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3話 王様の望みは何ですか?



「話は長くなる――」


そうだな……もう、今から約3000年も前の話になる。


ここ、アンペラーツ国の国王と王妃の間に一人の少女が生まれた。彼女の名前はヴュラ・アンペラーツ。当然ながら彼女は一国の王女として、数多の期待や責任を負わされて生まれきた。うん? ただ国にお姫様が生まれたってだけの話じゃないかって? ……そうだな、ここまでは普通だ。


しかし、この話はどこにでもありそうな話のまま終わらないのだ。

何故ならヴュラ姫は、幸か不幸か、生まれながらにしてどんな望みをも叶える力を持っていたからだ。


森羅万象、あらゆるもの全てが自由自在。

姫の思い通りにならないものはなかった。彼女にとっては、その気にさえなれば、この世界を消滅させることでさえも赤子の手をひねるようなものだったという。

まさに、神様のような人だったらしい。彼女自身がそれで幸せだったのかと問われれば、分からないがな。


そんな誰もが欲するような力を持っているのだったら国どころか、世界中に彼女の名前が知れ渡っても良いはずだった。だが、彼女の名前は世界中どころか彼女自身の国にでさえ知れる事はなかった。


何故か、彼女の存在は生まれたと同時に世間から消されたからだ。


ヴュラ姫が産まれた直後、国の上層部で密会が開かれた。内容はもちろん、今後彼女をどうしていくかということ。

誰もが彼女の存在を恐れた。彼女の誕生を知って喜んだ城の者も、彼女を産んだ国王と王妃自身でさえも。彼女の持つ強大すぎる能力の事を知った瞬間、まだ赤子だった彼女をまるで化け物でも見るかのような怯えた目つきで見ていたという。

『彼女を殺すなら今の内だ、もし彼女が暴走したら誰にも止められる者はいないんだぞ』という意見も多く出たらしいが、仮にも彼女は国王と王妃の子。それに、まだ赤子だった彼女を殺すのも躊躇われた。

その結果、ヴュラ姫は城の奥深くに幽閉されることに決まったのだ。まるで檻に獣でも入れるかのような感覚でな。


前々から国中に報告していた姫の出産の話も、とにかくヴュラ姫に関わる全ての情報は国の情報操作とあらゆる手口によって全てもみ消された。城ではまるで最初からヴュラ姫なんて存在しなかったかのように、国王と王妃の間には子供なんて産まれなかったかのように振舞われた。そして国の上層部以外、国民の誰一人としてヴュラ姫の存在を知る者はいなくなった。

 

彼女は城の奥深く、大人になったらここから出してもらえるとただそれだけを希望に虚しい日々を過ごしていた。彼女のそばにはいつも強力な力を持った上級魔術師が何人も待機していて、彼女が力を暴走させないように常に警護していたという。彼女自身、能力を制御する道具を何重にもぶらさげていたらしい。

聞いただけでも息の詰まるような苦しい生活なのに、彼女はしたたかで美しい、一国の王女としてふさわしい女性になれるよう日々懸命に努力に励んでいた。彼女は、いつかは自分がこの国を治める時が来ると信じてやまなかったのだそうだ。哀れなことに姫は純粋で素直なお方だったから、監視員の魔術師が言う事も全て健気に守っていたんだとか。最初から国王と王妃は姫を外に出す気などサラサラなかったらしいがな。



ヴュラ姫が生まれて十年後、アンペラーツ国は隣国のイルヴィノス国に奇襲をかけられた。 きっかけは、イルヴィノス国の衰退。イルヴィノス国が生き残るためには、アンペラーツ国の豊富な食料と資源がなくてはならない存在だった。


