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scene9

色々忙しくて遅くなりました…。

読んでいただければ幸いです。

「あら?ルシアン。父様の書斎で、どうしたの?」

開かれたドアの先に居たのは、母セリナだった。

リュグではない事にルシアンは《なんだ、セリナか》と、一先ずは胸をなでおろす。

 「すみません。偶々開いてたもので…つい」

 「確かに珍しいわね。雨でも降るのかしら」

 「母様も滅多に入られないのですか?」

 「滅多にどころか、最近は私でも入れてくれないわよ」

 《入れてくれないか。やはり、リュグは何かを…》

妻であるセリナでさえ、入室させない事実に、ルシアンの疑念は更に深まる。

そんな中、セリナが机の方に向かって歩を進め、父の机の上にある書類らに一瞬戸惑いを見せ、手を付けた。。

「うーん。この書類は…別に怪しくはないわね…」

「か、母様!?」

父の机を物色し始めるセリナに、目を丸くするルシアン。

そんなルシアンに母は、物色する手を一旦止めて両腕を組み、怒気を含んだ声で口を開く。

「私にさえ隠さないといけない事って何?それって結局、信用してないってことじゃない?」

「それは…」

「ルシアンも、本当はそうなんじゃないの?」

核心を突かれた少年は、母の問いに対して、判断に迷っていた。

《どうする?ここで正直に話しても良いものなのか…。多少無理をしてでも誤魔化すべきか…》

と考えていたルシアンだったが、ここはセリナが味方になってくれるメリットの方が良いとの結論に至った。

「はい。実は、ちょっと前から父には違和感を。なので…」

「やっぱり…ルシアンは賢いから、そうじゃないかと思ったのよね」

「それで、僕も調べていたのですが」

「まぁ、この引き出しよね。怪しいのは」

「ですね。部屋にも鍵をかけているのにも関わらず引き出しにもというのは…」

2人の父への疑惑の念は、言葉を交わす度に増していく。

そして、セリナは「よし!」と言い、ある呪文を唱えた。

すると、固く閉ざされていた引き出しの鍵が、ガチャリと開いたのだ。

「母様、それは?」

「ふふん、これはね。私が魔法学校時代に秘密に習得した、鍵を強制的に開ける魔法よ」

《…ああ、そういえばセリナは、魔法学校での成績が良かったと言ってたな》

改めて、セリナに打ち明けて正解だったと思い知るのであった。

気を取り直して二人は、開錠された引き出しをゆっくりと手前に引いていく。

中に入っていた物は、一通の封筒のような物があるのみ。

ルシアンは、その封筒を手に取る。

それを手にした時、ルシアンの心臓がどんどん高鳴っていく。

表側は何の変哲もないただの封筒だが、裏面を見る為にひっくり返すと、そこには何も書かれてはいなかった。

封筒を開けようするルシアンの手が、ピタッと止まってしまう。

《本当に開けてしまっても良いのか…?もし、見てしまった事で…》

彼の中で葛藤が渦巻く。

そんな時、セリナはルシアンの頬をグイッと摘まんだ。

「大丈夫。私も…一緒に背負うから」

母の言葉を聞いた瞬間、高鳴っていた心臓の音が静かになっていた。

渦巻いていた葛藤も、どこかへと消えた。

今は、一緒に背負ってくれる人がいる。

ルシアンは、横にいる母の目を真っすぐ見つめ「ありがとう、ございます」と照れくさそうに言う。

今度こそと、ルシアンは意を決して封筒の中身を検める。

中には、一通の文書のような紙が一枚だけ納められていた。

手紙を取り出し、内容を確認するため、その場でゆっくりと広げた。

内容を見た二人は、驚きを隠せないでいる。

「何これ…真っ白じゃない」

手紙かと思われたそれは、何も書かれていない白紙のみだった。

《…ただの、紙?それにしては、厳重すぎる…。何かあるはず…》

紙に何か不自然な点が無いか、隈なく観察するルシアン。

しかし、怪しい点が一切見つからない。

《何かあるのは確実なのだが…》と、あと一歩のところでのもどかしさを募らせていく少年。

そこへ、突如母が「ちょっと、貸してくれる?」と紙に手を伸ばす。

手紙を渡すとセリナは、紙に魔力を流し込んでいく。

すると驚く事に、文字がスウッと浮き出てきたのだ。

「こ、これは!?」

「隠し文字よ。専用のインクがあって、それで書けば一見は普通の紙だけど、魔力を流し込めば、こうやって一時的に浮き出てくるの」

《そんなものがあったとは…》

浮き出てきた文には、宰相政権への不満や、王族たちへの扱いの悪さ。

そして、同じ志を持つ者に、自分と挙兵するよう求める声明があった。

なにより目を引いたのは、文末に押印されていた王族の紋章だ。

