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砂漠の月  作者: kohama
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第六話 友人エイジャ

エイジャは裏門を出ると、あおい湖のほとりをぼんやりと眺めながら、リワンの家にやって来た。彼はノックも無く、いきなりドアを開けながら言った。

エイジャ「うーっす、迎えに来た」

リファが驚いて振り返り、顔を赤くした。アイラは リファの顔をサッと横目で見た。

リファ「〈勇気を振り絞って〉エ…、エイジャ…! ノ、ノ、ノックしてほしいわ。びっくりするじゃない!」

エイジャ「〈家に入りながら、そんな事どうでもいいというように〉んあー、悪ぃ。〈二人に近付きながら アイラに〉お前の部屋、場所変わったから。飛び降りらんねー部屋になった」

アイラは リファの寝台で天井を見上げたまま、表情を固くして何も言わなかった。


エイジャ「〈寝台に近付き、リファのすぐ後ろで〉ほれ、行くぞ」

リファは、すぐ後ろにエイジャを感じ、赤面して汗をかいている。

アイラはのろのろとベッドから身を起こすと、再び視界が暗くなった。リファが慌てて椅子から立ち上がり、支えた。

リファ「アイちゃん…、やっぱりどっか打ってるのかな?」

エイジャ「〈呆れたように〉アホなことすっからだろーが」

リファは赤くなったまま何も言い返せずに、小さく唇を噛んだ。

アイラ「〈頭を少し振って、目を瞑ったまま〉大丈夫…」

アイラがベッドから足を出し 恐る恐る立ち上がると、再び視界が暗くなった。今度はエイジャが身体を支えた。

エイジャ「っと。ったく世話の焼ける…」

リファは、アイラの身体を支える小麦色のたくましい腕を見て、赤くなって咄嗟に目をらした。エイジャは その様子を見ると、見透かしたようにリファを見て、フッと笑った。


アイラ「ごめん…、さっきからフワフワしてて…」

エイジャの身体を支えに 視界が開けてくるのを待ち、アイラは辛うじて一人で立った。

それを見ると、エイジャは不機嫌そうに、アイラを背負えるよう しゃがみこんだ。

エイジャ「ほれ」

リファ(お、お、おんぶ…!)

リファが一人で はわはわしている中、アイラは不機嫌に目をそらせて言った。

アイラ「あんたにおぶわれるなんて一生の恥よ〈リファ、よく分からないショックを受けている〉。別に…、歩けるし」

エイジャ「ケッ! そんな状態でよく言うぜ! こっちだってなぁ、別に好きでやってんじゃねーんだよ! リワンから言われてんの! どっか打ってるかもしんねーから安静にさせろって。お前に何かあったら、俺が怒られんだろが!」

アイラは仕方なく、エイジャの広くたくましい背中に乗った。

リファはそっと後ろを向き、羨ましさにもだえているのを隠した。


エイジャ「じゃ、またな リファ」

エイジャに話しかけられると、リファは前に向き直り、声を上擦らせながら返事をした。

リファ「うん…」

リファが扉を開けると、エイジャは別に何も背負っていないかのような軽い足取りで出ていった。

リファ「アイちゃん…。私、あなたが羨ましいわ…」

リファは胸に手を当て、二人の後ろ姿を ため息と共に見送った。



シュロの木の茂る湖のほとりを、エイジャはアイラを背負い、城の裏口へ向かって歩いた。

エイジャはひそかに、アイラの様子を少し気にしながら言った。

エイジャ「親父おやじに言っといたぞ」

アイラ「…何て?」

エイジャ「……。部屋から飛び降りた、って」

アイラ「……。」

エイジャ「超切れてたー。青鬼みたいだったー。んで今んとこ、他の連中には多分バレてない。落ちた後、びしょ濡れで 気ぃ失ったまま城に戻らなかったのが正解だったな。つー訳だからよ、お前、裏門からはどうにか歩けよな」

