通に戦ったら京極君に勝てるほどのジョブなんて……」
「……まだ、御堂が京極を狙うのかは定かではありませんがね。」
「……どちらにせよ、先の放火みたいに回りくどい計画を立てるような奴だ。面と向かって殺しにくる度胸だって無いさ。」
「……ふむ。自分もそう思いますな。では、その方向で進めていきましょう。」
「あぁ…!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
翌日より授業が開始された。
授業では、この世界での学校で今まで習ってきた事よりも遥かに難しかった。
国語は無くなり言語学と呼ばれ、この世界に存在するあらゆる種族の言語を習わされる。
この世界には人族の他に巨人族やエルフ族というのが存在しており、彼らの言語を学ぶ。
お次は民俗学。
先に話した巨人族やエルフ族の生態について詳しく学ぶ。
エルフ族は森に住んでおり、彼らはジョブを持たない。
というより、ジョブを持つのは人族だけだとか。
エルフ族は精霊と会話する能力が有り、その力を使って生活を営む。
巨人族は山岳地帯で生活しており、字のごとく体がデカイ。
その身長、なんと平均して5メートル。
でかいヤツだと10メートルはあるんだとか。
その巨大な身体から繰り出すパワーは凄まじいもので、巨人族のパンチは大地を割るとも言われているほどだとか。
その他にも、海には人魚族、荒野には魔人族が生息しているとの事。
この2つの種族は危険な種族なのだと。
人魚族の歌には生物の脳を麻痺させ、誘惑する。
そうして罠に掛かった哀れな獲物は、生きたまま人魚に喰われるらしい。
魔人族とは魔物が人型に進化した生き物だが、知能が高い。
魔物が持つパワーやスピードをそのまま継承しており、類稀なる身体能力を持っている。
この2つの種族には交渉はおろか、近づくことすら危険な種族なのだとか。
まあ、君子危うきに近寄らず、ってことか。
その次は歴史学。
これはこの国の成り立ちだけでなく、その遥か昔からの歴史を学ぶ授業である。
その次に魔物の行動分析学。
各地にいる多数の魔物の行動や能力を学ぶための授業である。
そして、本日最後の授業は法学。
この世界での法律を学ぶ授業だ。
これらの授業の他に、数学やジョブ訓練などもあった。
さすがに初日から中身の濃い授業だったもので、終わる頃には俺はヘトヘトだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「みんな、少し良いかしら。」
授業が終わったあと、アリシアさんが皆に声をかけ、あの日に何があったのかを話した。
反応は様々だった。
憤り・怒り・不安。
そんな中、神宮寺ことリュゼが手を挙げて質問した。
「転生先の彼の両親は?」
突拍子も無い質問だった。
俺はこの質問の意図をすぐに理解できず、後のアリシアさんの返答によりその意図を理解した。
「当然、【観測士】により彼の転生先にも推薦状が届いたわ。でも、それからなんの音沙汰も無かったから衛兵が訪ねたの。でも、そこではすでに白骨化した死体が2体あったそうよ。」
なるほど。
俺の家にもそうやって推薦状が届いたんだっけ。
……って………ちょっと待った………
……白骨化した死体……?
「つまり、彼は確実にこの世界に来ていて、両親を手にかけた、というわけか。」
神宮寺、頭良いな。
いや、感心してる場合じゃない。
「……り……両親を殺したって……マジかよ……」
皆がざわめく。
御堂は完全に連続殺人犯として成り立ってしまったわけか。
俺も共感できる。
と言っても、俺は殺人はした事は無い。
共感できる、ってのは、命を奪うことに慣れるってところ。
俺も、最初のうちは魔物の命を奪う行為に躊躇いを感じた。
御堂も、最初は殺人行為そのものに躊躇いを感じただろう。
でも、慣れてしまった。
「……彼はまた、僕らを襲いに来る可能性があるってことか。」
御堂だけが転生出来た、とは、御堂自身は考えていないだろう。
となれば、今度こそアイツは俺たちを殺しに来る可能性は大いにある。
「……ハッ!!なにビクついてやがる!!アイツが俺たちを殺そうとすんのなら、俺が返り討ちにきてやるさ!!」
京極ことアーサーは自信満々に言い切った。
「アーサー。事はそう単純ではないよ。」
「あぁん?」
「彼の標的が1人だけなら暗殺を選ぶ。ただ、毎日怯えながら暮らすのは僕としても苦痛だ。」
リュゼはキリっとした表情を崩さずに続ける。
「寮や校内は警備も厳重。となれば登下校が1番危険だ。彼が捕まるまでは、しばらく登下校は送迎か、もしくは何人かで固まるほうがいいだろう。」
「めんどくせぇ!!んなもんに頼らずとも俺は一人で平気だ!」
「キミが良くても、他の子が襲われるかもしれないんだ。キミは戦闘職だが、ここにはそうでない者もいる。」
「……言っとくが、俺は足手まといのお守りなんざゴメンだぞ。」
その後も話し合いが続き、俺はアキと一緒にトーヤの馬車で送迎してもらう事となった。
「最後に1つだけ、いいかしら?」
アリシアさんが皆に問いかける。
「この中で、御堂に恨まれるような覚えのある人は?」
この質問には誰もが口を噤み、それぞれの顔を見合わせた。
そりゃそうだろう。
前世で誰かがアイツをイジメてたって話、俺は聞いたことが無い。
「………誰も心当たりは無いようね。」
「ならもういいだろ!それに、今まで御堂が俺らを殺しに来なかったって事は、復讐なんざもう考えて無ぇってことだ!」
一理ある。
「それに安心しな。もし俺が御堂を見つけたら代わりにぶっ殺しといてやるからよ。」
「……ともかく、皆気をつけて。」
そうして、入学後の初日の学校が終わりを迎えた。




