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砂漠の月  作者: kohama
18/37

第18話 新入り

ナザル「大変 申し訳ございませんでした!!」

夕方、来客が終わった王と王妃に、ナザルは深々と頭を下げた。


王「いや、お前の責任ではない。お前に新兵の選考に行けと命じたのは私だ」

王妃「私達も来客で居なかったのに、あの子の事をお願いする人を決めておかなかったのがいけなかったわ。いつもはリワン達が居るから、考えてなくて…」

王「〈苦々しげに〉いや…、まずはナザルの言いつけを守らず、勝手に選考会に潜り込んだのは、アイラだ」

王妃「子供は…、そういうものですわ。何をするか分からないものです」

王「むむ…」


・・・・・・・・


ナザルは二人の前を辞すと、力が抜けたように歩きながら考えた。

ナザル (まず…、まず姫が死ななくて良かった…。もしあれで打ち所が悪くて亡くなっていたら、どうなっていたんだろ…?

で その次に、骨が折れてなくて良かった…。折れてたら、もっと大ごとだった。打撲程度で済んで、本当に幸いだった…。

それから、王様と王妃様が ああいうお人柄で良かった…。性格によっては、子守役の俺の首が飛ぶ所だった…)



彼が どっと疲れて医務室へ行くと、二人の子供がスースーと寝息を立てて眠っていた。

医官「おぉ、ナザルさん。…大丈夫でしたか?」

ナザル「は…い…」

ナザルは神妙に応えた。


彼は、ジャンパースカートを脱いでブラウスとズボン姿で眠るアイラの背中をひらりとめくって見た。小さな背中には、棒の形の青アザがあった。ナザルは深いため息をついた。

医官「姫の方は大丈夫です。この子の方が大変です」

医官は癖毛くせげの男の子の方を見た。彼は胴に包帯を巻かれ、包帯からは軟膏の匂いがした。

ナザル「その子は…、どういった…?」

エイジャ「むちで酷く打たれています。今日も、動ける状態じゃなかったでしょうに…。」

ナザル「鞭? そう…ですか…」



アイラが二人の声に目を覚ました。

アイラ「〈起き上がりながら〉ナザ…っ…、うぅ…」

背中の打撲に顔をしかめるアイラを、ナザルは眉間に皺を寄せて見た。

アイラはのろのろと起き上がると、大きなあくびをした。

アイラ「あたたた…。ふぁあ。せんこうかい、おわったの?」

彼はイラッとした。


ナザル「…えぇ今日のは終わりましたよ。誰かのせいで、酷い騒ぎになりましたけどね。しばらく麻袋なんて、見たくもないですよ! 麻袋なんて、そもそも嫌いだったんです! 夢に出て来ますよ! 横から走ってくる麻袋がっ!!」

アイラ「〈目をかきながら〉ふぇえ?」

ナザル「〈またイラっとして〉姫?! いくらあなたの方が立場が上だからって、俺も怒る時くらいありますよ? 着いて来ちゃダメだって、言ったじゃないですか! どうして言いつけを守らなかったんですか!」

ナザルは、顔を赤くして、いつになく厳しい口調でアイラを叱責した。

アイラは申し訳なさそうに下を向いた。


ナザル「しかも…、見てるだけならまだしも、何で飛び出して来たんすか! そんなもんで済んだから良かったけど、もし打ち所や相手が悪かったら、どうなってたか…! 少しは後先のことも考えて下さいよ!!」

アイラ「〈しゅんとして〉…ごめんなさい…」

ナザルは頭を両手でガシガシと掻いた。

ナザル「あぁああああ、もうっ!!〈独り言〉そんな簡単に謝んないでくれよな?!〈アイラに〉いや、違うんす!! 姫が適当に一人で遊ぶだろうと思って行っちまった俺が悪いんすけど!!」