アイラ「わ、分かってるわよ…」

二人はしばらく無言になった。風に揺れるシュロの葉の音が心地良い。


エイジャは また密かにアイラの様子をチラと見ると、何の気無しに言った。

エイジャ「お前さ、リワンのこと好きなんだろ?」

アイラは、悪友からそんな事を言われるとは夢にも思っていなかったので、ムッとして黙り込んだ。

アイラ「……。」

エイジャ「手伝ってやろうか?」

アイラ「何を…?」

エイジャ「あ? この半月の間に、どうにかなれるようにさ」

アイラ「どうにかって?」

エイジャ「どうにかってったら…、どうにかだよ」

アイラ「……。リファにも同じ事言われた」

エイジャ「あっそ」


アイラ「…あんたこそ」

エイジャ「あ?」

アイラ「リファの事…、あんたどう思ってんの?」

エイジャ「身体も気も弱い、人形みたいなの女の子、リワンの妹、タメ、薬草オタク」

アイラ「そ、そうじゃなくて…、す…、好きだったりしないの?」

エイジャ「〈ケタケタと笑い〉直球だよな、お前って。さすが単細胞」

アイラ「はぐらかさないでよ。あののこと、どう思ってんのよ?」

エイジャ「俺? 俺 女だったら全員好きよ。突っ込めれば何だっていい」

アイラ「〈心底軽蔑してボソっと〉さそりの巣にでも突っ込んでろ、ゲス野郎」

エイジャ「〈ケタケタと笑って〉アレだろ? あいつ、俺の事 好きなんだろ? わかりやすいよな」

アイラ「…何か腹立つわ。リファったら、どうしてあんたみたいのを…」

エイジャ「ククク、あいつとやったら、リワンに殺されそうだよなぁ。ガキの頃、リファの髪切った時、俺、マジでリワンに殺されるかと思った〈笑う〉」

アイラ「リワンったら、あの時どうして手加減したのかしら」

エイジャ「お前が止めに入ったんだろうが」


アイラ「〈つんとして〉そうだったかしら。……。あんたね、私が居なくなっても…、リファを泣かせたら許さないんだからね」

エイジャ「え、何? 草馬そうまに行くの、受け入れた訳? リファが何か言った? フッ、さすがあいつだな」

アイラは何も答えず、エイジャの背で一人沈んだ。

エイジャはその様子を、ほんの少しだけ振り返って また目の端で捉えると、諦めたように言った。

「つかさー、まだ半月あんだからよ、輿こし入れ自体はどーにもなりそーにねーけどさぁ、リワンの事? やれるだけやってみよーぜ。なぁ、あいつとどうにかなれたらさぁ、どんだけ嬉しいか想像してみろっての!」

アイラ「ん…」

エイジャ「だからさ」

エイジャはそこで口をつぐんだ。アイラは じりじりして先を促した。

アイラ「…何よ」

エイジャは、夕焼けに赤くなりつつある湖を見て言った。

エイジャ「…死ぬなって、言いたい訳」

アイラは 思いがけずかけられた悪友の言葉に、不覚にも涙が込み上げた。

こめかみをエイジャの肩に付けて、同い年の幼馴染に 泣いているのがバレないように努めたが、涙は彼の肩にとめどもなく落ちた。

エイジャは気付かぬフリをして、黙ったまま夕焼けになりつつある湖畔を歩いた。



アイラの部屋は中庭に面した部屋に移されていた。彼女は寝台に上半身を起こし、ぼんやりと薄紫色に変わる中庭を見ている。

エイジャは長椅子に座り 足を窓に乗せ、目を瞑っている。夕暮れに白いカーテンがヒラヒラと心地良く舞っている。


足音が近付いて来たと思うと、突然、ノックもなく 父王が扉をバンと開けて部屋へ入って来た。

アイラはぼんやりと出口を振り返り、エイジャは驚いて 素早く身を起こした。

王は青い顔をしてわなわなと震えたかと思うと、ツカツカとアイラのそばまで来て、手を振り上げた。

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