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scene5

とりあえずここまで読んでいただいて、ありがとうございます。

どうか、楽しんでいただけたら幸いです。

翌日、ルシアンは、まだ少しの心の陰りが晴れないまま朝を迎える。

 いつものようにベッドから身体を起こすと、心だけ少し重く感じた。

 着替えを済ませ、階段を降りていくと、リュグが玄関の外で誰かと話す声が耳に届く。

 「まぁまぁ……落ち着いて…………いいでしょ?」

 「落ち着けだと……!……だから………!」

 《口ぶりからして、領民との会話という雰囲気ではなさそうだが…》

 微妙に遠くて話の内容が聞こえなかったルシアンは、そっと物音を立てずに階段を降り、玄関へと向かう。

 そしてルシアンは、玄関のすぐ隣の部屋の窓から、気づかれないようにゆっくりと外の様子を伺った。

 玄関の外では、いつもに増していら立っている父と、国の紋章を付けた数人の兵士が何やら話し合っていた。

 ルシアンは、そっと聞き耳を立てる。

 「いや、だから!ちょっと待てって!!」

 「国の方針ですので。それとも逆らうおつもりで?」

 「そんなんじゃねぇよ!ただ、もう少し…ほんのちょっとでいいから、税は下げられないのか!?」

 「はぁ…何度も言ってますよね?厳しいのは、あなたの領地だけじゃないんです」

 「それでも今までの二倍は無茶苦茶だ!!領民を殺すつもりか!?」

 「他の領主たちも苦しい中で税を納めているんです。あなたの領地だけ出来ないとは…努力が足りないのでは?」

 その言葉を聞いたリュグは、遂に堪忍袋の緒が切れ、怒りに満ちた顔で兵士たちに詰め寄る。

 《まずい…!!》と慌てて止めに行こうとするルシアン。

 その時の事だった。

 パシンッという鋭い破裂音と共に、リュグの顔が右へと跳ねる。

 そこにいたのは、母セリナだった。

 リュグにその平手を放った後、セリナは瞬時に兵士の方へと体を向け、深々と頭を下げる。

 「この度は、我が夫リュグが大変失礼を致しました。申し訳ございません」

 深々と頭を下げたその顔は、唇を噛み、眉間に皺を寄せていた。

 セリナからもらった強烈な平手によって、我に返っていたリュグは、その姿を見て自分も静かに頭を下げた。

 2人のその姿を見た兵士たちは、再度口を開く。

 「全く。仮にも小領主でしょうに。礼儀すら知らないとは」

 「この事はいずれ上に報告します。ご覚悟を」

 そう言い残し、兵士たちは去っていった。

 兵士たちが見えなくなり、ゆっくりと頭を上げる二人。

 すると、物陰に隠れて様子を伺っていた領民たちが、一斉に両親の元へ駆け寄ってきた。

 「大丈夫ですか…?リュグ様…」

 「私らの為に…本当に申し訳ございません」

 領民らから心配される声や、謝罪の声が聞こえる度に、リュグの握った拳の力が段々と強くなる。

 隣のセリナも、いつもの慈愛に満ちた顔からは想像できない程に苦しそうだった。

 そんな両親は、今度は領民たちに頭を下げた。

 「謝るのは…こちらです。俺らが情けないばかりに…皆さんに苦しい生活を…」

 「私たちでも何とか…したいのですが…」

 誠実な二人の姿を見た領民たちは、決して両親を責める事はなかった。

 「顔をお上げください。あなた方が頭を下げる必要なんて…」

 「そうです。ドルネス家の方々は悪くない!悪いのはこんな状況を分かっていない国の奴らだ!!」

 「そうだ!!そうだ!!」

 領民たちの国への不満が、膨れ上がっていく。

 そんな状況をリュグたちは、必死になって宥める。

 《確かに、この領地に限らず周りでも記録的な作物の不作が続いている中での増税はキツイな…》

 と考えながら、ゆっくりと窓からルシアンが視線を外そうとした時だった。

 《ん?なんだ…?》

 ルシアンは、家の向かい側にある木々の影から、不気味な仮面をした人物がこちらを伺っているのが微かに見えた。

 慌てて同じ場所に視線を向けるが、もうそこに人影はなかった。

 《…あれは…もしや、国の…?いや、でもさっきの奴らと雰囲気が…》

 ルシアンの頭の中を、様々な推測が飛び交う。

