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8話 翡翠の青年の憂鬱

やっと更新できました(* ̄▽ ̄*)ノ"

そうと決まったら早速教会に行こう。

そう思ってすぐに俺は歩き始めた。けど、どうしてか全く棺がついてくる気配が無い。っていうか、動いているらしき音が全くしない。


妙だな、そう思ってすぐに俺は後ろを振り返った。


棺は、俺とちょっと離れた位置にぽつんと取り残されていた。つまり、やっぱりさっきの場所から一ミリも動いていなかったということだ。


「ルートさーん? あれっ!? ルートさんっ、どこに行っちゃったんですか!?」


ははっ。全く、かのこはのんびり屋さんだなぁ。自分で教会に行けばどうにかなるかもとか言っておきながら、寸とも教会に向かおうとしないだなんてー。


呆れて苦笑しながら、棺まで届くように少し大きめな声で返事をする。

「どうしたんだー、かのこ? 教会に行くんじゃなかったのか??」

「そうなんですけどね。んっしょ、んっしょっ!」

声だけで言うと動いていそうな気がしないでもないけど、肝心の棺自身は全く動かない。

「ふぅ……。どうですか? 私、動けていますか??」

「いや、全く」

「あらら……」


沈黙。嫌な汗がじわりと額に浮く。

……何故か、ものすごーく嫌な予感がするんだが。


しばしの沈黙を先に破ったのは、あまりにもあっけからんとした声だった。

「私、自分じゃ動けないみたいです」

予感的中。


「マジかよ……!?」

「マジです」


「ははっ……ほんっとに、かのこは仕方ねえ奴だなぁ……」

何なんだこの状況は。泣きたいのを通り越して逆に笑えてくるじゃないか。まぁ、最初から何となく薄々は気づいてたけどさ。薄々っていうかもう気づいていたも同然で、あえて現実から目をそらしていたけどさ……!


俺は、がっくりとうなだれた。

本当に、勘弁してくれ……!



「…………」


どうして俺が、こんな目に。


俺は今、すれ違う町人全員に変なモノを見る目で見られていた。一人残らず、全員に。みんなの視線がすごく痛い。幸いほぼ日が暮れているため人通りは少ないけれど。


心の中で、もう何度目になるか分からないため息をついた。

……そりゃぁ、棺背負って激しく息切れしながら疾走してる男なんていたら俺だって思わずガン見ちゃうだろうけどさ。


結局あの後、かのこが自分では移動できないということを知った俺は背中に棺を背負って城下町まで戻ってきた。町に到着してからは、こんなモノを背負っていて注目されないわけがなくこの有様というわけだ。


「ルートさん、今どの辺ですか??」

背中の棺から聞こえてくるかのこの声は、そんな俺の心情を知るはずもなくのん気なものだった。

「やっと……酒場辺りに着いた」

「さっきの場所から……? 随分と早いですね。走ったんですか?」

声から察するに、かのこは凄く驚いているようだった。確かに、あそこからは少し距離があるかもしれない。けど、今にも羞恥で死んでしまいそうだった俺にとっては距離なんてあってないようなものだった。つまり、いつ以来か分からないくらいに本気マジで走った。

「……恥ずかしかったからな」

「はい? 恥ずかしかった??」

「いや、何でもない」

「ふーん、そうですか。まぁ、いいとしましょう。じゃぁとりあえず、もう少し真っ直ぐ行ってください。教会は、酒場より十件ほど先の、酒場とは反対の通りにあるはずです」

「ん、りょうかい」


かのこに言われた通りに教会を目指しながら、ふと疑問に思った。

かのこはどうしてこの辺りの地理についてこんなに詳しいんだろうか、と。かのこって、本人の言葉をそのまま信じるならだけど確か……異世界人? じゃなかったっけ。しかも、ここに連れてこられたのは今日のことだと言っていたよな。なのに、まるでかのこの頭の中にはこの辺り一体の地図が全て網羅されているかのようだ。


驚いたことに、全くかのこの言葉通りのピンポイントの場所に、薄暗い中にぼうっと浮かぶ純白の教会が見えてきた。ここに住んでいる俺でさえ、ここまで的確に教会の位置を言い表せるかといったら自信が無い。


思えば彼女は、あのネズミの正式名称がネズリンだということも知っていた。かと思えば、そのネズミのたった頭突き一発で棺に化けた。そして、今日ここに来たばかりだとはとても思えない知識量。最後に、黒髪黒目。