そして、大戦争が始まった。


その頃、生まれつき病弱だった姫君は既に病に侵されていた。姫の病気は相当重かったらしく、彼女は床についたまま戦争のことを知ったらしい。


病魔に蝕まれて日々身体が衰えていく中で戦争の話を聞いたヴュラ姫はある決心をした。

彼女は、自分の愛用していた古びた木の杖に自分の持つ全ての力を注いだのだ。この世界の全てを、自由自在にする力を。


彼女のことだからもう分かっていたんだろうな、自分の命はそう長くはないと。

 

姫はこの国を愛していた。彼女のことなんて国民誰一人として知っている者はいなかったということも知らずに。そして、彼女はとても優しいお人だった。だから、どうしても国民に無駄な血を流させたくなかったらしい。自分が病魔に侵されている中だったというのに、姫はいつだって国のためにあろうとした。


だから、彼女は自分の能力を杖に託した。自分が死んだ後も、杖の力で国を見守っていられるように。


そんな姫の願い通り杖はアンペラーツ国を守り、戦争は終戦した。


そして……ヴュラ姫は杖に力を託したのを最後に、外の世界を知らぬまま、没した。



その後、姫の名はどんな願いをも叶える力を持った杖と共に知れ渡ることとなる。姫と杖は、この国の守り神として、誇りとして盛大に称えられた。今までずっと恐れられていたのに死んだ後になって称えられるなんて、何とも皮肉な話だ。

もちろんこの杖は、アンペラーツ家の秘宝として大切に保管されることとなった。



それから約1000年後、つまり今から約2000年前。 


杖は盗まれた。

アンペラーツ家の杖の噂を聞きつけた輩が、あろうことか厳重な警備をくぐりぬけて杖を盗み出したのだ。

当然のことながら国は混乱状態に陥った。何としてでもこの杖を取り戻さなければ、と。杖が得体の知れない奴の手に渡ってしまったら、最悪この世界は終了を迎えることになるからな。


そこに、救世主が現れたのだ。

杖を取り戻すための旅に出る、という若者が。その時期のアンペラーツ国の王、ソルブ王がその心意気を買って杖を取り戻すという使命を託した青年こそが……ロト様だって? だからタカシだと言っているだろうが。じゃぁタカシでも何でも良いから、彼はどんな人だったんですか、だって? ……私も詳しく知っているわけではないが、彼は黒髪黒目のこの世界にしてはめずらしい風貌の男だったと聞く。そういえばかのこよ、お前も黒髪に黒目だな。他に何かないのかって? うーん……それ以外は見たところ特に際立ったところもない普通の男だったらしいな。

まぁ、いい。そして、彼はソルブ王の言いつけどおり旅の途中で出会った仲間と共に杖を奪還する事ができた。

杖は再び王宮の奥深くに封印された。今度は誰にも盗まれないよう、勇者がその杖を封印した宝箱の鍵を三つに分けてこの世界のどこかに隠したとされている。


しかし、最近この三つに分けられた鍵を探し杖を狙っているという奴らがいるという噂を耳にした。

ヴュラ姫の話はこの杖と共に世界中で語り継がれているが、そもそもその後杖が三つの鍵の力で封印されたという話は我が国の上層部にしか伝わっていないはずなのだ。だから、この鍵について知っている奴らというのは2000年前に王宮から杖を盗み出したという輩に何か関係があるのかもしれない。あくまでも推測だが……。




王は長く喋り続けたせいで疲れたのか、一旦顔を落としました。


そして再び顔を上げて、言ったのです。


「だから、そなたには一刻も早く鍵を集めてもらいたいのだ。万が一、奴らが杖を手にしてしまったら……想像したくもない」

 

ソレイユ王は苦虫を噛み潰したような顔をして、長らく喋り続けていた口を閉じました。

しばし、沈黙が訪れます。物音一つすらしない、静謐な空気。王は、ただただ私を見つめています。


冷や汗が、頬を伝ります。


もしかしなくても、これ…………物凄く断り辛い空気じゃないですか!


