↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
砂漠の月(第一部 碧沿)  作者: kohama
第一章 幼少
33/60

第33話 制圧

側近「戦わない?! では江が攻めてきたら、されるがままにするというのですか!?」

締め切った執務室で、碧沿(へきえん)人達は今後について議論していた。

アイラは、父の側近の険しい顔を見たあと、父の顔を見た。

王「そうだ。後ろ盾無しに勝てる相手ではない。今は兵も江(ごう)に押さえられている。いくら市民が訓練されているとは言え、無駄死にになる。

攻めて来るにしても、今回はこの国を滅ぼしに来る訳ではないだろう。我々の反抗を制圧しに来るのだ。二度と歯向かわないようにな。

草馬(そうま)の力がもう少し拮抗(きっこう)していれば戦っても部があろうが、今は駄目だろう」

側近「それは…」

要人達は皆 一様に、悔しさに奥歯を噛み締めた。


アイラの横で、エイジャとリワンも話を聞いていた。

アイラ (キッコウ…? カッコウ…?)

エイジャ (仲間、増やさねーとだわな…。同じような目に遭ってる奴ら…)

リワン (何か…、碧沿(へきえん)人しかできない事は無いのかな…。碧沿(ここ)が潰されたら困るような…)

子供達は窓の近くで話を聞きながら、各々考えた。


この日、市民には"江が攻めて来ても、無駄な戦いは避けよ。生き残れ"という伝達がされた。


・・・・・・・・・・・


数日後、碧沿(へきえん)の城壁の外の物見台から、狼煙(のろし)が上がった。

それは更に城に近い物見台に伝わり、そこもまた狼煙を上げた。

城の 北の塔の監視台は、その幾つか上がっている狼煙をすぐに見つけた。

監視台の兵「敵襲ー!! 敵襲ー!!」

監視台の兵は、目を飛び出んばかりにして叫んだ。

しばらくすると、薄茶色の地平線の彼方から、砂埃と地鳴りが聞こえてきた。

一面に、物凄い数だった。

それは、あわよあわよと言う間に 王都の城壁のすぐ近くまで押し寄せた。



碧沿(へきえん)の東西南北の門は、あっという間に江(ごう)の兵によって包囲された。

王は、城の二階の広間からバルコニーへ出ると、都の状況を見た。

王妃もキュンを抱いたまま、青い顔をして王の隣に立っていた。

近衛隊員達が、王の周りを固めていた。


アイラが息を切らして走って来た。後ろにナザル、リワンとエイジャも付いている。

アイラ「父さま?! 江(ごう)が攻めてきたって…」

王「そうだ」

皆は、二階のバルコニーから街の様子を見た。

東西南北の四つの門は制圧され、各門から騎馬が入って来ていた。特に東大路は、押し寄せる騎馬で、もうもうと土煙が上がっていた。

北大路だけは、のどかな農地が広大に続くのもあり、北門に投じられた兵は少ないようで静かだった。


アイラ (都に江の兵が入ってきた…! みんな殺されちゃうの…?!)