改めて考えてみると、本当に不思議な子だよな。ただでさえメルヘン少女なのに。


そこまで思考して、俺は自分の周りにちょっとした人だかりができていることに気づいた。

「ママー。あのおにいちゃんは何をおんぶしてるの?」

「見ちゃいけません……!」

カーッと一気に顔が熱くなる。これ、何て羞恥プレイ……? 恥ずかしさの余り、俺は真っ先に教会に駆け込もうとして足を止めた。


目の前に、俺のよく見知った奴が立っていたからだ。

「棺を背負った変わった男がいる、という噂を耳にしたが……まさかお前だったとはな、ルート」

日が完全に落ちて、その身を包んでいる漆黒のマントは辺りの薄暗さと同化していた。蜂蜜色の髪に、真紅の瞳、そして小さい背丈。別れたのはついさっきだというのに、その姿はとても懐かしく思える。


「……クレス!!」

「そ、その声は……! ももももも、もしや、クレスですね!?」

棺からする声は、気のせいか強張っている気がした。ピアノのことがちょっとしたトラウマになっているのかもしれない。まぁ、誰だってあんなことされればトラウマになるよな。


クレスは、眉間にしわを寄せて怪訝そうな顔をする。

「……今、棺が喋らなかったか?」

……まぁ、その反応が普通だよな。

「……話すと、長くなる。とりあえず話は後だ」


クレスにそう告げて、白い教会の扉に手をかける。けど、クレスは俺の後ろに立ったままそれ以上動く気配が無かった。もう一度、振り返る。

「クレス、入らないのか?」

そう聞くと、クレスは一度だけ頷いて、

「あぁ……俺は、教会はいい。話は後でゆっくり聞かせてもらう」

「あぁ、そうだったな。じゃぁ、後でな」

クレスは、形の良い唇の端を吊り上げて頷いた。面白いことが起きそうだ、とでも言いたげに。

クレスを後にして、俺は教会の大きな扉を開いた。


物音一つしない、静謐せいひつな空間。人々が、静かに祈りを捧げる場所。


教会、ここに来るのはいつ振りだろう。

扉を開くとすぐに、青色の絨毯じゅうたんが真っ直ぐに伸びている。その絨毯の両脇に、木製の椅子がずらっと並んでいた。そこには何人かがちらほらと座っていて、手を合わせ静かに祈りを捧げている。


染み一つない白い壁に、色鮮やかなステンドグラス。そして、神父の背後にそびえ立つ金の十字架。その何年もかけて設計されたのだとと思われる壮麗な造りには、思わず見入ってしまう。


いつ来ても思う、ここはとても美しくて神聖な場所だ。神様なんて信じていないけど、もしいるんだとしたらこういう場所こそが神に祈りを捧げるのにふさわしい所なんだと思う。


だからこそ思う、俺は一人だけものすごく場違いな気がする。

俺は、この静粛な空気を壊すかのようにずかずかと絨毯の上を歩き進めた。

祈りを捧げていた内の何人かが俺の存在に気づいて、あたかも珍しい動物を見るかのような目つきでこっちを見てきた。ははっ……モンスターパークの檻の中の魔物の気持ちってこんな感じなんだろうな。今なら、痛いほどにその気持ちを理解できる気がする。


なんて、馬鹿なことを考えていたら

「ねぇ、ルートさん」

突然、背中の棺から声がした。ここが教会だということを気遣ってか、声を潜めている。

「私、ずっとルートさんに聞きそびれていたことがあったんです。さっき、思い出しました」

「ん? 何だ?」

一瞬、逡巡したような間があった。


「……クレスは、ピアノが好きなんですか?」


その一言で、ついさっきまでの騒動を思い出した。それは、初めてかのこと会った時のこと。クレスが、凄い形相で無理矢理女の子にピアノを弾かせてる時はすげー衝撃的だったよなぁ。思わず苦笑する。

「ははっ、あのことを気にしていたのか。まぁ、誰だってあんなことがあれば気にするよな。あいつはさ……」

言いかけたところで、俺はいつの間にか目の前に立っていた人物に言葉をさえぎられた。

「あなた方は、礼拝に来た方々ですか?」

そこには、すんげぇ微妙そうな顔をした神父が立っていた。

あのいつもの穏やかな微笑みが、若干引きつっている気がする。本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだ……!

何故だか罪悪感でいっぱいになった俺は、苦笑いを浮かべて

「驚かせてしまって申し訳ありません。俺は、あなたなら背中のこれをどうにかできると聞いてやってきました」

今回は短めです; 久しぶりの更新なのにごめんなさい。涙

さてさて、ルートさん視点もかなり終盤に近づいてきました……!

次かその次のお話辺りでかのこ視点に戻そうと思っています。あくまで予定です。←

……次の更新がいつになるか分かりませんが(; ̄ー ̄A

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