アイラ「〈隣で寝ているエイジャを見て おずおずと〉この子…、合格になった?」

ナザル「はっ?! ねぇ、聞いてた?! 俺の話」

アイラ「聞いてたよ。麻袋が嫌いなんでしょ?」

ナザル「うぁあああああ!〈両手に顔をうずめ〉無理! 子守役とか、マジ俺 もう無理だから…! ホント勘弁して…!〈塞ぎ込む〉」

アイラ「本当にごめんなさいナザル。ねぇ、この子、受かった?」

ナザル「〈顔を覆った手の指の間からエイジャを見て〉あぁ、受かりましたよ。身体能力、知力共に高評価です」

アイラ「本当?!」

アイラはパァッと表情を変えて、同じ寝台に寝せられているエイジャを揺り起こした。

アイラ「ねぇ! ねぇってば! 起きて!!」

医官「あぁ、その子は酷い怪我をしているから起こさない方が…」

エイジャは 金色の瞳をゆっくりと開けた。


アイラ「ねぇ! あなた、合格したってよ! ちんたいのうりょく、しりょくも、こうしょうかだってよ!」

エイジャ「〈眉間に皺をよせて〉あ?〈意識がはっきりしてきて〉……え? 合格? うそだろ?! マジか!! メシ食えんの?!」

アイラ「めし? …ご飯はいつも出るよ」

エイジャは寝台の上にいきなり立ち上がると、「うぉおおおおお!!!! っしゃぁあああああ!!!!」

と遠吠えをした。

医務室に居た人達は、呆気に取られてエイジャを見た。

ナザル「〈エイジャを指差し、医官に〉酷い…怪我…?」

医官「…本当ですって」



<翌日>

翌朝、リワンとリファが父と一緒に城の医務室へ行くと、寝台には、数日前 街の診療所で居なくなったひょうのような男の子が居て、ガツガツと朝食をかき込んでいた。


兄妹きょうだいがエイジャと目が合うと、三人は同時に声を上げた。

リファ・リワン「あっ!」

エイジャ「ゲッ!」

エイジャは信じられないという風に、金色の瞳でリファをじっと見つめた。


リヤン「おや、新入りというのは、君の事だったのか。よくその状態で選考会に来たなぁ。具合はどうだ?」

エイジャは、リヤンをチラリと見ると、また食べ始めながら言った。

エイジャ「別に…」


その時、扉が開く音がして、アイラがご機嫌で入って来た。

アイラ「あ! おはよう」

リファ「アイちゃん、おはよう。今日は舞の稽古はしないの?」

アイラ「昨日 怪我したから、ないの」

リファ「怪我?」

アイラ「うん。背中うった」

リヤン「そう言えば、昨日はまた姫が騒ぎを起こしたと聞いたな」

アイラ〈バツ悪く目を逸らす〉

リワン「騒ぎ?」

リヤン「あぁ。詳しくはまだ知らないんだが…。アイちゃん、今度は何をしでかしたのかな? ちょっとその背中、診せて貰えますか?」

アイラ「いいよ」


アイラはジャンパースカートのリボンをほどいた。

リヤンが

リヤン「失礼しますね」

と言いながら背中のブラウスをめくると、アイラの小さな背中は青黒くなっていた。

リヤン達 親子は、僅かに目を見開いた。

エイジャはチラリとアイラの背中の青あざを見ると、また食事を続けた。


リファ「これ…、どうしたの?」

アイラ「棒でうった」

リファ「えっ? 何で?」

アイラ「えとね、えとね…、折れそうだったから」

リファ・リワン・リヤン「?」


エイジャは ほっぺをいっぱいにして、無言でモグモグしていた。

エイジャ「〈モグモグしながら〉お前さぁ、俺に恩でも売ったつもり?」

アイラ「え?」

エイジャ「何で助けたんだよ?」

アイラ「…?」

エイジャ「昨日の事だよ! 何で俺のこと助けたのか、って聞いてんの!」

アイラ「だから、折れそうだったから」

エイジャ「は?」

アイラ「あなた痩せっぽっちだから、叩かれたら折れちゃうかなって」


エイジャ「は? それだけ?! 何かオメーに得があったとかじゃなくて?」

アイラ「〈目をパチクリさせて〉とく…?」

エイジャ「俺、助けてくれとか言ってねーよな? つかさ、自分が得する訳でもないのに知らない奴 助けるとか、気持ち悪ぃんだけど。何の下心だよ」

アイラ「した…ごころ…」

エイジャ「それか何?〈清楚な風に〉ありがとうございましたぁ! 助かりましたぁ! とか涙ぐんで言ってもらいたい系? キモっ!」

アイラ「??」


リワンは眉を寄せた。

リワン ( こいつ…、随分ひねくれた奴なんだな… )