エイジャもリワンも、アイラの横でバルコニーにへばりつき、初めて見る王都の制圧を息をのんで見ていた。

アイラ達の居るバルコニーの下は、既に城へ押し寄せた碧沿人や江兵でごった返し始めていた。

王「王妃、アイラとキュンと共に裏門から出て、しばらくの間 寺院の仏塔に隠れていろ。ここは混乱に乗じて、何があるか分からん」

王は、険しい顔で静かに王妃に言った。

王妃「私はあなたの傍(そば)を離れません」

王妃はアイラと手を繋ぎ、夫の目を見て静かに答えた。

王は小さく息をついた。

碧沿の都はあっという間に、何の抵抗も無く制圧された。



暫くすると、江兵は城に雪崩(なだ)れ込んで来た。

アイラ達の居るバルコニー後方の二階広間の方から、ガシャガシャと兵が押し入って来る音がした。

王はゆっくりと振り向いた。

アイラ達一家と碧沿の要人達は、江(ごう)の精鋭部隊に取り囲まれた。

碧沿(へきえん)人の近衛隊や護衛達も刀に手をかけたが、王は小さく手で制した。

江(ごう)兵達の真ん中には、特使と 常駐役人のリュウが立っていた。



江兵が二人、王を捕(とら)えに進み出てきた。

アイラ「!」

アイラは咄嗟に、母と繋いでいた手を離して 父の前に飛び出した。

アイラ「あんた達 父さまに何す…〈悲鳴〉!!」

アイラは容赦無く蹴飛ばされ、地面にズザザッと滑った。

王「!」/王妃「アイラ!」

リワン/エイジャ「!」

リワンとエイジャが、アイラを後ろに引っ張ろうと飛び出しかけた時、ナザルが既に彼女を片手で引き上げて抱っこしていた。

ナザル「大丈夫ですか?」

ナザルはチラとアイラを見ると、江兵を見たまま素早く言った。

アイラはベソをかきながら頷(うなず)いた。震えていた。


特使『無礼はよせ。その子はこの国の皇位継承権 第一位の姫だぞ』

特使は、言葉とは裏腹に、この混乱に紛れてこの場で彼女を殺してしまっても全く問題無いような口ぶりで、薄笑いを浮かべて言った。

二人の兵は、王の腕を両脇から掴んだ。

王は抵抗しなかった。

アイラ「父さま!!」


アイラは、偏屈な父のことをそれ程 好きな訳でもなかったのに、涙ぐんだ。

なぜこんな奴らの言いなりにならねばならないのか、悔しくて、奥歯を噛みしめた。

リワンとエイジャも、他の碧沿(へきえん)人達も、屈辱感を王に倣(なら)って どうにか胸にしまっていた。


・・・・・


バルコニーの下で見ていた碧沿(へきえん)市民は、王が江兵に捕えられたのを見ると、憤慨した。

市民「なぜ戦わないんだ!」

市民「どうして黙っているんだ!」

市民はバルコニーの下にどんどん集まり、口々に叫んだ。


江兵「散れ散れ! 集まるな! 集まって何かしてみろ! こんな小国など、全滅させてやるからな!」

江兵は市民の熱に脅威を感じながら、馬の上から叫んだ。


・・・・・


王は バルコニーから続く二階の広間へ連れて行かれると、膝を付いて座らされた。

王の左右には、二人の兵が立っていた。

碧沿(へきえん)人達は皆、奥歯を噛みしめて 後ろにじっと控えていた。

アイラ (父さま…!)