 考え事に没頭している中、ルシアンの服の右裾が引っ張られる。

 横を見ると、寝起き姿でまだ状況が掴めていないカイランがいた。

 「兄さま…?」

 「…あ、そういえば朝ごはんの支度をしなければ…手伝ってくれる?」

 「はい!もちろんです!」

 なんとか誤魔化し、カイランに手を引かれ部屋を後にするルシアン。

 朝の心の重さが増したような、そんな後味の悪い一幕から、また今日が始まる。



 朝の重い気分を引きずりつつもルシアンは、今日もベラスクの元で厳しい剣術の訓練に励む。

 そして休憩中に、どこか浮かない顔を見抜いたラキリスが隣に座り込む。

 「よぉ、どうした?浮かない顔じゃないか」

 「ラキリス…いや、まぁ…少し」

 「増税の通知か?」

 「…分かるか?」

 「そりゃ、俺んところにも来たからな。大体見当はつくさ」

 「どうしたらいいものか…」

 「ま、俺の領地は商業が主だからまだいいが…お前のところは農業しかねぇだろ?」

 「商業中心のお前の所が羨ましいな」

 そんな世知辛い話が続く中、ルシアンはふとある事が気になる。

 「ところでなんだが…さっきから頬をずっと摩ってるが、何かあったのか?」

 「ああ、これか。出先にちょっと良い感じの女の子が居たもんでな」

 「…またか…」

 ラキリスの女好きは、十歳になり更に磨きがかかっていた。

 跡継ぎとして、父パシェットの仕事に同伴する事も多くなっており、そこで少しでも良いと思った女性に片っ端から声をかけている。

 その為、もう周辺の気になる女性には全て声掛け済みである始末だ。

 「気は強いんだが、これが中々の上玉でな。口説いたら…この有り様だ」

 「それは、残念。一目見てみたかったな、お前を引っ叩いた女の子を」

 「ああ、それは安心しろ。近いうち見れるから」

 「…なんで、言いきれる?」

 「だって、そん時にお前の話したら、是非会ってみたいっていうからさ」

 「…まさか」

 「色々教えちゃった」

 「な…!勝手に…!」

 ラキリスから打ち明けられる展開に困惑するルシアン。

 頭が痛そうに片手で頭を抱え、大きめなため息を一つ吐いた。

 「…で?その女の子はどこのだれで、いつ会えばいい…?」

 「なんだ。随分物分かりがいいじゃないか」

 「だって、約束しちゃったんだろ…?」

 「ルシアンのそういうクソ真面目なところ、俺は嫌いじゃないぜ?」

 「そんな事はいいから…。で?いい加減どこの誰だか教えろよ」

 ラキリスのおちょくるような態度に、ルシアンは段々とイラついてきている。

 そんなルシアンを面白がるように、ラキリスは軽々と口を動かす。

 「ヴィアス家だよ。そこの一人娘」

 「…はぁぁ?ヴィアス家って言ったらこの辺の…!」

 「大領主の一人だな」

 思わぬ大物の名が出てきて、更に複雑な感情になるルシアンだったが、一旦冷静になって考え直す。

 《待てよ…?大領主の娘か…。これは上手くいけば…》

 そんな事を考えていると、何やら訓練所の方がやけに騒がしい。

 他の訓練生同士が遊んでいるにしては、聞かない大人の声もした。

 何やら胸騒ぎがしたルシアンは、ラキリスを連れ、急いで訓練所へと戻る。

 訓練所へと戻った二人の目に映ったのは、あの時の国の数人の兵士が、ベラスクをずらりと取り囲む光景だった。

 よく見ると、その陰で娘のミランダも怯えている。

 丁度近くに訓練生がいたので、ルシアンらは事情を聞くことにする。

 「おい、なにがあった?」

 「ああ、ラキリスとルシアンか。実はな…」

 訓練生たちの話によると、きっかけはほんの些細な事らしい。

 たまたま通りかかった兵士たちに、訓練用の弓が当たってしまい、因縁をつけられているとのことだった。

 「で?当然謝ったんですよね?」

 「もちろん!でもそれじゃ足りないって」

 「しかもアイツらと先生…なんか知り合いみたいだし…」

 彼らの話を聞きルシアンは、ラキリスと視線を合わせる。

 静かに頷いた後、二人は兵士たちに気付かれないように茂みに隠れながら、そっと近づく。

 そして声が聞こえるところまで近づくと、ベラスクと兵士との問答が耳に届く。