アイラは、言われている意味が今一つわからず、ポケっとして答えた。

アイラ「とく、あるよ。アイラ、ふくしんをさがしてるの」

リワンは密かに、目を見開いた。


エイジャ「は? 腹心? んだそれ! つかおめー誰だよ?!」

アイラ「アイラ」

エイジャ「ちっげーし! 何でここにいるのかって聞いてんの! 役人の子供?」

アイラ「王様の子供」

エイジャ「ウソこけ!! そんなのが、何で選考会場で麻袋被って飛び出して来んだよ!」

リヤン「ほう!」

リワン「〈眉間に皺を寄せて半目〉……。」

リファ「…?」

アイラ「本当だもん」


エイジャは他の三人の顔に目を走らせた。皆、アイラの言った事に特別反応していなかった。

エイジャ「(信じられないというようにアイラをじっと見た後、悪知恵を巡らせたような顔になり)ふ〜ん? …じゃあそうだとしてだ、腹心を探してるって?」

アイラ「うん。ごえいって言ってたよ。"しんらいにたる"のふくしんのごえいをさがしてるの」

エイジャ「〈お茶を飲みながらアイラを流し見て〉周りにそういう奴、いねーのかよ?」

アイラ「いるけど、しんでほしくないから、だめ」


リワンは目を伏せた。

父と妹は、リワンの顔を横目でのぞいた。


エイジャ「〈ニヤリとアイラを見て〉じゃあ俺なら死んでもいいってこと?」

アイラ「うーん…、ごえいになってほしいって頼むって、しんでもいいって事なのかな? だったら、やっぱりやめとく。アイラごえい、いらないや」

エイジャ「〈口を袖で拭きながら、ニヤリとアイラを流し見て〉別にいいぜ?」

アイラ「え?」

エイジャ「どうせ俺、死んでも困んねーし。取引だ」

アイラ「とりひき?」

エイジャ「そうさ。お前の護衛になってやるよ。その代わり」

アイラ「その代わり?」

エイジャ「メシ、必ずおかわりさせろ! こんなの全然足りねぇ!」

アイラ「〈半目になってエイジャを見て〉……。おかわりは…ナザルとかに聞いてよ」

エイジャ「よし! じゃあ、取引成立だな?」

アイラ「やだ! あんたが強いか分かんないし、しんらいにたるの人か分からないもん」


エイジャ「はぁ?! 強ぇに決まってんだろ! じゃあそと出ろよ! 俺と勝負すればわかる!」

アイラ「やだもん」

リヤン「やめておきなさい。二人とも怪我人だよ。〈エイジャを見て〉特に君…」

エイジャはふてぶてしい顔のまま、フンとそっぽを向いた。


奥の方から別の医官の声がした。

医官「リヤンさん、ちょっと来てくれ」

リヤン「あ、はい…」



リヤンが居なくなると、エイジャは朝食の盆を脇の机に載せたついでに、すぐ近くのリファを食い入るようにして見た。

エイジャ「また会ったな、"歯抜けちゃん"」

エイジャは、リファを金色の目でとらえると、イーッと上下の前歯が抜けた所を見せた。

リファは何だか怖くなって、兄の後ろにささっと隠れた。

エイジャは、怯えたような目で見るリファをニヤリと見たかと思うと、いきなり寝台から身を乗り出し、リワン越しに、リファのおさげのおくれ毛をまとめて引っ掴み、思い切り引っこ抜いた。


リファ「キャッ!」

リワン・アイラ「?!」

リワンは突然の事に驚いて、急いで妹をエイジャから離した。

リワン「何するんだ!!」

エイジャはまるで聞こえていないかのように、引っこ抜いた金髪を光に照らし、珍しそうに眺めた。

エイジャ「これ、まとまってたら売れんじゃね?

〈再びギラギラとリファを見て〉お前、その髪の毛 全部よこせ。じゃないと、〈リワンを指して〉コイツがいない時に ちょん切ってやる!」

リファ・リワン・アイラ「!!」


リファは、自分より小さい痩せっぽっちの脅迫に、兄の後ろで怯えて泣き始めた。

エイジャ (やった! 泣かしてやったぜ!)

エイジャは、思ったより早く叶った願いに、ホクホクと愉悦に浸って笑った。

リワンは、脅威の目でエイジャを見つめた。

リワン (な…、何だ コイツ…?!)