アイラは困惑しながら、父と江の特使を見つめていた。


江の特使は、王の前に立った。

特使『これでやっと、立場がはっきりとお分かり頂けたかな?』

特使は愉快そうに言った。

王は何も言わなかった。


特使『江を愚弄したからには、何か…責任を取ってもらわねばなぁ。

本国からは、ゼダ王子の命を頂こうかという話も出ているが…?』

王妃/アイラ『!?』

王『何だと?! あんな小さい子供の命を奪って何になるというのだ!』

特使『見せしめだ。二度と、我々に歯向かわないように。それと、王の血を一つ断つ事もできる』


王は拳を握りしめて震えた。

王『許さん! そんなことをするならば、市民も黙ってはおらん! 貴国との共存関係は、もう何もかも無くなる事になるぞ!』

特使『ほう? 市民が戦えるのか?』

王『この地は古(いにしえ)より戦いの中にあった。故(ゆえ)に、市民も皆 日頃から訓練を積んでいる。ゼダを殺すというのなら、皆 黙ってはいない!』

王の後ろに控える碧沿人の要人達や近衛隊も、特使を睨みつけた。

特使『フン…』


特使は顎髭を撫でながら、王の前をゆっくりとウロウロ歩いた。

常駐役人リュウが、特使と目を合わせた。

特使は、後ろの方に居るリュウに寄った。リュウは特使に耳打ちした。

リュウ『特使殿。確かに、ここの市民が皆 訓練を積んでいるのは事実です。

兵糧(ひょうろう)は略奪できても、こちらも長旅で疲弊している後の 慣れない土地での戦闘になります。被害が出ます。

それに、碧沿(ここ)を滅ぼしたとしても、農業や商業に従事させる人員を、また調達しなければなりません。手間と時間がかかります。

我々の目的は、西域諸国の平定と、それによる交易路の莫大な利益の回収です。服従させて働かせるのが最も効率的です。戦わない方が得策かと』

特使『ふむ…。では、どうけじめをつけるかな。この王に死んでもらうか?』

リュウ『それも、市民が黙ってはいないでしょう。

この王を排除して 江(ごう)人の王を立てたとしても、市民の反発は必至です。

我々の思い通りに動く、正当な王位継承権を持つ碧沿(へきえん)人の王が成長するまで、この王は生かすべきです』

特使『ならば…』

リュウ『もう一人、人質をお取りになる位で、丁度宜しいかと。相手の落ち度で切り札が増やせるのならば、こちらとしても悪い話ではございません』

特使『ふむ…。今 居るのは、王女が二人と王妃か…』

リュウ『王女が宜しいでしょう。この国は女も王になれますので。どちらの王女でも宜しいかと…』

特使『あの赤ん坊の王女は、どう見ても王の子には見えんが…?』

リュウ『それでも、王の子として認知されています。アイラ姫と同じように、この国の王位継承権を持っています』

特使『ふむ…。そうか』



特使は、また王の前に戻って来た。

特使『では、もう一人 王女を貰うとしよう。

王女二人の内 どちらかを差し出す事で、この度(たび)は幕引きとし、兵を引き上げる』

王・王妃・カルファ「!!」


ナザル・リワン「!」

江の言葉が分かるリワンは、アイラの顔を震える目で見た。

アイラ・エイジャ「?」

エイジャ (あー、クソ。早いとこ江の言葉覚えちまわねーとなー。大体の所でいーから。何つってんだろ…?)

エイジャは、リワンの戦慄した表情をもう一度見た。


王妃「そ…んな…」

王妃は ほんの僅か、小さく首を振った。

王妃 (今までの幸せは何だったの? 私は何の為に子供を産んだの? こんな…、こんな事の為に…、こんな…男達の戦争のために、私の大事な子供が また取られてしまうというの…?! だったら私は、一体 何のために愛したというの?)