「あ、あの、それって私じゃなくてもできるような……っていうか、この世界の戦闘とかに慣れている人の方が絶対適任な気がするんですけど……」


何だか罪悪感をひしひしと感じます……ここまで説明させておいて今更断るというのはなんとも心苦しいものです。

ええ、分かっていますよ、ここで断るのはキング・オブ・KYだってことぐらいね!  

私だって、できることならタカ……じゃなくってロト様のように、この世界の救世主になってみたいですよ。しかし残念ながら私は日本の女子高校生の一介に過ぎないのです。当然の事ながら、そんな重大な任務をこなせる自信もなければ力量もありま……「そうはいかない。これは、神の教えだ」

 

え……? 今、何て……。


「……神の教え?」


「うむ。世界を救う勇者は異世界の者でなければならない、と神は説いている。だから、お前でなくてはならないのだ」

 

…………め、


「め、めちゃくちゃですうーーっ!!」

私の魂の叫び声、城中に響き渡ったことでしょう。


何なんですか、その至極適当な神様は。

確かにロマンはありますけど、どう考えたってこういう問題はこっちの世界の人の方が解決しやすいに決まってるじゃないですか!


大体、


「もし私が戦闘で死んでしまったらどうするんですか!?」

私は非力な女子高校生なんですよ? 剣や魔法や魔物には憧れるけど、それって実際にはとっても危険でバイオレンスなものだと思うんです! そんなものに巻き込まれた日には一瞬にしてお陀仏してしまうじゃないですか!?


ソレイユ王はあたふたする私を見て、どこが問題なのかが分からないとでも言いたげな顔をしました。

「その心配は必要無い」

「……どういうことですか?」


恐る恐る聞くと、王はきょとんとした顔で淡々と口にしました。

「もちろん、お前が私の認めた勇者だからだ。何、死んでみれば分かる」


「ええええぇぇぇぇーっ!?」

死んでみれば分かるって、死んだら何もかもが終わっちゃうじゃないですかーっ!! 私、ゾンビじゃないんですよ? さっきから言っている通り、平凡が一番似合うふっつーの女子高校生なんですよ!? ソレイユ王は一体私を何だと思ってるんですか!? もし、ゾンビだとでも思っているなんて言ったら王様だろうが何だろうがはったおしますよ……?


そんな私の心中を知って知らずか、彼は目じりにしわを刻んで柔らかに笑いました。

「はははっ、お主は表情がくるくると変わって面白いな。しかし、私は嘘は付かないぞ」

「は、はぁ……」

なんか、さっきからこの人のペースに完全に乗せられてしまっている気がします……。


…………。

それから、えーっと……鍵を集めるにあたっての色々な話を聞きました。たまに王の話が長すぎて夢と現実の間をふらふらっとさまようこともありましたけど。何だか、ソレイユ王って学校の校長先生に似た雰囲気を持っているんですよねー。簡潔にまとめられる話も無駄に長くなるというか……。


「……これで、私の話は終わりだ。かのこよ、何か聞きたい事はあるか?」


むぅ……。

ぶっちゃけ、そんな細かいことはどうでも良いんですよ。


ただ、私が知りたいのは……


「王様。どうして……どうして私を選んだんですか?」


鍵を集めるための地図だとか、魔物と出くわしたときの戦い方だとか、そんなことは私にとって些細なことなんです。だって、そんなの後からだっていくらでも自分で調べられるじゃないですか。


だから私にとっての問題は、どうして他でもない私が選ばれたのかということだけ。


だって、おかしいじゃないですか。

私は戦闘慣れしているこの世界の武人でもないし、だからといって元の世界で有名だったわけでもなく、特別秀でた能力があるわけでもないです。それなのに、世界を救う勇者に選ばれるだなんて。それも冗談でも嘘でもなく、大真面目に。神の教えだからだなんだって、そんな胡散臭いこと言われても納得できるわけがありません。


その答えを求めずにいられない私は、ただただ王の瞳を見つめます。


ふっと、ソレイユ王は凛々しい目を細めました。


「お前が、勇者の血を受け継いでいるからだ」

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