アイラは頭から湯気を出して、横に居るエイジャを非難した。

アイラ「ちょっとあんた! リファをいじめないでよ! やっぱりあんたなんか、助けるんじゃなかった!」

エイジャ「へっ! やっとわかったかっつの!」

アイラ「そと出なさいよ! しょ…、勝負、してあげる!」

リファ「アイちゃん…?!」

リワン「〈半目になって〉姫…、やめときましょう」

アイラ「リファがいじめられたのに黙っとくの?! リファ、こんなやつ、やっつけてやるから!」

リファ「えぇっ…?」

心配そうに見送るリファをよそに、アイラはプンプンして外に出て行った。

エイジャも鼻で笑って寝台を降りると、

エイジャ「あたたたたた」

と口の中で言いながら、ノロノロと出ていった。


いつの間にか 壁に持たれて見ていた父親のかすかな笑い声に、兄妹きょうだいは振り返った。

リヤン「〈半ば笑って〉ありゃ野生児だな。おいで、リファ。大丈夫か?」

リファ「父さま…! ふ…ふえぇ…」

父は泣きべそをかいているリファを抱き上げた。

リワン「父さま、放っておいて良いんですか? また怪我するんじゃ…」

リヤン「まぁ、二人ともあの状態だから、そんなに動けないだろう」

リワン「はあ…」


・・・・・・・・・


そんな事はなかった。

リヤン達が見物に表へ出ると、中庭では 木の枝を持った二人が勝負を始めていた。

アイラの方が身体も大きく、枝も大きい物を持っていたのに、エイジャは猿のような身のこなしで、アイラをバシバシ叩いていた。


彼女は頭に来て、早々に枝を投げ捨てると、素手でエイジャの癖っ毛の髪の毛を引っ掴んだ。

エイジャ「いっって!! お前、卑怯だぞ!」

アイラ「あんた、さっきリファにやったでしょ! あやまんなさいよ!」

エイジャ「けっ! やなこった!」


エイジャも枝を投げ捨てると、髪を引っ張られたまま、アイラの頭を 骨ばった両手で抑えこみ、頭突きを繰り出した。

アイラ「いっ…た…っ!」

リファ「アイちゃん…!」

リヤン・リワン「……。」

見物人の男二人は、苦虫を潰したような顔になった。


額を抑えてよろけるアイラに、エイジャは今度は飛び蹴りをお見舞いしようと、二、三歩後ろに下がった。

アイラはそれを見ると、キッとエイジャを睨み、彼に向かって突進した。

エイジャの飛び蹴りは、見事アイラの脇腹に命中したが、同時にアイラも 飛び蹴りを受けた横向きの体勢のまま、体当たりをかました。


アイラより体重の軽いエイジャは、二、三メートル吹っ飛んだ。

エイジャ「ぎゅえっ!?」

地面に落ちた時、エイジャは元々負傷している背中にもろに当たり、カエルが潰れたらこんな声かなというような声を出した。

エイジャ「 ぐ…く…っ! う…! 」


声にならない呻き声を出すエイジャに、アイラは脇腹をさすりながら のしのしと近付くと、エイジャの前に仁王立ちなった。

アイラ「リファに謝って! もうしないって言って!」

エイジャ「誰が! 言うか、よっ!」

エイジャは、アイラの足を自分の足ですくった。


アイラ「きゃっ!」

リファ「アイちゃん!」

転んだアイラにエイジャは馬乗りになって、彼女の両腕を ガリガリに痩せた手で押さえつけた。


エイジャ「どうだ! 俺が強いってわかったろうが!」

アイラ「わかるか バカ! サル!」

エイジャ「じゃあ思い知らせてやる!」

エイジャはアイラのほっぺを、両手で容赦なくバチバチと叩いた。

アイラ「いたっ! いった! 何すんの!」


リファ「アイちゃん!」

リヤン「〈ため息〉…リワン、そろそろ止めてこい」

リワン「はい」

リワンは二人に駆け寄ると、

リワン「二人とも! もうめだ!」

と言った。言ったが、二人とも涙目になって頭に血が昇っていて、全然聞こえていない。


アイラは、体重の軽いエイジャを 横へひっぺ返した。

二人は何度かゴロゴロと揉み合うと、今度はアイラがエイジャに馬乗りになって、バッチンバッチンとほっぺを叩き返した。

エイジャ「いっ! あっ! ぐぅあ!」

エイジャは負傷している背中の方が痛くて、されるがままになった。

しまいにはアイラは、エイジャの上に座ったまま両手で涙をぬぐいながら、わぁわぁ泣き出した。

アイラ「あんたなんか…、あんたなんか、しんらいにたるじゃない!! バカ! 大嫌い!」