彼女は 押し寄せる怒りと動悸の為に、浅い息を繰り返した。

すぐ後ろに控えるカルファも眉間に深く皺を寄せ、震える息を吐いた。


アイラ「母さまどうしたの? あの江(ごう)の人、何て言ってたの?」

アイラは不安な瞳で、真っ直ぐに母を見上げた。

王妃「アイラ…。アイラ…!」

彼女はまた小さく首を降ると、娘を怯(おび)えたような瞳でじっと見つめた。

母は、三年前に弟が連れて行かれた時と同じように、泣いていた。

彼女は胸に手を当てて苦しそうに息をしていたかと思うと、その濡れた瞳は不意に閉じられ、ガクリと膝を付いて崩れた。

アイラ「母さま?!」

カルファ「!」

すぐ後ろに控えていたカルファは、咄嗟に彼女が抱いていたキュンごと抱き留めた。

キュンは落下の恐怖にびっくりして、ギャアギャアと泣いた。



王『少し…、話し合わせてくれ…』

王は特使の前に跪(ひざまず)いたまま、静かに言った。


・・・・・・・・


執務室の重い扉を締め切って、碧沿(へきえん)の要人達は話し合った。

アイラか、キュンか。

どちらを差し出すのか。


アイラは、王の子だった。

キュンは、カルファの子だった。

口には出さないが、皆それは分かっていた。


王「カルファを…、呼んできてくれ。二人で話したい事がある」

王は静かにそう言った。


・・・・・


カルファ「失礼します」

ノックの後、カルファが入って来た。

王「あぁ。…王妃はどうだ?」

窓の近くに立っていた王は、カルファの方を振り向きながら言った。

カルファ「お部屋にお運びしました。眠っておられます」

王「そうか…」

王はそう言うと、王座に腰掛けた。

カルファは王座の前まで行くと、跪(ひざまず)き、頭を下げた。


王は軽く咳払いをした後、切り出した。

王「江(ごう)へ送る王女だがな…」

カルファ「はい…」

そのまま、王は何も言わなかった。

カルファも跪(ひざまず)いたまま、何も言わなかった。

二人はだいぶ長い間、黙ったままだった。

二人とも、譲らなかった。


王はため息をついた。

王「それは、当たり前だな」

カルファ「…?」

カルファは無言で顔を上げた。

王「自分の子供が可愛いのは、当たり前だということだ。

お前に、立場で迫るのは間違っている。私が決めねばなるまい」

カルファ「……。」


王「江へは、キュンを送ろうと考えている」

カルファ「!!」

カルファは、青い瞳を見開いた。

分かっていたとは言え、胸が刺されたように痛んだ。

彼は泣きそうになり、急いで俯(うつむ)くと そっと唇を噛み、涙が込み上げるのを堪(こら)えた。


カルファ「……。承知…しました…」

沈黙の後、カルファは顔を下げたまま、やっとそれだけ言った。

王「お前に力を使うのは二度目だな。王妃と結婚した時と、今度はお前の子供を取り上げる今だ。私を恨むと良い。話はそれだけだ」

王は俯(うつむ)いて、ため息混じりに 申し訳なさそうに言った。

カルファは床を見つめながら

カルファ「滅相もございません。では、失礼致します」

と言うと、顔を見られないよう俯いたまま、一礼して執務室を出て行った。


・・・・


彼は執務室の扉に寄りかかり、震える息を吐いた。

確か、以前もこんな事があった。

カルファ (あぁそうだ、王様に 王妃さまとの関係を認めると言われた時だった)

彼は、一年前の事を思った。

あの時から、状況は天と地ほど変わっていた。


カルファ (もう一度、一年前のこの扉に寄りかかった時に戻れるとしたら、彼女を愛さない選択をするだろうか?

いや、 そんな事はない。

何度戻っても同じだ。

俺は、あの人を愛する。

これまでだって、ずっとそうだった。


あぁ、あの人との子供を、渡さねばならない…。

分かっていたことじゃないか。

俺の娘を…、あの可愛いキュンを…、江へ…)


カルファは、まだ少ししか経っていないキュンとの触れ合いを思い出した。

自分にそっくりで、ご機嫌な彼女の笑顔が、カルファの脳裏を埋め尽くした。

抱きしめた時の、しっとりとした彼女の肌の温もりを、ありありと思い出した。

彼女の細い細い髪の毛からは、信じられない位 良い匂いがした。

カルファの双眸(そうぼう)から、涙が溢れた。

カルファ (キュンを…、江へ…渡す…!)

彼は瞳をぐっと閉じると、奥歯を噛み締め、声を殺してほんの僅(わず)かな間泣いた。



カルファは再び瞳を開けた。

彼の青い瞳は、バルコニーからの午後の強い日差しを映していた。

カルファ (いや、渡さない)

彼は静かに決意した。


カルファ (あの人は悲しむだろうか?

もちろん悲しむ。

だが、逆でも悲しむ。

俺はあの人に、もうこんな思いはさせたくない。

こんな所に居たら駄目だ!


あの人は 国の為の駒を作る機械じゃない。

あの人の心を、何だと思っているんだ!

こんな事をしていたら、いつか彼女は壊れてしまう。

そしていつか彼女まで、この国の為に売られてしまう。


あの人の心は、いつだって愛に溢(あふ)れている。

幸せになるべき人だ!

俺は、譲らないぞ!)


彼は腕で涙を拭(ぬぐ)うと、持たれていた背を 扉からゆっくりと離した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。