「やはり…噂は真実…だったようですね」

「ええ。信じたくはないけどね」

《…宛名はリュグへ、ではない。これを見るに、ランダムに送った可能性が高いな》

ルシアンは瞬時に思考を巡らせ、一つの推測を立てる。

「母様、これはあくまでも僕の推測、なのですが…」

「聞かせて」

「父様が最近頻繫に外出する理由ですが、この手紙、宛名が書かれていないですよね?」

「バラバラに送ったって事よね。じゃあ、目的は仲間を見つける為…」

「そして恐らく仲間がある程度集まったら…」

「まさか、挙兵する気?」

「推測の範囲ですが…」

《もし…本当に挙兵する気ならば、無謀もいいところだ》

ルシアンがこう思うのも無理はない。

現在、宰相側についている兵の数は、およそ八十万と言われている。

しかも、そこに国の最高戦力である【天星】の魔法使いもいる訳だ。

それに加え、ルシアンは、もう1つの懸念材料があるのを見越していた。

 「ルシアンは…どう思う?」

震えた声で、息子に問うセリナ。

額には汗が滲み、呼吸も荒さを増してゆく。

動揺する母を見たルシアンは、小刻みに震えるその手をギュッと握り、母の顔を真っすぐ見つめる。

「母様。僕の推測が正しければの話ですが、もし、父様の企みが、全て真実だったならば、これは絶対に阻止するべきです」

「──やっぱり、勝てない…の?」

少年は、母を見つめながら、ゆっくりと首を縦に振る。

「僕は、父様を…母様を失いたくはありません。それに──」

ルシアンは、握りしめていた母の手を再び強く握り直す。

「それに、遠くで頑張っているカイランの帰る場所を…僕は、失いたくないです」

それを聞いたセリナの手は、ルシアンの手を解き、勢いよく自分の顔を叩いた。

赤みを帯びた頬を携えた、その顔は、もう動揺などはない。

「ありがとう、ルシアン。おかげで迷いが晴れたわ」

覚悟を決めたその強かな瞳に、彼女の想いを受け取ったルシアンも静かに頷く。

「何としてでも…止めましょう」

「ええ、勿論よ」


意思を固めた二人は、一旦父の書斎を後にする。

触った箇所は全て元通りにし、書斎のドアも、最初の通りに少し開いた状態にしておく。

 そして2人は、何食わぬ顔で予定通りに隣町へと買い物に出かけた。

 道中、セリナが小さな声で耳打ちしてきた。

 「ねぇ、ルシアン。なんでドアを少し開けておいたの?」

 「…考えすぎかもしれませんが、もし、あのドアが故意で開けてあったとしたら?と」

 「完全に閉まってたら、誰か入ったと疑われるって訳ね」

 「そういう事です」

いつものように、冷静に返すルシアン。

その自慢の息子のキレる頭に、セリナは感嘆としつつも、どこか底知れぬものを感じていた。

「問題は、どうやってリュグを止めるか…よね?」

「それなのですが、僕らだけでは幾ら無理と言っても、素直に聞いてくれるとは思えません」

「…分かった。その件は任せて。ちょっとアテがあるの」

「僕も少し考えがあるので、明日の帰りは遅くなります」

「リュグには上手く言っておくから、安心していいわよ」

「ありがとうございます」

《ああ…心を許せるというのは、こういう事なんだな》

前の世界も含めて、初めて心を許せる人物との出会いに、感慨深い思いになるルシアン。

まだ完全にとまではいかない。

しかし、セリナの温もりは、前世での三十数年で凍てついた心の扉を、少しずつではあるが開かせてきているのだった。

そうして馬車内で内緒話をしつつ、隣町での買い物は、至って普通の親子のひと時を2人は噛みしめる。


帰宅後、リュグはまだ戻っていなかった。

二人は夕食の準備を済ませ、先に食べる事にした。

食事が終わり、ルシアンが食器を片付けようとした時。

「ただいま」との言葉と同時に、玄関のドアが開く。

帰ってきた父の顔は、今日もぐったりとした疲労の色が隠せていない。

帰るなり、そのまま書斎の方へと向かうリュグ。

 開いているドアに父は、何を思うだろうか。

様々な思いを胸に、母子は目を合わせ、ごくっと生唾を飲み込む。

書斎に行ったリュグが、台所へ向かってきた。

戻ってきた父の表情は、不気味な程にいつもと変わらない。

いつもと同じように食事を済ませた父は、無言のまま書斎へ向かう。

母と一緒に夕食の後片付けを済ませたルシアンも、二階の自室へと歩を進める。

ゆっくりと階段を上がっていき、自室のドアノブに手を掛けたその時だ。

「おい、ルシアン」

声のする方へ顔を向けると、そこには父が立っていた。

その全く笑っていない目に、ルシアンの背筋が凍る。

《バレたか!?いや、後処理は完璧だった。ここは慎重に…》