リワンはため息をつきながら、アイラの手を取って立ち上がらせた。

リワン「傷の手当てを…」

アイラ「〈ボロボロ泣きながら〉平気だもん」

リワン「いいから…、一旦ここを離れましょう」

リワンはアイラの手を引いて医務室へ入って行った。

リファも兄の服のすそをギュッと握り、怯えたような目でエイジャを見て、医務室の扉を閉めた。



エイジャ「〈ゆっくりと起き上がり〉あ…たたたた…。んだよ! 俺の方がぜってー つえーのに…!」

悪態をついて座り込んでいるエイジャのそばへ、リヤンはゆっくりと歩いて行き、かがんで目線を合わせた。

リヤン「〈眉をハの字に下げて〉さて…と。君が強いのはよぉく分かった。とりあえず傷の手当てをしよう。〈ポンと癖毛の頭に手を乗せて〉早く兵舎で働けるように、きちんと養生することだな」

エイジャは、赤く腫れ上がったほっぺで、フンと顔を背けた。



リワンはアイラの手を引いて医務室に入ると、彼女を座らせ、無言で傷の手当てを始めた。

アイラは興奮して、なかなか泣き止まない。

リファ「〈すまなそうに〉アイちゃん、私のために、ごめんね…」

アイラ「うぅ…、そうじゃなくて…。うっ、うっ、ぼうりょくはきらい!」

リワン「嫌いと言いつつ、あなたもやってましたよ」

アイラ「だって…!」

リワン「戦ったら、負けです。両方とも傷付きます」

アイラ「だって! むこうが悪いんだもん!」

リワン「それでも、こうして傷付きます」

アイラ「うぅうううっ…」


そこへ、満身創痍のエイジャが、リヤンと一緒に入って来た。

アイラとエイジャは、赤く腫れたほっぺで、互いにフンッとそっぽを向いた。


・・・・・・・・・・・・・


リヤンは、城の二階の広間へ報告に来ていた。


王「〈愉快そうに〉ほう。新入りと喧嘩か」

リヤン「はい。全体的に大した怪我ではありませんが、念のためご報告を。ほっぺが腫れています。あと、リファの髪も引っこ抜いて、脅していました」

王妃「まぁ…。ねぇあなた、その子をアイラの近くに置いておくのは心配だわ」

王「フフ、肝っ玉の大きい子のようだな。

話は昨日 ナザルからも聞いている。抜群の身体能力だとか。それに見合うだけの図太い精神も持ち合わせているようだな」

リヤン「〈笑って〉そのようですね」


王「王妃よ、少し様子を見よう。自分の力になってくれる者を味方にできるかどうかも、あの子の力の一つだ」

王妃は、心配そうにため息をついた。

王「また何かあったら教えてほしい」

リヤン「はい」


・・・・・・・・・・


夕方、湖畔を家に向かって歩きながら、リワンは父に、珍しく不機嫌に言った。

リワン「彼は護衛には向いてないと思う。めしの為になろうとしているだけで…」

父「でも強かったなぁ。あんなに身体が小さくて、痩せて、怪我までしているのに」

リワン「……。」


父「歯の抜け具合からして、姫やリファと同い年位だろう。

それに、あの運動神経、見ただろう? あれは放っておくのは勿体無い。天賦の才だ。性根が腐っていなければ、将来抜きん出た将軍になるやもしれんぞ?」

リワン「だけど性格が…、何ていうか…、何かがはずれてるよ」

父「〈笑って〉まぁ、それは致し方あるまい。食うや食わずで、今までこの都で生きてきたんだ。我々には想像もつかないような暮らしをしてきたんだろうからな。

あの背中の鞭の傷にしたって、どうしてそうなったんだか…。きっと聞いても話してくれないだろうさ」


リファ「……。」

リファは、エイジャの背中の傷を思い出し、同時に、彼に髪の毛を引っこ抜かれた事も思い出した。彼女の顔は、不憫に思う表情になったり、悔しい表情になったりした。


リヤン「〈夕焼けの広い空を見て〉これからは、人間としての教育を受けないとなぁ。地頭じあたまは悪く無さそうだから、やる気があれば、うんと伸びるだろう」

リワン「……。」

リワンは、父の高評価と不当な寛容さに、納得できない顔で黙った。



リファ「あ…!」

リヤン「? どうした?」

リファ「また あの子の名前、聞きそびれちゃったわ」

リワン (別に聞かなくていい)

リワンは思った。

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