 「だから…もう謝っただろう。いい加減にしてくれ」

 「つれないですね。もう少しいいじゃないですか」

 「そうですよ。こんな所で、かの【戦姫】とお会いできるなんて」

 「…もう…その名で呼ぶのは…その名は捨てたんだ…」

 「名は捨てられても、過去までは捨てれませんよ?ねぇ、ベラスク様?」

 「…お願いだ…やめてくれ…」

 「も、もうやめてください!!」

 ベラスクの影に隠れていたミランダが、咄嗟に兵士の前に立つ。

 固く握りしめたその手は、小刻みに震えていた。

 いつも気高かった母の弱っていく姿に、居ても立っても居られなかったのだ。

 そして兵士たちは、彼女を見てある事に気が付く。

 「さっきからよく似てると思ってたが…もしかして…」

 「…母ですが?」

 「ほぉ…」

 兵士たちは、まるで品定めをするかのようにじっくりとミランダを見た。

 そして一人の兵士が、ゆっくりと手を伸ばしてくる。

 兵士の逞しい手がヌッとこちらに向かってくる事に恐怖を感じたミランダは、咄嗟に兵士の手を払う。

 「なっ!こ、この下民の小娘が!!」と、下民に手を払われた屈辱で、プライドの高い兵士が激高してしまう。

 怒りに我を忘れた兵士が、遂に拳を振り上げた。

 その時だ。

 「ちょっと待ってください…!」

 ルシアンとラキリスが、振り上げた兵士の拳を受け止めた。

 兵士を見つめる視線が自然と鋭くなるルシアンに対して、兵士らも怒気を強める。

 「その目はなんだ?貴様。子供のくせに」

 「我ら王国軍に歯向かう気か?」

 《ふむ。完全に頭に血が上っているな。この場合は…》

 兵士に対し、冷静に大局を見つめるルシアンは、前世での経験を活かし、短時間で最善の道を導きだしていく。

 「申し訳ございません。一下民が出しゃばった真似をした事をお許しください」

 そう言ってルシアンがその場で跪く。

 すると何か意図があると感じ取ったラキリスも、同じく跪く。

 十五歳そこらの少年相手にさせたその行為は、兵士たちの頭を冷やすには十分だった。

 兵士の頭が冷え、対話が可能になったのを見たルシアンは、一つの提案を投げかける。

 「もし、よろしければ…なのですが。不躾ながらお一つご提案があるのですが?」

 「…言ってみろ」

 「皆さんは選ばれた者しか入れない王国軍。しかもその使い慣らされた剣を見る限り、とても優秀な方々とお見受けします」

 「…ふん。子供のくせに見る目はあるようだ」

 ルシアンからの言葉に満更でもない様子を見せる兵士たち。

 そんな表情を見て、思惑が順調に運んでいる事を確信したルシアンは、更に続ける。

 「そこで、そんな手練れの皆様に訓練の一環として、一度手合わせをお願いしたく思いますが、いかがでしょうか?」

 少年の思わぬ提案に、兵士らはというと。

 「…おい、まだ王都へ帰るには時間があったよな?」

 「ま、たまには良いか」

 「うし!じゃあお前ら、さっさと準備しな!俺らが特別に手合わせしてやるよ」

 おだてられ、すっかり上機嫌となった兵士らの眼中には、もうベラスクらは映っていなかった。

 そのことを確信したルシアンは、模擬戦用の剣を取りに訓練所の中へと駆けていく。

 剣を手に取り、再び兵士らのいる外へと向かおうとしたその時。

 小さな白い手が、ルシアンの腕を掴んだ。

 振り向くと、そこには心配そうにルシアンを見つめるミランダがいた。

 「…さっきは…ありがと。でも…大丈夫…?」

 「心配する事はないよ。恐らく兵士さんたちは、僕らに全力なんて出せないしね」

 だが、それでも彼女の顔は晴れない。

 それらしい事を言ってこの場を逃れることは容易い。

 以前の彼ならばそうしたかもしれない。

が、ルシアンとなって生きてきた今、それではいけないと心が叫ぶ。

 そしてそれは、自然に体を動かし、彼女の手をそっと取る。

 「ありがとう。行ってくるよ」

 「…うん」

 《…おかしいな。なんでこんな…》

 彼女の手を取り、今まで感じたことのないくらいに胸が高鳴る。

 この気持ちの正体をまだ彼は知らない。

 自分の知らない感情に違和感を残し、外へと出るルシアンだった。

 