「どうしました?父様」

「入ったか?俺の書斎に」

「開いてたのは気付きましたが、入ってはいませんよ」

「…開いていたなら、閉めようとしてもいいんじゃないか?」

「閉めても良かったんですが、いつもは鍵までかけていたので、何か見られては困る物でもあるのかな、と」

リュグの問いかけに、少年は一歩も引かない。

だが、父の疑惑の目は、まだ晴れていない。

《やはり、怪しんでるな…。もしや、バレているのか?》

募る不安に呼応するように、心臓の音が大きくなっていく。

後ろに組んだ掌には、じんわりと汗が滲む。

対するリュグは、表情一つ崩すことなく口を開く。

「…入っていなければ、それで良いが…」

そう言った父は、ゆっくりと自分の書斎へと向きを変えた。

そのまま歩を進めるリュグの背中を、複雑な心境で眺めるルシアン。

《このまま行かせても良いのだろうか…しかし、今踏み込むのは、危険…か?》

迷っているうちにその姿は、書斎のドアが開かれ、消えていった。

何も出来なかった自分にルシアンは、静かに唇を噛んだ。


翌朝、目が覚めると、まずは部屋を出る。

その視線は、すぐに父の書斎へと向かった。

《まぁ、開いてる訳が…ないか》

今日はキチンと閉まっているドアを確認した後、キッチンへと向かう。

「おはようございます。母様」

「おはよう。ルシアン」

キッチンへ入ると、父の良く使っている食器が洗い終わった後が見えた。

《片付け終わった食器…。来るときにも玄関を見たが、リュグの靴は無かった。どうやら、もう出かけたようだな》

「父様は、今日どちらへ?」

「今日は西の方にいる知人に会いに行くから、また帰りが遅くなるそうよ」

《…遅くなる…か》と、ルシアンは、父の言った言葉に疑いを持つ。

《そうは言ってるが、もし逆に早く帰ってきたとしたら、まずいかもな》

リュグは一応、剣術の訓練が終わる時間を把握している。

無闇に遅くなりすぎて、不審に思われるのだけは避けたいと、少年は考えた。

「そうですか」

「ルシアンは、今日遅くなるって言ってたけど」

「なるべく早く帰って来ますので、大丈夫かと」

「もし遅くなった時は、まかせなさい」

セリナは少年の両肩に手を添え、力強くも温かい瞳でジッと見つめてきた。

《不思議だ。この人の目を見ていると、いつも心が落ち着く》

さっきまでの張りつめていた心が、嘘のようだった。

そして、その目を見てルシアンは、決意を改める。

《この感情の正体を、私はまだ知らない。が、この温もりだけは、失いたくはない…な》

この世界に来てからというもの、次々に前世では知り得なかった感情が湧いてくる。

その中でも、セリナに対するこの感情だけは特別だった。

この特別な感情を失いたくない。

今はただ、ルシアンはその一心のみだった。


そうして今日も訓練が終わり、皆が後片付けをしている。

ルシアンは、ラキリスの元へと歩み寄る。

「なぁ、ラキリス。少し…話があるんだが」

「恋の悩み…な訳でもなさそうだな」

友の信念が宿ったその目を見たラキリスも、いつもの軽妙な態度が身を潜める。

場所を変えたいと思ったラキリスは、人目のない所へと目配せをした。

ルシアンは静かに頷き、二人は、人気のない場所へと歩を進める。



「何考えてんだ、お前の親父は!!」

静寂を、いきなりの怒号が響く。

少年はラキリスに、全ての事情を話したのだ。

それを聞いた彼は、怒りのあまりルシアンの胸ぐらを掴んで睨みつけている。

「僕でも、知ったのはつい最近だ。だから一旦落ち着いてくれ」

「…すまねぇ。こんな話されて、感情的になっちまった」

頭に登った血が引いていき、掴んでいたルシアンの胸ぐらもゆっくりと放した。

「そんで?俺に話した意味を考えるとよ。そういう訳だろ?」

普段は軽妙な口調が目立つ彼でも、頭のキレる男だ。

ここまで話せば、冷静になった彼なら自ずと理解は出来た。

「頼む。パシェット様と合わせてもらえないか?」

「…良いだろう。親父殿も、今日は家にいるからな」

「すまない…」

「その代わり、今度隣町で、なんか奢れよな?」

「…そんなことで、いいのか?」

「十分だろ。友達を助ける為に、これ以上の見返りなんていらねぇよ」

ルシアンは、この世界で大切なものを、今一つ見つけた。

【友達】それも心から許せる。

話がつき、とりあえず一旦訓練所に戻る二人。

ラキリスの後ろを歩く少年の口角は、ほんのり上がっていたのだった。

いかがだったでしょうか?

良ければ、評価などお願いいたします。

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