 外へ出ると、兵士たちが準備万端な様子で待っていた。

 「遅くなり申し訳ございません」

 「構わんよ。ところで、ルールは普通の模擬戦の通りで良いんだな?」

 「はい。どちらかが【参った】もしくは白線から出たら負けのルールでしたよね?」

 「ああ、そうだ」

 「ちょいとお待ちください」

 ルシアンと目くばせをしていたラキリスが、狙ったように割って入る。

 「それは大人同士のルールですよね?僕らはまだ十五歳十六歳ですよ?」

 「…条件は?」

 「どうする。ルシアン?」

 「こういうのはいかがでしょう。実戦でもし切られた場合、致命傷になる箇所にってのは?」

 「分かった。もし、貴様が私らの腹部や頭部に少しでも当たれば、貴様らの勝ちとしよう。それでどうだ?」

 再びラキリスと目くばせをし、彼もそれで問題無しの合図を貰った。

 二人はそれで条件を吞み、早速模擬戦へと入っていく。

 「では、僕の相手をしてくださるのは…」

 「私でどうかな?」

 体格はそう大きくはないが、顔に大きな斜め傷のある中年の兵士が名乗り出る。

 他にも手を上げる者はいたが、最初に声を上げてくれたのもあり、この中年の兵士に決まった。

 模擬戦の礼儀として、握手を交わす。

 その時の兵士の鍛え上げられたゴツゴツした手に、緊張感が増すルシアン。

 互いの剣同士を軽く叩き、いざ模擬戦開始である。

 即座に構えるルシアンと兵士は、互いにまずは様子を伺っている。

 《流石だな。模擬戦といえど隙がない。だからと言って、格下の私が受けに回るのは…危うい。ならば…!!》

ルシアンが先に仕掛ける。

「ほぉ、躊躇なく切り込んでくるか」

 少年の初撃を兵士は難なく受け止める。

 それに合わせ兵士も反撃するが、ルシアンも冷静に受け流す。

 《受けてはダメだ。あくまで受け流す意識で…そして攻撃も…》

 そんな事を考えていると、今度は兵士の方から仕掛ける。

 当然ながら訓練生とはスピードもパワーも違う。

 だが、ルシアンは焦ることもなく、冷静に捌いていく。

 逆に焦っているのは兵士の方だった。

 「くっ…!なぜ、当たらん!!それに…なんだ?タイミングが…」

 《やはりな。この世界での剣術に、前の世界の剣道やフェンシングを織り交ぜるのは正解だったようだ》

 愛弟子の戦いぶりを端から静かに見守っていたベラスクの目にも自然と熱がこもり、気が付くと「…頑張れ」と自身の口から零れていた。

 十歳の少年相手に思わぬ苦戦を強いられ、周囲の視線を気にした兵士は、段々と剣が粗くなっていく。

 ルシアンの戦いぶりに、自ずと見ていた兵士たちがざわつく。

 「おいおい…あいつ何やってんだよ…」

 「っていうかよ。あのガキ何者だ…?」

 動揺する周囲の目を、中年の兵士は明らかに気にしている。

 それをルシアンは、見逃さなかった。

 早く勝負をつけたがった兵士の剣が大振りになった隙をつき、一気に兵士の懐に潜り込む。

 「し、しまっ!」

 一瞬の隙で懐に潜り込まれた兵士は、咄嗟に剣の軌道を変えて対応しようとする。

 兵士の剣が、少年の頬を掠めるが、そんな事に構わずにルシアンの剣は、兵士の腹部に届いた。

 勝負ありである。

 負けた兵士は、言い訳をするでもなく、静かに剣を下ろし、ルシアンに問う。

 「お前…模擬戦とはいえ、相手は大人だぞ?怖くはないのか?」

 兵士の問いにルシアンは、汗を拭いながら答える。

 「もちろん怖いですよ。でも、先生の教えが良いからですかね…」

 「…そうか…」

 そう言うと中年の兵士は、訓練生やベラスクの方へ向かって頭を下げる。

 そして一言「…すまなかった」と零した。

 すぐさま頭を上げると、他の兵士たちを連れ、そそくさと去ろうとする。

 「ちょっと待ってください。謝るなら、もっと他にも…」

 納得のいかないルシアンは、兵士らを呼び止める。

 「…負けた相手には礼儀を払ったまでだ。それ以上は知らん」

 兵士の言い分に言い返そうとするルシアンを、そっとベラスクが制止した。

 そうして兵士たちは去っていった。

 勝負には勝った。

 しかし、ルシアンの心は晴れることはなく、また一つ影が落ちたのだった。



いかがだったでしょうか?

良ければ感想、お願いします。

この先を載せるかはまだちょっとわかんないです。

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